CookieClicker   作:natsuki

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【008】

 

 次に私が目を覚ましたのは、掃き溜めでした。いや、文字通り、ではなくそういう名前の部屋がこのビルにはあるのです。どうやら私は食い潰されたあと、廃棄物として掃き溜めに放り捨てられたのでしょうね。しかし、よかった。焼却処分でもされていたら、この世界で生き返ることは絶対に不可能でしたから。

 ゴミ臭いのをどうにかしたかったのですが、あいにく時間がありません。一先ずどうやってここから脱出するのか考えなくてはなりません。この掃き溜めにすてられるのは、少なくとも初めてではないのですが、さすがにあそこまでグロテスクな経験をしたことはありませんね。カニバリズムというのですか、そういうものを経験するというのは無いと思うので貴重な経験として受け取っておくことにします。

 

「……さて、と」

 

 そんな独り語りはおいておくとして、出口を探すことにしました。出口と呼べる扉はあいにく階段の上という解りやすい構造となっていました。ここからゴミを排出したりするのでしょうね。楽チン設計ですね。

 扉は観音開きになっていまして、そこを通ることができれば外に出られるのですが、扉の鍵はかかっている様子でした。これは困りました。鍵がかかっていたら、外に出るのは鍵がないと出来ませんから。

 

「ですが……そういう物を探す時間というのも、正直存在しませんから、ここはちゃちゃっと探してしまわねばなりませんね」

 

 そう呟くと、私は鍵穴に指を通します。

 普通ならば、これで鍵は開くわけがないです。

 そう、普通ならば。

 にゅるん、と。

 私の指はスライムのように変形していき、それは鍵穴の大きさと一致しました。そして、あとは右に捻れば――。

 かちゃん。

 鍵が開いたのを確認して、私は指を引き抜き、扉を開けます。扉を開けてもなお、鬱屈とした雰囲気が部屋に篭っていました。ここは地下室のようです。

 さてと。

 私は今、よく考えれば先ほどの戦いで上半身が裸だったのを思い出しました。なら下半身は大丈夫かと言えばそうでもなく、下半身は血にまみれ、それが固まっていました。鉄の香りがするのもこのせいでしょう。野生の獣が私を食べに来てもおかしくはありません。

 え? どうして、心臓を食われたのに生きているのか、って?

 そんな質問は野暮ですから、答えないでおきます。女は秘密を持つ生き物です……そうでしょう?

 まあ、そんな愚問は置いておいて、私は水場を探します。どうにか、出来ることなら蛇口というものがないでしょうか、と探してみましたが、うまい感じには見つかりませんでした。

 仕方ないのでこのまま行くことにします。臓器はなんとか復活しているようですね。うん、ならば問題ありません。

 そう私は手を叩き、地下室を後にするのでした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 地下室を抜けてもなお、人目は気にしなくてはなりません。

 先ほどのことが漏れているのであれば、この工場にいるグランマは私を見て驚くはずです。そして、今度こそ殺すはずです。それだけは避けなくてはなりません。これ以上の面倒は出来ることなら引き起こして欲しくないのです。

 そう呟くと、目の前に部屋が見えてきました。一層大きな扉には、こうプレートが書いてありました。

 工場長室、と。

 それを見て、私は思い切りその扉を開けました。

 

 

 

【014】

 

 

「いやいや、待てよ。お前、どうして臓器食われて生きているんだよ。そもそも、そこからがおかしいだろうが」

「それは別に問題ないんですよ。私のシステム上」

「システムって。オペレーティングシステムじゃあるまいし」

「どちらかと言うと、アーティフィシャルインテリジェンスですかね?」

「アーティフィシャル……なんだって?」

「ああ、まあいいや。とりあえず続きを話しますね」

 

 

 

 

【011】

 

 部屋に入ると、そこに居たのはピエロと社長とスーツ男と対象でした。うん、どうやらまたこのパターンに突入したようでした。

 

「……何者だ」

 

 工場長は記憶を引き継いでいない。これまでに私が得た知識です。

 

「また君か……」

 

 ため息をついた社長。彼は記憶を引き継いでいる。右手にはボタンが握られていますから、あれに秘密があるわけです。

 スーツ男と対象は眠りこけているようにも見えますが、正直なところこの状態になってしまえば、私はもう用済みといっても過言ではないでしょう。私はこの状態にならないために居るのですから……。

 

「遅かったね。君の目的は『また』果たされなかったよ」

 

 社長がニヒルな笑みで微笑んできます。もう見飽きたその光景を、わたしは愛想笑いで返します。

 

「いい加減諦めた方がいいんじゃないかな? 僕もだいぶ疲れてきているしね。この世界だけが君の生きていられる範囲というのは、僕も君も変わらない。彼だけが、別の世界でも生きていける人間で、それを助けようとする……その意味が僕には解らない。なぜだ? 教えては、くれないのかな?」

 

 教える義理など、ありません。

 私はそう考えると、黙りを決め込むことにしました。

 

「……見た感じだとボロボロで、一度死にかけたような感じにも思えるが、それでも救いたいのかね?」

「この世界に閉じ込めておけるような存在ではないことも、あなたなら知っているでしょう」

「そんな存在な訳が無かろう。それを決めるのは誰だと言うんだ? 僕か? 君か? 世界か? 誰でもないはずだよ」

「だからといって、あなたが彼をこの世界に閉じ込めていられる理由にはならない」

「そうか。……ならば、死んでもらおう」

 

 そう言ったのはいいですが、そのセリフが最早形式化しているのを私は知っています。気が済むまでやられておいて、彼が気を楽にするまで続けます。これが終わったら私は対象を探すのを再開するのです。やつのために腰を振ったことすらもあります。全く、思い出したくもない話しですが。

 彼がそう言ってすぐ、私の視界が半分消し飛びました。正確に言えば、真っ赤になりました。おそらくは、右目を吹き飛ばしたのでしょう。

 次に、奴は近づき、どこからか取り出したサーベルで私の手のひらを突き刺しました。二本突き刺しました。左と右です。まったく見事に。

 痛みすらも感じませんでしたが、彼は自分が楽しければ最早どうでもいいようでした。次に彼はむき出しの私の胸を揉み始めました。正直な話、性的快感もクソもないのですが、適当に喘いでおくに越したことはありません。彼はこれで、私が堕ちたと思っているようですから。

 彼はニヤニヤと笑っています。私が堕落したとでも思っているのでしょう。阿呆らしいのですが、そんなことは有り得ません。今も冷静にこの状況を実況しているのがいい証拠です。

 下半身にあった服を取り除き、最早私の身体を隠すものが何もなくなって、ああそろそろ事に及ぶのだなと思ったので、もう実況をするなら糞を食べたほうがマシとも思えてきたので、ここまでで打ち止めということにしましょう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ――ふと、見たときに彼は顔が綻んでいた。私が完全に堕ちたとでも思っているのだろう。肌に白濁液が飛び散っていた。溢れているのもあった。

 満足げに彼が出て行くと、ついで工場長が大グランマに近づいて、

 

「この女を焼却炉に捨てておけ」

 

 とだけ言った。燃えてしまうのもいいかもしれない。あのやつの男臭い匂いに焼かれて死ぬのも、案外いいのかもしれない。また、戻れば良いのだから。

 大グランマが別のグランマに命じて、私を持ち上げていく。地下室にある焼却炉へと私は連れ込まれた。

 轟轟と燃え盛る炎が、とても綺麗だった。私は、先程の姿のまま、ここまで来た。

 炎はとても綺麗だ。私は何度もこの焼却炉に放り投げられたパターンにおいて、そうも思えるようになってきた。

 そして、祈る暇も与えられず、私は炎の中に放り込まれた。

 全身が熱い。肌が蕩けていく。臓器も少しずつ溶けていく。ゆっくりと目を開けると、どろりと音がした。目玉が溶けてしまったのだ。髪も燃え、肌が溶け、骨が見え――。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 グランマは暫くして焼却炉にスコップを突っ込む。中から出てきたのは、小さい骨だった。人体の姿が骨としてそのまま残っていた。

 それを凡て取り出すと、グランマは思い切りスコップを振り翳し、骨を砕き始めた。十回もしていけば、骨はそれが人の骨だとは解らないほどの白い粉へと変化した。

 それをニコニコと笑って、グランマは袋につめる。

 それを何処へ持っていくのかは、グランマにしか解らない。

 


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