UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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矜持

 

 

 

「つまり、なんだ?お前はあくまで八本指に盗られたもんを奪い返しに来て、おとなしく返さなかったから、八本指の人間を殺したわけで関係ない人間は殺す気が無い、と」

 

「そうそう、だから私たちがここで戦っても意味はないよぉ」

 

 

 目の前の何か使用人というべきか給仕というべきか、ここらでは見ないような洋式の衣服に身を包んだ人型のモンスターの言葉にガガーランは口を閉じる。

 ガガーランにとって、この八本指の拠点の一つである館の前から去ろうとしたこのモンスターは決して無視していい存在ではなかった。そもそも、彼女がモンスターかどうかを察する前段階で八本指の拠点前にいるという事実が彼女が決して八本指と無関係の存在ではないのは理解できていた。彼女が館の中に投げた何か腕のようなモノについての問答と彼女から感じられる血なまぐさい臭い、そして何故か全く動かない表情といった要素からガガーランはアダマンタイト級冒険者としての経験と勘で彼女が人間ではないモンスターの類であると看破したことでよりその考えは顕著となった。

 何かこのモンスターは八本指に対して何かした、と。もちろん、その血なまぐさい臭いで何をしたのかはすぐに察することが出来た。

 人に害成す怪物。

 ここは王都で自分はアダマンタイト冒険者。

 人間に害成す怪物など、見逃していいはずもない。だから、ガガーランは自身の得物である鉄砕き(フェルアイアン)を握りしめ構えた……だが、彼女が口にした「仕事、八本指以外の人間を相手にしたくない」という言葉に対して思わず言葉が出てしまった。

 そんなガガーランの反応に対して、話を始めたモンスターにガガーランも時間稼ぎには感じられず上段に構えていた刺突戦鎚を下げる。無論、それでも下段の構えでいざとなればそのまま戦闘ができる様に。

 

 そうしてモンスターの話を聞いていたガガーランはとりあえず、余計な部分を削ぎながら自分なりに要約して彼女へと問いただす。

 曰く、八本指が自分の主人の所有物を盗んだ。

 曰く、自分は主人からその盗まれたものを取り戻す為にこの王都へとやってきた。

 曰く、八本指に対して返す様に言ったが拒否、更には殺そうとしてきた為に仕方なく館の八本指の人間は皆殺しにした。

 曰く、主人からは八本指以外の人間は殺してはいけないと厳命されているから、自分とは戦いたくはない。

 そして、ここには無かったから別の八本指の拠点に向かいたい。

 

 概ねそんな内容にガガーランは思考を回す。少なくとも、このモンスターの話に対してガガーランは嘘を言っている様には感じなかった。モンスターが仕事、というのは最初疑問を抱きはしたが話を聞く限り、誰か八本指と敵対している何者かに飼われているらしい。

 彼女から匂う血なまぐささも、八本指を殺したのが理由であるし何より彼女の主人からなにか盗みそれを返さないどころか、殺そうとした結果逆に殺された。言ってしまえば自業自得の域を出ない。

 もちろん、ガガーランからすれば捕まえるべき八本指の人間がモンスターによって自業自得の皆殺しにあった、というのは悔しさを感じられるし死んでよかったなどとは口が裂けても思えないし感じられない。

 

 

「……なるほど、なぁ」

 

 

 悪人とはいえ人間を殺した、だがそれはあくまで奪われたものを取り戻す為でありまた自衛の結果である。人間ではないモンスターが自衛のために相手を殺さないでおく、という選択をとれるとは思えなかった。

 ガガーランはしばし逡巡する。冒険者としては悪人であれ自業自得であれ、人間を殺したモンスターを野放しにする事は出来ない。だが、あちらは明確に八本指の人間だけを狙いそれ以外には手を出さない、と言っている。嘘を付いていない、と察せられるために少なくともむやみやたらに人間を襲わないと理解できる、だが────

 

 

「お前、何か隠し事してねぇか」

 

「ッ……!」

 

 

 ガガーランの言葉に彼女は僅かに肩が跳ねた。普通ならば察せられない程度の小さな反応だったがそれをガガーランは見逃すことはなかった。

 

 

「……反応したっつうことは何か隠してやがんな。ここまで話して隠すっつうことは、疚しいことがあるってことだよな」

 

 

 彼女の話になにか、明確にはわからないが感じられた違和感。

 嘘は言っていないのは分かる、だが何か致命的な部分で語っていないものがあるとガガーランは推測した上でかまをかけてみた。結果として何か話を引き出せたわけではないが、彼女のその僅かな反応が見れただけでも上々。

 下段に構えていたガガーランは改めて刺突戦鎚を上段に構え、いつでも戦闘を行える体勢をとる。すぐに突っ込まないのは彼女がどういう戦闘スタイルなのか、いまだわからない為。少なくともガガーランは相手が自分と同じような純粋な戦士タイプではないことは理解している。

 だから、むやみやたらに仕掛けられない。罠を張るタイプの魔法戦士であった場合などを考えながら。

 

 

「はっ、だとしても長引かせるだけこっちが不利か。んなら………おらぁッ!!」

 

 

 先手をみすみす渡すわけにもいかねぇ。

 その判断の元、ガガーランはモンスター目掛けて突貫した。その速度はガガーランの巨漢と見間違う体躯から出るものではなく、素早くモンスターへと迫りその鉄砕きを叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど。それは恐らく蒼の薔薇という冒険者チームの一人だ。強さとしてはエントマ、君に劣るのは間違いないが……最初にも伝えたように殺すの無しだ。適度に相手をして隙を見て撤退してくれ』

 

『承知しましたぁ』

 

 

 男女、ガガーランの言葉にここを切り抜けることが出来ないと察したエントマはガガーランに見えないような位置で符を使用し、デミウルゴスへと《伝言》を行っていた。簡潔に現状の説明を行いデミウルゴスより返ってきた指示にエントマは了承の意を伝え、即座に意識を切り替え目の前に迫ってきたガガーランを冷静に回避して見せるが、どういう原理か刺突戦鎚は突如としてその角度を急激に曲げてエントマへと迫る。

 通常の遠心力を利用した一撃ではなく、ガガーランの圧倒的な筋力を利用して無理矢理に軌道を変える無茶苦茶な一撃。それに対してもエントマは焦ることなく再び回避する。

 連続の回避、だがその場から大きく回避したわけではない。ガガーランの刺突戦鎚はさらに振り回され執拗にエントマを狙っていく。巻き上げられた風にエントマの偽髪が揺れる中、エントマは蟲使いとしての特殊技術を使用するが何も起きることはない。

そうして、反撃はせずに回避し続ければガガーランはいら立ちを隠さずに挑発の声を荒げ、

 

 

「あん!?逃げるだけか!」

 

「んー、ほらぁ、私はわざわざそっちと戦う理由がないしぃ」

 

 

 エントマはそんなガガーランに対して、相手をする気はないとでも言う様に舞う様に回避しながら答えれば舌打ちが返ってくる。三度目の回避で地面を打ち砕く刺突戦鎚を見ながら再び特殊技術を使用しながら思わずガガーランを嘲笑する。

 無論、エントマの表情はピクリとも動くことはないが……嘲笑されている本人はその空気を敏感に察知した。それにガガーランは怒りを抱き────嗤った。

 

 

「砕けや!!」

 

 

 瞬間、刺突戦鎚の突き立てられた場所を中心に、大地が罅割れ粉砕されていく。まるで局所的な地震でも起きたかのような振動がエントマを襲う。

 エントマはそれにより体勢を大きく崩す、それに対してガガーランは震源地にエントマとほとんど変わらない位置にいるのに一切体勢を崩しておらず、むしろ既に刺突戦鎚を地面から引き抜き振り上げていた。

 それを見上げながらエントマは心中で自分がこの人間を侮っていたことを恥じた。

 確かに自分よりかは強くないと判断していた、デミウルゴスもそう告げていた。そうどちらが上か戦う前から分かっていた事だった。余裕だったはずなのだが、足元が破壊されたことによってバランスを崩され、更には大地破壊による衝撃での二重の束縛。回避しようと思えば、回避することはできる。出来るがしかし、それをすればエントマは自分が身に纏っているメイド服を汚す事となる。

 

 

「(源次郎様……!)」

 

 

 自身の創造者である至高の御方より与えられた、メイドとしての象徴であり創造主からの寵愛の象徴を、油断したが故に汚すなど許されるだろうか?

 侮ったためにそんなことを引き起こしたことをエントマは恥じいり、その羞恥心を払うかのようにその右腕を振るう。

 そうして響くのはガガーランの刺突戦鎚がエントマの肉を殴りつける音ではなく、金属同士がぶつかり合ったかのような甲高い音だった。

 予期せぬ音に思わずガガーランも目を見開く。

 

 

「大丈夫、殺さないであげるぅ。……でも、綺麗なままじゃ許さないぃぃぃ」

 

 

 刺突戦鎚とぶつかり合う右腕、そこにしがみついたまるでブロードソードを思わせる巨大な昆虫のようなものを軋らせながら、エントマはその甘ったるい声で憤怒を吐き出しガガーランを睨め付けた。

 

 

 

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