日本国召喚・異聞録   作:無虚無虚

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第5話『踊る会議と踊らされる人々』

 首相官邸では国家安全保障会議(NSC)が開かれていた。

「……このように、ムーの国王生誕祭を狙ったグラ・バルカス帝国の攻撃は、阻止できました」

 防衛大臣が報告した。

 外務大臣が手を挙げる。

「ムーから〈T-4改〉……彼らは〈ヤムート〉と呼んでますが、それを購入したいと打診がありました。数は200機です」

「200機!」

 防衛大臣が驚きの声をあげた。

「それは航空自衛隊が保有している〈T-4〉の数とほぼ同じです。そんな数を輸出したら、国内でのパイロットの訓練ができなくなる」

「輸出する分は、新たに作ればよいのではないかね?」

 総理大臣が当然かのように言う。

「〈T-4〉は航空自衛隊の調達が終了しており、生産終了となっています」

 防衛大臣が答えると、今度は経産大臣が手を挙げた。

「製造元の川崎重工業に打診してみたのですが、前向きな回答は引き出せませんでした」

「それは何故かね?」

「民需に既に人材と設備を取られている、というのもありますが、これが特需で終わるのを恐れているようです。生産ラインは既にないので、新たにラインを作らなければならないのですが、それだけの設備投資に見合う需要が本当にあるのか、疑問がぬぐえないようです」

 今度は外務大臣が手を挙げる。

「それは何とかなるかもしれません。クワ・トイネとクイラも〈T-4改〉に興味を示しています。東部諸侯連盟とは講和しましたが、ジン・ハーク周辺では依然として人間至上主義が勢力を保っています。国境線の安全は確保できたものの、海と空からの襲撃を警戒しています。ワイバーンとその亜種に確実に勝てる航空戦力を欲しがっています」

「それで数は?」

「おそらくは、両国合わせて100機程度かと。ロウリア事件でテロリストが用意したワイバーンが500騎ですから、抑止力としてはその程度で十分です」

 総理大臣は経産大臣に問う。

「合計300機で、メーカーを説得できるかね?」

「やってみなければ分かりませんが、難しいかと思います」

 再び外務大臣が手を挙げる。

「小規模ですが、興味を示している国は他にもあります。ワイバーンがいないフェン王国、パーパルディアへのトラウマを克服できていない73ヵ国連合などです。それに世界第2位のムーが輸入すれば、第二文明圏を中心に、輸入を希望する国は新たに現れるはずです」

 たまらず防衛大臣が発言を求める。

「待ってください。人材はどうするんです? 今回は少人数だから対応できましたが、大人数を受け入れる施設がありません。ただでさえ正面装備が優先され、教育や福利厚生は後回しになっているのが実情です」

 三度(みたび)、外務大臣が手を挙げる。

「ムーもその点は考慮しています。人材育成は可能な限り自国で行うから、訓練に必要な設備を売って欲しいと言ってます」

「他国もそうなのかね?」

「おそらくは、そこまで考えていないかと。ムーは実際に日本に研修生を派遣して、こちらの事情を分かっていますから」

 総理大臣は考える。

「メーカーさえ説得できれば、ムーはなんとかなるな。クワ・トイネとクイラも断りづらい。我が国との関係性もそうだが、ロデニウス大陸と周辺の安全保障は、あの2ヵ国に任せたい」

 今度は文科大臣が手を挙げる。

「総理のお考えも理解できますが、新世界技術流出防止法との兼ね合いも考えていただきたい。なし崩し的にジェット機を輸出して、日本に敵対的な勢力の手に渡った場合、困ったことになりませんか?」

「むろん誰にでも売るわけではない。我が国が信用できると判断した国だけだし、転売は禁じる。既にレンタルしているムーなら問題ないだろう。まだメーカーの説得が残っているので、今これ以上議論しても仕方あるまい」

「間違ってもメーカーに、政府による買い取り保証などしないでください。あれは自衛隊には不要な装備です」

 防衛大臣が釘を刺す。

「分かっている。教育施設と福利厚生の問題も、何とかしないといけないな。外国からの研修生を受け入れるとなると。財務大臣、検討してくれ」

「省に持ち帰って、検討します」

 この発言は、大臣たちの間で不安を呼び起こした。自分の省庁の予算が削られるのではないかという、疑念が湧いたのだ。

「次の検討課題は、ムーの戦艦だったな」

「〈ラ・カサミ〉です。日本での修理・改修を引き受けました」

「今の状況は?」

「ムーと防衛装備庁とメーカーの間で、改修案を検討しています」

 

〈ラ・カサミ〉改修の元請けのJ社の(あずま)は、頭を抱えた。

「つまり、対戦艦攻撃能力と対潜作戦能力、そして対空迎撃能力を併せ持った艦を、〈ラ・カサミ〉の船体で造れと?」

「その通りです」

 ミニラルは大真面目に頷くが、マイラスは遠慮気味に言った。

「これが困難な要求仕様であることは、理解しています。ですが〈ラ・カサミ〉は、日本で言えば〈大和〉のような存在なのです」

「全てに勝てる兵器など、存在しませんよ」

「おっしゃることは、解ります。ですが今のムー海軍の艦艇では、グラ・バルカスに対抗できません。〈ラ・カサミ改〉は単艦で対応しなければならないのです」

 東は抱えた頭を掻きむしった。

「いっそのこと、戦艦を辞めますか?」

「「は?」」

 予想外の東の言葉に、マイラスとミニラルは驚く。

「ですから、〈ラ・カサミ改〉を駆逐艦にするのです」

 ミニラルは顔を真っ赤にした。マイラスが慌てて東を制止する。

「いや、さすがにそれは……」

「海上自衛隊の護衛艦は、全て駆逐艦なのです」

 ミニラルは顔を真っ赤にさせたまま、ポカンと口を開けた。

「護衛艦には防水区画はありますが、装甲はありません。誘導弾の登場で艦砲が時代遅れになったので、装甲は無意味なのです」

旧世界(ちきゅう)ではそうかもしれませんが、ここにはグラ・バルカス帝国の戦艦が存在するんですよ」

 マイラスが反論を試みる。

「ムーもグラ・バルカス帝国の戦艦を分捕ったから、ご存知でしょう。あの40センチ砲弾を防げる装甲を〈ラ・カサミ改〉に施したら、せいぜい3~5ノットでしか移動できない水上砲台にしかなりません。それなら30ノットで航行できる重雷装駆逐艦の方が使えます」

 魚雷を知識としては知っていても、実際に見たことすらないマイラスとミニラルは、ピンとこなかった。

 装備庁の防衛技官が止めに入る。

「東さん、これは政治的な問題でもあるんです。あくまで日本の援助を受けたムーの軍艦でないと、意味がないんです。日本が主体的に造ってしまっては、拙いんです」

 東はため息をつきそうになったが、飲み込んだ。

「戦艦という設計思想は変えない、ということですか」

「ええ。せめて外見だけでも戦艦らしくないと」

 東は考え込んだ。

「今の日本で造れる大口径砲は、155ミリ榴弾砲です。それ以上だと設備から作らないといけませんから、スケジュールに間に合いません。砲身も空冷です。できれば水冷にしたいが、やはり間に合わないでしょう。砲弾の改良ぐらいはできるかもしれません。それでもいいですか?」

 マイラスとミニラルは互いに相手の顔を見たが、すぐに頷いた。

「対空兵装ですが、中SAMや短SAMは禁止ですから、近SAMになります。敵航空機を目視できる距離で撃つことになります」

 これにも二人は頷く。

「対潜水艦は短魚雷しか選択肢がありません。巡洋艦や駆逐艦は155ミリでなんとかなるでしょう。しかし戦艦となると……」

 そこで東は黙ってしまった。

「カルトアルパスで使った誘導弾は?」

 ミニラルの問いに、防衛技官の方が首を横に振った。

「あれは我が国でも試作段階の技術です。未完成の物を提供するわけにはいきません」

 本当の理由は違うだろうが、提供してもらえないことに変わりはない。

「潜水艦で使う長魚雷しかないな」

 東が断言する。

「三菱(重工業)か川崎(重工業)に協力してもらうしかありませんね。お願いできますか」

 東は防衛技官に頼んだ。

 

「俺が言ったとおりになったろう」

 本人に悪意はないのだろうが、傍から見ているとドヤ顔を決めているようにしか見えない。だがそれを諫めるほどのお節介を、ミレケネスは持ち合わせていなかった。

「監査軍は〈グレードアトラスター〉、海軍は一打群、そして陸軍は航空隊。三軍そろって日本に負けたわけね」

 カイザルは身を乗り出してきた。ミレケネスは反射的に距離を取ろうとしたが、それより早く、カイザルが囁いた。

「この(いくさ)、負けるぜ」

 ミレケネスも薄々感じていたが、ここまではっきり言うカイザルに、驚きを禁じ得なかった。

「この戦、どうやって勝つかではなく、いかにして負けないかを考えた方がいい」

「……そのための、通商破壊戦?」

 カイザルはかすかに頷く。

「日本を参加させないのが、最良の方法だ。だがシータス級がまた沈められた。時間稼ぎにはなるが、完全に止めるのは無理だろうな」

「……どうするつもり?」

「力を貸してほしい」

 カイザルに迫られたミレケネスは、息を呑んだ。

「外務省にコネがないか?」

 ミレケネスは緊張感が切れた。だがちょっと考えてから、答えた。

「あったけど、つい最近、アンタに盗られたわよ」

 

 シエリアは憔悴していた。捕虜の解放も、艦艇の返還も実現していなかった。それどころか陸軍航空隊の暴走によってムーとの関係が悪化し、ムーに入国することもできなくなった。日本大使館を訪れることもできない。八方塞がりで、もはや打つ手がない。

 レイフォル地区のオフィスで悶々としているとき、部下の職員に呼ばれた。

「シエリア課長、電話です」

 シエリアがその職員のところへ行くと、職員が小声で付け加えた。

「本国からです」

 わざわざ本国から? しかも上司のゲスタを飛ばして?

 シエリアは不安を抱えながら、受話器を手に取った。




今週のアクセス数が15000を越えそうな勢い……みんな更新に飢えていたんですね。
私が続きを書く気になった理由もそれですが。

でもブログで「coin機厨」とか叩かれるのかなあ。
1機22億円はcoin機と呼ぶには高過ぎると思うけど。
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