UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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 どうもお久しぶりです。
 調子も戻り時間も取れてきましたので少しずつ更新していきます。




漆黒/蒼

 

 

 

 ガガーランらの救援の為にやってきた魔法詠唱者(マジック・キャスター)とエントマが退却する為に現れた悪魔(デーモン)

 ヒルマの屋敷の前で新たに現れた一人と一体は即座に動き始めていた。

 残念ながらそもそもの事情を知らないイビルアイは、まず現れたアビス・デーモンを見て距離をとる。魔法詠唱者である彼女にとって有利な距離であり、イビルアイがその知識と経験そして僅かな観察から目の前の悪魔が戦士系統の類であると予測建てした事で不用意に近づくのは危険であると判断したのだ。

 そんな彼女に対して、まず前提になるがアビス・デーモンは本来パワータイプ寄りなモンスターでありその類に漏れずやや粗暴な悪魔である。

 だがこの場にいるアビス・デーモンはデミウルゴスによって召喚された為か、本来のそれに比べ理知的である。そんな差異が働いているのか、アビス・デーモンは目の前の仮面をつけた少女に対して侮りを抱くことはなかった。

 そして、自分の仕事をしっかりと理解していたアビス・デーモンはイビルアイが距離をとるという選択をした瞬間に自身が有する特殊技能(スキル)を発動する事で自身の強化を行っていた。

 

 互いに相手の実力を大雑把ではあるがしっかりと認識し、その上で初動を終えた。

 イビルアイは目の前の悪魔が少なくとも先の蟲使い、エントマと同等以上の実力がある訳では無いと察しはしている、がだからと言って勝てるかどうかは分からない、という結果に辿り着いていた。というのも、まだ先の蟲使いはどちらかと言えばテクニシャン、技巧派であり少なくとも人型の範疇であり消耗しているとはいえガガーランら仲間と連携すれば充分に倒せると判断出来た。

 だが、それに対して今目の前にいるアビス・デーモンは違う。

 

 

「(体躯も実力もガガーランよりあっちのが上か……力任せの一撃で下手すれば競り負けて、そのまま連携が瓦解しかねない)」

 

 

 異形らしい身体能力を活かしたゴリ押しによる全滅の危機。

 ここに他の仲間、二人がいるならばともかく消耗した仲間二人とでは厳しく、それならば距離をとりつつ魔法で削る選択肢をイビルアイは選んだ。

 

 

「(────デミウルゴス様より伝えられた情報からして、この仮面が蒼の薔薇のイビルアイ……魔法詠唱者か)」

 

 

 そんな選択をしたイビルアイへと視線をやりながら、アビス・デーモンは冷静に思考を回す。

 エントマの代わりに蒼の薔薇と対峙するにあたって、アビス・デーモンはデミウルゴスよりある程度の情報を得ていた。それは事前に影の悪魔を王都に放つ事で得た冒険者らからの決して詳細ではなく真偽に問題のある情報から、過去蒼の薔薇と任務の最中に交戦した事のある陽光聖典及び法国から得たより深く踏み込んだ情報。

 それらからこの目の前の小柄で外套と仮面で正体を隠した魔法詠唱者が漆黒聖典、覚醒した神人である第一席次と番外席次を除いた彼らよりも強いというのを知っている。それはつまり、

 

 

「(格上……どれだけ、こちらの魔法耐性が効果を発揮するかが肝だな。勝たなくても良い、あくまで時間稼ぎであるのは理解している。だが、逃げ避けるばかりではナザリックの下僕として名折れというもの、至高の御方々、デミウルゴス様の顔に泥を塗りかねんな)」

 

 

 そう思考を定めたアビス・デーモンはその手に持つ身の丈ほどのハルバードを横向けに持ち軽く腰を落としてその視線をイビルアイの一挙一動に向け、自身の特殊技能を使用していく。

 それに対して、イビルアイもまた僅かに前傾姿勢を取り、外套から伸びたその華奢な腕に微かに稲妻が走り出す。

 

 

 

「────《魔法最強化(マキシマイズマジック)龍雷(ドラゴン・ライトニング)》!」

 

「《二連斬》!」

 

 

 先に動いたのはイビルアイだった。

 予め距離をとっていたというのに、アビス・デーモンへと突貫するように動いた彼女の腕からは雷で出来たドラゴンが放たれ、アビス・デーモンを食いちぎらんと迫るがしかし、その手のハルバードを素早く振るうことで二連の斬撃を放ち《龍雷》を切り裂くがやはり格上であり魔法最強化されたそれは半ば引き裂かれつつも消えることなくアビス・デーモンへと向かっていく。

 元より予想はしていた事、故にアビス・デーモンは即座に対処する。

 

 

「やはり、最強化した魔法にはこうなるか」

 

 

 既に用意を終えていたハルバードを持たぬ方の手を突き出し、人の頭ほどの炎の塊が放たれ《龍雷》とぶつかり辺りに炎を撒き散らしながら《龍雷》を相殺する。

 その光景を見るよりも先に両者は次の手を打つ。

 

 

「いったい、何が目的、だ!《水晶の短剣(クリスタル・ダガー)》!」

 

「問うてどうする。真っ当なら手を引くとでも言うつもりか!」

 

 

 距離を詰めつつ水晶で出来た短剣を幾本も放てば、即座にハルバードが振るわれ砕き弾かれていく。

 勿論、なんの強化も施していない魔法であり所詮は牽制のそれ。目の前の悪魔ならば容易く弾いていくだろうと言うのは目に見えていた。

 距離にして五メートル。アビス・デーモンの腕長とハルバードの長さが合わさっても届かぬ距離だが、踏み込めば容易く詰まるような至近距離にまで迫ったイビルアイは脚でブレーキをかけつつ手を突き出す。

 

 

「(わざわざ距離を詰めて魔法?それはつまり、射程距離が短い、そしてそのリスクに見合う威力!)オオォッ!!」

 

 

 アビス・デーモンはイビルアイの魔法を放たれる前に迎撃すべきと判断し、踏み込みながらそのハルバードで薙ぎ払うように振るい─────

 

 

「な、に……?」

 

「悪いが、こちらは一人じゃない」

 

 

 ハルバードの刃がイビルアイを捉える事はなく空中で停止した。

 先程までの勢いなど全て無視したあまりに不可解な急停止にアビス・デーモンは驚愕の声を漏らす。いや、それはハルバードが止まったことだけでは無い、停止したのはハルバードだけではなく自分自身の身体もまたそうなった事を。

 そんな悪魔に対してイビルアイはまるで諭す様な声音で呟き、アビス・デーモンは唯一動く視線を蠢かし視界の端に立つ人影を捉えた。

 赤のバンダナとオレンジに近い金色の髪を持った女冒険者、ティナがその片指で印を組んでいる姿が

 

 

「不動金縛りの術」

 

「行動阻害……!」

 

 

 ここにいるのがエントマであるのならば、話は変わった。彼女はNPCとして耐性のステータスにも手を加えられて行動阻害に対する完全耐性を有していた、だがアビス・デーモンには多少なりとも耐性はあるが完全ではなく、確実にその動きを止められた。

 それは()()()にとってあまりに致命的な隙を晒す瞬間で

 

 

「《魔法抵抗突破化(ペネトレートマジック)結晶散弾(シャード・バックショット)》!」

 

「ズグゥッ!?」

 

 

 至近距離で放たれたのは拳よりもやや小さな結晶による散弾。結晶のサイズ自体は先程の短剣やエントマの逃走を阻んだ騎士槍のそれらとは圧倒的に小ぶりであるが、イビルアイの実力と魔法抵抗突破に加え至近距離故の被弾率、この三要素がアビス・デーモンの肉体を削っていく。

 肉の表面を抉り、貫通せずとも結晶が内部に食いこんでいき、血を流しながらアビス・デーモンは呻き声を上げるがティアによる行動阻害が解けた事ですぐさま反撃のハルバードを振るいイビルアイを襲うが魔法を唱え終えた彼女は既にその場から飛び退いておりハルバードは空を切る。

 

 

「そらぁ!隙だらけだ!」

 

 

 そんなアビス・デーモンへ次に襲いかかるのはいつの間にかに距離を詰めていたガガーラン。超級連続攻撃ではないが、武技を使用しての連撃を放っていく。

 肩を、腕を、胴を、頭を、殴りつけていく事で先の《結晶散弾》によって付けられた傷口からの出血量が増えていく。そうして、何度も殴りつけられていたアビス・デーモンはガガーランの連撃に生じた僅かな隙を見て、その場から後方数十メートルへと転移した。

 

 

「《次元の移動(ディメンション・ムーヴ)》か……面倒だな」

 

「おう、それに見ろよ、アレ」

 

 

 アビス・デーモンの魔法にイビルアイは舌打ちつつ、ここからどうするかを思考する中で彼女の近くにまで下がったガガーランが顎でアビス・デーモンを示せばティアは眉を顰め、イビルアイはその仮面の下で再び舌を打つ。

 アビス・デーモンの傷口が次々と塞がっていくのが見えたからだ。

 流れていた血は止まり、肉に食いこんでいた結晶は内側から膨らんできた肉によってそのまま体外へと押し出されていき、僅かな打撃痕も綺麗に消えていく。

 

 

「無駄だ。私は不滅」

 

頑強(タフネス)に優れている……というわけか。それに加えて先の《次元の移動》ますます厄介極まりないぞ」

 

「さっきの俺の攻撃もほとんど効いてねぇ。先におめぇの魔法である程度傷が出来てたから効果が出たようなもんだ」

 

「なら、再生が追い付かない程に攻撃すればいい…………は、無茶」

 

 

 どこまで再生出来るかは分からないが、それでも決して無視出来ぬそれにイビルアイらは口々に自分の考えを挙げ連ねていく。

 有効打を与えられるのはイビルアイの魔法、その有効打の為の隙を作るにはティアの忍術、ダメージを拡大させていくのにガガーランの追い討ち。だが、それらをゼロにするのがアビス・デーモンの転移と再生。

 ティアが言ったように再生では追い付けぬほどの連続攻撃をするにも彼女ら人間とアビス・デーモンではスタミナが違い過ぎる。では、どうすれば良いのかそう話そうとしてアビス・デーモンが動いたのをイビルアイが真っ先に反応した。

 

 

「来るぞ!」

 

 

 前傾姿勢による突撃、その背に生える黒翼を翔かせながらそのハルバードの刃で石畳を擦り上げ前方へと砕き吹き飛ばしながらイビルアイらへと迫っていく。

 ただの突進ではない。

 黒翼による突風、そしてハルバードで砕かれ吹き飛ばされた石畳だった瓦礫が突風により巻き上げられることでイビルアイ達に襲いかかる。前者による行動の阻害、後者による範囲攻撃。

 瓦礫に対して防御を選べばこの後のアビス・デーモンの突撃を防ぐのは難しく、突撃に対して防御を選べば今度はアビス・デーモンが来るまでに瓦礫で消耗していく。

 どちらの選択も間違いなくタダでは済まない。

 

 

「ティア!」

 

 

 だから、この選択をとる。

 突風の中、無理矢理に身体を動かしティアとイビルアイの前へ出ていくガガーラン。

 その声一つで意図を察したティアは苦渋の表情を見せつつも印を結び、忍術の用意をする。そうして、最も後ろになり突風の影響が大きく下がったイビルアイがすぐさま防御魔法を準備していく。

 全員がボロボロになるか、一人が倒れるか。アダマンタイト級冒険者らしくすぐに天秤を判断した三人にアビス・デーモンが迫る。

 

 

「《魔法最強化(マキシマイズマジック)水晶(クリスタル)────

 

「《魔法二重化(ツインマジック)龍雷(ドラゴン・ライトニング)》」

 

 

 イビルアイによる防御魔法が発動するよりも早く、二閃の白くのたうつ雷撃が中空を駆け抜け夜闇を裂いていきアビス・デーモンへと殺到していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜闇を裂いて迸る白雷。それはのたうつ龍の様な雷撃で私はすぐさまそれが《龍雷》であると理解出来た。

 私もソレを使うことが出来るからすぐに分かったが、だからこそ驚愕以外の感想が浮かばなかった。確かに同じ魔法を使う者がいるのは当たり前の話だ。

 例えば、《魔法の矢》をはじめとして魔法詠唱者ならば殆どの者が習得するそれであったり、所謂被りというのがあるのは当然だ。

 だが────

 

 

「《龍雷》の魔法二重化、だと……!?」

 

 

 そんなもの、ほとんどが第一か第二位階の魔法の話だ。いったい第五位階───帝国のフールーダ・パラダインを除いて最高位の魔法であるそれを使える人間が今この瞬間、この場にもう一人いるなどいったいどうして信じられるのか。

 ましてや、それの魔法二重化などと。

 そう、私が、いや私だけではないガガーランとティアも目の前で二つの雷撃が悪魔の身体を焼いていくのを見て驚愕している中、後方から足音と共に男の声が響いてきた。

 

 

「失礼、勝手ながら手を出させてもらいました」

 

 

 その声に私は素早く振り返ってみれば、黒を基調とした服にローブを纏った青年がそこにいた。

 凡そ、平均的と言うべきか、だがある程度整っていると言っても良い顔立ちで戦士長と同じ南方系の血を感じさせる黒髪に黒い瞳の青年はその手に身の丈ほどの杖を持っている。

 言葉では謝辞を示しているが、先の状況からしてこちらがピンチに陥っていたのは事実だ。

 

 

「いや、すまない。助かった」

 

「それは良かった。私はチーム『漆黒』のモモンと言います、貴女方は『蒼の薔薇』の方々でよろしいですか?」

 

「あ、ああ…………いや、それよりも悪魔が!」

 

 

 こんな呑気に自己紹介をしてる暇などないだろう!?

 そう、私は視線を『漆黒』のモモンとやらから外して悪魔へと戻せば、そこには幾つもの火花が散っているのが見えた。

 ガガーランとそう変わらない体躯で全身を灰色のさながら熔鉄の様な鎧で包み、更には悪魔が持つハルバードとはまた異なる身の丈ほどの片刃の大斧を携えた戦士が悪魔と打ち合っていた。

 二度目になる衝撃で再び、私は唖然としてしまう。

 確かにあの悪魔は総合的に見れば私よりも弱いのは間違いない、だが悪魔としての身体能力や頑強さに寄った強さを考えれば近接戦闘を行えばあちらの方が圧倒的に強い。そんな悪魔相手に真っ向から打ち合っている?なんだそれは、決して尋常ではない。

 そんな私の心中を他所に熔鉄の戦士と悪魔の戦いは激しさを増していく。

 

 

「…………あちらはアクトが抑えていますので今のうちに回復を」

 

「おい、アンタ良いのか。悪魔を仲間一人に任せて」

 

「問題無いですよ。彼奴は強いので」

 

 

 モモンの言葉にガガーランが問いかければ、返って来たのは信頼その一言に尽きる言葉。

 さも当然の様に語ったモモンに私たちは言葉が出なかった。だが、それも彼がポーションを取り出したのを見てすぐに気を取り戻し私はガガーランとティアによって守られた為回復の必要は無いことを伝え、三人から少し離れモモンとアクトという戦士を注視する。

 先程の言葉通りならば、彼らが新しいアダマンタイト級冒険者の内の一つ『漆黒』なのだろう───そもそもあの悪魔と打ち合っている時点でその実力はおそらく私を除く蒼の薔薇以上、このモモンは先の《龍雷》を放ったことから間違いなく魔法詠唱者だ。

 第五位階を習得している魔法詠唱者、タレントか才能かどうかは知らないが私や帝国のフールーダ・パラダインを除けば間違いなく最上位の魔法詠唱者だ。

 

 

「わりぃな、自前のが戦闘中に何本か割れちまったらしぃ」

 

「いえ、お気になさらず……ところで、あの悪魔はいったい何ですか。レエブン公の依頼では八本指の襲撃を行うというものでしたが」

 

「…………実はよ、元々アレがここにいたわけじゃねぇんだわ。最初はなんだ、メイド見てぇなモンスターがいてそいつのご主人様だかのモノを八本指が盗んだのを取り返しに来たらしい」

 

「おい、待て。そんな話聞いてないぞ」

 

 

 メイドみたいなモンスターは分かる。私がここに来た時に撃ち落とした蟲と一緒にいた奴の事だ。

 そいつとあの悪魔が入れ替わったのは分かっている。だが、そもそもメイドモンスターとの戦闘の経緯を何一つとして私は聞いていないんだが?

 そんな私の文句にガガーランは視線を逸らしながらも全く悪びれもしないような声音で説明を始めていく。

 

 

「要はあの悪魔は時間稼ぎなんだよ。メイドが八本指から盗品を奪い返すまでの、でなんでこうやり合ってたかっつーとだな、メイドが嘘を言ってるわけじゃねぇのは間違いねぇ。だけどもまあ、なんて言うか俺の感覚になっちまうんだが、何か隠してたんだわなぁ」

 

「…………いや、確かにその隠し事が原因で何か起きたら目も当てられなかったが…………まあ、冒険者としてモンスターと戦うのは当然だが……それを先に言え」

 

「言えつってもよ、イビルアイ。お前が来たタイミングであの悪魔が来たんだどうしようもねぇだろ」

 

「話す余裕はなかった」

 

 

 こ、こいつら…………。

 確かにそういう余裕がなかったのは認めるが……見ろ!モモンなんて戸惑っているだろう!

 なんとも言えぬ空気が漂い始める中、ポーションで回復を終えたらしいガガーランがその戦鎚を担ぎ直したのを見て、私はひとまず軽く息を吐き視線を悪魔の方へと戻す。

 見れば、アクトという戦士は的確に悪魔の攻撃を捌いている。戦士二人に斥候が一、魔法詠唱者が二人の半ば即席じみたチームであるが先程までと比べれば格段に勝ちの目は増えた筈だ。

 

 

 

 

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