神はいないのだと、女は思った。
悪魔に付いて行くことを選んだ男を悔やみながら見送り、たっち・みーは純白の馬車へと戻る。
彼が救った親子は未だ目を覚まさないまま、執事とメイドに抱えられ、人間は沈黙のままに豪奢な純白の馬車へと乗り込んだ。
「一旦、近くの拠点に戻ろうか」
たっちの指示に、親子をそれぞれ抱えたセバス・チャンとユリ・アルファが頭を垂れ了承の意を口にする。そして、子供を抱き直しながらメイドが、確認のために問いかけた。
「その後は、私の方で親子の面倒を見ればよろしいでしょうか、たっち様」
申し出たユリと彼女が抱える子供、それから青褪めた顔の女を一瞥し、少し考えこんでからたっちは頷く。
「あぁ、頼む。できればユリには早く本来の仕事に戻ってほしいが…、ショックを受けているだろうし、女性のユリの方がまだ怯えないだろう」
畏まりましたと、恭しく執事もメイドも再度丁寧に頭を下げる。
「親子に付き添って、問題が無ければだが、魔導国への出立の見送りまで済ませてくれ。ペストーニヤには悪いが今暫く独りで頑張ってもらおう」
今後の流れについて互いの認識の摺り合わせが終わると、聖騎士は、執事とメイドと共に己の拠点へと帰還を開始した。
馬車が動き出してからも、車内は静かな為か、親子は目覚めない。意識が本当に無いことを念の為に確認してから、たっちは力無く愚痴を零し始めた。
「もう少しでゲームも終わりか。…説得しても、無駄だったようだな」
「幼き頃より染み込まれた教育や思想は、一朝一夕で取り除けないかと思われます。たっち様に非は御座いません」
疲れた様子の主人に、世界の公式を解説するかの如く淡々と、執事は慰めの言葉を送る。それこそが正解であると、その返答に迷いは滲まない。
励ましの暖かな言葉に礼を述べ、たっちは気持ちを切り替え、決意を改め口にする。
「せめて、こちら側に居る人達にだけでも慈悲を与えよう」
「たっち様によって救われる者達は、たくさんいます」
ユリの言葉に、セバスは深く頷き、誇らしげに感極まった様子でたっちを褒めそやす。
「やはり、たっち様はモモンガ様のご友人で御座いますね。お優しく、慈悲深い」
その言葉に対して、たっちは照れくさそうにしつつも、否定はしなかった。
喪に服すかのように静かだった馬車の旅の終着点。白陣営が拠点の一つ、問題があるスレイン法国民の最終隔離施設に使われている場所へと彼らは到着した。
中央拠点として白陣営が使っている場所に比べれば見劣りするが、それでも立派な城壁があるその小都市は、人の発する音がごっそり抜け落ちているせいか、昼間なのに不気味な雰囲気の漂う場所になっていた。
アンデッドが管理する城門を抜け、石畳の道を馬車はスピードを緩めず突き進む。暫くして、今は倉庫として利用されている元は法国の金持ちの邸宅であった巨大な屋敷の前に馬車は停車した。
その屋敷を中心に、元々都市にあった建造物は一定範囲までとあることに利用する為に消されていた。その目的のため黙々と働く無数の死体が奏でる仕事の音。それだけが、そこには響いている。
そしてそこに、それ以外の音がやっと混ざる。屋敷まで続く石畳の道を、馬車から降りた者達が歩く音だ。しかしそれは暫く一定リズムで続いた後に、不意に止んだ。
セバスが馬車を降りてから数歩進んだところで、彼に抱えられた女性がその腕の中で身動ぎし、睫毛を震わせたからである。歩いていた聖騎士も、執事もメイドも足を止め、目覚めようとする人間を見ていた。
「…目が覚めましたか」
前の目覚めで出迎えた煤けた世界とバケモノとは違う、綺麗な青空と優しそうな人間の顔が少し心配そうに覗き込んできた事実に、まず人間はホッとした。そして、老齢の、しかし皺があっても整った顔立ちの彼に支えられながら地面に立ち、これまた美しいメイドに抱かれる子供を視界に入れ、彼女ははらりと涙を一筋流す。
あぁ、助かったのだと安心した女が、しかし次に視界の端に見たのは、数多のアンデッドが懸命に働く姿だった。夢か幻か見間違いかと思い込みたくて、彼女は思わず屋敷と反対側に顔を向けてしまう。
彼女が見たそこには、都市の中に唐突に開けた空間がぽっかりあった。そしてその空き地では、無数の墓が作られている真っ最中であった。しかもそれは、おびただしい数の死体を動く死体が片付けているという悪夢のような光景だったのだ。
死体を運ぶ鎧姿の死体と、死体を燃やす襤褸のフードを被った死体、そして炭化し人の形を保てなくなったいくつかを墓の中へと運び名前の無い墓石をたてる死体。その光景が遠くまでずらりと続く様は、質の悪い冗談のようだった。
「ひっ…!」
思わず後退りした女の小さな悲鳴に首を傾げる聖騎士が、あぁと彼女の視線の先に目を遣り言葉を続ける。
「申し訳ありません。ご婦人にお見せするようなものでは無かったですね。近くの拠点がここしか無かったもので…」
紳士的な口調が崩れぬことが気持ち悪いと、女は率直に感じた。その口調は優しく丁寧だが、死体に対してもそして死体を見てしまった女の心からも遠くかけ離れた所にいると感じられる声に思えて、彼女はゾッとする。
「わたっ、私と子供は、こ、殺されるのですか…!?」
「まさか!貴方達は魔導国に逆らうつもりなど無いでしょう?」
「と、当然でございます…!!」
たどたどしくも必死に答える彼女に対し聖騎士は満足そうにし、優しく頷く。
「どうぞ豊かに、健やかに、幸福な人生を送ってください。魔導国で」
条件付きの祝福を、聖騎士は堂々と晴れやかな蒼天の下にて宣う。
神はいないのだと、女は思った。
未来と幸福を優しく祈られながら、女は、焼ける死体を嗅いでいた。女は上手く返事もできず、しかし必死に涙を散らしながら頷く。
「それではユリ、彼女と子供の面倒を任せるよ。確認が済んで落ち着いたら、出立しよう」
「畏まりました。それでは、行きましょうか」
「は、はい…」
怯える女性を引き連れ、彼女の子供を抱いたままのユリはその場を去った。墓と反対側にある屋敷内へと向かうユリを、たっちは見送る。
「…特に問題は生じなさそうな様子でしたね」
「あぁ、そうだな、セバス」
保護できるスレイン法国民は、あくまで何も知らぬ、魔導国に反逆の意志が無い者達だけだ。親子が何を見聞きしたのかはこれからユリが聞き取りし、その意志を確認してから魔導国への移動となる。そうでなければ救えないのは、これから先の世界の幸福のため、正義のためには仕方がないことだった。
しかしあの様子ならば、魔導国民としてこれから幸せに彼女と子供は生きていけるだろうと、その背中を見送りながらたっちは心の底より安堵していた。
人間が視界から居なくなってから、たっちは口を開く。ユリに任せた仕事以外にもその拠点にてやるべき仕事が一つあった。そして、その仕事を自ら行おうと思ってたっちは此処に来たのだ。
「…ここに捕らえている人達は既に説得済みだったな」
「仰せの通りでございます。二日ほど前にも再度説得しております」
「それで、数は減ったか?」
たっちの問いかけに対して暗い表情をした執事は、首を横に振る。
「申し訳ありません。バケモノが治める国の甘言になど乗らないの一点張りで、誰も理解してくださいませんでした。それに…、」
続けようとした言葉を暫し言い淀んでから、執事は口を開く。
「調子に乗った者達がモモンガ様を侮辱し始め…、恥ずかしながら、説得の後半は怒りを抑えるのに精一杯で…」
「そうか…。よく堪えてくれた、セバス。ここから先は、私の仕事だ」
会話を終えて、彼らは視界に入っている巨大なその建造物に揃って視線を遣った。そして、その拠点の中央にある元は神殿だった巨大な建物へと彼らは足を向ける。
当然、祈りに行くわけではない。そこは彼らにとって、頑丈で使い道のある元法国の建造物でしかなく、ただの施設でしかないのだから。
神殿内にて元々設置されていた椅子や敷き布、彫像、そういった物をごっそり取り除かれ空になったその中央に、派手なストライプ模様のテントが一つ、まるで飾り物のようにぽつねんとあった。とても静かな空間に設置されたそのテント内には、魔導国に服従することを拒んだ法国の者達が集められ捕らえられている。
神殿の内装と真逆に愉快な雰囲気漂わすそこに、聖騎士と執事は悠然と迷わずに足を向けた。出入り口に立っていた死の騎士がストライプ模様の布地を捲ると、その向こうに連なる黒幕のまず一枚目が、自動的にその身を脇に避けた。
聖騎士も執事も、黙々とテント内へと進み、黒の垂れ幕は次々と開いていく。
先程まで彼らが居た都市も、神殿内も、とても静かな空間だったが、たっちとセバスがいくつかの黒い垂れ幕の向こう側へと出ると、途端にそこは喧騒に溢れた別世界へと変わった。
「てめぇ!また来たのか!!」
「なんだ、ソイツは!そっちの騎士も魔導国の糞野郎か!」
「人間のくせに!裏切り者め!」
思い思いに過ごしていた人間達が、来訪者に気付いて一斉に騒ぎ始める。そんな人間の姿は、檻越しに見るとまるで猿のようだと、哀れみを抱きつつたっちは観察する。そして彼は、最後の忠告を静かに口にした。
「これが最後のチャンスです。今までのこと全て忘れて、魔導国の民として生きなおしてくれませんか?」
どうぞ健やかに、穏やかに、幸せに。蜜のようにどろりとした窒息しそうな甘言に、しかし人々は怒り狂う。人間の誇りとやらを燃やして否定する。それは、幸福ではないのだと。正しくないのだと。
その愚かしくも真っ直ぐな、そして輝かしく希望的な否定に、たっちは、ただ同情し、そして慈しむ。その胸中にある想いは、赤子へ向けるような複雑な想いに似ていた。
「これが、貴方方へ与えられる最期の慈悲です」
その毅然とした態度、言葉に、迷いは無い。彼はなんら躊躇なく、その腰にある剣を抜き放った。
檻の扉が、まるで貴族の一室の如く、執事によって恭しく開かれる。そうして悠然と檻の中へと入室してきた聖騎士に、殺してやろうと息巻き夢見る者達が一斉に群がった。
そして何が起きたのか、その騎士が何をしたのか人間には分からないまま、先頭に飛び出した一人の兵士の首は地面に落ちていた。少しの間を空けて、思い出したかのように、首の無い死体が崩れる。
「どうぞ、安らかな死を」
その言葉に対して、随分と穏やかな死刑宣告だと誰かが思った。
目の前で自分と似た姿形をした者達が、白銀の鎧に傷一つ付けることなく倒れ伏していく。それを見ていた騎士から一番遠くにいる凡庸なる兵士は、場違いなことに、とある出来事を思い出していた。
故郷にあった黄色い花畑で起きた、彼の人生の転機を。
花弁の明るい黄色と、花粉、隙間からこぼれる緑の葉、そして澄み渡る高い青空と新鮮なミルクのような雲。それは故郷の者達には見慣れた平凡な光景だった。だが、旅人達は漏れなく足を止め眺めていたから、きっとそれは美しい光景だったのだろう。
男にとって人生の別れ道となったその日も、世界は変わらずに空は青く晴れ渡り、花畑はそよ風に揺れていた。そんな日常にて、男の目に止まったのは、誰もが愛らしいと評するだろう幼い女の子。その子は花を摘んでいた。にこにこ笑いながら、何がそんなに楽しいのか、花をどんどん詰んでいた。その光景を眺めていて、花が可哀想に思えて男は声を掛けたのだ。
結果、村中の大人達から責められたのは男の方だった。
『たかが花よ!子供がすることに何を訳のわからないことを!』
『花が可哀想?はあー、頭が良い子と思ってたが、頭のネジでも外れたかね』
『いやねぇ、頭が良いからって偉そうに。だいたい花なんて沢山あるじゃないの、同じのが!』
大人達に責められたまだ幼かった男は為す術もなく、女の子に謝った。訳の分からないことで責めて悪かったと。しかし、男にとって訳の分からないのは、女の子の行為の方だった。
生命をぶちぶち引き千切って殺して、遊んだ後は捨てるだけ。確かに同じ花は沢山あるし喋ったりもしない。しかしそれでも、それだけの理由で無意味に摘まれる花が可哀想だと思うのは、それ程に可笑しなことだったのだろうか。
「あぎゃあ!!」
聞こえてきた無様な断末魔に、男はハッと我にかえる。目の前にはあの黄色い花畑ではなく、無数の死体と鮮血の水溜りが広がっていた。
「………あぁ、そうか」
あれから学ぶ意欲が消えて特に何も考えずに流されるままに生きて、気付けばこんな所まで男は来てしまっていた。だがしかし彼は後悔していなかった。それよりも、やっと答えに辿り着いた満足感で胸がいっぱいだった。
先程のは走馬灯ではないのだと、彼は確信する。目前の光景を知っていたから、思い出しただけなのだと。
自分達に出来るのは手折られないように祈るだけ、もしその時が来たら、黙って手折られるだけ。そこには善も悪も無く、ただ純粋な力関係しかない。
探し求めていた解答を得られたことに、男は確かに満足していた。
「…貴方が最後の一人です。何か、言い残すことはありませんか?」
男は、呆然と辺りを見渡す。自分が最早最後の一人であることに驚いたのではない。騎士から、話しかけられたことに驚いたのだ。
「お、おれは、」
「はい」
「……………………おれは、はなじゃ、ない」
「ん?…錯乱されているんですか?」
言葉が何の意味も成さず滅茶苦茶だったので頭を心配されたが、男はそれどころではなかった。痛烈な、迫り来る死を前に突然、生物として足掻きたくて堪らなくなったのだ。
「おっ、お願いします!!これからは魔導国の民として生き、魔導王陛下に忠誠を誓います…!!どうか、どうか…、御慈悲を!!」
恥も外聞も捨てて伏して頼む無様な男の肩に、優しく手が置かれる。
「良かった、最後の一人だけでも改心してくれて!」
「は、はい!私めは愚かにも何も考えずに、ただ流されて、今この時まで来た身であります!今この瞬間、自身の愚かさを痛感致しました!こっ、これからは魔導王陛下、いえ魔導国に忠節を捧げさせて頂きます…!!」
「そうですか…!うんうん、これからまた人生を頑張ってください!」
「あっ、有難き御言葉…!!」
「あぁ…、ただ気になるので、一応念押ししておきますね」
温和で優しい雰囲気を全く変えることなく、聖騎士は語り掛ける。
「また流されて魔導国を裏切ったら、即刻殺しに行きます。どうか俺に、救えたと思った相手を殺させないでくださいね」
その言葉に、口角を吊り上げ男は顔を歪ませる。
男は、やっぱり自分は花なのだと思い知り、そして、真の解答を得た喜びに狂ったように笑っていた。
「は、ははっ…」
その足元を血に塗れつつも、立ち上がり、堂々と聖騎士は歩み征く。その真っ直ぐに進む背中を見送り、再度自らの意志で頭を下げながら、男は酷く安堵していた。生かされたことにではなく、彼の背にて護られていることにとても安心していた。
その前に立ちはだかるものはなく、彼の背にて弱者は護られる。
その絶対なる力で全てを決定づける、ああ、その行為に名をつけるのならば―――
「正義と言わずして、何と言おうや…!」
男はずっと、血溜まりの中頭を垂れながら幸せそうに笑っていた。
健康的な小麦色に日焼けした善良そうな人懐っこい笑顔の青年は、とても見覚えのある人物だった。だからこそ、たっちは驚き、ユリの隣に立つ青年に声を掛けつつも、警戒する。
一仕事を終えて、ユリと合流し移動しようと思っていたたっちを迎えるのは、ユリと人間の親子、そして純白の馬車だけのはずだった。しかしそこに追加で、魔導国孤児院出身の冒険者の青年と、おそらく彼が乗ってきたのであろう簡素な幌馬車がそこにはあった。
何事かと警戒するたっちとは反対に、一目で好印象を抱く様な人懐っこい純粋な笑顔を青年は向けてきた。とても嬉しそうに、そしてとても誇らしそうに。
「こんにちは、騎士様!突然来てしまって、すみません!」
大きく声を張り上げ詫びる彼の隣にある馬車は、アンデッドの馬に繋がれている。たっちも一度使用したことのある魔導国営の自動循環馬車に似たそれの中では、たっちが保護した親子が背を丸めているのが見えた。
「色々と確認したいが…、ひとまず、これはどこで手に入れたんだ?」
「魔導王陛下の腹心と名乗る方よりお借りいたしました!」
「腹心…?」
首を傾げるたっちを見て、ユリがどのような人物だったか詳細を尋ねる。
「えっと…、全体的に黄色の服、黒い帽子…、それから、失礼な言い方なのかもしれませんが、顔は人でなく黒い点が三つあるだけの方でした!」
並べたてられた特徴と、決定打に、思わずたっちだけでなくセバスもユリも驚き、呆れた声を出した。
「それは……。いやはや…、いや、それよりも、君はよく彼と普通に対話したな」
「魔導王陛下に忠義を捧げられている御方ならば、見た目など瑣末なことです!」
「…そうか。まったく、ユリとペストーニャの教育は本当に素晴らしいな」
唐突に至高の御方から褒められ、ユリは謙遜しつつも自慢気に微笑んでいる。崇拝する母を褒められた子も同じく、とても嬉しそうにはにかんだ。
「こちらの親子は俺が連れて行って、いつもの国境近くの保護施設に収監します!」
それは、大変有り難い申し出であった。彼がその仕事をしてくれるならば、ユリは早くに元の仕事に復帰できる。しかし何故に、このゲームにおいてアイテム管理の担当者でしかないはずの彼がわざわざ青年に接触してこのようなことを行ったのか、という疑問を抱くたっちに向けて、青年のにこやかな言葉が続く。そしてそれは、たっちの疑問に対する答えであった。
「それから、実は伝言を頼まれているんです」
「伝言?」
「はい!えっと…、『左足の件は、これでご容赦願いたい』と、言ってました!」
その言伝に、ナザリックの者達はぎょっとする。姿は無くとも不敬なその態度に対し、それはあんまりではないかと焦りだす。しかし肝心のたっち自身は、高らかに、天を仰ぎ大笑いした。大きく笑って、一息つき、それでも笑いを零しつつ、たっちは呟く。
「…くく、まったくあの息子は、いや…、あの狂信者は、と言った方が良いか?」
笑うたっちに対してナザリックの者達は内心冷や汗をかき、何も分からない青年はきょとんとしていた。
「…全てよく解ったよ。協力に感謝する」
「あっ、いえ!魔導王陛下に協力できるだけ嬉しいです!」
何が何だか理解せずとも、しかし役立ったらしいという事実に青年はまたにっこりと笑顔になる。そうしてとても嬉しそうにしたまま青年は、馬車の中へと乗り込む。たっちが御者は要らないのかと問いかけると、アンデッドの馬は既に走るルートが規定されており、次に青年が『出発』と言えば勝手に走り始めるようになっているのだと言う。
抜かり無いことだと、またたっちは兜の下でひっそり笑う。
「…ん?」
青年を見送ろうとしたたっちは、足で軽く蹴ってしまった何かを見遣る。足元に落ちていたそれは、小さな神の像であった。神殿で見た大きな像を精度を下げミニチュア化したようなそれを、なんとなしに拾い上げ、こちらを見ていた青年に聖騎士は問いかける。
「…君は、神を信じるか?」
「ええ、目に見える神様を!」
快活なる返事をした青年の、太陽光を受け輝く深く青いその瞳を見返して、たっちは応える。
「あぁ、俺も同じだよ」
そう言ってたっち・みーは、神の像を空に放り投げ、そして、それを容易く両断した。