CookieClicker   作:natsuki

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【015】

 

「それが、私です」

 

 少女の言葉を聞いてもなお、ルークは訳が分からなかった。いや、これで理解できたのなら、それはすごい人間だと思われる。

 

「いや……どういうことなのか、さっぱり解らないんだが」

 

 ルークが訊ねると、少女は首を傾げる。

 

「いったい、どこがでしょうか?」

「全部だよ! 色々諸々考えてみてみろ。おかしな点だらけだろ、さっきの話は。それを簡単に信じる人もそう居ないだろうよ」

「そうですかねえ」

 

 少女はルークに言われたことを解っているのか解っていないのかは定かではなかったが、彼女が普通の人間ではないことは――ルークにも理解できた。

 

「ともかく、俺にどうしろと言うんだ?」

「先ずは記憶を取り戻してもらいたいものですね、特に前回のループ分の記憶は」

「前回と言われても、俺は生まれてからの記憶……つまり、一回分の記憶しか持ってないぞ」

「いやあ、ほんと其の辺は問題ですよね」

「お前が言うな」

 

 ルークと少女は、茶番を繰り広げていたが、少女は小さく微笑むと、彼女はポケットから何かを取り出した。

 それは、黄金に輝いたクッキーだった。

 少女は呟く。

 

「これは、ゴールデンクッキー。世間に出回ることのない、珍しいクッキーよ。このクッキーが生まれる過程を……あなたは知っているかしら?」

「ゴールデンクッキーなんて……都市伝説じゃないのか」

 

 ルークは目の前にある事実を受け入れることができない。

 しかし、今目の前にあるこれは、真実であり、事実だ。それは間違いのないことである。

 

「ゴールデンクッキー……若しくは、内部の人間に言わせれば、これは『失敗作』だと言われています。錬金術でクッキーを作っているという噂を、聞いたことは?」

「学生の間では都市伝説は、話題になりやすいからな。そういうのは、よく知っている」

「ならば、よろしい。これは真実なのですが、時偶クッキーの錬金術を失敗してしまうケースがあります。その際、金が混じってしまい……」

「そのような、黄金のクッキーが生まれてしまう……と?」

 

 少女はその言葉にちいさく頷く。

 

「でも、普通に考えてみればおかしな話だとは思わない? 金がある。実物資産がある。にも関わらず、それをクッキーに変える。……普通に考えてみると、あべこべな感じがするのよ。確かに、かつて様々な問題があって、金本位制が終わり、さらに貨幣をも消滅した。そんな世の中になった理由は、金が流出し過ぎたから。それ以外にほかならない。にも関わらず……この世界は、金をクッキーに変えている。このことについて……違和感は?」

 

 ルークは自分でも解らなかった。

 金からクッキーを作る――そんなオカルトじみたことが出来るわけもない。

 しかし、現に出来ている。常識から外れているのだ。

 その晴れた笑顔を見て、ルークの表情は歪んでいた。

 

「……この話は、いつ終わるかもわかりません。ですが、終わらせるのは、あなただけしかいないのです。あなたしか、この物語を閉じることが出来ない」

「……どういうことだ? 君は、いったい……」

「私は、イヴ」

 

 イヴは立ち上がり――、小さく息を吸った。

 

「電脳世界『クッキークリッカー』の管理AIで、紛れ込んでしまったあなたを救うための存在です」

 

 イヴはそう言うと、また、微笑んだ。その笑顔は太陽のように、眩しかった。

 

 

 

【Intermission】

 

 西暦二〇一三年、東京。

 電脳世界という概念がうまれてから、早五年が経過していた。人々は、電脳世界で生きることに慣れてしまっていた。

 人間の脳は電気信号によって成立している。これを、コンピュータに移し替えることで、人々は電脳世界へと行くことができ、老いず朽ちぬ身体を手に入れた。

 しかし、まだまだ問題が山積みだった。

 例えば、脳の年齢。

 例え、その電脳世界の肉体が永久に生き続けたとしても、そのベースとなる脳が死んでしまえば、それは意味を成さない。

 だから、研究者たちは次の段階へと取り組み始めた。

 それが、脳の電子化――である。

 シナプスを人工的に生成し、巨大データバンク内に脳を創りだす。

 その計画はなんとも壮大であって、なんとも欺瞞だった。

『そんなことなど、現在の科学技術で出来るはずがない』と、言う人もいた。

 至極、普通だろう。

 確かに――そんなことが、出来るわけがない。

 

 

 西暦二〇一五年。

 オールストーク・リンドンバーグ博士が、脳の電子化に成功し、被験者を募る。

 それから選ばれたメンバーは、六十五名。

 しかし、実験開始直後に問題が発生した。六十五名全員の『魂の情報』が外部に流出してしまったのだ。ネットの海は途方もない広さで、どこへ流出してしまったのかもさっぱり解っていない。

 

『――そういうわけで、あの事件からもう十年という月日が経っているのですね』

 

 東京の何処か、ホテルの一室にある液晶テレビから、ニュースキャスターの声が聞こえる。

 

『あれから十年。あの恐ろしい事件を迎えてから、インターネットは氷河期へと突入しました。情報系の学部・学校は閉鎖の事態にあい、様々なベンチャー企業が閉鎖または統合を繰り返しました。主なメディアはテレビやラジオへと転換され、インターネットはアンダーグラウンド的コンテンツへと再帰したと言えます』

 

 白いヒゲを蓄えたコメンテーターが嗄れた声で(最早何を言っているのか、聞き取りづらい)そう言った。

 

『しかし……どうして、あのような事件が起きたのでしょうか』

『犯人は一応捕まっていますでしょう。ウイルスをばら撒いて、情報を手に入れた、と。しかし、彼のパソコンからは情報は見つからなかった――そうなのです。そう語られていますし、供述もそのようなことでした』

『ですが、彼は犯人でしたよね。その証拠というのは?』

『今はもう、犯人が刑務所で自殺したために、真実は最早憶測に過ぎませんが……技術を見せつけるためにしたのではないでしょうか? 現に、それらしきコードは見つかっていましたし、「魂の情報」が盗まれた研究所からも同様のウイルスが見つかっています』

『それで、彼が犯人として、警察は逮捕した……ということですか。なるほど、ありがとうございます。それでは次は来週の天気予報ですが、その前に臨時ニュースです。岡田総理大臣が辞任の意向を表明しました。予算案で国債を大量発行した影響でスタグフレーションが発生した責任を取る、とのことです――』

 

 そうして、次のニュースへと移っていった。

 どうしてか、コメンテーターもニュースキャスターも薄気味悪い笑顔を浮かべていた。

 


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