日本国召喚・異聞録   作:無虚無虚

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第13話『ハイブリッド・フロント』

 再び時間を遡る。

 グラ・バルカス航空隊・第二次攻撃隊は、全機が雷撃機の様に海面すれすれを飛行(シースキミング)していた。第一次攻撃隊は低空を飛んでいなかった戦闘機と爆撃機が、真っ先に全滅した。

 敵もレーダーを持っているらしい。身を隠す物がない海上では、海面で反射するレーダー波のノイズに紛れるしかない。

 それでも危険だ。信じられない話だが、敵は自分たちより高性能な、ルックダウン可能なレーダーを載せた観測機を飛ばして、周辺を警戒しているらしい──

 航空隊長は、先行する偵察機からの発光信号に気づく。傍受されることを恐れて、無線通信を封鎖していた。光の点滅をモールス符号に似た符号(コード)で、頭の中でメッセージに置き換える。

『テキジョウクウニカイテンヨクキナシ』

 同じメッセージを三回送信した後、偵察機は減速して本体の後方に下がる。

 今度は隊長機が機体をバンクさせて、攻撃隊全機にメッセージを送る。

『Aハツドウ』

 隊長機のサインを見て、編隊が動く。〈アンタレス〉艦上戦闘機の編隊が分離する。〈シリウス〉爆撃機と〈リゲル〉雷撃機はシースキミングを続ける。

 だが悲しいかな、現在稼働しているカルトアルパス海軍基地対空監視部のレーダーは、電波ではなく魔力を使った装置だった。

 

〈ひゅうが〉のCICに魔信で座標が伝えられる。

『敵は編隊を分離。1個がカルトアルパスへ、これをアルファと称する。もう1個が〈グレードアトラスター〉に向かいつつあり、これをベータと称する』

「戦闘機を〈グレードアトラスター〉の直掩に回す気か」

 空戦は分からないと言いつつも、鮫島は分析してみる。

『その可能性は大と思われる。アルファは時速300キロ以下、ベータは時速500キロで移動中』

「間違いないでしょう。ベータは戦闘機です。グラ・バルカスの爆撃機や雷撃機で、その速度は出せません」

 艦隊参謀も首肯する。

 鮫島は慎重になる。「任せた」発言をしたものの、やはり司令としての責任感が働く。

「アルファは掃討戦闘機(ファイター・スイープ)の可能性は?」

「ないとは言い切れませんが、それなら分隊する理由が説明できません。戦力集中の原則は、空戦でも生きています」

 鮫島は素直に艦隊参謀の言葉を受け入れる。

「我々の目的はカルトアルパスの防衛だ。アルファを掃討する。風竜騎士団長殿、よろしいですな?」

『ウム、よかろう。だが戦闘機抜きでは、風竜騎士団だけで片がつくやもしれんな』

 ウージの言葉に危機感を覚えた鮫島は、釘を刺すことにした。

「相手は超低空飛行をしています。地上への損害を抑えるためにも、なるべく上空へ誘き出してください」

 カルトアルパス基地も、鮫島と同様の要請をする。

『分かっておる』

 ウージはそう答えたし、部下にも伝えたが、徹底はされなかったようだ。

 

〈シリウス〉爆撃機と〈リゲル〉雷撃機は、カルトアルパスを目指す。

 日本艦隊を相手に急降下爆撃は自殺行為だと分かった今、〈シリウス〉爆撃機も不得意な低空飛行を強いられる。

 それに比べると〈リゲル〉雷撃機は、普段より身軽だ。800キロ魚雷ではなく2発の250キロ爆弾を積んでいるからだ。だが空戦ができるわけではない。

 敵の航空戦力は〈グレードアトラスター〉に惹きつけられている。カルトアルパス上空は(から)の筈だが、それでも護衛なしで敵地上空への侵攻は無謀だ。

 艦隊司令部は航空隊を〈グレードアトラスター〉の身代わりとして差し出す決定をした。パイロットたちは不本意だが、カルトアルパスを目指す。カルトアルパスの市街地に爆弾を落とす。それが彼らが受けた命令だ。爆弾を落したらUターンだ。それ以上の義理はない。〈グレードアトラスター〉が助かるかどうかは、彼らの知ったことではない。他人の心配より自分の心配が先に立つ。それを誰が責められよう?

〈シリウス〉爆撃機隊を率いるスバウルは、自分が第一次攻撃隊に選ばれなかったときは、悔しかった。だが第二次攻撃隊に選ばれた今は、やはり悔しかった。これからは航空機の時代だ。なぜ時代後れの戦艦のために、自分と部下の命を差し出さなければならないのか? しかも超低空飛行を命じられた。第一次攻撃隊が全滅したのは知っている。唯一肉薄できたのが〈リゲル〉雷撃機だったのも知っている。だからといって、急降下爆撃機乗りの自分が、雷撃機の真似をなぜしなければならないのか? なんなら10000メートルからの急降下爆撃だって、やってみせるのに。蛮族は無人機を体当たりさせてきたそうだが、不意を突かれたとはいえ、そんな物にやられる方が悪い。自分ならかわせる。当たらなければ、どうということはない。

 日本人が知ったら、「おまえは赤い彗星(ナルシスト)か」とツッコミが入りそうな態度だが、実際、彼は先住民を蛮族(オールドタイプ)とみなしていた。当時のグラ・バルカス帝国の状況を考えれば、やむを得ない部分もあるが、だからといって完全に正当化できるわけでもない。

 そしてスバウルは、真の人類の革新(ニュータイプ)を知ることになる……とは行かなかった。彼が最初に知ったのは、異世界の驚異と脅威だった。

 間もなく市街地上空に入ろうというタイミングで、スバウルは敵を発見した。

「無線封鎖解除。敵ワイバーンを前方に発見」

 無線でそう警告を出しながらも、スバウルは違和感に気づいた。

「訂正、ワイバーンじゃない。もっと大きくて速い!」

 不意にその姿が歪む。何かが起きている、直感的にそう悟ったスバウルは、すかさず命令を出す。

「回避、回避!」

〈シリウス〉たちは爆弾を捨てて、回避運動に移行する。爆撃目標は先進11ヵ国会議の議場だったが、投棄したのは市街地上空だから、一応カルトアルパスを爆撃したことにはなる。これは現場の判断だ。最低限の命令は達成した。後は逃げるだけだ。

 それでも何機かは、透明な圧縮空気の弾を食らって爆散した。

『なんだ今のは?』

 混乱する〈シリウス〉隊の上空を、風竜たちが通過する。体躯はワイバーンの3倍、速度は〈アンタレス〉よりやや遅い時速500キロ。初めて目にする風竜に、〈シリウス〉のパイロットたちは度肝を抜かれる。

『ワイバーンじゃないぞ!』

『〈アンタレス〉よりでかいし、速さも近い!』

『気をつけろ、敵の弾は透明だぞ!』

 様々な情報が無線で飛び交う。その中でスバウルは閃く。

「あれがエモール王国の風竜とかいう奴だ。敵の狙いは〈リゲル〉隊だ。〈リゲル〉隊を援護するぞ。我に続け!」

 部下のパイロットたちは最初は驚いたが、スバウル機の進路を見て納得する。自分たちは味方を援護をするんだ。逃げるわけじゃない。

〈シリウス〉隊は練度の高さを発揮して、すぐに編隊を組み直して風竜の後を追いかける。追いつけないことも、結果的にカルトアルパスから遠ざかることも承知の上で。

 

〈ひゅうが〉の魔信から通信が流れる。

『日本艦隊応答せよ! こちらミリシアル地方艦隊司令、我全滅の危機にあり。支援を乞う!』

 鮫島は無表情で魔信のプレストークスイッチを押す。

「カルトアルパスを空襲せんとする敵航空艦隊と交戦中。我に余剰戦力なし」

 そして無表情のまま、プレストークスイッチから指を離す。

「司令、よろしかったのですか?」

 艦隊参謀の問いかけに、鮫島は無表情のまま答える。

「すでに決めていたことだ」

 それ以上、この通信を話題にする者はいなかった。

 

『本当に我らだけで勝てそうだな』

『最初からこうすれば良かったのでは?』

 部下たちの魔信での会話を聴きながら、ウージは困ったと思った。実はウージも、「最初からこうすれば良かった」と思ったのだが、モーリアウルから日本の誘導魔光弾の性能を探れと命じられた以上、自分たちだけで敵を全滅させるわけには行かなくなった。

「次の敵は上空へ誘き出すぞ」

 規律訓練された竜騎士たちは黙って騎士団長の言葉を聞く。だが無言の不満をウージは聞き取った。

「敵の更に下に回り込んで、下から突き上げて上に押し上げる」

 無言のブーイングをしながらも、竜騎士たちは従った。彼らは風竜の翼が建物の屋上を掠めるのではないかと思うほど、高度を下げた。カルトアルパスの市民たちが驚く様子が、彼ら竜騎士の溜飲をやや下げるのに役立った。

 

〈リゲル〉隊は無線で、〈シリウス〉隊が風竜に襲われて損害を出したこと、その風竜が自分たちに向かっていることを先に承知していた。もともと不本意な作戦なので、彼らはさっさと爆弾を海上で投棄して、逃げ支度を始めていた。

 そこへ二手に分かれた風竜の一隊が襲いかかる。彼らは〈F-2〉ライダーも顔負けのシースキミングで接近する。このとき〈リゲル〉隊は、既に爆弾の投棄と方向転換を済ませていた。風竜に気づいた〈リゲル〉の機銃手は、旋回機銃を使って風竜を追い払おうとする。だがハリアーのVIFF(ヴィフ)も真っ青の機動が可能な風竜には通じない。なにしろ風竜の翼は、本当の可変翼なのだ。

 さらに速度差を生かして、前に回り込んだもう一隊が襲いかかる。両隊とも左右に拡がって半包囲を試みるかのような陣形を敷いていた。

 その結果、〈リゲル〉隊は唯一の逃げ口、上へ向かい始めた。

 

「レーダーに感! 高度300、機数21。ただし敵味方識別不能」

〈ひゅうが〉のCICとFICに報告が響く。鮫島は魔信のプレストークスイッチを押す。

「カルトアルパス基地、高度300の機影21を捉えた。敵味方の識別はできるか?」

 ちょっと間が空いて、返事が返ってきた。

『お訊ねの機影は敵だ。魔力反応の大きさで区別できるだろう?』

 日パ戦争の資料で、魔力反応のレーダーが存在することは知っていたが、神聖ミリシアル帝国もそれを使っていることが確認できた。

「貴重な助言に感謝する」

 鮫島は二重の意味でそう返事をすると、プレストークスイッチから指を離して命じた。

「中SAM撃ち方始め!」

 X-OSが自動的に攻撃目標を〈あたご〉と〈きりしま〉に割り振り、イージスシステムに〈SM-2〉発射を命じる。それに応じて2隻のVLSが開口し、〈SM-2〉が打ち上げられる。

 

 次々と〈SM-2〉の餌食になる〈リゲル〉雷撃機たちを見ながら、ウージは相棒に訊ねる。

「おまえならアレを避けられるか?」

『条件次第だな。初期条件をどう設定するかで、結果は変わる。だが我でも避けられない条件は確実に存在する。敵がアレを持っているとしたら、確実に避けられない条件のときに使うだろう』

「アレに気づいたときは、既に墜とされたとき、というわけか」

『そういうことだ』

「そうすると重要なのは『アレがどの程度の追尾能力を持っているか』だな」

『その通りだ。だがそれをこの戦いで暴くのは無理だろう。残りの敵は既に逃走している』

 ウージはその言葉に納得し、深追いをしなかった。

 

 こうして『カルトアルパス空襲』は終了した。

 カルトアルパスの被害は小さくなかったが、市街地の中心は爆撃を免れた。ただ、被害の2割程度は風竜の圧縮空気弾の流れ弾によるものだった。その事実はカルトアルパス市民の感情に、少々ささくれを作ってしまった。

 だが空戦はまだ終わっていない。

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