会談は、日本の外務大臣が口火を切った。
「列強各国の皆様にお集まりいただいたのは、我が国が入手した情報を共有するためです」
その場にいた他の3ヵ国の外交官は、グラ・バルカス帝国のことだろうと推測した。
「古の魔法帝国に関する情報です」
だから、この言葉に全員が驚いた。
「ほう、転移国家の日本が、魔法帝国について語るとは」
モーリアウルが、半ば驚いたような、半ば馬鹿にしたような言葉を吐く。
「疑問に思われるのも無理はありません」
外務大臣はそう言うと、朝田に合図をした。朝田はコンソールを操作して、会議室のディスプレイに映像を映した。
「これは……何ですかな?」
ムーの外務大臣のミケーネスは理解できなかったが、リアージュとモーリアウルは驚いた。
「何故これを貴国が?」「何故日本がこれを知っている?」
「リアージュ殿とモーリアウル閣下はご存知でしたか」
外務大臣は確認のために言うと、ミケーネスに告げた。
「これは、魔法帝国の遺跡の一部です」
「こ、これが遺跡ですか! 噂には聞いていましたが、映像で見るのは初めてです」
ミケーネスは感心した。
「貴国はどこでこれを手に入れたのですか?」
リアージュが問う。
「カルアミーク王国をご存知ですか?」
外務大臣が尋ねたが、誰も知らなかった。
朝田がディスプレイに地図を映す。
「我が国よりさらに北東にある島国です」
それを見て一同は驚いた。そんな国どころか、島があることさえ知らなかったのだ。
「その島で発見したということか」
モーリアウルが推理する。
「その通りです」
「貴国はこの遺跡の解読に、成功したのですか?」
リアージュが尋ねた。
「はい」
朝田が再び遺跡をディスプレイの左半分に映した。
「我が国が調査したところ、コア魔法の原理と構造を記したものだと判明しました」
その場が凍り付いた。
「何故そう言える?」
モーリアウルの言葉を聞いて、朝田がディスプレイの右半分に、3ヵ国の公用語で、石板に刻まれた文字を表示した。
『円筒状の石柱内部に爆発部分の分割した球状のコアを入れ、爆裂魔法を発動させることでコアを合体させ、さらに多方向から同時に爆圧で包み込むことにより、原子の分裂を引き起こして高威力の爆発を発生させる』
「これが石板に刻まれていた文の一部です。実は我が国がかつていた旧世界に、これと同じ原理の爆弾が存在したのです」
朝田はディスプレイの遺跡の映像を、プルトニウム爆弾の写真と差し替える。
「旧世界では、核兵器と呼ばれていた兵器です」
あまりにも予想外の内容に、3ヵ国の外交官は言葉が出なかった。
「それだけではありません。コア魔法を運搬する手段も書かれていました」
朝田が右半分の文字を差し替える。
『石柱は推進器を備えており、空気の上の層まで飛び、対象国の目標に垂直に落下、星のどこでも攻撃できる』
「これに該当する兵器も、旧世界にありました」
朝田が写真を、
「大陸間弾道ミサイルです」
3ヵ国の外交官は、また呆然とした。
「このような知識があったので、我が国は古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国の存在を信じています」
「日本がいた旧世界とは、どのような世界だったのだ? 何故滅びなかった?」
ようやくモーリアウルが質問の声をあげる。
「旧世界には、核兵器を大量に配備していた国が、複数存在したのです。それらの超大国は、互いに核兵器を突き付け合っていましたが、使えなかったのです。使えば報復攻撃で、自分も確実に滅びるからです」
また3ヵ国の外交官は呆然とする。ラヴァーナル帝国が複数存在するなど、想像を絶する修羅の世界だ。そのような世界を生き延びてきたのなら、日本の科学技術が突出して高いのも、兵器が極端に高性能なのも頷ける。
「貴国は、コア魔法を、カクヘイキを保有しているのですか?」
リアージュが訊いた。
「いいえ、我が国は核兵器を保有していません」
外務大臣は再び朝田に合図する。朝田は全画面に新たな動画を再生した。
それは1945年8月6日の広島の映像だった。
「世界で初めて核兵器が使われたときの映像です。被爆地は広島、我が国の都市です」
映像の凄惨さに、外交官たちは息を呑む。
「その凄惨さに、世界は核兵器を使うのを、
「ラヴァーナル帝国の光翼人は、躊躇ったりなどしない!」
珍しくモーリアウルが声を荒げた。驚く外務大臣に対し、モーリアウルは竜魔大戦のきっかけとなった革バッグ事件を話した。
話を聞いた外務大臣の表情が強張る。
「なんという残忍な……やはりラヴァーナル帝国は、相容れない相手なのですな」
モーリアウルは大きく頷いた。
「モーリアウル殿、魔法帝国が復活するのは、確実なのですな?」
ミケーネスが訊いた。
「空間占いの結果だ。遅くとも25年、いや24年後には復活する」
ミケーネスは頭を抱えた。
「時間が無さ過ぎる……そのような強大な敵と戦うなど無理だ!」
リアージュも青い顔色をしている。だがモーリアウルは平然と日本の外務大臣に訊いた。
「そのコア魔法を防ぐ
外務大臣は驚いた顔をした。
「何故ご存知なのですか?」
「貴殿が話したから、こちらも話そう。空間占いでは未来は確定しなかった。だが日本国がカギを握っているということだけは分かったのだ」
リアージュとミケーネスが、期待と不安の混じった視線を、外務大臣に浴びせた。
「……我が国には
ミケーネスの表情が明るくなる。
「ですが、BMDは同盟国と共同で開発したもので、我が国単独では、まだ作れないのです」
ミケーネスの顔色が、また悪くなる。
「やはりな。日本国がカギを握っているとは、そのBMDのことだったのか」
モーリアウルは納得した表情をしていた。
「いずれにせよ、グラ・バルカス帝国などという雑魚と、戦争をしている暇などないのです。彼らが魔法帝国の存在を信じないのは、彼らの勝手ですが、それに我々が付き合って滅ぶ道理などないのです」
3ヵ国の外交官は同意を示して頷く。
「ですが、グラ・バルカス帝国が脅威であることは事実です。この戦争を終わらせる妙案がありますか?」
リアージュが3人を代表して訊いた。
「そんな便利なものはありません。あればとっくに使っています」
3人は失望と納得の、両方を同時に味わった。
「旧世界で我が国は、専守防衛を
それを聞いた3人は改めて驚く。あれほど精強な艦隊を持ちながら、防衛に徹しなければならなかったとは……日本がいた旧世界とは、とんでもない修羅の世界だったに違いない。
「それゆえ、国外に派兵する手段が限られているのです。グラ・バルカス帝国本土を攻撃・占領できれば、それが最善なのですが、我が国にはその手段がありません」
口が乾いたのか、外務大臣はペットボトルから水を一口飲んだ。
「ですが、我々4ヵ国が結束すれば、状況は改善できます」
「それは軍事同盟の申し出と受け取ってよいのだな?」
3人を代表するかのように、モーリアウルが問うた。
「その通りです」
「ウム、話は分かった。貴殿の言い分も筋が通っている。だが私個人が決めることはできない」
リアージュとミケーネスも頷く。
「それは承知しています。ですから本国にこの提案を持ち帰って、検討して頂きたいのです」
「それには異存ない」
モーリアウルが答える。
「私も約束しましょう」
「私も皇帝陛下に伝えます」
ミケーネスとリアージュも答えた。
「では、4ヵ国の同盟によって何ができるのか、今分かる範囲だけでも話し合いたい」
そして会談は続いたのだった。