日本国召喚・異聞録   作:無虚無虚

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第7話『憂鬱なパーティー』

 パーティーの目的は、ラクスタルの快気祝いだ。だから主賓のラクスタルと、部下で共にフォーク海峡で戦ったフラグストンがいるのは当然だろう。自分もその場にいたのだから、招かれるのはおかしくない。しかし──

 シエリアは委縮していた。帝国三将のうち二人が同席しているのだ。当時の上司と現在の上司だから、いてもおかしくないのだが、主戦派の論客として知られているギーニ議員は場違いすぎる。軍産複合体との癒着が噂されている人物だ。

 更に場違いなのが陸軍将校のランボール。帝国三将の最後の一人、帝都防衛隊長ジークスの名代として来ている。いくらラクスタルの武勲が輝かしくても、メンツが豪華すぎる。

 だが最も場違いなのが、情報局だ。レイフォル地区に勤務しているバミダルが出席している。もっとも彼は公務で来ている。海軍首脳との情報共有が目的だそうだ。

 このいかにも怪しい会合は、シエリアの想像のはるか斜め上の展開を見せた。

 乾杯の後、主催者のカイザルが切り出す。

「実はプレゼントがある。あっと驚くようなものだ」

「はっ、ありがとうございます。自分は再び艦を指揮できるのでありますか?」

 カイザルは苦笑する。

「そんなに艦に乗りたいか? 教官も上手くやっているそうじゃないか。校長から報告を受けているぞ。『彼が語る実戦の体験は、候補生の戦術のみならず精神をも陶冶(とうや)する』、こんな評価は初めて聞いたぞ」

「過分な評価です」

「実はプレゼントは、情報局が用意してくれた」

 カイザルはそう言うと、バミダルに指示を出した。

「アレを映してくれ」

 バミダルはナグアノの手土産をキャスター付きのテーブルに載せて運んできた。そして電源を繋ぐと、DVDプレーヤーの再生ボタンを押した。

 ポータブルテレビに観艦式の映像が流れる。

「これは日本海軍の観艦式だ」

 全員がやや小さめの画面をのぞき込む。

「この『カイジョージエイタイ』というのは?」

 陸軍将校のランボールが訊いた。

「日本海軍のことだ。日本人は日本軍のことを『自衛隊』と呼んでいる」

 画面には護衛艦が縦列を組んで航行する姿が映される。

「あの悪魔どもを、これだけ揃えているのか」

 ラクスタルの言葉に、再びランボールが反応する。

「数では(グラ・バルカス)海軍の方が圧倒的に上でしょう」

「8隻の船団に、〈グレードアトラスター〉と一打群が負けたのだよ」

 カイザルがラクスタルの代わりに、ランボールに答える。カイザルは日本の護衛隊群の脅威を強調するため、『船団』という言葉を敢えて使った。

「君には退屈だったかね? 日本の陸軍の映像もあるぞ」

 富士総合火力演習の映像を見せられたランボールは、顔面が蒼白になる。

 

 ここにきて、シエリアにもこのパーティーの真の目的が分かり始めていた。

(これは非戦派を集めるためのパーティーか!)

 だがシエリアは、上司のゲスタと部下のダラスの顔を思い浮かべ、憂鬱になる。外務省は自らの過ちを簡単には認めないだろう。ハイラス殿下が殺された事件を機に、外務省には粛清の嵐が吹き荒れた。非戦派は次々と更迭され、主戦派に取って代わられた。今は講和を唱えることすら憚られるような雰囲気なのだ。

 

「確かにこのような兵器が大量に配備されていたら、我が陸軍も苦戦するでしょうな」

 これがランボールにできる最大の表現だった。精神論がまかり通っている陸軍では、敗北を口にするのは憚られる。その点では外務省に似ている。

「日本の陸軍は、戦車だけで600両を配備している。また全ての師団が自動車化(モータリゼーション)されていて、馬匹は全くない」

 カイザルの言葉に、ランボールは絶句した。

「唯一の救いは、転移前の日本は専守防衛が戦闘教義(ドクトリン)だったことだ。そのため海外派兵能力(パワー・プロジェクション)に欠ける。だから第二文明圏で大規模な戦闘が起きても、直ちに派兵することは難しいだろう。だが──」

 カイザルはここで一拍置いた。

「日本も転移から3年が経っている。それなりの準備はしているだろう。実際、ロウリア王国とパーパルディア皇国を降している」

「いずれの国も、極東のへき地ですな」

「第三文明圏だ」

 ランボールの強がりを、ラクスタルが訂正する。

 カイザルが目配せすると、バミダルが電卓を差し出した。

「これが日本の計算機だ。我が国で同じものを造ろうとすると、タイプライター並みの大きさになってしまう」

 ランボールはバミダルの手から電卓を取り上げると、いじり始めた。

「その計算機は太陽光のエネルギーで動いている。事実上の永久機関だ」

 ランボールの顔が、更に蒼白になった。

「議員閣下もどうです? 見てみませんか」

 カイザルに促されて、ギーニがランボールから電卓を受け取る。しばらくいじっていたが、降参したかのように首を横に振る。

「それは日本では機密でも何でもない。一般庶民に二束三文で売られている日用品だ」

 その言葉に、一同は呆然とする。

「そして、ムーでもそうなりつつある」

 今度は、一同は危機感に襲われる。

「帝国は、絶対に敵に回してはいけない相手に、喧嘩を売ってしまった。一度発した言葉は、取り消せない」

 全員が思わずシエリアを振り向く。

「貴殿を責めているわけではない。貴殿は命令に従っただけだ」

 カイザルのその言葉で、全員の視線がカイザルに戻る。シエリアはほっとした。

「振り上げた拳はどこかに降ろすしかない。問題はどこに降ろすかだ」

 それを聞いて、シエリアは気が遠くなった。今の外務省では、日本本土に武力(こぶし)を降ろしかねない。当然、日本はそれを黙って見ていないだろう。

「シエリア殿、頼んだ物は持ってきてくれたかね?」

 ラクスタルに問われて、シエリアは我に返った。

「それはお断りした筈です。私の権限を越えています」

「フム、職務に忠実なのは悪いことではない。だが愚鈍になられては困る。貴殿の上司や部下の様にな」

 カイザルが誰のことを言っているのか、シエリアにはすぐに分かった。

 カイザルはランボールの方に向き直る。

「これから言う緯度経度に、何があるか知っているかね?」

 カイザルが数値を告げると、ランボールが白い顔のまま問い返した。

「何故、そこをご存知なのですか?」

「やはり陸軍の秘密施設か。実は俺は何も知らん。教えてくれたのは、日本だ」

「日本?」

「その現場にいたのが、シエリア殿だ」

 再び全員の視線が、シエリアに集まる。シエリアはついに観念した。

 

「……というわけなのです」

「噂は本当だったのか」

 ギーニは深刻な顔で呟いた。

「本土の位置ばかりか、地理まで敵に把握されていたとは」

「カイザル閣下」

 今度はランボールが深刻な顔で、カイザルに話しかけた。

「小官は職責上、今日知り得たことを、ジークス閣下に報告しなければなりません」

 カイザルは頷く。

「当然だ。帝都の防衛に関する重大事項だからな。ついでに伝言も頼む。『共に帝国を焦土としない(みち)を探したい』とな」

「確かに承りました。申し訳ありませんが、小官はこれで失礼します」

 ランボールは軍人たちに敬礼を、それ以外に一礼をすると、帰路についた。

「せっかちなやつだな。慌てるナントカは貰いが少ないのに」

「まだ何かあるの?」

 それまで黙って成り行きを見守っていたミレケネスが訊いた。

「ちょいと頭の体操をしてみよう」

 カイザルの悪い癖がまた始まった、ミレケネスはそう思った。教官にはラクスタルよりカイザルの方が向いているのではないかと思った。

「日本が持ち出した本土の地図だが、出所はどこだと思う?」

「貴女はどう思うかしら?」

 ミレケネスは質問をシエリアに丸投げした。

「えっ!……それはやはり、鹵獲された軍艦からでしょう」

 シエリアの答えを聞いて、ミレケネスは両手の人差し指で、自分の口の前でバツ印を作った。グラ・バルカスの『不正解』のゼスチャーだ。

「それはあり得ないわ。だって艦隊司令長官すら知らなかった陸軍の秘密施設が、その地図には載っているのよ」

「あ……」

 シエリアは頭が真っ白になった。

内部通報者(スパイ)かね?」

 意外なことに、ギーニが答えた。

「まあ普通なら、そう考えるのが妥当でしょうな」

 カイザルの返事を聞くや、ギーニは行動を起こした。

「そういうことなら、私も力になれる。防諜関係には知り合いがいるのでね。さっそく力にならせて貰おう」

 ギーニは自分の外套に手をかけた。

「議員閣下、日本との戦争回避の件も、お忘れなく」

「分かっている。国が滅んだのでは、私も元も子もないからな」

 ギーニも帰路についた。

 カイザルがぼやく。

「だから貰いが少ないって言ったのに……」

「違うの?」

 ミレケネスが不思議そうに訊いたので、カイザルは正解を持ち出した。

「これはムーで発行されている日本の雑誌だ。ここに重大な記事が載っている」

 ミレケネスはカイザルから、ひょいと『別冊宝大陸』を取り上げた。

「……なんて書いてあるの?」

 ミレケネスはムー語が読めない。

「日本は人工衛星を保有している」

「人工衛星?」

「文字通り人工の天体だ。こいつがこの惑星の周囲を回っていて、惑星の全表面を監視している。少なくとも4基の衛星が稼働しているらしい」

「何よ、それ。カンニングじゃない!」

「そうだ。日本は……」

「日本じゃなくて、カイザル、アンタよ! 何が『頭の体操』よ。アンタはこの雑誌でカンニングしたんじゃない!」

「おいおい、そっちかよ!」

 これはその場にいた全員の気持ちでもあった。

 カイザルは誤魔化すため、頭を掻いた。

「日本にこちらの動きは、全て筒抜けだ。しかもそれを防ぐ手段はこちらにはない。この条件で勝てると思うか?」

「勝てませんぜ」

 それまで空気になっていたフラグストンが答える。見るとフラグストンは、『メカドラ・イン・ムー』で遊んでいた。

「おまえ、いつの間に……」

 元上司のラクスタルが呆れたように声を出すが、フラグストンは悪びれた様子もなく、先を続ける。

「この『アドバンスト大戦略』という図上演習(ゲーム)はよく出来てますよ。最初に索敵の設定を選べるんです。こちらのみに索敵の制限がかかる『上級』と、正反対の『下級』では、全く別のゲームです」

「ふーん、現実と同じじゃ、確かにいい演習なのかもしれないわね」

 ミレケネスが、いささか投げやり気味に発言する。

「カイザル、早く(拳の)着地点を探しましょう。貴女も協力してくれるわね」

「わ、私ですか?」

 シエリアは慌てた。

「シエリア殿、今のところ我々に外務省の伝手は、貴殿しかいないのだ」

 ラクスタルに迫られて、シエリアは観念した。

「……私は何をすればよいのでしょうか?」

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