まさかそこまで人気が出るとは思いませんでした……そして、誤字脱字報告、ほんっとうにありがとうございます。
ところでオーンスタインってこんなに難しかったかなぁ……(連続十回死亡)
新たな王国のアダマンタイト級冒険者、『白晶』のセレネ。
唐突に竜王国より現れた異邦の冒険者はビーストマン五千を前に単身で殲滅、その偉業をもってアダマンタイト級冒険者となる事を許された。
そんな彼はつい数日前にエ・ランテルの冒険者に登録してから多くの依頼をこなしてみせた。王国においては信用は未だないが竜王国の女王直筆直印の証文により組合はアダマンタイトとして充分の実力があると判断し、組合からの依頼を任せたのが始まりだった。
オリハルコン級冒険者チームが苦戦するモンスターを瞬殺、アダマンタイト級冒険者ガガーランですら石化の魔眼を防ぐ為の魔眼殺しを装備し支援を受けてようやくなんとか勝てるレベルのギガント・バジリスクの瞬殺、などといった並の冒険者……いや、実力のある冒険者でも決して簡単ではないそれを軽々とただ一人で打ち倒して見せた。
そして、恐らくこれこそが『白晶』のセレネの最も有名な逸話でありその二つ名が付けられたきっかけとも言うべき戦い。
エ・ランテルより南東に進んだ所にある嘗ては砦だった廃墟に現れた巨大な火竜の討伐。
チームを組まず単身で依頼をこなしているセレネに対して嫉妬心と僅かばかりの好奇心を抱いた愚かなミスリル級冒険者チームが補助を申し出ての依頼だった。
冒険者組合としてはアダマンタイトから二段は劣るミスリル級冒険者チームを同行させるのは渋い顔をしたがセレネの鶴の一声により彼らは同行を許され、そしてセレネの偉業を伝えるための道具と化した。
「まず、廃墟に現れたっつう火竜だが……ありゃあ御伽噺の中の怪物としか言いようがなかった。バハルス帝国の元オリハルコン級のワーカーが倒したっつう緑竜以上の怪物だ……アレ一匹で人類が滅ぶって言われても信じちまうほどに、だ」
「やっぱりアレだよな。あの白い大剣……同じアダマンタイト級冒険者チームの蒼の薔薇のラキュースが持ってるっていう魔剣に負けずとも劣らない英雄の剣……!」
「正しく聖剣……憧れちまうよ……あんなんよぉ」
白い刀身の大剣に盾、そして結晶の様な輝きを放つ未知の魔法。
それらを駆使したセレネは人類の危機とも言える火竜を討ち滅ぼしてみせた。
もはや嫉妬することすら恥ずかしくなったミスリル級冒険者チームは自らセレネを讃えるべくエ・ランテルに意気揚々と帰還した。それはまるで英雄譚に心踊らせる童のようであった、とエ・ランテルの人々は笑った。
『────マッチポンプ、お疲れ様です。ネームレスさん』
『おつありです。信用を得るために利用できる者は利用するのが一番でしたからね』
まあ、そんな偉業はセレネによるマッチポンプであるのだが、そんな事は身内以外誰も知らない。
セレネはエ・ランテルで拠点にしているそれなりの宿屋、その部屋で兜を脱ぎ側頭部に指を当て伝言を使用している。無論、相手は友人のモモンガである。
『確かヘルカイトでしたっけ?あの火竜』
『ええ、課金ガチャの微妙枠で、第六位階相当の召喚魔法が付与された指輪で呼び出せるモンスターですけど、実際のカタログスペックだと第七位階相当な火竜ですよ』
『確かぶくぶく茶釜さんがレベル90台のドラゴンを当てちゃった時の課金ガチャに入ってた奴ですよね』
『ペロ助とのガチャ勝負で当てたもので、なかなか使う時がなかったんですけど意外な活躍しました……』
そう笑ってセレネが思い出すのはギルメンの一人であるエロゲマニアにして爆撃の翼王な友人との勝負。
結果的にいえば勝負に負けた為にそれを思い出して苦い顔をするが、それはこの場にいないモモンガには分からないことでモモンガは変わらず話していく。
『いいなぁ、早く俺も冒険者になりたいです』
『ふふ、モモンガさんが思ってるほどロマンある仕事じゃあないですよ。ところで影の悪魔に持たせた人化の指輪、どうでした?』
『あ、とても気に入ってますよ!いままで食べれなかったナザリックの美味しい料理を食べれましたし、ゆったりと寝れました。……ただ、アルベドの目が怖い』
『アルベドが?……あー、確か設定がちなみにビッチであるとかなんとかでしたね』
『そうなんですよ……タブラさん、ギャップ萌えだから……変えた方がいいかなぁ?って思ったんですけど、やっぱり人の書いたのを変えるってのは気が引けて……』
『なるほど……』
モモンガさん、設定変えなかったんだな……と呟きつつ、アイテムボックスから取り出した剣の刀身を布で拭き始める。
『それでいつ頃ナザリックに……?』
『うぅむ……一応組合の方に暫く留守にするって伝えてからだから……明日ナザリックに行きます、滞在時間はだいたい三日間ぐらいですかねぇ……』
『信用というか社会的地位が結果足枷になってますね……』
『すまなんだ……こうなるとは……このネームレスの目をもってしても……』
『……と、とりあえず、迎え役として転移門が使えるシモベを送りますね』
『よろです。それじゃあ────』
暫くモモンガとの談話を楽しみ、伝言を切ったセレネは立ち上がる。
さて……ひとまず組合に行かねばな。
そう言って部屋を後にする前に一度、足を止め……
私が留守にしている間は、例の少年と死霊術師を監視しておけ。
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ネームレス。
異形種狩りが流行っていた際に現れたPKKを主体としてプレイしていた異形種プレイヤー。
当時、たっち・みーさんに異形種狩りから助けられた俺がたっち・みーさんたちのように異形種狩りに反発するプレイヤーが他にもいるのか、と感嘆していたある日の事、たっち・みーさんがまるで犬か猫でも拾ってきたかのように件の異形種プレイヤー・ネームレスさんを連れて帰ってきたのだ。
聞けば複数の高レベル異形種狩りプレイヤーにタコ殴りにされていたネームレスさんを見かけ、『正義降臨』として乱入し共に全員打ち倒したらしい。それでたっち・みーさんが若干無理矢理連れて帰ってきたわけで……流石のウルベルトさんも反応に困っていた。
それでなんというか、流れ?でネームレスさんはアインズ・ウール・ゴウン入りし俺たちは仲間として活動する事となった。
聞けばネームレスさんがユグドラシルを始めたのはこのゲームなら自分の中の理想が叶えられると思ったかららしく、様々な設定を見せてくれた。
どれもこれもこう、心擽られる設定ばかりで一時期それを使った装備を作ろうと考えたが残念ながらネームレスさんが謝りながら止めてきたので、きっと恥ずかしくなったのだろう。
そして、ギルドを作り、ギルドホームたるナザリックを手に入れ内装やNPC作成の際にネームレスさんは第六階層の一角と二人分のNPC作成権をもぎ取り『最初の火の炉』と二人のNPCを作った。
うち一人はプレイアデスの末妹と同じく人間種NPCレティシアを作ったのだが、もう一人は教えてくれなかった。
最初は結局作らなかったのか?と思ったが聞けばはぐらかされるばかりで作りはしたんだろうな、と考えつつ何時しか宝物殿にいる自分のNPCを思い出して聞くのを止めた。黒歴史を掘り返されるのは辛いよなぁ。
さて、ユグドラシルが過疎化していく中、意外にもネームレスさんは最後まで残っていた……というよりはあの人の趣味である武器や防具といった装備作成に熱を上げていた。
過疎化した事で素材集めも横槍が少なくなり、嘗てはかなり高かった素材などがそこそこの値段で売られていたり、上位プレイヤーであるネームレスさんにはソロプレイでも充分だったのだろう。まあ、その際の副産物としてかなりの量のナザリックの維持費を入れてくれていたため文句は何一つない。
それに何よりあの人は結構付き合いがいいのだ。基本的に趣味に走るがこちらが金策に誘うとこちらを優先してくれる。頭が上がらない……。
だから、異世界に来てしまったかもしれないと知った時はとても焦った。まあ、すぐに精神が強制的に落ち着かせられたんだが…………ともかく、伝言を使ってみればあら不思議。
異世界だろうがエンジョイしてるんだよなぁ……あの人。しかもいきなりレベル20台のビーストマン五千に蹂躙されそうな国を一つ救うとか何してんですか、アンタ。
いやまあ、現地の色々な情報を沢山手に入れたのはとてもありがたいことなんですけどね……?
にしても本当にネームレスさんがいてくれてよかった。
まだ会えてはいないけれど、毎日毎日の情報交換はとても有意義でとても精神的にも助かっている。守護者たちの前では支配者ロールしないといけないからなぁ…………。
後は、ネームレスさんが影の悪魔に持たせてくれた人化の指輪……あれのおかげでリアルじゃ絶対食べられないような美味しい料理を楽しめたし、この世界に来て初めてゆったりと寝る事が出来た。
本当にネームレスさん様々としか言えないな…………早く、ネームレスさんと会いたいな……それで一緒に冒険を…………あぁ、眠くなってきたな。
自室の扉の前にいるメイドに暫く寝る旨を伝え、部屋から退出させアルベドを通さないように暫く誰も部屋に入れないように指示を出して俺は豪華でデカいベッドに入り目を閉じた。
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「竜王国に現れた謎の騎士、か」
「聞けばおよそ五千ものビーストマン相手に放った魔法は数百体のビーストマンを消し炭にし、逃げるビーストマン共へ身を投じながら一切の傷を負わずに殲滅したという」
「並の実力ではあるまい。英雄級……いや、恐らく番外席次とはいかずとも漆黒聖典の隊長クラスの実力はあるだろう……」
「流石にそれは高く見積もりすぎだろう……」
「いや、前回からもう百年近く経つ…………そういうことなのやもしれん」
どこか、豪華な装飾の施されたまるで教会の聖堂かのような場所で六人もの老人らが話し合っていた。
彼らは嘗てこの世界に現れたプレイヤーらによって創られた宗教国家、スレイン法国の最高神官。そして、そんな彼らがこうして集まり話し合っているのは数日前に突如として竜王国に現れ竜王国の王都を攻め滅ぼそうとしたビーストマンの軍勢をただ一人で殲滅した騎士について。
曰く、名をアストラのセレネ。
彼の騎士はビーストマン殲滅の報酬として、アダマンタイト冒険者としての地位と竜王国に縛られない自由、そして僅かばかりの金銭を――
身に纏う国宝級の武具すら霞む程の装備に身を包んだ騎士が求めるものとは到底思えないそれらを報酬とした、という不自然さが彼ら最高神官らにとある予想を作らせた。
「我ら人類を守護する御方なのやもしれぬ……」
「うむ……そうなれば接触を図らねばならないが……」
「聞けば王国へと向かったらしいが……」
「よりによって王国か…………」
百年毎の『ぷれいやー』の降臨。
彼らは竜王国に現れた騎士……ネームレスをプレイヤーであると考え接触する為の策を考え始めるが同時につい先日の陽光聖典の任務にて起きた事態を思い出す。
「王国と言えば、陽光聖典を監視していた土の巫女姫及び神官らの被害は甚大だ……破滅の竜王の復活と何か関係があるのやもしれん…………」
「……もしや、彼の騎士は破滅の竜王の復活に対する……?」
「……!!なるほど、可能性はありえる。となれば接触を悩む必要は皆無であろう……」
「ならば、漆黒聖典を動かし破滅の竜王の調査の際に一部を向かわせよう…………地理と冒険者として活動する事を考えればエ・ランテルへと向かった可能性が高い」
「人選は……?破滅の竜王の調査もあるのだ。一人でも抜けると厳しいものがあるぞ……?」
ネームレスとの接触に破滅の竜王の調査、どちらも重要事項である為に会議が長引く中、一人の最高神官が呟いた言葉に他の五人は固まった。
「ならば、番外席次を向かわせよう」
「何を言っている……流石にそれは早計過ぎる」
「そもそも奴を送ったら防衛はどうするのだ」
「…… もし、仮に破滅の竜王が蘇り更には破滅の竜王に対して神の至宝が効かなかった場合、そのまま番外席次を戦わせる」
「だから、何故そうなる!?わざわざ番外席次を出す必要はないだろう!」
声を荒らげる他の五人たちなど暖簾の腕押しと言わんばかりに一人の最高神官はかなり強い口調でつげる。
「もしも本当に彼の騎士が神であった場合、どうするのだ?神への謁見なのだ、下手に下位の者を向かわせれば侮られていると取られかねん。ならば、番外席次を送るべきだ」
「そ、それは……」
「だ、だがしかし……」
「むむ……上位の者となれば確かに限られる。カイレ様や漆黒聖典の隊長は破滅の竜王の調査からは決して外せん……それを考えれば他の者ではやはり……」
「か、かといって……番外席次一人でも不敬になりかねんぞ」
「なれば、クインティアの片割れはどうだ?」
もはや、四対二にまで賛否が分かれた中、最初の一人の案に賛成した者らで次々と話が煮詰まり始める。
そんな状況を見て反対していた二人も賛成に傾いていた。
「第五席次を?それは何故…………ッ、もしや」
「うむ、風花聖典の者によればあの裏切り者はエ・ランテルへと向かったそうだ」
「つまりは裏切り者、妹の処分をついでに任せると?」
「確かに……もしも彼の騎士が本当に人類の守護者であらせれば…………快楽殺人鬼を許されぬであろうな」
「……ふむ、第五席次ならば申し分あるまい」
「では、エ・ランテルへと向かわせ彼の騎士と接触するのは番外席次と第五席次、問題ないな?」
そうして会議は締め括られ、次々と最高神官らは退出していく。
この世界に本来存在しなかった筈のネームレス。彼がいることでこの世界はいったいどのように変わっていくのか。
それはきっと、まだ誰も知らないだろう。
今回は序盤の頼れる武器(チーズ的に)飛竜の剣を落としてくれるヘルカイトを少しと月光の大剣装備したセレネ、そしてそんな彼の印象と対応のお話でした。
正直モモンガ視点と法国は少し悩みながら書きました。
……感想にセレネとモモンでプリ〇ュア的なのを言われてぶっちゃけビビりました。
ちなみに作者は漆黒聖典の中でクアイエッセと番外席次が好きです