僕がアイアンマンだ 〜I am IRON MAN〜 作:アリ新タ
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「悪ぃな尾白。僕の右手がどうしてもそのフサフサを離したくなくてね」
ワープで飛ばされる時に掴んだフサフサしたものとは尾白の尻尾だったらしい。触った感じあれはカンガルーに近い尻尾だろう。名前は尾白猿夫で一見、猿のようなものかと思われるが実際はカンガルーの尻尾と酷似している。
カンガルーの尻尾は他の4本の四肢の力の合計と言われるほど発達していて、現に尻尾だけで立つ、なんて芸当はカンガルーくらいにしか出来ない。
「あの?僕の尻尾が気になる?」
「いや、なんでもないよワラルー君」
「ワラルー?」
「気にするな。それより……」
冷静にあのフサフサな尻尾について分析している暇はどうやら終わったようだ。
なんとも形容しがたいヴィランさん達がゾロゾロと僕ら二人を円状に囲むようにどこからともなく現れてきた。
「ようガキ共……お前はガキでいいのか?」
「どうでもいいだろ!それより」
「お前らに恨みはねぇが、これも仕事なんでね。ここで死んでもらうぜ!!」
ヴィランは直ぐには襲ってこず、ジワリジワリと落ちらに詰め寄ってきている。どうやら嬲ってリンチにするつもりだろう。でも、直ぐに襲ってこない分こちらは相手を十分観察することにしよう。
ヴィランの数は数十人。薄着でこの火災ゾーンでもなるべく涼しい格好をしているものが多い。
対してこちらの衣装は全身鎧。暑い。とにかく暑い。自動体温調節機能はあるが、一定以上はやっぱり温度が上がってしまう。次にスーツを改良する時はエアコンシステムを取り付けようと心の中でメモし、今度はヴィラン達の武器を確認する。
大半は刃物や、鈍器を主体に装備し、見るからに異形型の個性のヴィランは丸腰、明らかに肉弾戦が得意ですって感じだ。
粗方の観察を終えたら尾白から声がかかる。
「お、おいどうするんだ?戦うんだろう?」
「ああ、その前にジャービス。敵の顔を全員スキャンしたか?」
『終了しました。既に犯罪歴などを過去のデーターから解析しています。しかし、ネットワークが使えないので、元々私が記憶しているデータからの照合ですが』
「充分だ。それじゃあ……」
相手の解析をジャービスに任せて、こちらもそろそろ仕掛けよう。
僕は数歩前に出ると、両手を前に構える。かめはめ波じゃない。あれは両手を縦に構えるが僕の場合は横に構える。
次にマシン・ギアを発動し、両手を合体させその中心に大きな大砲の筒のようなものを作る。
相手が後手に廻ってくれてラッキーだった。先手で最大火力を出せる。
「尾白!特別だ。この
リパルサー・ギアの最大火力。
ピストル・レイは標準的な火力。ショット・レイは近距離での特大火力。そしてこれが今、僕が出せる最大の火力。
マシン・ギアとリパルサー・ギアを併合して使う、言ってしまうと必殺技だ。
「バズーカー・レイ!!」
青い閃光が走る。
その威力は戦闘訓練での爆豪の篭手に溜めた爆発の火力並のパワーを出せる。
僕らを囲んでいたヴィランで1番人数の多かった箇所を向かって放ったバズーカー・レイは数十人をまとめて吹き飛ばすほどの威力だった。
「クソっ!あいつ強ぇゾ!」
「こうなったら集団で飛びかかれ!前のやつを盾にしてでもアイツを殺せ!」
どうやらじわじわとやる集団リンチから肉壁によるリンチにシフトチェンジしたようだ。
「尾白近ずいてくるやつは頼んだぞ!」
そう伝えると合体していた両手を切り離し、両手を広げる。
次の技は特別に行った実技試験の時に使った技。ピストル・レイよりも一発の威力は落ちるがその分、殲滅力に特化したリパルサー・ギア。
「マシンガン・レイ!!」
両手から無数のエネルギーの弾が豪雨の如くヴィラン達に襲いかかる。
相手がかなり時間を作ってくれたおかげでこちらもエネルギーを体中に供給することが出来た。これで溜め時間を減らせて連射できる。
「怯むな!」
ヴィラン達を率先して指示を出すやつを適格に狙う。これで相手の連携が即座に乱れ、混乱を呼ぶ。
「このクソッタレが!!」
しかし、それでも相手は肉壁による特攻を選択したのだ。光弾の雨を掻い潜って来たヴィランが僕に襲いかかる。
でも、たかが安っぽい刃物じゃこの体に傷は付けられないがそれでも衝撃は来るだろう。
それに身を構えていると、
「ふん!」
巨大な尻尾がそのヴィランを吹き飛ばす。
どうやら僕の指示通り動いてくれたようだ。ワラルーと表現したのは後で謝ろう。
「近づくやつは僕が倒す!愛杏はそのレーザーを撃ちまくってくれ!」
尾白猿夫。
状況判断が早くてなかなか評価できる奴だ。普通のやつなら殺そうとしてくる相手にビクついて混乱するだろう。ここまで動けるのは大した精神力と行動力だ。
「さっきはゴメンな!カンガルー君!!」
「えっ!?今度はカンガルー?」
「気にするな。次のやつが来るぞ」
その後も特に危なげなく、ものの数分で周りのヴィランを制圧できた。
§§§
「こんなに強ぇなんて………」
最後まで意識があったタフネスのあるヴィランも何発もマシンガン・レイを食らってはさすがにぶっ倒れてしまった。
そのヴィランを最後にここにいるヴィラン達は全員気絶したことをジャービスが伝えてくれた。
「はぁ。助かったな。それよりこれからどうする?」
一緒に戦ってくれた尾白もなかなか活躍してくれた。
「とりあえず逃げるぞ。その前にジャービス。こいつらの解析は終わったか?」
『はい。ここにいる彼らの犯罪歴は特に目立ったものはありません。一番罪の重い犯罪者でもせいぜい窃盗くらいです』
「つまりただのチンピラか……本当に殺す気あったのか?」
『寄せ集めの者達でしょう。現に武器である刃物も真新しいものが多いので今回のために購入したものが多いようです。まるで初めて殺人をしようとする者達のような行動です』
「手馴れた殺人者なら手入れが施された武器などを使うはずか。寄せ集めのヴィランもどきとは舐められたもんだな」
大人と子供では力に差がある。しかし両者とも刃物を持てばその力関係の差は一気になくなってしまう。
この超人社会でたかだかチンピラ程度に殺人を任せるとはかなり浅はかな奴らだ。
しかし、相手の中にもヤバそうなやつはいた。
全身に手を付けた気味悪い奴や、脳がむき出しの奴。あの黒い霧のヴィランも手強そうだ。早く出口に向かって移動した方が良さそうだな。
電話が通じないということはまだ電波系の個性のヴィランも見つかってないようだし。
「愛杏。さっきから誰と話してるんだ?」
「Siriだよ。それより
『メタル様。緊急事態です』
今から尾白を背負って出口に向かおうとしたその時、ジャービスからの声が届く。
『発信機をつけた上鳴に電波ジャックしていると思われるヴィランが接触。会話の内容から、上鳴は拘束され一緒に居合わせた八百万、耳郎の二名も身動きが取れない状態です』
「尾白!お前は出口に向かって広場を避けながら移動しろ」
「移動って、愛杏はどうするんだ?」
「ちょっと用事が出来た!」
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〈三人称視点〉
「手ぇ上げろ」
顔に異様なマスクを付けたヴィランが八百万と耳郎に言う。
八百万が電気をさえぎる特殊なシートを作り、上鳴の個性で一掃したところまでは良かった。
しかし、このヴィランは土の中にずっと隠れていたのだ。そもそもこのヴィランの役目は電波妨害。そのために死柄木弔という奴に高い金で雇われた唯一のヴィランだ。他の有象無象とは違う。本物のヴィラン。実際に彼は殺人などの重犯罪を多数行なってきた、言わばベテランヴィランだった。
「同じ電気系の個性の好で殺したくなかったが……しょうがないよな?」
そのヴィランの手から電気を放ちながら八百万と耳郎ににじり寄る。決して油断はしない。2人の個性はずっと地中から戦闘を聞いていたので軽く把握していたのだ。
あの八百万とかいう女が何かを作る素振りをしたらこいつを殺す。あの耳郎とかいう女の耳が少しでも動いたら殺す。
「ねぇ。上鳴もそうだけどさ、電気系の個性って生まれながらの勝ち組だよね?」
「あん?」
耳郎はそこでヴィランに話しかける。
もちろんこれは時間稼ぎであり、彼女は己の耳たぶのイヤホンジャックを背で隠しながら足に装備してあるプラグに刺そうとする。これさえ出来ればノーモーションで攻撃できるので上鳴には多少危害が出るが死には死にはしないだろう。
実際これが彼女たちにできる最大限の抵抗であった。しかし、これがチンピラ相手なら通用していただろうが、相手はベテランだった。
「純粋な疑問だよ。電波系ならヒーローじゃなくても働き先はいくらでもあるでしょ?なんでヴィランなんかやってんのかなぁって」
「やめろ。気づかないとでも思ったのか?」
作戦は既に気づかれていた。
直ぐに耳郎は耳たぶのイヤホンジャックを引っ込める。あと数センチで届いていたが、ヴィランに隙は無い。
「子供の浅知恵なんて馬鹿な大人にしか通じないぞ?」
そう言うとまたヴィランは歩みを再開する。既に絶体絶命。彼女たちに残された選択肢はもうじっと殺されるのを待つのみだった。
「さぁ。動くなよ?」
そのヴィランの目に明確な殺意が灯る。
今までと同じ、自分の殺人歴に三人追加だなと考えており、その心に戸惑いはなかった。
そして手に電気を溜めて攻撃しようとしたその瞬間。空から赤い全身鎧をまとったものが現れる。
「ん?なんだ?……カハッ!」
ヴィランも異変に気づいた時には時すでに遅し、赤い鎧の肘打ちが、ヴィランの顔面に攻撃されて、上鳴を手放してしまった。
そして赤い鎧は上鳴を空中でキャッチし、右拳を地面に付けて着地する。「ヒーロー着地」と言うらしい。
「ようエレキボーイ。生きてるか?」
「うぇ、ウェイ?」
まだアホ状態の上鳴は助けてくれたものの姿を見る。
それは赤と金の配色をしており、スーツ越しだからなのだろうか地声が機械音のようなものになっている。
妙に自信満々で上機嫌の時に誰かを呼ぶ時、軽いあだ名を付けるその男。
まだ短い時間しか付き合いのないクラスメイトの三人でも彼が誰なのかはすぐにわかるだろう。
「「愛杏(さん)!!」」
そう言われた赤い鎧の男。愛杏・S・メタルだった。
ワープで飛ばされる前に上鳴に着けた発信機を頼りにこの山岳ゾーンまで飛んできたのだ。
ヒーロー着地状態から立ち上がると、メタルは上鳴を下ろす。その時に付けていた小指の発信機もちゃんと回収しておく。
「糞ガキが!!ぶち殺してやる!!」
メタルにぶっ飛ばされたヴィランはその仮面で威力を軽減させ、気絶するまでには至らなかったようだ。
しかし、その異様な仮面は砕かれ、その素顔が表れる。
「ひどい顔だな。それなら仮面をつけるのもわかるよ」
「チッ!こいついつの間に!!」
次の瞬間にはメタルはマシン・ギアでヴィランの元に接近していた。そしてその腕でヴィランの首を掴み、片手で持ち上げた。
「コノヤロゥ!!離せ糞が!」
「不味いですわ!そいつの個性は」
「ふん!バカが!!」
しかし次の瞬間、ヴィランは掴まれている腕を逆に両手で掴み、大量の電気を流した
「死ねぇぇぇぇ!!」
腐ってもベテランヴィラン。
そいういときでもそいつはしぶとかった。大量の電気を浴びせられたメタルの体からシュウという湯気が出ている。
しかし、
「な、なんで離さねぇんだこいつ!!死んでねぇのか!!」
その攻撃はメタルにはなんの意味もなかった。むしろ掴んでいる手に力を込めてさらに持ち上げる。
「お前の個性は電波を妨害するなどのいわゆる「操作」に長けた力だ。でもそのせいで電圧はそんなに出なかったようだな。せいぜい1万ボルト以下、生身の人間ならともかくパワードスーツを着た僕じゃ殺せないよ」
個性というのにもパワーバランスというのがある。電波という微細なコントロールを要する力。もちろん操作もいるだろう。しかし、己自身で電気を発するには限界があることを既にジャービスが感知していた。
威力を出すには上鳴のような帯電のような力で、彼の最大火力である130万ボルトならメタルにダメージは入っていただろうが、このヴィランにそれほどの力はなかったのだ。そしてスーツの機能で金属ながら、軽く電気が通らないような作りにしていた。
それでメタルは迷いなくヴィランを片手で掴んだのだ。
「さて、どうするか……ジャービス。こいつについて調べろ」
『はい。このヴィランは本名、
「重犯罪?」
『はい……放火や強盗そして
「………」
『………ん?メタル様?』
「………誘拐と殺人だと?」
『はい。誘拐13名。内5名を殺人した経歴があります』
「………へぇ」
メタルの脳裏に5年前の悲劇が蘇ってしまった。
その目にヴィランに対しての殺意を募らせながら……。
……To be continued
ワラルーは、カンガルーの一回り小さい動物です。