魔が注ぐは無償の愛   作:Rさくら

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On Your Mark 03

 

 

 

 

 いつの間にやら手に燭台を持っていたウルベルト・アレイン・オードルが先導し、延々と続くかのような螺旋階段を、異形種達は黙々と降りていく。

 悪魔の道案内に従い下へ下へと行くのは、まるで地獄に誘われているようだと、たっちはふと思う。悪魔の後に続くのは死神の様な見目の彼で、まさに地獄へと誘われている真っ最中の様な光景だろう。しかしそこまで考えて、たっちは今の自分の姿を思い出す。

全身を甲冑に包まれ外側は人間のように見えるが、その下の姿は彼らと同じ異形だ。第三者からして見れば、己も地獄へと誘う側に見えるのだろうと、たっちは今ある肉体に意識を向ける。

人間の時とは全く違う感覚を、たっちは感じた。紛うことなく、これは自分の肉体なのだという感覚を。

 

 暫く歩き、前触れなく不意に目的地に辿りつく。ドアはなく、馬蹄形のアーチを潜り抜けた先には、飾り気の無い小さな丸い部屋があった。

入ってすぐの正面にギルド、アインズ・ウール・ゴウンの旗がある以外は、小さな円卓と五つの椅子のみがあるシンプルな部屋だ。天井からぶら下がるシャンデリアも黒い鉄製で、飾り気がない。蝋燭の火がちらちらと揺らめくばかりである。

「ウルベルトさん、気遣ってくれてありがとうございます」

「気にしないでください、モモンガさん」

モモンガとウルベルトが会話をしながら適当に腰掛けるのを見て、たっちも腰掛けた。互いを結ぶと三角になる形で、彼らは向かい合う。

「さて、それでは何か言おうとして止めていたモモンガさんから、どうぞ」

巫山戯た仕草でウルベルトに手を向けられたモモンガは、調子が狂うと文句を言いつつも、少しずつ話し始めた。たっちへと視線を向けて、守護者達の前で吐露する訳にはいかない、その心の内を。

「…たっちさん、その、オレは、随分と変わってしまったと思ってたんですよ」

「そんなことないですよ」

「変わってないって、言ってもらえて嬉しかったです。でも、この姿になってから随分と長い…、長い時間が経って、変わったことも確かにあるんです」

長い時間、その言葉にたっちも改めて恐ろしくなる。

時の経過と共に全ては移り変わっていく、それは間違いなく事実だ。だからこそ、モモンガと会うのが恐ろしかったのだ。百年以上経っても尚、友は自分の知る友なのか、不安で。

「オレはもう、人ではないんです」

その断言しつつも、自身に言い聞かせる様でもある物言いに、たっちはやっと自分の配慮の無さに気が付く。

人ではないと言い切る彼と違い、まだ言い切れもしないくせに、思いやりに欠けた自身にたっちは嫌になってしまった。不安や恐怖など吹き飛んで、今はただ、恥じ入る気持ちがたっちを強く支配していた。

肝心の友自身が、長い長い月日の経過に、一体何を感じてきたのか思い至らなかったことが、彼は恥ずかしくて堪らなかった。

「…変わらないですよ。子供自慢を嬉しそうにするところとか…、根本的な所は、何も変わっていない」

たっちの返事に、嬉しそうにモモンガが笑った。その骨の顔が変化することは当然ないのだが、嬉しそうに笑っていることぐらいはたっちにも良く伝わった。

「それで?色々と聞いて言ってましたけど、これからどうするんですか?」

ウルベルトの質問で、少しばかり緩んでいた場に緊張感が帰ってくる。たっちは問いかけてきたウルベルトへと顔を向け、答えた。

「ナザリックに正式帰還するかは…、すみません、もう少しだけ考えさせてください」

その返答に対して、呆れと落胆の表情をウルベルトは隠さない。モモンガは、たっちを真っ直ぐに、じっと見詰めて続く言葉を待っていた。

「理由はどうあれ、国民が幸福に暮らせる、素晴らしい国が出来上がるのは嬉しいし、協力もしたいと思ってます。ただ、」

「さっきの話をまた蒸し返すんですか。仕方無いでしょう。拷問は悪魔達にとって煙草や酒や音楽、所謂生活の潤いなんですから」

「分かってますよ」

そのたっちの返事が投げ遣りでもなく真摯なもので、ウルベルトはおや、と違和感を覚え逸らしていた視線を戻す。兜に隠された、正義を愛する聖騎士の表情を伺うことは出来やしない。だがそれでも、彼がいい加減な対応や返事をしているのではないことは、その態度と声音から分かることであった。

「そういうのが趣味の者達が、ナザリックにウルベルトさん以外にもいるのでしょう?悪趣味とは思いますが、だからといって一部の者達に我慢を強いるのも、良くないですからね」

そのたっちの発言で、ウルベルトはやっと理解に至った。目前にいるのはユグドラシルにログインしているたっちではなく、異形種の肉体を纏う、人間ではない何かなのだと。

正義の残り滓を貼り付けた魂が、異形の肉体で生きているのだと。

その事実が可笑しくて可笑しくて、ウルベルトは腹を抱えて笑い転げたくなる。何とかそれを耐え忍び、口元に手をあててウルベルトは誤魔化した。

「だから、自分なりに納得いく形で何かをして、ナザリックに協力もしたいんです。ただ明確な答えがまだ出ないから、待ってほしいんです」

悪魔が内心笑い転げていることなど気付かずに、彼は真摯に語り終えた。そして、その正義の歪さを誰も指摘することなどなく、話は進む。

「分かりました、たっちさん。…それじゃ、先にオレの我が侭だけ伝えておきます」

「え、」

その意外な返答に、たっちは驚く。そして、続いて伝えられた彼の願いごとに、目を見張ることになった。

「オレと一緒に、世界征服してください」

よろしくお願いします、と最後に丁寧に付け加えて、モモンガはぺこりと頭を下げる。

記憶の中では遠慮ばかりだった彼の珍しい言動に、たっちは驚愕するばかりだ。しかし、その様子にウルベルトが嬉しそうにしているのを見て、たっちは合点がいった。

「はは、変わらないと思ってたけど、随分と悪魔に入れ知恵されてたんですね、モモンガさん」

「元はたっちさんのアドバイスでしょう。なんだか俺がモモンガさんに余計なこと言った、みたいに聞こえるんですけど?」

「それはすみません。そうですね、意固地になったモモンガさんに我侭を言わせたのは、功績ですよ」

「…オレ、そんなに頑固でしたか?」

柔軟に意見を聞き入れてたつもりなんだけどなぁ、と首を傾げながらも真剣に反省し始めたモモンガには、ウルベルトもたっちも、思わず呆れ混じりに笑ってしまう。

「…ところで、ウルベルトさんは今はどのような役職に?」

自身の今後を考える何かヒントになるかと思い尋ねたたっちだったが、モモンガとウルベルトはぱちくりと目を合わせるだけだ。

「言われてみれば、俺の役職って…?」

「特に明確なのは無い、ですね…。幅広く雑務をしてくれてるから助かってはいるけど…」

「決めた方が良いですかね?」

「良いんですかね?でも…、俺は確かに一応トップとして、ギルド長として働いているけど、役に立ってるかと…、言われたら……はは、」

「モモンガさん、そこは気にしたら負けだって前も話したじゃないか!気をしっかり持って!」

突如凹んだモモンガを、ウルベルトが巫山戯た調子で慰める。前より更に仲良くなった様子の二人組にイラッときつつ、たっちは話を進めた。

「役職を決めず放ったらかしていたということは、大した仕事もせずプラプラ遊んでいたんでしょうね。今さら役職なんて決められませんか」

「たっちさん、殺されたいんですか?」

棘のある言葉にカチンときたウルベルトが、身も蓋もなく返す。そしてその隣でモモンガがもしかしてと、自身の推理を披露した。

「再会した時に目の前でいきなり人殺しされたから、機嫌悪いんじゃないですか?」

そこではないのだが、軌道修正するためにもたっちはそれに乗っかった。

「……すみません。ちょっとウルベルトさんにあたりすぎましたね。でも、あれはウルベルトさんが悪いです」

「はあぁ!?たかがアレぐらいで怒らないでくださいよ!だいたい一番ソフトな方法だったんですよ?生首の詰合せとか目玉の詰合せとか、デミウルゴスと色々考えたけど、たっちさんのことを考えて、ああなったんですから!」

知りたくなかった裏話の情報提供で、たっちは腹を立てる。

確かに死体を見てもそこまでショックは無かったが、死体と、目玉やら生首やらの詰め合わせは、絶対にグロテスクさが別物だ。

「その初期案やってたらガチギレしてましたよ。というか、俺のことを考えて?大嘘吐かないでくださいよ。単純に面倒くさかったからやらなかっただけでしょう、どうせ」

「ははは、妄想働かせて冤罪でっち上げですか?証拠あるんですか?あっ、証拠なんて正義の警察官様には要らないんでしたっけ〜?」

「…表に出てくれませんか、ウルベルトさん。その頭の角、更にお洒落にカットしてあげますよ」

「たっちさんのセンスでカットなんかされたら、恥ずかしくて表歩けなくなりますよ。それよりも、俺がその鎧をもっと美しくしてあげますよ、真っ赤に染めてね」

「ははっ、染められますか?触れるどころか、近づくことすら厳しいだろうに…、どうやって染める気なんですかね?」

「たっちさんこそ…、角に剣が届く前に指先から灰になってしまうだろうに、どうやって剣を握る気なんですか?」

「……」

「……」

無言で睨み合っていたウルベルトとたっちが、勢いよく立ち上がる。その一触即発の空気は、彼らにとっては懐かしいものだった。そのため取り乱した様子も一切ない声で、モモンガは呆れ混じりに執り成すだけだ。

「はいはい、落着いてください」

そう伝えて、モモンガがパチリと骨の手で器用に音を鳴らす。すると、ウルベルトとたっちの頭上から突如として滝のように水が落下してきた。

「!?ちょ、これ何ですか!?」

「び、びっくりした…!!水!?」

「おっ、成功した。やっぱりこれは攻撃判定に引っ掛からないんだなぁ」

のんびりした口調のモモンガを、ウルベルトとたっちが揃ってじとりと睨み付ける。だがそれに対して、悪びれもせずにモモンガはしれっと返した。

「だって、ウルベルトさんとたっちさんが顔を合わせて話し合いなんかしたら、絶対に喧嘩するじゃないですか」

「「…それは」」

言い訳をしようとしてハモった相手を互いに睨み付けるので、モモンガは苦笑するしかない。せっかく息があったのに、揃って非常に不愉快そうにしていた。

「というかこれ、何の魔法ですか。こんなのありましたっけ?」

「魔法じゃなくて、オレの指パッチンに合わせて影の悪魔が無限の水差しをひっくり返しているだけですよ」

「……影の悪魔、自殺しちゃいませんか、それ」

「言い聞かせてるから…、たぶん、大丈夫です」

心配そうに影の悪魔が潜んでいると思われる天井の影を見上げる悪魔とアンデッドに対して、まだその愛の重さを知らないたっちは首を傾げるだけだ。

そのたっちを視界に入れて、ウルベルトは抗議の声をあげる。

「ちょっとモモンガさん、このやり方反対です!俺に比べてたっちさんノーダメージですよ!」

びしりとウルベルトが指差す先のたっちは確かに、衣服どころか全身の羊毛が水を吸い悲惨なことになっているウルベルトに比べて何も変わらない様子だった。全身を鎧で覆っているのだから、それも当たり前だろう。

しかし、その当人から抗議に対しての否定の声があがる。

「いや、自分も隙間から入った水で気持ち悪いですよ…。足が特に…、気持ち悪い…」

「雨の日の長靴みたいな感想ですね…。ウルベルトさんは…、お風呂に入った猫動画で見たことある姿になりましたね、毛のボリュームが減って」

「濡れ山羊…んっ、ごほんごほん」

「意味の分からねぇとこで勝手にツボって笑ってんじゃねぇよクソたっち殺すぞ」

一息で呪詛と殺意溢れる言葉を終わらせたウルベルトは、アイテムボックスからスクロールを取り出す。それは空に放り投げられると、瞬く間に赤い炎と光になり封じ込められていた魔法の力を開放して消えた。

そのスクロールに込められていたのは、第0位階魔法、いわゆる生活魔法だ。その魔法によって生み出された熱風は何者も傷つけることもなく、びしょ濡れだった山羊の毛皮とその衣服を、ただ乾かした。

あっという間に乾き元通りになった自身の体と衣服に、ウルベルトは満足そうだ。その毛はふわふわと、膨らんでいる。

「それはズルいでしょう!?」

非難の声が当然、未だ鎧の下はずぶ濡れ状態のたっちから上がった。

「ウルベルトさん、そんなスクロール常備してたんですか」

「前に外出先で濡れた時、気持ち悪いし全然乾かないしで反省しましてね。それから持ち歩いてるんですよ」

「それじゃあ、たっちさんにもお願いします」

モモンガからのその申し出に、ウルベルトは固まる。

「そういった事情で持ち歩いているなら、一枚だけしかストックがない、なんて有り得ないですよね?たっちさんにも、お願いします」

「…………わかりましたよ」

事実をあっさり指摘され、繰り返し頼まれ、仕方なくウルベルトは再度同じスクロールを取り出した。そうして先程より雑に、実に嫌そうにたっちに向かい放り投げ、その身を乾かしてあげた。最後の最後まで、大変不服そうにしながら。

「さてと、たっちさん、難しいとは思いますが喧嘩をいちいち買わないでください」

「本当に難しいですが…、努力はします」

渋々といった様子で、肯定とも否定ともつかない発言で返答を濁しながら、たっちは座り直す。

「ウルベルトさん、たっちさんはこっちに来たばかりなんだから、もう少し優しくしましょう」

「………善処はします」

たっちと同じく、ウルベルトも憮然とした表情のまま、あまり守られることのない努力する旨の発言をしながら腰を下ろした。

それを見てひとまずモモンガは安心し、話を進める。

「でも、役職かぁ。今更増やしてもあんまり上手く機能しないだろうし、実際今まで、あちこちで手が足りない時にウルベルトさんが補佐に入って何とかしてくれて助かってるからなぁ」

自由に動けるからこそ助かっているウルベルトを固定させても、あまりメリットは思い浮かばないらしい。モモンガは考え込むだけで、あまり良い顔はしない。

「それなら、有事の遊軍隊長ってのはどうですか?平時は今まで通りで」

たっちの提案にモモンガは顔を上げ、今度は僅かな間だけ考えてふむふむと納得した様子の声を出した。

「…良いですね、さすがたっちさん!第七階層丸ごと、ウルベルトさんの遊軍部隊にしましょう。隊長はウルベルトさん、副隊長はデミウルゴスで」

その発言には、ウルベルトもたっちも驚愕させられた。

ウルベルトはニヤリと嬉しそうに笑い、たっちは少しつまらなそうにする。その発言は、ウルベルトとデミウルゴスに対して、モモンガが絶対の信頼を寄せているという証明に他ならない。

 先程から少しばかり嫌な疎外感を感じるなと、たっちはこっそり兜の下で口を尖らせる。

例えるなら、三人で並んで歩いていたのに気付けば自分だけ後ろに押し出され更には前のニ人が自分の知らない話題で盛り上がり始めたような、そんな疎外感だ。形容し難く、また恥ずかしくて言い出せない様な、そんな不快感があった。

「…そうですね、陰に潜む遊軍隊なんて、ウルベルトさん好きそうですし」

「おいこら、喧嘩売らないと気が済まないのか、正義厨」

「はいはい、喧嘩は売らない、買わない」

またもや喧嘩が勃発しかけたのを止めて、モモンガは嬉しそうに両手を合わせ骨を鳴らした。

「話合いがひとまず纏まって、良かったじゃないですか。法国を殲滅する前にたっちさんと争うことになっていたら、それどころじゃなくなっていただろうし」

その聞き捨てならない言葉に、たっちは戸惑い聞き返す。

「殲滅?法国も属国にするのでは?」

「いえ、殲滅します。スレイン法国は地図から消えて貰うんです」

さらっと言われた返事に、温度は無い。ただ淡々と、モモンガは決定しているスケジュールを語っているだけだった。

「その理由を伺っても?」

なぜそんなことを?という表情を露骨にしながらも、モモンガは憎き法国の嫌いな所を丁寧にたっちに解説した。

そうしてシャルティア洗脳事件の話を主軸にした悪評を聞き終わり、たっちは、首を横に振った。

「…反対です。国民全員根絶やしにするには、理由があんまりだ」

その思いがけない言葉にモモンガは動揺し、ウルベルトが直ぐ様声を荒げた。

「正式帰還していないたっちさんの意見を聞いてモモンガさんが指示を撤回したら、ナザリックの子供達に示しがつかないでしょう。それに、あそこには魔導国の主義思想に反する人間が集まっているから、根絶やしにするぐらいで調度いいんですよ」

「しかし国民全員が危険思想ではないでしょう?それに、改心する人だって居るかもしれないじゃないですか」

「そうかもしれないけど…、それでもシャルティアに約束した手前、オレも約束破りはしたくないです。でも、たっちさんの意見を丸ごと無視するのもな…」

「モモンガさん、これは無視して良い意見ですよ!コイツは部外者なんですから!」

ウルベルトが声を荒げ、たっちが冷ややかに返す。

「…俺が戦地で片っ端から人助けをしても良いなら、無視してくださっても構いませんよ?」

ぴくりと、怒りにウルベルトが顔を引きつらせる。

「それは、脅しのつもりですか、たっちさん」

先程の喧嘩とはまた違う空気が流れ始める。完全なる敵対を選ぶのかと、刺々しい殺意溢れる空気の中で悪魔と騎士は睨み合う。しかし直ぐにその雰囲気を壊す、明るい声が上がった。

「あっ、そうだ!陣取りゲームにしましょう!」

あまりに唐突すぎて毒気を抜かれたウルベルトもたっちも睨み合いを止めて、モモンガへと視線を移す。

「ゲーム、ですか?」

きょとんとするウルベルトとたっちを無視して、モモンガはアイテムボックスからスレイン法国の地図を取り出した。そして皮袋も取り出し、スレイン報国の神都上にルビーを置いた。更に続けて、ブラックダイヤモンドとスティブナイトも取り出す。

何をしているのだろうかと、立ち上がり、モモンガの手元をウルベルトとたっちが覗き込む。

「ウルベルトさんとたっちさんの陣営で分けて、一つのテント…、いや旗で良いかな?占領判定の範囲は、このぐらいかな…。うーん、ゲームルールはデミウルゴスやアルベドからも意見を聞いて煮詰めようかな…」

取り出した羽根ペンとインクで、法国の地図に適当な大きさの丸をモモンガは描く。

「ウルベルトさんと、たっちさんで陣営を別けてスレイン法国でゲームをしましょう。ウルベルトさんは自分の陣営で、たっちさんは自分の陣営で好きなようにしていいことにします」

光を喰らいつくさんばかりの黒いダイヤと、鈍い色を秘めた透明な四角い水晶の周りには、くるりと円が描かれている。その丸が描かれているのは他国の領土であるが、そんなことなどモモンガにとっては全く意に介することではない。

そして、そこに住まう者達に対する配慮など一切ない発言を、嗜める者も非難する者も、そこに居るわけがなかった。

「最終的に一番広く陣営を設置できた側には、そうですね、相手陣営トップにどんな命令も下せる権限の付与、なんてどうですかね」

「なんて恐ろしいルールを思いつくんだ、この骸骨…」

ウルベルトが呆れたという声を出し、頭を抱える。

「もちろん何でもって言っても、アルベドとデミウルゴス、それからセバスの了承が出た命令じゃないと駄目ですけど」

「そこじゃないですよ!」

ウルベルトにツッコミされても、当のモモンガは良いアイデアだと自信満々の様子だ。

「陣取りゲームですか…」

たっちは、考えて、そして妥協点として悪くないと判断した。

先程は勢いで脅したが、良い手ではないことは、たっちも分かっていた。

単身で乗り込んでも結局、可動範囲が狭過ぎて助けられる数に限りがでる。更には助けた後のことも問題だ。生きていく術や仕事を見繕ってやることも出来ないたっちでは、先々において救う手立てが全く無いのだ。

そんなことになるよりも、アインズ・ウール・ゴウン側からも認可が出ている救済を広範囲で行えるゲームに乗った方が、弱者を多く救えるのは間違いなかった。

それに何よりも、勝利時に貰える権限は、なかなかに魅力的なものである。

「よし、こっちが勝ったらウルベルトさんとデミウルゴスに漫才をしてもらおう」

「ふざけんなよ!それでデミウルゴスが割腹自殺したらどう責任取る気だ!」

「あー…、皆の前でスベったりとかしたら冗談抜きでやりかねないですね…」

とうとう円卓を乗り越えてウルベルトが、たっちの鎧の鬱陶しい赤マントを剥ぎ取ろうとする。

武器使用禁止空間のため、互いに掴み掛かりギャーギャー言い合うだけのウルベルトとたっちを眺めながら、相変わらずだなぁと、のほほんとモモンガはそれを眺めていた。そしてまた、器用にその指を鳴らしたのだ。

 

 

 

 

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