日本国召喚・異聞録   作:無虚無虚

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第16話『鉄血海峡』

 成層圏ではクイズ大会が開かれていた。

『ゴクウ、この中で一番陸自に向いているのは誰ですか?』

「やっぱりマッチョじゃないか」

『じゃあマッチョ、バズーカ砲って知ってる?』

『まあ……名前だけは知ってる』

『バズーカ砲は、なんでバズーカって言うの?』

『えっ……発射音が「バズーン」だから?』

『ボケーっと生きてんじゃねえよ!』

 げらげらと笑い声が無線で響く。

 NHQのバラエティ番組、『デコちゃんに怒られる!』を真似したクイズである。

 睡魔と戦っていたパイロットたちは、一人で努力するより皆で協力した方がよいと気がついた。本来は規則違反だが戦域航空管制官(コマンダー)のサンゾーが大目に見て、パイロットたちは無線を使ったチャットを始めた。それでも話題が尽きてきたので、とうとうクイズ大会を始めてしまった。

『俺、知ってる』

『はい、ドップ』

『発明者の名前がボブ・バーンズだから』

『……ボケーっと生きてんじゃねえよ!』

『えっ、違うの?』

『正解は……当時人気があったコメディアン、ボブ・バーンズが使った小道具のトランペットに似ていたから』

 無線でブーイングが流れる。

『そんなの分かるかよ!』

 クイズの筈が、オタ知識自慢になってしまっている。

 御空が参戦する。

「サルト、そいつは間違いだ。ボブ・バーンズのラッパはトロンボーンだ」

『……つまんねー奴だな。デコってんじゃねえよ!』

 ちなみにこれは、正解者に対する褒め言葉である。

ECHO1(エコー・ワン)よりTOPAZSQ(トパーズ・スコードロン)へ』

 TACネームではなくコールサインで呼ばれたことで、パイロットたちのスイッチが切り替わる。

ZEBRAHQ(ゼブラ・コマンド)とコンタクトが取れた。各自の攻撃目標の割り当てを伝える』

 多目的ディスプレイ(MPD)に詳細が表示される。その内容に御空は違和感を覚える。

「こちらTOPAZ1、戦艦と空母が攻撃対象に入ってませんが?」

『空母は艦載機が全滅している。戦艦と空母は鹵獲したいというのが、ZEBRAHQの意向だ』

 無線で驚きの声が流れる。

『こちらTOPAZ2、こんな過酷な作戦を立てる人間を信用していいんですか?』

 ヘギーが疑問を投げかける。

『信用するしかないだろう。指揮権は向こうにあるんだ。少なくとも航空機の殲滅と、<グレードアトラスター>の撃退は成功している』

『兵器の性能差を考えたら、出来て当然じゃないですか?』

『じゃあおまえが意見してやれ。唯我独尊の(うみ)さんに』

『こちらTOPAZ8、私たちは予備(リザーブ)ですか?』

 テンニョ──空自唯一の女性F-2ライダー、遠藤真琴二等空尉が訊く。8~10番機は攻撃目標が割り当てられていない。

『そうだ。第一次攻撃で不発があった場合は、TOPAZ8が追加攻撃を行う。9と10は敵が降伏を拒否した場合、戦艦を攻撃する』

『やった! ボクは戦艦を()れるんですね?』

 興奮したのか、コールサインを忘れて9番機のアムロ(天然パーマの髪型がアニメキャラに似ていることからついたTACネーム、特にエースというわけではない)が訊く。

『あ、いいな』

『俺も戦艦()りたい』

『『『せーんかん! せーんかん! せーんかん!……』』』

 無線で戦艦コールが起きる。こいつら、切り替えが出来てないじゃないか!

「TOPAZ1よりTOPAZSQ、いい加減にしろ! 遊びの時間は終わりだ。さっさと荷物(ミサイル)降ろして、アルファベースに帰るぞ」

 さすがに戦艦コールが止む。

『ECHO1よりTOPAZSQ、作戦開始は30分後だ』

 

 旗艦〈カレドヴルフ〉の艦橋で報告が行われる。

「カルトアルパス海軍基地から報告。『日本艦隊空母から煙が消失、同時に約30ノットへ増速。フォーク海峡通過は約30分後に早まる』」

「煙は敵航空隊を引きずり出すための擬態というわけか」

 レッタル・カウランが顔を(しか)める。

「30分では我が艦隊は間に合いませんな。ですが、これ以上の増速は無理です」

 タグスが応じる。

 第1魔導艦隊は2隻の小型艦(駆逐艦相当)を護衛に付けた足の遅い補助艦艇を置き去りにして、主力戦闘艦のみ30ノットでフォーク海峡に向かっていた。

「途中参加になるのも止むを得んか」

「それまでに戦いが終わらなければの話ですが」

 

〈ひゅうが〉の飛行甲板から〈SH-60K(シーホーク)〉が発艦する。艦橋は応急修理で管制可能になっていた。

 X-OSがダウンしたため、〈SH-60K〉のレーダー情報を、護衛隊群で共有できるようになった。アメリカ製の通信システム〈Link16〉により、〈E-767改〉のレーダーでもミサイル誘導が出来る筈だが、〈E-767改〉は改修したばかりなので、安全を取って〈SH-60K〉を使うことにした。

〈SH-60K〉はグラ・バルカス艦隊を捕捉するため、上昇する。敵航空隊は殲滅した。水上機(ゲタバキ)ぐらいは残っているかもしれないが、そのときはSAMで対応できる。

 間もなく〈ひゅうが〉のディスプレイ群に、グラ・バルカス艦隊の影が映る。その距離、約60キロ。

「敵の無線に割り込めるか?」

 鮫島の問いに電子戦担当が答える。

「航空機用の無線なら可能です。周波数、変調とも分かっています。暗号通信も分かっていますが、解読はまだです。でも時間の問題です」

「暗号には手を出すな。航空機用に割り込むぞ」

「司令、何をなさるのですか?」

 艦隊参謀が問う。

「降伏勧告だよ。やっとかないと、野党寄りのマスコミがうるさいからな。ついでにミリシアルにも中継してやろう。我が国のスタンスをはっきりさせておいた方がいいだろう」

「それは政治ですよ」

 艦隊参謀が釘を刺すが、鮫島は反論する。

「ミリシアル艦隊の連中に状況を伝えた方がいい。おそらく第零式魔導艦隊を沈められてカリカリしているだろう。交渉中に手を出されたら困る」

「なるほど」

「やってくれ」

 通信担当と電子戦担当は必要な情報交換をした。

 

 旗艦〈ラス・アルゲティ〉の艦橋のスピーカーが突然響く。

『こちらは日本国海上自衛隊第零護衛隊群司令、鮫島海将補である』

〈ラス・アルゲティ〉の艦橋が騒然とする。

『接近中のグラ・バルカス艦隊に告ぐ。直ちに停船して降伏せよ……と言っても無理だろうな』

 カオニアもバーツも、艦橋に居た全員が戸惑う。

『降伏するのが嫌なら逃げろ。今日は随分殺し過ぎた。だから追撃はしない』

 カオニアの顔が真っ赤になる。それを見たバーツの顔が青くなる。

「司令、冷静になってください」

 バーツがカオニアに声をかける。

「自分は冷静だ」

 カオニアが答えるが、どう見ても怒っている。

『なお降伏する場合は、合図として白旗を掲げて欲しい。それが嫌なら回れ右しろ。部下を無駄死させるような無能が指揮官でないことを祈っている。以上だ』

 カオニアがぶるぶると震えている。

「通信士、返電だ」

「はっ、何と伝えますか?」

「『馬鹿め』だ」

「は?」

「『馬鹿め』だ!」

「は、はい! 『こちらグラ・バルカス東部方面艦隊、馬鹿め。以上』」

 

「つまらん回答だな」

 鮫島がぼやく。

「自分には煽っているように聞こえましたが」

 艦隊参謀が冷ややかな視線を向ける。

「煽ったんだよ。命令を忘れたか? 『グラ・バルカス艦隊に可能な限りの損害を与え、戦争継続の意志を奪うこと』、そうだったろ」

「それはそうですが……」

 鮫島は〈E-767改〉を呼び出す。

ZERBAHQ(ゼブラ・コマンド)よりECHO1(エコーワン)へ。交渉決裂です。やっちゃってください」

『アンタ、いい性格してるな』

「褒め言葉と受け取っておきますよ」

ECHO1(エコーワン)よりTOPAZSQ(トパーズ・スコードロン)へ。攻撃開始』

 

〈F-2〉はシースキミング飛行に移行済みだった。

「TOPAZ1よりTOPAZSQへ。各自割り当てに従い攻撃せよ。上昇時はアフターバーナーは使うな。使ったら長過ぎる海水浴をすることになるぞ」

 10機のうち7機の〈F-2〉が4発の〈ASM-2〉を発射、上昇飛行に移る。計28発のASMが慣性誘導で目標に向かう。

 

〈ラス・アルゲティ〉の艦橋に報告が上がる。

「レーダーに感! 東に未知の航空機7機、距離100キロ。高度500で上昇中、速度……」

「どうした」

 艦長が言葉に詰まった観測員を促す。

「速度時速1000キロ以上!」

「確かか?」

 艦長が思わず確認する。時速1000キロ、それはまだグラ・バルカス帝国では達成できない速度だ。

「レーダーの観測では、そうなっています」

 観測員はそう答えるしかなかった。

「敵機の動きは?」

「上昇しながら右旋回……本艦隊から遠ざかって行きます」

 その場に居た全員が戸惑う。

「敵機は何をしたかったのだ?」

 カオニアが問うが、バーツをはじめ誰も答えられなかった。

 だが時速1000キロで接近していたのは、〈F-2〉だけではなかった。ASMを発見したのは、やはりレーダーではなく人間だった。

『前方から何か接近。数……20以上!』

 甲板見張り員の報告が、艦橋に上がる。

「レーダー、何やっている!」

 艦長から叱責が飛ぶ。だが見張り員の報告には続きがあった。

『海面すれすれを飛んでいます』

「海面反射のノイズで捕捉出来ません」

 レーダーを担当する観測員が追加で報告する。

 28基のASMが水平線から現れてグラ・バルカス艦隊に到達するまで2分弱の時間しかなかった。だが艦隊にとってこれほど長くて短い2分間は、かつてなかった。

「「「対空戦闘開始」」」

 各艦の艦長が一斉に命じる。高角砲と対空機銃がほぼ水平射撃で弾幕を展開する。だがマッハ0.9という未体験の速度に、全く対応できない。頼みの綱の近接信管も、砲弾の破片がASMに追いつけず、役に立たない。

 次々とASMが艦艇に命中する。

『重巡〈リゲール〉〈エララ〉大破・炎上!』

『駆逐艦〈ディオネ〉〈タイタン〉〈エウロパ〉轟沈!』

 これまた次々と被害報告が上がる。

 2分足らずという想定外の短時間に、東部方面艦隊は壊滅に近い損害を受ける。

 

 大戦果にも関わらず、サンゾーは渋い表情だった。1発外れたのだ。

「メーカーに調査依頼をせんといかんな。原因究明まで時間がかかる。また余計な仕事が……」

 サンゾーはマイクをオフにしてぼやいた後、マイクをオンにして命令を下す。

「ECHO1よりTOPAZ8へ。追加攻撃だ」

『了解』

 テンニョは念のためASMを2発リリースすると、上昇飛行に転じた。

 

〈ラス・アルゲティ〉の艦橋は混乱状態だった。

「損害をまとめて報告しろ!」

 カオニアが吠える。

「逆の方が早いです」

 バーツが答える。

「逆だと?」

「無事なのは本艦〈ラス・アルゲティ〉と僚艦〈コルネフォロス〉、巡洋艦〈アルドラ〉、後は4隻の空母のみです。他は大破か沈没です」

「ぜ、全滅ではないか!」

 カオニアの言葉は間違っていない。もはや機動部隊は艦隊として機能できない状況になっている。戦闘単位として機能しない状態は、軍隊では全滅と見なされる。むしろ間違っていたのはバーツの方だった。

 巡洋艦〈アルドラ〉が炎と轟音に包まれる。その艦体が真っ二つに折れ、見る間に海底に沈んでいく。

「……訂正します。残っているのは戦艦2隻と空母4隻です」

 呆然とするカオニア。だが事態の進行は待ってくれない。

「水上レーダーに感! 東の距離50キロに未知の艦影、おそらく日本艦隊です」

『こちらは日本国海上自衛隊第零護衛隊群司令、鮫島海将補である』

 再びスピーカーが響く。全員が飛び上がらんばかりに驚く。

『降伏せよ。さもなくば撃沈する』

 最後通牒にカオニアは焦る。

「返電しろ。『我撤退す』だ」

 だがその必要はなくなった。

『なお撤退は認めない。我々を馬鹿呼ばわりしたからな』

 全員の視線がカオニアに集まる。カオニアの顔色が更に悪くなる。

『降伏するなら早い方がいいぞ。()()()る気満々のようだからな』

 鮫島の言葉を彼らが理解するのに、数分の時間が必要だった。

 

 数分後。

「水上レーダーに新たな感! 日本艦隊の後方に新たな艦影……これは、ミリシアル、ミリシアルの艦艇です! その数10……16……18、18隻です」

 ここに至ってカオニアたちは状況を理解した。カオニアは決断する。

「全艦に停戦命令を出せ。白旗を掲げろ」

 カオニアはため息を吐くと、通信士に命じた。

「日本艦隊に返電しろ。『我降伏す』だ」

 

『こちらTANGO2(タンゴツー)、白旗を確認』

 TANGO2は〈SH-60K〉のコールサインだ。鮫島はマイクを取る。

「発司令、宛全乗組員。敵は降伏した」

 一部の乗組員たちは歓声をあげた。だが鮫島の次の言葉で鎮まる。

「だが任務は終わっていない。自衛隊のお家芸、人命救助の時間だ。敵の戦艦と空母を接収すると同時に、遭難している敵将兵を救助する。可能な限り速やかに行え」

 

 ミリシアル海軍第1魔導艦隊はフォーク海峡前を通過し、更に西へ進む。

 旗艦〈カレドヴルフ〉の艦橋で、司令レッタル・カウランは、艦長タグスに問いかける。

「この戦い、歴史はどう評価すると思うかね」

 タグスはちょっと思案してから答える。

「我が艦隊の存在が、グラ・バルカス艦隊に降伏を決断させた──少なくとも我が国の教科書には、そう書かれるでしょうな」

「間違ってはいないが、正しくもないな。我々は切り札ではない、見せ札だ。これでは完全に道化ではないか!」

 レッタル・カウランのこめかみに血管が浮き出る。それを見たタグスは機転を利かせる。

「我々は陛下のご意向に沿ったのです。そう考えましょう」

「……悪くない考えだ」

 

 第零護衛隊群が救助と接収に走り回っているときだった。

「司令、外務大臣から通信が入ってます」

 鮫島は井上に無線機を持たせていたことを思い出した。

「繋いでくれ──こちらは群司令の鮫島です」

『君かね? 出鱈目をばら撒いたのは!』

 鮫島は既視感(デジャヴ)を覚える。

「大臣、何をおっしゃっているのか、分かりませんが」

『自衛隊の兵器を魔法だと言ったのは、君かと訊いているんだ!』

 どうやら地雷を踏んだらしい。鮫島は誤魔化すことにした。

「大臣、それより報告することがあります」

『何かね?』

「勝ちました」

『勝った?』

「はい。敵艦隊を降伏させ、戦艦2隻と空母4隻を無傷で鹵獲しました」

『……』

「なお我が方の損害は〈ひゅうが〉が小破、軽傷者を1名出しました」

『……』

「あの、大臣、聞いておられますか?」

『本当かね』

「本当です」

『大勝利ではないか! でかした!』

 そこで通信は切れた。

 

 外務大臣は張り切っていた。

「ここからが外交官の腕の見せ場だ。まずは鹵獲した軍艦の分配だ。カルトアルパスに戻ったら、忙しくなるぞ」

 近藤と井上は神妙な顔で聞いていたが、内心はハラハラしていた。

 外務大臣はプロの外交官ではなく、政治家なのだ。

 

 翌日、カルトアルパスで()()()()()()()が再開された。

 最初に脱落した国の代表を呼び戻そうと言う者は、全くいなかった。

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