UNDEAD───不死人   作:カチカチチーズ

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 やや、難産ではありましたが更新させていただきます。




炎の壁

 

 

 

 

 

 

 ハルバードと大斧が激突する。

 アビス・デーモンは両の手で握ったハルバードをまるで手足そのものの様に自由自在に操り激しく乱舞が如き連撃を起こしていくが、それに対してアクトは冷静に片手で持った大斧によって尽くを捌いていく。

 一合、一合。ぶつかり合う刹那に火花が飛び散り、決して周囲に近付けぬほどの威圧が撒き散らされていくが、アクト自身の雰囲気は驚く程に熱を持たない。

 勿論、そこには決して覆ることの無いレベル差というものが両者の間に横たわっているからであり、そもそもの話アクトはこのアビス・デーモンを打ち倒す気はさらさらないのだ。

 なるほど、確かにアビス・デーモンは蒼の薔薇相手に足止め役として起用され、こうして蒼の薔薇に自分たちの実力を印象付けるという役目を達成している。

 

 

「(デミウルゴス殿の作戦にしてはアビス・デーモンを倒したとしてもやや、インパクトにかけますね…………つまり、この後に何かあると考えるのが妥当でしょう)」

 

 

 後退すると同時に放たれる幾つもの炎の塊をアクトはその大盾で受け止めていく。

 竜狩りの鎧───熔鉄のソレは竜を狩る者の鎧ながらも火の耐性に関しては他の耐性と比べ一枚落ちているという欠点を有している。だが、その欠点もアビス・デーモンとのレベル差によってほとんど封殺している。

 大盾に着弾しては弾け炎を撒き散らす《炎球(ファイア・ボール)》によって兜により狭まっている視界をより遮っていくが、アクトはその隙間より見えるアビス・デーモンを見る。曲がりなりにも相手は同じナザリックの者、普通では分からぬだろう焦りをアクトは感じ取っていた。

 よくよく見れば、アビス・デーモンの意識は自分よりも後方のモモンへと向けられているのがよく分かる。

 

 

「(ええ、分かりますよ。至高の御方を気にしてしまう、自分がこの仕事を全うできるか不安なのでしょうな────ですが)」

 

「─────ガッ!?」

 

「こっちを見ろ」

 

 

 距離をとった筈のアビス・デーモンの目前へと駆けてきたアクトが勢いよく大斧を叩きつけていく。咄嗟に受け止めたハルバードがそれによって軋み、殺せなった衝撃でアビス・デーモンは思わず苦悶の声を零す。だが、そこでは終わらない。

 アクトは素早く大斧を引き、空いた空間へと間髪入れずに今度は大盾でまるで叩き潰すかのように押し込んでいく。

 先程の大斧と違い純粋にその威力を持ってその場に押し潰すような一撃はアビス・デーモンの身体を沈め、石畳をそのまま砕いてしまうほど、間髪入れぬそれにアビス・デーモンは声にならぬ悲鳴を漏らしそうになるが至高の御方の前で醜態を晒すまいと口を紡ぎ耐え─────

 

 

「グギィッッ!!??」

 

 

 ることは出来なかった。

 押し潰されたと思えば、そのまま大盾によって振り払われアビス・デーモンの両の手からハルバードが宙を舞う。

 致命的な隙。しかし、アビス・デーモンとて悪魔の端くれであり、その身体能力と反応速度により咄嗟に手を突き出し至近距離での《炎球》をアクトへと放っていく。振り払った大盾を戻しそれを防ぐが弾けた炎が盾を外れ、鎧の端々に着弾する。

 そうして何とか僅かに作り出した隙を利用して、アビス・デーモンは宙を舞うハルバードへと手を伸ばしそのまま大上段から兜割りを放つ。

 アビス・デーモンはその黒翼を広げ空中からの襲撃を行ったわけだが、アビス・デーモン自身兜割りが決まるなどとは思っていない。目の前の相手がナザリック地下大墳墓が宝物殿の領域守護者、ただの召喚されたシモべとでは格の差が違う。つまるところどれだけ相手が手加減をした所でアビス・デーモンに勝ち目はない。

 

 

「(───私の役目は勝つことでは無い、だが)」

 

 

 紙一重で回避された兜割り。

 それを前にして、アビス・デーモンは先程のアクトの言葉から意識を明確に目の前の男へと向け、表情には出さずとも胸中で不敵な笑みを浮かべる。

 口には出さない。

 圧倒的格上であったとしても、自分の上司であるデミウルゴスの同僚という存在であったとしても、アビス・デーモンの種族としての性が目の前の戦士に対して本気でぶつかりたいという欲を剥き出しにしていく。

 

 

「シィッ!」

 

 

 兜割りの勢いで身体を回し、アビス・デーモンはアクトの大盾を蹴りつけ後退する。

 予想以上の衝撃であるがそれでもアクトからすれば、大してモノではない。むしろ、自身の踏み込みにその衝撃を組み込んでいく。

 大きく前へと跳び出しながら、大斧を振り払うように右側へと大振りの一撃を放つ。

 

 

「───《深淵閃断》」

 

 

 黒い魔力をそのハルバードへと纏わせ、複数の連撃を放ちながらアクトの大振りの一撃を迎え撃ち、僅かに隙を作り上げる。

 相手が決して本気ではなく、アビス・デーモンよりやや強い程度の力で戦っているが故に、ゴリ押し気味で何とか作り出すことが出来た一抹の隙。

 その隙へと向けて、アビス・デーモンは渾身の一撃を放った。

 それはなるほど、確かに深淵という名を冠するに相応しい恐ろしく邪悪な悪魔的とも言える魔力を内包した一撃だ。アビス・デーモンが有する攻撃系特殊技能(スキル)の中で最も威力の高いソレ。それを受けるのがアクトでなく蒼の薔薇のガガーランやティアであれば即死、イビルアイであっても間違いなく致命傷に近いモノを与える事だろう。

 だが────

 

 

「《加速(ヘイスト)》」

 

 

 ここにいるのはアクト一人では無いのだ。

 迫り来る一撃を前にアクトは冷静に自身へ付与された魔法を理解し、自分の身体を後ろへと蹴り出した。

 大斧による一撃を無理矢理に弾かれたが故に出来た突発的な行動。常人ならば間違いなく身体に無理が来るのだろうがアクトの身体能力であればそんなものは何の問題にもなりはしない。

 ハルバードは空を切り裂き、アビス・デーモンは目を見開いた。

 広がった視界で捉えたのは遠ざかる戦士の姿、そして突如として自身を取り巻いていく炎と爆発。

 

 

「炎だと?無駄だ!」

 

 

 ティアの使用した忍術によって生じた爆炎だが、アビス・デーモンは簡単に炎を振り払う。大した痛手にはならず、僅かに視界を奪った程度の効果でしかなかった。

 

 

「いいや、充分だ」

 

 

 炎が消え、移り変わった視界。今度は自分を頂点とするように扇状に広がる形で魔法の用意を完了させた二人の魔法詠唱者の姿。

 それらを前にアビス・デーモンは素早く手を突き出し詠唱を行う。既に完了している二人に対してあまりに遅い。

 

 

「《魔法最強化(マキシマイズマジック)水晶騎士槍(クリスタルランス)》!」

 

「《魔法二重化(ツインマジック)龍雷(ドラゴン・ライトニング)》」

 

 

 イビルアイより放たれるのはエントマの蟲を撃ち落としたモノと同じ水晶で構築された騎士槍。それが水晶の粒子を尾に引いて夜闇を裂きながらアビス・デーモンへと迫り来る。

 モモンが放つのは先のモノと同様絡み合いながら雷鳴を響かせ宙をのたうつ様に蠢き迸る白き雷撃。離れては近づき、近づいては離れるという挙動を起こしながらアビス・デーモンの喉笛を狙い殺到する。

 

 

「《盾壁(シールド・ウォール)》────がぁぁあああっ!?」

 

 

 突き出した手を中心に生じる魔力で構成された盾。

 だがそれも壁というには些か小さく守備範囲も狭く、完全に展開されるよりも早くに飛来した二種の魔法によってまるで紙を突き破るかの様に容易く突破され水晶の槍が肩を貫き、白雷が肌を焼いていく。

 あまりの痛みにアビス・デーモンが絶叫をあげる。

 少しずつ再生は行われていき、傷が修復され始めるがわざわざその再生を律儀に待つ理由などどこにもありはしない。

 

 

「すぅーーーッ、ラァァアアアッッ!!」

 

「おおぉ!!」

 

 

 動きを止め、絶叫をあげるアビス・デーモンへと叩き込まれるのは二人の戦士による連撃。

 複数の武技を使用しての流れる様な動きと激しい攻撃の嵐、正しく疾風怒濤と言うべき一撃一撃全てがガガーランの有する全力全開の攻撃。エントマには防がれはしたが、今この時においてアビス・デーモンへの有効打の一つとなり得ると判断した超級連続攻撃によってガガーランはアビス・デーモンをその場に釘付けにし続ける。

 それに対して、アクトが放つのは大斧による打撃。殴りつけ、振り払い、殴り潰す、一見単純な攻撃だが大盾のサイズと形状そしてアクトの膂力を鑑みればそれらは間違いなくガガーランの全力の一撃に比肩する攻撃だ。

 

 

「(───これは……!!)」

 

 

 一息つく隙もなければ、《次元の移動》を使用して逃げる隙すらどこにもない。

 唯一の隙が生まれるとすればそれはガガーランの連撃が無呼吸で放つもので彼女が人間であり呼吸の為のマジックアイテムを有していない為に呼吸する際に彼女の手が止まる時だろう。

 だが、それをアビス・デーモンは知らない。

 あまりにも長く感じる双方向からの連撃にアビス・デーモンは遂に膝をつき、大きな隙を晒すがそれとほぼ同時にガガーランはヒュっと喉が鳴り、連撃の手が止まる。

 それをカバーするようにアクトが大斧でアビス・デーモンの膝を殴りつけて─────

 

 

 

「────なんだ、アレは」

 

 

 誰かの声がこの場に響いた。

 

 

 視界の端、夜闇が広がっているはずの彼方。

 王都の一角があるであろう方角の夜空、そこは猛る炎が如き朱色へ染まっていた。

 否、それだけでは無い。この位置からでもよく見える、王都の一角に天を焦がさんばかりに真紅の炎が吹き上がっているのだ。高さにすれば数十メートル、その横がどれほど長く広がっているのかはここからではの全容を見ることは出来ず分からないが、少なくとも数百メートルでは収まらないのは間違いない。

 揺らめくベールの様に立ち昇っている炎の壁は帯のように伸びており、完全に王都の一角を包み込んでいる様に思える。

 あまりの光景にこの場の全員の手が止まった。

 

 そう、全員が

 

 

 

 攻撃の手が止まった事で、反射的に《次元の移動》を使用しやや離れた場所へと逃げ延びたアビス・デーモンもまた再生を行いつつもその顔は彼方の炎の壁へと向けられていた。

 

 

「…………いったいどこのどいつだ……クソッ」

 

 

 疑問と苛立たしげが混じった様な声音で呟く、アビス・デーモンにイビルアイをはじめとする蒼の薔薇はあの炎の壁がこの悪魔とは関係が無いモノであると直感的に理解し、同時にアレを起こしたのはいったい何者なのか?という疑問が浮かび上がっていく。

 そんな彼女らの視線を受け、アビス・デーモンは再生しつつ炎の壁から彼女らへと視線を移り変える。

 

 

「……まあいい、既に此方の目的は終えている。アレがいったいどこの輩の仕業なのかは知らんが、我々が手を出すつもりは毛頭無い勝手にやっていろ」

 

 

 もはや興味は無いと言わんばかりにそう吐き捨てながら語るアビス・デーモンは転移の際に拾い上げていたのだろうハルバードを握り直し、何歩かその場より後ずされば先程アビス・デーモンがこの場に現れ、エントマがこの場から消えた際に使用した黒い渦のようなモノが虚空より現れる。

 それは先程の様に誰かがそこから出てくるのではなく、アビス・デーモンがこの場より離脱する為のモノだと理解しイビルアイは逃すまいと魔法を詠唱し始め─────

 

 

「イビルアイさん」

 

 

 モモンの呼び声でその手が止まった。

 反射的に邪魔をするな、と文句を言おうとしたがすぐにイビルアイは今現在の優先事項はアビス・デーモンではなくあちらの炎の壁であると判断し突き出そうとしていた手を下げ、闇に消えていくアビス・デーモンを最後まで睨むが、その姿が完全に消え《転移門》も消えた事でその視線を炎の壁へと向き直す。

 轟々と燃え盛る炎。

 およそ、イビルアイの実力であってもあれほどの炎を魔法で生み出すことは出来ない、それは帝国のフールーダー・パラダインであっても同じ事だろう。では、いったい何者がアレを行ったのか…………。

 

 

「モモン」

 

「ああ、分かってる。ひとまずは他のメンバー……我々の依頼主のもとへ行って情報を擦り合わせる必要がある(……それに、デミウルゴスからこの後の事とか色々聞かなきゃいけないよなぁ……アビス・デーモンまでは聞いてたけどこの後のこと俺何も知らないんだよなぁ…………ゲヘナの炎の事もあるし)」

 

 

 アクトの言葉にすぐさまモモンは判断する、胸中でここから先の事について不安を零しながらではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

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