日本国召喚・異聞録   作:無虚無虚

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第2話『海を渡った蒼海豚』

 ムー大陸の東の海は穏やかだった。

 日本国籍の大型自動車運搬船DRIVE NEW WORLDの操舵室から、船長の山口は海を眺めていた。

 水平線は遥か先にあり、地球に比べても感覚的に海が広く感じる。

「あと300キロ、間もなくムー国ですね」

 日本で造られた自動車やオートバイを満載し、ムーを目指していた。

「カルトアルパスで戦争が始まったそうだが、まさかこんな大事(おおごと)になるとは」

 DRIVE NEW WORLDの他にも多数の貨物船が縦に並んで進む。

 そしてその前後と両側を、第4護衛隊群の護衛艦が取り囲む。

「まあ、万が一があったら困るからな。いないよりいてくれた方がありがたいか」

 

 海上自衛隊の護衛隊群は、文字通り船団護衛のために作られた部隊だ。潜水艦からの攻撃に対し船団を護衛するために必要な戦力を試算したところ、護衛艦8隻と搭載ヘリ8機が必要との結論を得た。

 これに基づき新・八八艦隊計画が策定され、4個の護衛隊群が編成された。各護衛隊群の構成は、ヘリ搭載護衛艦1隻、ミサイル護衛艦2隻、汎用護衛艦5隻である。長距離の航海のため、今の第4護衛隊群には補給艦〈はまな〉も参加している。

 護送船団がいち早く実現したのは、政府の危機感の表れと、とある事情によるものである。

 

 旗艦〈かが〉の艦隊司令施設(FIC)で群司令の三浦は、水測員の報告を聞いていた。

「国籍不明の潜水艦で、間違いないんだな」

「はい。5分前に浮上しました。位置は西に約20NM(ノーティカル・マイル)。音の特徴は〈たかなみ〉が録音したものに似ています。おそらくは同型艦です」

「〈たかなみ〉が沈めた潜水艦のデータを見せてくれ」

 三浦はディスプレイに表示されたデータに視線を走らせる。

「潜水空母か。旧日本海軍の伊400に似ているな」

「似ているなんてものじゃないですよ。〈グレードアトラスター〉と〈大和〉ぐらいに、そっくりですよ」

 参謀の言葉を聞いて、三浦は頭を掻いた。

「全く別の世界から来たというのに……なんで兵器がこんなに似ているんだ?」

「まだグラ・バルカス帝国と決まったわけではありません」

「〈グレードアトラスター〉を持ち出したのは……まあいい。潜望鏡深度ではなく、浮上なんだな」

「はい。浮上です」

「〈たかなみ〉のときと違って、艦載機を出す気だな。念のため対空戦闘に備えろ。もちろん対潜戦闘もだ」

 

「クックック……見つけたぞ!!」

 シータス級から発艦した特殊攻撃機アクルックス。そのパイロットであるアストルは舌なめずりをする。

 だが彼に昔を思い出す暇はなかった。

 

水上機(ゲタバキ)です。国章を確認。日の丸に白十字、グラ・バルカス帝国です』

 三浦は嫌な顔をする。

「民間船の安全を最優先する。対空戦闘開始」

 ミサイル護衛艦〈しまかぜ〉から艦対空ミサイルが発射される。間もなくミサイルは空中で爆散した。

『敵機撃墜、対空戦闘終了』

『こちら水測。潜水艦が急速潜航を開始しました』

「艦長、〈SH-60K(シーホーク)〉を出して潜水艦を攻撃してくれ」

「了解。〈シーホーク〉、発艦せよ」

 三浦はまた頭を掻く。

交戦規定(ROE)通りだが、また世間で騒がれるな」

 フェン沖海戦で、〈みょうこう〉の艦長が更迭されたのが、まだ現場では尾を引いていた。

「大丈夫でしょう。『真珠湾迎撃』は国民にウケましたから」

 参謀の能天気な言葉に、三浦は頭が痛くなる。

「だが批判の声は確実にあがるぞ」

「そういう連中は、自衛隊(われわれ)が何をやっても批判する人種です。それなら気に病むだけ無駄です」

「……君はヒトラーか?」

「は?」

「君は人種差別主義者か?」

「違います。そういう人種でも、日本国民であれば守ります。自分は自衛官です」

 

〈かが〉の飛行甲板からヘリが離艦する。

 その様子を見た山口が呟く。

「いつものパトロールか。平和だな」

〈しまかぜ〉はDRIVE NEW WORLDから離れた位置にいたので、山口はミサイルを見ていなかった。

 

 彼ら護送船団とは別に、空路でムー大陸に渡った航空自衛隊の部隊があった。第4航空団飛行群第11飛行隊である。

〈T-4〉練習機8機の飛行隊は、ムー国政府の招待によって訪問が実現した。これを実現するために、意外な人物が働いていた。

 アイナンク空港の貴賓室では、マイラスと空軍の要人が、飛行隊を待っていた。

 空港職員が入ってくる。

「お待たせしました。間もなく着陸します」

 職員の言葉に、全員が席を立ち、屋上へと向かう。

 彼らが見守る中、青と白のツートーンカラーの〈T-4〉練習機8機が無事に着陸する。

 

 第4航空団飛行群第11飛行隊は、ブルーインパルスという愛称で知られている。だがブルーインパルスは6機編隊で、8機のうち2機は、ブルーインパルスに紛れてムーに搬入された〈T-4改〉練習機である。

 2機の〈T-4改〉は、本物のブルーインパルスとは別の格納庫に搬入された。そこでは先ほどの一団が待っていた。

 各機2名、合計4名のムー国人のパイロットがコクピットから降りる。彼らは芦屋基地の第13飛行教育団と浜松基地の第1術科学校で訓練を受けていた。

 4人は即座に敬礼する。その場には空軍制服組のトップがいたのだ。

「ご苦労、よく無事に帰ってきてくれた」

「はい、閣下。光栄であります」

 4人の中の代表格のミネイスが答える。

「この機体を入手するために、政府は日本に30億円も払ったのだ」

「そんなに高いのでありますか!?」

 ミネイスは思わず訊き返した。

「機体の値段は1機当たり22億円だが、買ったわけじゃなくてレンタルだ。費用の大半は改造費だよ」

 マイラスが答える。だがパイロットたちが戸惑った表情を見せたので、自己紹介を忘れていたのに気づいた。

「技術士官のマイラスです。残りは君たちの訓練にかかった費用、こっちで君たちをサポートしてくれる日本人の人件費、そして消耗品の代金だね」

 

〈T-4改〉は改とつくだけあって、量産型の〈T-4〉から改造を施されている。簡単に言えば、武装を施されている。

 現在は胴体下に口径7.62ミリのガンポッドを搭載している。試作2号機で実装されたが、量産機で外されたものだ。

 この他にも2.75インチロケット弾を19発装填できる〈JLAU-3/A〉ロケット弾ポッドも搭載可能になっている。こちらは護送船団の〈はまな〉で輸送中だった。航空自衛隊創設以来使用され続けてきたが、〈JDAM〉誘導爆弾を密かに量産しているので、近々退役になる装備だ。

『カルトアルパスの戦い』を経験した日本とムーは、安全保障面での協定を結ぶべく、水面下で努力していた。その下地作りとして、今回の〈T-4改〉の貸与が実施された。こうした実績を積み重ねることで、必要な信頼を醸成しようというのだ。

 グラ・バルカス帝国に対抗できる兵器が欲しいムー、ムーを防波堤にしたい日本、両者の思惑が見事に一致している。奇しくも旧世界の日米安全保障条約と同じ構図だ。ただ、日本の立場は逆転しているが。

 

「これで我が国も、悲願のジェット戦闘機を運用できるようになった」

 空軍司令の台詞はかなり大げさだが、嘘ではない。

 浜松基地で訓練を受けていたのは、パイロットだけではない。整備員や管制官、消防士までも訓練を受けていた。修理や大規模なメンテナンスは日本に頼まないといけないが、通常の運用だけならムーの軍人だけでできる体制を整えつつあった。彼らもロケット弾と同様に、護送船団に乗ってムーに向かっていた。

「あとは無事に船団が着くのを待つだけだな」

「その点は大丈夫でしょう。日本の第4護衛隊群がエスコートしていますから。明日、マイカルに入港する予定です」

 マイラスが太鼓判を押す。

 

 日本に天皇誕生日があるように、ムーには国王生誕祭がある。この日は祝日で、首都オタハイトで大規模な式典が行われる。ブルーインパルスはその式典で、曲技飛行を演じることになっていた。両国の親密ぶりのアピールと、日本の航空機の性能をムーの国民と軍人に啓蒙する、二重の目的があった。

 だからブルーインパルスが演技することは、国民に広く宣伝された。だが宣伝を耳にするのは、自国民だけとは限らない。先進11ヵ国会議に出席していたマギカライヒ共同体とニグラート連合は、大使に加え駐在武官を式典に出席させることにした。これまで日本と接点がなかったソナル王国とパミール王国、ヒノマワリ王国も、同様に大使と駐在武官の出席を決めた。

 そして、招かざる客も、呼び寄せることになった。




ムーの通貨と為替レートが原作で明らかにされていないので、金額は円で表記しています。
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