にしてもオーバーロード三期のキービジュアル……子山羊召喚しちゃうのかァ……
「はぁ…………」
ナザリック地下大墳墓が支配者、モモンガの心は何とも言えない複雑怪奇な曇り空であった。
ナザリックの外へ出て、冒険者としての先駆者であるネームレスのように冒険者をやりながら情報集め、もとい息抜きを目論んでいたモモンガはアルベドやデミウルゴスらを何とか説得し────デミウルゴスに関してはネームレスが説得したようだ────こうしてナザリックの外で冒険者稼業をする事が出来るわけなのだが…………そんな希望が通って嬉しいモモンガの心を悩ますものはなんなのか、それは目の前の人物だろう。
「どうしたモモン」
「ん、あ、……うん、何でもない」
それは全身鎧の何某である。
灰色の熔鉄が如き重厚な鎧を軽々と身にまとい、その頭を収めた兜はまるで竜の顔の様で鼻頭に当たる部分の両側面からはまるで牙か角か、はたまた東洋の龍の髭のように鋭利な刃じみたものが伸び後頭部には赤くたなびく兜飾りが伸びている。
そんな並大抵の人間では装備出来ぬ重厚な鎧をまとう重戦士らしくその背に背負っているのは恐らく得物であろう鋭利な片刃の大斧と大盾である。
モモンガと共にいるということはナザリックのNPCなのだが彼の様な姿のNPCはナザリックには存在しない……では、果たして何者か?
その答えはモモンガの創造したNPC。宝物殿というナザリックの他施設とは違う空間に存在する領域の守護を任されたが故に一部の至高の御方以外名前しか知らぬNPCである。
しかしモモンガのNPC……パンドラズ・アクターとはこのような姿では決してない。リアルにおいて欧州アーコロジーで勃発したという事件の際にとある軍が着ていたらしい黄色の軍服をまとうゆで卵に埴輪の様な顔をしたドッペルゲンガー。
そんな彼が何故こんな姿をしているのか、それはモモンガが彼に与えた能力にある。彼、パンドラズ・アクターはモモンガを含む至高の四十二人全てを本来の八割程度の実力でだが再現する事が出来た。そんな彼をモモンガのお供に推薦したネームレスが自分の姿をとらせつつ、るし☆ふぁーやタブラ・スマラグディナにウルベルト・アレイン・オードルと共に隠れて作成したドレスルームに保管していた型落ちの装備を引っ張り出して装備させた結果がこれだ。
ネームレス曰く、『熔鉄の竜狩り』シリーズ……その聖遺物級に型落ちした装備。型落ちしているとはいえ、性能は高く雷系のダメージを五割カットするなどといった性能がある。
「……それにしてもネームレスさんはほんと色々作ったなぁ」
「ネームレス様はモモンガ様のアイテムフェチのように装備フェチのきらいがありますからねぇ……んんッ失礼」
冒険者となるべくエ・ランテルを目指す二人組の旅人、凄腕の魔法詠唱者モモンとその相棒である重戦士アクトという設定でナザリックの外へと出たモモンガ。
モモンガは当初、ネームレスのように支配者ではなくただのモモンガとして冒険をし息抜きをしようとしていたがNPCたちの嘆願により一人では出れず結果、こうして自分のNPCであるパンドラズ・アクターと共に冒険者として活動することに決まった。
モモンガとしては自分の黒歴史とも言えるパンドラズ・アクターが目の前で動いているのがかなり精神に来ており、ネームレスにパンドラズ・アクターと会わせた際には恥ずかしさのあまり宝物殿で超位魔法を暴発させようとしたほど。
さて、そういった事だけがモモンガの心を複雑怪奇な曇天にしているわけではない。口を開けば芝居がかったウザい言葉、動けばいちいち大袈裟なウザい動きしか出てこないあのモモンガ印の黒歴史がネームレスから何か耳打ちされ装備を身にまとった途端、先程までのそれがなりを潜めてまるで長年の相棒の様に振る舞い始めたのだ。
「……(いや、ほんと、ネームレスさんいったい何を言ったんだ?)」
ネームレスがエ・ランテルへ向かう前にそれとなくネームレスに聞いても適当にはぐらかされた。ただ、少なくともモモンガ自身に何も悪い事はないと保証されている為、モモンガは釈然としないが深くは聞かないようにしているがやはり気になるものは気になるのだろう。
そんな心境がモモンガの心を複雑怪奇にしていた。
「(旅をする以上、主従関係では少し怪しまれる……ならば長年の相棒として振舞え、アクターならその程度軽々と出来るだろう?────ふふ、流石ですねネームレス様。普段ナザリックの支配者として緊張しているモモンガ様の御心を配慮し気を楽にさせるための演技……このパンドラズ・アクター感服致しましたァッ!!)」
なお、パンドラズ・アクターの内心ではウザい口調は健在である。
さて、そんな二人は現在先にエ・ランテルへと着いたネームレスに一日遅れでエ・ランテル入りを果たし、冒険者として登録すべく組合へ向けて歩いていた。
ネームレスの命令でエ・ランテルの詳細な調査を行った八肢刀の暗殺蟲から街に入る前に調査の際に作成した地図を確認したパンドラズ・アクターを案内にしている為、そうそう迷うことはなく寄り道せずに二人は組合へ向かう。
時同じくして冒険者組合。
その二階にある応接室にてアダマンタイト級冒険者セレネは冒険者組合の組合長プルトン・アインザックと対面していた。
「すまなかった。休暇をあまり与えられず」
いえ、アダマンタイト級冒険者である以上理解はしています……それで私を呼んだ理由は?
話はまずアインザックの謝罪から始まった。それは度重なる依頼を終えたセレネが羽を伸ばすために申請した一週間程の休暇をアダマンタイト級冒険者という冒険者組合としても都市としても重要な立場である為に二日程しか許可しなかったこと。
本来、希少なアダマンタイト級冒険者はその重要性などからかなりのわがままを組合に通す事が出来るのだがあまり主張せず二日という妥協でもないそれを受け入れたセレネにアインザックは申し訳ない気持ちでいっぱいであった。
しかしいつまでもそれを引っ張るわけにもいかず、アインザックはセレネの催促に先程までの申し訳なさそうな雰囲気を組合長としての威厳あるものへ変える。
「ああ、君を呼んだのはアダマンタイト級冒険者への依頼だ」
ふむ……
「このエ・ランテル近郊にとある盗賊団が現れてね……調査のもと銀級や金級の冒険者に盗賊団討伐の依頼を出したんだが」
失敗した、と。
セレネの言葉にアインザックは頷き、机の下から羊皮紙を取り出しセレネへと手渡す。
それを受け取ったセレネは書面の記載事項に目を通す。
そこに記載されているのは命からがら逃げ延びた銀級冒険者の報告。
……規模はそこそこですが、罠と用心棒ですか。
「ああ、逃げ延びた冒険者曰くその用心棒はブレイン・アングラウスだったらしい」
本当かどうかは定かではないがね。そう付け足すアインザックにセレネは兜の下で眉を顰める。それは流れから自分がこの盗賊団及び用心棒の対処をするということが分かっているから。
それで、私ですか
「……そうなる。もし本当にその用心棒がブレイン・アングラウスだった場合……ミスリル級では厳しい依頼になる、それを考えるとアダマンタイト級の君に任せたい」
……了解した。では、詳細事項を頼む
「ああ、少し待っていてくれ。地図を取ってくる」
そう言って応接室を退出するアインザック、それを見送りセレネは少し気を抜く。
……盗賊団か。
となればシャルティアの洗脳は起きずにすむかな?そう心の中で呟き、念の為に漆黒聖典に対する行動を考え始める。
セレネ自身は
身に纏う装備に対して些か貧相な槍、どのような形状であったかは既にセレネは思い出せない……しかし、そんな明らかに不自然な槍についての議論は覚えていた。
ロンギヌス……アレには本当に切っても切り離せない縁があるな
使用すれば使用者のデータが消し飛ぶというハイリスクがあるものの対象のデータを消し飛ばすというハイリターンが存在する消費タイプの世界級。二十の内の一であるそれはネームレスにとって決して浅からぬ縁があった。
彼の前任者が様々な経緯があったものの最終的にそれで消されたのだから。
自業自得相応の末路……少なくとも世界級があるし運営はいないからそういう事にはならないだろうが…………警戒しなくてはなぁ
異世界且つ自分という存在によるバタフライ・エフェクトをより一層警戒し呟いて気持ちを切り替える。
それの数秒後、応接室の扉が再び開き何枚かの大きめの羊皮紙を持ったアインザックが入ってきた。
「すまない、待たせた」
いえ、気にせず
「そうか、それはありがたい。……さて、件の盗賊団の根城だが……」
机上に広げられたエ・ランテル近郊の地図と、斥候などの冒険者が集めた情報から判明した盗賊団の根城の位置などの説明をアインザックは始めていき、セレネもまた懐からメモを取り出し情報を書き込み始めた。
ようやく終わったか…………
応接室に入ってから果たしてどのくらい経っただろうか。如何にリング・オブ・サステナンスを付けているとしても精神的に疲れはするのか、応接室から出てきたセレネは右手を左肩に当てながら首を動かしている。
そんなセレネの姿を目にした何人かの冒険者は苦笑し、その中の何人かがセレネへと近づいていく。
「よぉ、なかなか長かったじゃねえか」
イグヴァルジか……そりゃあ色々情報とかの確認作業があったからな
話しかけてきたのはセレネの偉業の一つ竜退治の際に同行したミスリル級冒険者チームクラルグラのリーダーを務めるイグヴァルジという男。当初はセレネに色々と難癖を付けていた男だが竜退治以来、以前の態度は形を潜めこうしてセレネに気安くなっていた。
下手に上下関係を表に押し出した振る舞いをされるのは嫌なセレネとしては、気安い同僚の様なイグヴァルジを歓迎していた。
「ってえと、アレか。ブレイン・アングラウスが用心棒してるとかいう盗賊団か」
そうなるな。かの戦士長と互角の男が用心棒の可能性があるならアダマンタイトの私に仕事が回ってくるのは必然だろう
「ぶっちゃけた話、戦士長よりアンタの方が強いだろうな。蒼の薔薇ですら竜を撃退したっていうのを聞く程度だ」
そんな竜を一人で討伐したアンタが周辺諸国最強かもな。
そんな風に呵呵大笑するイグヴァルジをよそにふとセレネは二階吹き抜けから一階の様子を見た。そこから見えるのはいつも通りの冒険者組合の光景────とはまた違ったものがあった。
………………
受付嬢の対面に立つセレネの視界には、見慣れぬ姿の二人組が映っている。片方は黒い軍服の上から魔法詠唱者の様なローブをまとった男、もう片方は灰色の全身鎧で身を包み、その背には大斧と大盾が背負われている。どうやら受付嬢と何か言い合っているようだ。
そんな二人組を見ている事にイグヴァルジは気がついたのか複雑そうな表情をして口を開く。
「あー、ありゃ数時間前に冒険者に登録した新人だな…………うん、アレだ。アンタに会わなかったら絶対分からなかったがありゃ俺らより強いわ」
そんなイグヴァルジの言葉にクラルグラの面々は驚きと共に仕方ないという反応を見せる。
一瞬セレネは首を傾げたがすぐにその理由を悟る。イグヴァルジはセレネがやって来るまでこのエ・ランテルにおいて最高位のミスリル級冒険者を務めていた為に傲慢であった。しかし、セレネの竜退治を目撃してから鼻を折られ嘗てなら実力を過小評価していたが今のイグヴァルジは冷静に二人組の実力を察する事が出来た。
自分たちミスリル級冒険者よりも強い、と。
規則である以上、私のような例外を除けば基本的に最初は
「見る限り、ランク以上の依頼をやりたいようだが……規則だからな……」
イグヴァルジと彼ら二人組について話していると二人組は諦めたのか浅くだが頭を下げて……何やら四人組の冒険者が声をかけてきた。
それを見てセレネは兜の下でほくそ笑んでその場を後にした。
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『────と、まあ、そんな経緯で漆黒の剣という冒険者チームと一緒にンフィーレアさんの依頼を受けることになりまして』
『ンフィーレアというとこの街の有名な薬師ですね。確かどのようなマジックアイテムも使えるとかいう何とも面白いタレントだとか…………あまりおおっぴらに言うもんじゃないですけどね、そういうの』
『ですね……』
冒険者組合を後にした私は一人、エ・ランテルの幾つかある門の内、目的地に一番近い門の前で馬の用意が終わるまでモモンガさんと伝言を使い、互いに情報を交換していた。
原作のようにナーベラルとモモンガさんではなくパンドラズ・アクターとモモンガさんで組ませたが……その変化がどう影響するのかが少し不安だ。少なくともパンドラズ・アクターならナーベラルの様に情報漏洩はしないだろう。
……ん?モモンガさんがフレーバーテキスト変えてないならその場合どうなるんだ?
モモンガさんの伴侶=アルベドというのは、モモンガさんがフレーバーテキストを変えたから生じたものなのか……果たして…………。
「セレネさん、用意が終わりました」
ん、ああ、わかった。すぐ行こう
『用意が終わったそうなので、そろそろ』
『あ、はい。わかりました、それじゃあ次は依頼終わってからかけますね』
『ええ、それでお願いします。それじゃ』
伝言を切り、馬の用意をしてくれた衛兵に軽く会釈し私はすぐに向かおうと足を向けて────
ぁ────?
指輪の知覚範囲内に現れたソレにただ、身体の深奥、ソウルが熱を孕んだ気がした。
モモンガの為にパンドラズアクターやデミウルゴスの説得を頑張ったネームレス。
ついでにエルダーリッチにならずにすんだイグヴァルジ