日本国召喚・異聞録   作:無虚無虚

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第13話『日本の告白』

 会談は、日本の外務大臣が口火を切った。

「列強各国の皆様にお集まりいただいたのは、我が国が入手した情報を共有するためです」

 その場にいた他の3ヵ国の外交官は、グラ・バルカス帝国のことだろうと推測した。

「古の魔法帝国に関する情報です」

 だから、この言葉に全員が驚いた。

「ほう、転移国家の日本が、魔法帝国について語るとは」

 モーリアウルが、半ば驚いたような、半ば馬鹿にしたような言葉を吐く。

「疑問に思われるのも無理はありません」

 外務大臣はそう言うと、朝田に合図をした。朝田はコンソールを操作して、会議室のディスプレイに映像を映した。

「これは……何ですかな?」

 ムーの外務大臣のミケーネスは理解できなかったが、リアージュとモーリアウルは驚いた。

「何故これを貴国が?」「何故日本がこれを知っている?」

「リアージュ殿とモーリアウル閣下はご存知でしたか」

 外務大臣は確認のために言うと、ミケーネスに告げた。

「これは、魔法帝国の遺跡の一部です」

「こ、これが遺跡ですか! 噂には聞いていましたが、映像で見るのは初めてです」

 ミケーネスは感心した。

「貴国はどこでこれを手に入れたのですか?」

 リアージュが問う。

「カルアミーク王国をご存知ですか?」

 外務大臣が尋ねたが、誰も知らなかった。

 朝田がディスプレイに地図を映す。

「我が国よりさらに北東にある島国です」

 それを見て一同は驚いた。そんな国どころか、島があることさえ知らなかったのだ。

「その島で発見したということか」

 モーリアウルが推理する。

「その通りです」

「貴国はこの遺跡の解読に、成功したのですか?」

 リアージュが尋ねた。

「はい」

 朝田が再び遺跡をディスプレイの左半分に映した。

「我が国が調査したところ、コア魔法の原理と構造を記したものだと判明しました」

 その場が凍り付いた。

「何故そう言える?」

 モーリアウルの言葉を聞いて、朝田がディスプレイの右半分に、3ヵ国の公用語で、石板に刻まれた文字を表示した。

 

『円筒状の石柱内部に爆発部分の分割した球状のコアを入れ、爆裂魔法を発動させることでコアを合体させ、さらに多方向から同時に爆圧で包み込むことにより、原子の分裂を引き起こして高威力の爆発を発生させる』

 

「これが石板に刻まれていた文の一部です。実は我が国がかつていた旧世界に、これと同じ原理の爆弾が存在したのです」

 朝田はディスプレイの遺跡の映像を、プルトニウム爆弾の写真と差し替える。

「旧世界では、核兵器と呼ばれていた兵器です」

 あまりにも予想外の内容に、3ヵ国の外交官は言葉が出なかった。

「それだけではありません。コア魔法を運搬する手段も書かれていました」

 朝田が右半分の文字を差し替える。

 

『石柱は推進器を備えており、空気の上の層まで飛び、対象国の目標に垂直に落下、星のどこでも攻撃できる』

 

「これに該当する兵器も、旧世界にありました」

 朝田が写真を、大陸間弾道ミサイル(ICBM)のものに差し替える。

「大陸間弾道ミサイルです」

 3ヵ国の外交官は、また呆然とした。

「このような知識があったので、我が国は古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国の存在を信じています」

「日本がいた旧世界とは、どのような世界だったのだ? 何故滅びなかった?」

 ようやくモーリアウルが質問の声をあげる。

「旧世界には、核兵器を大量に配備していた国が、複数存在したのです。それらの超大国は、互いに核兵器を突き付け合っていましたが、使えなかったのです。使えば報復攻撃で、自分も確実に滅びるからです」

 また3ヵ国の外交官は呆然とする。ラヴァーナル帝国が複数存在するなど、想像を絶する修羅の世界だ。そのような世界を生き延びてきたのなら、日本の科学技術が突出して高いのも、兵器が極端に高性能なのも頷ける。

「貴国は、コア魔法を、カクヘイキを保有しているのですか?」

 リアージュが訊いた。

「いいえ、我が国は核兵器を保有していません」

 外務大臣は再び朝田に合図する。朝田は全画面に新たな動画を再生した。

 それは1945年8月6日の広島の映像だった。

「世界で初めて核兵器が使われたときの映像です。被爆地は広島、我が国の都市です」

 映像の凄惨さに、外交官たちは息を呑む。

「その凄惨さに、世界は核兵器を使うのを、躊躇(ためら)うようになったのです」

「ラヴァーナル帝国の光翼人は、躊躇ったりなどしない!」

 珍しくモーリアウルが声を荒げた。驚く外務大臣に対し、モーリアウルは竜魔大戦のきっかけとなった革バッグ事件を話した。

 話を聞いた外務大臣の表情が強張る。

「なんという残忍な……やはりラヴァーナル帝国は、相容れない相手なのですな」

 モーリアウルは大きく頷いた。

「モーリアウル殿、魔法帝国が復活するのは、確実なのですな?」

 ミケーネスが訊いた。

「空間占いの結果だ。遅くとも25年、いや24年後には復活する」

 ミケーネスは頭を抱えた。

「時間が無さ過ぎる……そのような強大な敵と戦うなど無理だ!」

 リアージュも青い顔色をしている。だがモーリアウルは平然と日本の外務大臣に訊いた。

「そのコア魔法を防ぐ(すべ)を、日本国は持っているのではないか?」

 外務大臣は驚いた顔をした。

「何故ご存知なのですか?」

「貴殿が話したから、こちらも話そう。空間占いでは未来は確定しなかった。だが日本国がカギを握っているということだけは分かったのだ」

 リアージュとミケーネスが、期待と不安の混じった視線を、外務大臣に浴びせた。

「……我が国には弾道ミサイル防衛(BMD)システムがあります。ICBMを迎撃できる誘導弾です」

 ミケーネスの表情が明るくなる。

「ですが、BMDは同盟国と共同で開発したもので、我が国単独では、まだ作れないのです」

 ミケーネスの顔色が、また悪くなる。

「やはりな。日本国がカギを握っているとは、そのBMDのことだったのか」

 モーリアウルは納得した表情をしていた。

「いずれにせよ、グラ・バルカス帝国などという雑魚と、戦争をしている暇などないのです。彼らが魔法帝国の存在を信じないのは、彼らの勝手ですが、それに我々が付き合って滅ぶ道理などないのです」

 3ヵ国の外交官は同意を示して頷く。

「ですが、グラ・バルカス帝国が脅威であることは事実です。この戦争を終わらせる妙案がありますか?」

 リアージュが3人を代表して訊いた。

「そんな便利なものはありません。あればとっくに使っています」

 3人は失望と納得の、両方を同時に味わった。

「旧世界で我が国は、専守防衛を戦闘教義(ドクトリン)としていました」

 それを聞いた3人は改めて驚く。あれほど精強な艦隊を持ちながら、防衛に徹しなければならなかったとは……日本がいた旧世界とは、とんでもない修羅の世界だったに違いない。

「それゆえ、国外に派兵する手段が限られているのです。グラ・バルカス帝国本土を攻撃・占領できれば、それが最善なのですが、我が国にはその手段がありません」

 口が乾いたのか、外務大臣はペットボトルから水を一口飲んだ。

「ですが、我々4ヵ国が結束すれば、状況は改善できます」

「それは軍事同盟の申し出と受け取ってよいのだな?」

 3人を代表するかのように、モーリアウルが問うた。

「その通りです」

「ウム、話は分かった。貴殿の言い分も筋が通っている。だが私個人が決めることはできない」

 リアージュとミケーネスも頷く。

「それは承知しています。ですから本国にこの提案を持ち帰って、検討して頂きたいのです」

「それには異存ない」

 モーリアウルが答える。

「私も約束しましょう」

「私も皇帝陛下に伝えます」

 ミケーネスとリアージュも答えた。

「では、4ヵ国の同盟によって何ができるのか、今分かる範囲だけでも話し合いたい」

 そして会談は続いたのだった。

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