部屋でギターをそっと触り、ふと想う。
頭に浮かぶのはそう、今この同じ屋根の下、1階で休んでいる彼の事だ。
ただ日菜とは違う自分だけの物を求めて無我夢中に弾き続けた。
そんな時に彼と出会った。
彼は『あの天才の氷川日菜の姉』でなく一人の氷川紗夜として見てくれた。
その言葉に、その温もりに触れて私はどれだけ救われたことか。
もし、弘人さんに出会っていなければ日菜と向き合うことが出来なかっただろう。
そして彼と触れ合うことで人を好きになること、恋がこんなにも何もなかった私を変えていくことに気づけた。
あの頃の自分が今の私を見たらどんな反応をするのだろう?
失望?
怒り?
例えどんな罵声を浴びせられたとしても胸を張ってこう返すだろう。
私が彼と出会い、ここまで共に過ごした日々、紡いだこの想いは決して無駄などではないのだから―――と。
そう思いふけていると隣の部屋からドアが開く音がした。
そしてドアの音が再度聞こえた後に今度は階段をトン、トンと下っていく足音が静かな廊下に響いた。
日菜がトイレに行ったのだろう……。
そう思ってギターの手入れを始めたがしばらく経っても階段を上がってくる音が聞こえず、部屋に戻らない。
「……もしかして!」
私はギターをスタンドに戻して部屋を出る。
音をあまり立てないようそっと階段を降りて1階へ来ると
まずはトイレを確認する。
電気は消えており、日菜は居なかった。
今度はリビングのドアをガラス越しに覗いてみる。
……暗くて良く見えないけど声はしない。
ドアをそっと開け、リビングへ。
何故か高鳴る心臓を抑えながら彼の寝ている布団を見ると……。
「……ッ!!」
そこには日菜を抱きしめながら眠りにつく弘人さんの姿があった。
「んっ……!!」
怒りと悲しみ。
一瞬で両方の感情に包まれ怒声を上げそうになるが口元を手で抑えることでなんとか漏れず抑え込むことが出来た。
荒れる呼吸をゆっくりと深呼吸して落ち着かせる。
冷静に判断する事がこの場において求められているからだ。
見える範囲で2人の服装に乱れは無いからただ寝ているだけなのだろう。
まずは想定出来る最悪の自体にはなっていないようで気持ちが少し落ち着いた。
だけど、2人が起きて何かあってはいけない。
そうならないよう近くで見ている必要がある。
「これは必要な事……学生としての規律なのよ」
誰に対しての言い訳なのか小声で呟きながら日菜と反対側から
布団に入る。
目の前には弘人さんの背中。
起こしてしまうかもしれないから駄目と思いながらそっと触れてみる。
同い年、ましてや恋焦がれる異性の相手が目の前にいたら触れたいと思う。
そんな恋心が私を突き動かした。
そっと近づいて腕を軽く引いてみると彼はくるっと回り仰向けになった。
そのまま横に伸びた彼の腕に頭を乗せてみる。
……正直、とても恥ずかしいけれど!これはいいわ!!
でも、横を見ると彼の意外と可愛らしい寝顔が見れた。
部屋に充電したままスマホを置いてきて寝顔を撮れない悔しさを
胸に抱いたまま、彼を見つめながら徐々に訪れる眠気に身体を預ける。
日菜には悪いけど、彼だけは譲れないのだから。
現在 職業柄流行っている某ウイルスの対策に追われ非常に多忙な生活を送っています。
そのため更新速度が上がらず、読者の皆様に対してご迷惑お掛けしております。
それでも完走に向け少しずつ更新していきますのでこれからもよろしくお願いしますm(_ _)m