日本国召喚・異聞録   作:無虚無虚

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第15話『全兵器使用自由』

 グラ・バルカス艦隊に〈アンタレス〉隊が戻ってきた。

 戻ってきた〈アンタレス〉は4機。最初はワイバーンを相手に一方的に無双をしていたが、風竜が乱入してから歯車が狂いだした。

 〈アンタレス〉隊は風竜に対しても一撃離脱戦法を試みたが、風竜とは最高速度にあまり差がないうえ、ワイバーンとは比較にならない運動性能を風竜は備えていた。

 相手の後ろに回り込んでも、(彼らは知らないが)ハリアーのVIFF(ヴィフ)のように急減速しながら上昇されて相手を追い越してしまったり、逆に〈アンタレス〉では不可能な急降下で引き離されたりした。

 だが水平(シザース)機動で対抗しようとしても、風竜の方が旋回半径が小さいので、敵の前に飛び出(オーバーシュート)してしまう。

 そして後ろを取られたら、導力火炎弾とは比較にならない高速の圧縮空気弾が飛んでくる。亜音速の圧縮空気弾は機銃弾と比べれば速度は遅いが、破壊力は20ミリ機銃弾を上回る。どこに当たっても確実に墜とされる。

 元々やる気の無い任務だ。グラ・バルカスのパイロットたちは戦意を早々に喪失して離脱を図ったが、かなりの損害を出してしまった。それでもドッグファイトで風竜を3騎撃墜したが、〈アンタレス〉は13機も撃墜された。キル・レシオは1:4以下、屈辱的な数字だ(もっともウージの方も同じ感想だったが)。

 そして信じられないことに、這々(ほうほう)(てい)で帰って来た彼らは、新たな命令を受けた。第三次攻撃隊の出撃命令である。

 

「司令、本当に敵は来ますかね」

 艦隊参謀は懐疑的な姿勢を崩さなかった。それは鮫島以外の人間も同じだった。

「戦いに100パーセントはない。だが高確率で俺は来ると思うね」

 鮫島の方は自信たっぷりである。

「敵は第零護衛隊群を殲滅するため、第三次攻撃隊を出す」

「こんな幼稚な偽装に引っ掛かりますかね」

「引っ掛かるさ」

「その自信の根拠をお訊ねしても?」

 CICにいた全員が耳を傾けた。

「敵さんには欲がある。俺のような軟弱者なら、第一次攻撃隊が全滅した時点で作戦を諦める。だが〈グレードアトラスター〉と第二次攻撃隊を出してきた。敵はまだ諦めていない。圧勝は無理だが辛勝なら何とかなると思っているはずだ。そこへ敵空母が煙を吐きながらノロノロと逃げ始めたと知ったら、必ず戦果拡大を狙って追撃を仕掛けてくる。慎重な参謀もいるだろうが、そいつの意見は採用されない。決めるのは司令官だからな。欲に絡め捕られた人間を止めるのは容易じゃない」

「そうおっしゃる司令は、御自身の言葉に酔っていませんか?」

 CICにいた一同は、「そこまで言うか!」と思った。だが言われた方は気にする素振りを見せない。

「もちろん酔っているよ。俺は肝が据わっていないからな。素面じゃ命の奪い合いはできない。それにだ、決めるのは俺だ」

「……その通りです」

 二人の会話に通信員が割り込む。

「司令、空自派遣部隊の司令部と通信が繋がりました」

「最後の役者が揃ったか」

「それが、司令を出せと言っています」

「繋いでくれ──こちらZEBRAHQ(ゼブラ・コマンド)──」

『貴様か? こんな滅茶苦茶な作戦を立てたのは!』

 いきなりの怒声に、鮫島も驚く。

「いきなりですね」

『どうしても文句を言いたくてな、我慢できん』

「その為に、わざわざカルトアルパスまで?」

『そんなわけあるか……全く、厄介な作戦を立ててくれたものだ。直感では間違っているとすぐ分かるのに、論理的に証明できん。出来ることを証明するのは単純だが、出来ないことを証明するのは悪魔の証明だ』

「でも本当に必要だったんですよ。〈F-2〉の支援が。SAMもSSMも半分以上消費したんです。それでも敵はまだ1個艦隊が残っている」

『それは知っている。<E-767改(こちら)>のレーダーでも捉えているからな。もう1個の艦隊は知っているのか?』

「もう1個? いいえ、ミリシアルから聞いたのは西南西の1個艦隊だけです」

『東から24隻の艦隊が接近している。(エコー)から判断するとグラ・バルカスじゃない。おそらくミリシアルだ。第零護衛隊群が時間を稼いだおかげで、間に合ったようだ』

「……野次馬まで揃ったのか」

『野次馬? 随分な言いようだな』

「ミリシアルの地方艦隊が暴走したおかげで、連合軍は大損害を出したんですよ。〈グレードアトラスター〉は取り逃がすし、散々です」

『それで、ミリシアル艦隊まで敵に回すわけじゃないだろうな?』

「まさか。最小の損害で事態を収拾するため、我々だけで片をつけます。そのためにもグラ・バルカス艦隊の情報を」

 海自と空自の派遣部隊は情報を交換した。

 

〈あきづき〉のCICでは、ひそひそ声で幹部たちが会話をしていた。

「司令は少々自棄(やけ)になっていませんかね」

 広井二佐の言葉に、他の幹部がうなずく。だが艦長は少し意見が違った。

「その気があるのは否定しないが、俺はむしろ良いと思うよ」

「そうですか?」

 今度は副長が訊く。

「そうだ。司令もやはり江田島のOBだ。俺は好きだな。装備庁の代弁者よりは、ずっといい」

 ふと思い出したように、広井二佐に命じる。

「装備庁の技官にAAMの発射準備を頼んでくれ」

「AAMですか?」

「餞別だよ。AAMのデータが採れれば、司令が群を指揮することはもうないだろう」

 CICに押し殺した笑いが漏れる。

「了解しました」

 広井二佐はそう答えると、速やかに命令を実行するため、CICを退出した。

 

「司令、正気ですか?」

 知らない人間が聞いたら、確実に無礼だと思う言葉を航空隊司令は吐いた。

「至って正気だ」

 カオニアは冷静に答える。

「日本の空母は損傷した。日本艦隊はあれほど固守していたカルトアルパスを放棄して、外洋へ逃げようとしている。空母の損傷により無人機が使えなくなったと考えるのが妥当だろう」

 彼らはミサイルをまだ無人のプロペラ機と勘違いしていた。もし〈グレードアトラスター〉の指揮をラクスタルが執り続けていたら、綿密な情報交換により、この勘違いは訂正されていただろう。だが途中から指揮を執っていたのは先任のフラグストンだった。彼はそこまで気が回らなかった。

 それでもフラグストンが責任を追及されることはなかった。彼は砲術士あがりの先任将校としては、望み得る限りの成果をあげていた。〈グレードアトラスター〉を救ったフラグストンは賞賛されることになる。

「無人機が使えなければ、日本艦隊の対空戦闘力は激減する。日本艦隊さえ沈めれば、本作戦の目標は達成できるのだ」

 これには航空隊司令は懐疑的だった。第一次攻撃隊200機は全滅、第二次攻撃隊63機は3分の2が未帰還。この惨状を見れば第三次攻撃隊出撃など、狂気の沙汰にしか思えない。

「日本の空母が都合よく損傷するなど、あるのでしょうか。確かに〈アンタレス〉の20ミリなら、当たり所によっては航空燃料に引火することもあり得ますが……」

「その幸運が起きたのです」

 バーツが遮る。

「怯懦によって勝機を逃すなど、あってはならないことです」

 これは正真正銘、無礼な発言である。だが転移してから連戦連勝を重ねている状況では、主戦論や強硬論が通りやすい。

「リスクを不当に評価する方が、あってはならないと思うがな」

「その通りですな」

 航空隊司令は、バーツが自分の言葉を全く逆の意味で肯定したのに気づいた。バーツは、自分がリスクを不当に高く評価している、そう言っているのだ。

 さすがにカオニアが割って入る。

「これは命令だ。第三次攻撃隊を編成したまえ」

 軍隊において命令は絶対である。ここで議論の余地はなくなった。

 

 海を割って西へ、カルトアルパスへ進むミリシアル海軍第1魔導艦隊。旗艦〈カレドヴルフ〉の艦橋で、艦隊司令のレッタル・カウランが、艦長タグスに話しかける。

「この分では、日本艦隊とグラ・バルカス艦隊の交戦に間に合うかどうか、ギリギリだな」

「はい。ですが陛下は、間に合わなくても良しとされるそうですね」

「『日本の力を見たい』、陛下はそうおっしゃったそうだ。日本が勝つのならそれも良し。もし負けるのなら、消耗したグラ・バルカス艦隊を我らが叩く。それで第零式魔導艦隊の(かたき)はとれる」

「日本に敵討ちを任せるのですか?」

「間に合わなければ、の話だ」

 タグスはレッタル・カウランの表情を確認する。

「サボタージュは性に合いません」

「同感だ。間に合わせよう。陛下のご意向がどうあれ、日本艦隊がグズグズしているのは、我々の責任ではない」

 

 スバウルは「司令はイカレたのか!?」と思った。空母4パイ分263機あった航空隊は、たった2回の出撃で21機にまで減っている。失われた242機のほとんどが日本艦隊の対空攻撃による損害である。にも関わらず、第三次攻撃隊を出すという。

「我々に死ねと言うのですか!」

 航空隊司令は渋い顔を作った。

「艦隊司令と参謀は、日本艦隊は対空戦闘力を大きく失ったと思っている。自分が反対したら、臆病者呼ばわりしやがった」

「ですが……」

「これは命令だ。逆らったら抗命罪で軍法会議に諮られる」

 スバウルは天を仰ぎたくなったが、我慢した。代わりに敬礼をする。

「微力を尽くします」

「すまんな。艦隊司令(てっぽうや)を説得できなくて」

「いえ、(航空隊)司令は最善を尽くしてくれたと信じます」

 スバウルは口ではそう言ったものの、内心では悪態を吐いていた。

 第三次攻撃隊21機が、旧日本海軍の『翔鶴』に似た空母から発艦する。はるか東の高空から監視されているとも知らず。

 

ECHO1(エコー・ワン)からZEBRAHQ(ゼブラ・コマンド)へ。ターゲット・ヘンリーから21機が発艦したぞ。そちらへ向かっている』

「了解、ここまでは想定通りです」

『それから野次馬が駆け足になった。何が何でも参戦するつもりらしい』

「それはお断りしましょう」

 CICとFICに報告があがる。

『発<あたご>、宛司令。レーダーに感、敵21機を捕捉』

 鮫島は意外に低い声で命令する。

「今度は撤回しない。全兵器使用自由(オール・ウェポンズ・フリー)、敵航空戦力を殲滅せよ」

〈あたご〉と〈きりしま〉から〈SM-2〉が、更に〈あきづき〉から〈AAM-4B〉が発射される。

 第三次攻撃隊は瞬く間に全滅する。

『発<あきづき>、宛司令。AAMの実戦データは採れましたよ』

「感謝する。偽装中止、艦隊全速。フォーク海峡を通過して、ターゲット・ヘンリーへ向かう」

 発煙筒が消され、第零護衛隊群は30ノットに増速する。

 

「第三次攻撃隊、レーダーから消失! 全機撃墜された模様……」

 グラ・バルカス東部方面艦隊に所属する機動部隊の旗艦〈ラス・アルゲティ〉の艦橋に、気まずい沈黙が降りる。数十秒経って、カオニアが沈黙を破る。

「自分の責任だ。貴官の責任にはしない」

 カオニアは、指揮する部下を失った航空隊司令にそう言った。

「斯くなるうえは、水上艦隊決戦で決着をつける。数では圧倒的に優勢だ」

「それは航空戦でもそうでした」

 航空隊司令が釘を刺す。

「司令、〈グレードアトラスター〉は既にフォーク海峡を抜け、外洋に脱出しています。東部方面艦隊の最低限の面子は保てます」

 ここに来てバーツも慎重になる。それはもっと早く言え、そう言いたげな視線を、航空隊司令がバーツに向ける。

「いや、ここで退くわけにはいかん。フォーク海峡沖で一戦交える」

 カオニアも海軍軍人精神に囚われていた。数的優勢で攻撃できる機会を見逃すことなど、彼にはできなかった。こんな機会は二度とないかもしれないのだ。

 

「敵航空機と思われる反応、全て消失しました」

〈カレドヴルフ〉の艦橋で、魔力探知レーダーを監視していた要員が報告をあげる。

「誘導魔光弾と思われる反応は見つかったか?」

 レッタル・カウランが問う。

「いいえ。無反応です。航空機の乗員の魔力反応が突然消えただけです」

「ふむ、どう思う?」

 意見を求められたタグスも首を捻る。

「エモール王国がリークした通り、日本が誘導魔光弾を使用しているのなら、反応が全くないのは説明がつきません」

「そもそもエモールは、何を根拠に日本が誘導魔光弾を使っていると判断したのだ?」

「それを自分に訊かれましても……」

「そうだな。後は情報局と外務省に任せるしかないな」

 ミリシアル海軍第1魔導艦隊は、フォーク海峡へ急ぐ。

 

 第零護衛隊群、フォーク海峡通過まで、あと30分。

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