ミネイスは10機の〈ヤムート〉の飛行中隊を率いていた。
「アルファリーダーより、各アルファ機へ。敵は〈アンタレス〉だ。
『『『
応答が返ってくるのとほぼ同時に、レーダーに反応が現れる。
「レーダーに感あり! 敵12騎、エンゲージ!」
アルファ隊が二手に分かれる。ひとつが上昇し、運動エネルギーを位置エネルギーに変換する。もう一方は敵の高度に合わせ、わずかに降下する。
正面から相対する5機と12騎。どちらも進路を変えようとしない。まるでチキンレースだ。
先に5機がロケット弾を発射すると同時に回避運動に入る。だが当たらない。回避した5機の〈ヤムート〉の後ろに回り込むように、敵騎が旋回をする──
「もらった!」
ミネイス率いる5機が急降下で、水平運動中の敵騎に襲いかかる。必殺の間合いでロケット弾を発射──
「なにぃ!!」
敵騎は急減速と急上昇を同時に行った。ロケット弾は外れ、ミネイス機は敵騎の前に飛び出す格好になった。
「こちら7。アルファリーダー、援護する」
〈ヤムート〉7番機が、ミネイス機の後ろの敵騎の更に後ろにつく。
「止めろ、罠だぞ!」
ミネイスはスロットルを全開にした。双発のF3エンジンが咆哮し、ミネイス機を加速させる。ミネイス機は敵騎から脱出したが、7番機は下から襲ってきた敵騎に撃墜された──
『こちらアイナンク・タワー、訓練終了。全機は空港へ帰還せよ』
管制塔の指示に従い、10機の〈ヤムート〉は、アイナンク空港へ帰投した。
「我と相棒が、冷や汗をかいたのは久しぶりだ。決して悪くはなかったぞ。相手が本物の〈アンタレス〉であれば、勝てたやもしれぬ」
10対0で勝ったウージは、ご機嫌だった。だが敗れたミネイスたちは、そうはいかない。〈ヤムート〉に乗り始めて、まだ経験が浅い。だがそれは慰めにならなかった。グラ・バルカス軍は、ルーキーが相手だからといって、手を抜いてくれるようなお人好しではないのだ。
両者は互いに敬礼して、異機種間戦闘訓練は解散となった。
「参ったねぇ。エモールが列強なのは、伊達じゃないってことか」
ケスラーがおどけた調子で言うが、空回りしている。
「『
ミネイスは血走った目で、自分自身に誓った。
第1護衛隊群とミリシアルの第1魔導艦隊は、オタハイト港を出港し、ムー大陸を南回りでバルチスタ沖に向かっていた。
「最新の衛星写真です」
群司令の南雲海将補は、プリントアウトした写真を受け取る。その名前から、太平洋戦争当時の有名な提督の子孫と間違われるのが悩みの種だった。
「ムー大陸周辺の敵影は、北回りの艦隊のみか」
「敵は艦隊決戦をやる気がなさそうですな」
主席参謀が答える。
「この後待っているのは、気が遠くなるようなモグラ叩きか」
「まあ衛星がありますから、不意を突かれる可能性はありません。グラ・バルカス海軍の潜水艦は可潜艦で、通常航行は浮上していますし」
「油断は大敵だが、『スーパーハンマー作戦』は成功するだろう。問題は『スーパーハンマーⅡ』の方だな」
「そっちは我々はタッチできません。神聖ミリシアル帝国に丸投げですから。日本としては、成功すれば儲けものです」
柘植三等陸佐をリーダーとする特殊作戦群の1個小隊は、越境してから1日で目的地に着いた。
(滑走路に格納庫、弾薬庫。あれは対空銃座で、あっちは両用砲かな? 攻撃目標に入れておくか)
小隊の一人が物音を立てずに、柘植の近くに来た。
「隊長、地下通路の入り口を発見しました」
「よくやった。カメラを仕掛けておけ」
「レンジャー」
報告者はレンジャー徽章持ちだった。だが
航空自衛隊第8航空団/第6飛行隊は、
第6飛行隊隊長の御空二等空佐は、乗機の〈F-2〉から降りる。同僚の近田一等空尉が近寄ってきた。
「カルトアルパスの次はムー、はるばる来ましたね」
「今度は日帰りでなくてよかったよ」
ムー国人の整備士が、わらわらと集まってくる。
「ご苦労様です」
整備士長らしい人物が敬礼する。御空たちパイロットも答礼する。
「機体は丁寧に扱ってくれよ」
「はい。〈ヤムート〉で経験があります」
御空は近田に確認した。
「〈ヤムート〉って何だ?」
「〈T-4改〉のことですよ。元々は、古代日本を指す言葉だったらしいです」
整備士たちは、機体をすでに
「見ろよ、〈F-2〉だ。どうせなら、あっちに乗りたかったな」
ケスラーがミネイスに語り掛ける。
〈ヤムート〉隊は『スーパーハンマー作戦』に備え、アイナンク空港から前線に近いリュウセイ基地へ移動していた。
「〈
「そいつはパイロット次第だ」
ケスラーの言葉に、ミネイスが反論した。
「〈ヤムート〉だって、風竜に勝てるはずなんだ」
ケスラーはミネイスの肩を叩いた。
「力を抜け。風竜はあくまで訓練相手だ。速度が近いから、〈アンタレス〉を想定した仮想敵になってもらっただけだ。『第一次フォーク海峡海戦』の結果を見る限り、風竜は〈アンタレス〉よりかなり強い。俺たちは〈アンタレス〉に勝てばいいんだ」
「……フォーク海峡では、風竜も墜とされているぞ」
「〈アンタレス〉は風竜ほど小回りが効かない。〈ヤムート〉のエナジー・ファイトで墜とせるさ」
ミネイスはケスラーの助言に従って、肩の力を抜いた。
「そうだな。俺たちは勝てる! だって俺は、すでに3機墜としている!」
「俺は4機だ。エースを狙うぞ」
風竜に一度も勝てなかったパイロットたちは、気を取り直して、英気を養う。
『スーパーハンマー作戦』開始日。
ミネイスら〈ヤムート〉隊30機は、真っ先に空中に上がる。後から風竜騎士団12騎も参加する予定だ。
「アルファリーダーより全機へ」
ミネイスが無線で語り掛ける。
「我々の任務は陽動だ。1機でも多くの〈アンタレス〉を引き付けろ」
『こちらブラボーリーダー、ついでに撃墜しても構いませんか?』
ケスラーが混ぜっ返す。
「もちろんだ。ただし、生きて帰ること。これが絶対条件だ。わかったか?」
『『『
〈ヤムート〉隊は国境へ接近する。直ちに
『こちらブラボーリーダー。ここは俺たちに任せて、アルファ中隊はレイフォリアへ行け!』
「どういう風の吹き回しだ?」
『いや、まずエース入りを先に確定しようと思って……それにこのセリフ、一度言ってみたかったんだ』
「まったく……それじゃお言葉に甘えさせてもらうぞ」
アルファ中隊の〈ヤムート〉は高度を下げて増速し、〈アンタレス〉を躱して、レイフォリアを目指す。要撃機はブラボー中隊と格闘戦を展開した。
レイフォリアのグラ・バルカス帝国陸軍対空監視所は、対応に追われた。
「報告によると、敵機数およそ30」
「
「〈マリン〉相手に何やってんの?」
「そこの〈ベガ〉、早く滑走路を空けろ。戦闘配置だぞ!」
「〈アンタレス〉が足りない? 海軍に頼め! 港に空母がいるだろう」
怒号が飛び交う中、衝撃的な情報がもたらされる。
「レーダーで捉えた。敵15機、時速……時速1000キロで接近中? 〈マリン〉じゃない!」
「ムーの新型か?」
「気をつけろ。日本製かもしれないぞ!」
「海軍から連絡。艦載機を出すため、空母が出港する」
岸壁に接岸していたペガスス級空母〈マタル〉が出港した……が、その直後、〈マタル〉から火柱が上がった。
港は騒然となる。
「なんだ! 事故か?」
だが〈マタル〉だけではなかった。レイフォリア湾にいたタウルス級重巡洋艦〈エレクトラ〉、キャニス・メジャー級巡洋艦〈フルド〉、レオ級巡洋艦〈ラサラス〉が炎上した。
『敵襲! 敵襲!』
レイフォリア港に警報が流される。だが敵の姿は見えない。
第1護衛隊群の旗艦〈いずも〉の
「全弾命中です。残る防衛艦隊は駆逐艦6隻のみ」
「よろしい。攻撃続行だ」
〈SSM-1B〉による100キロ先からの攻撃は、完全にグラ・バルカス海軍の意表を突いた。
「ミリシアル第1魔導艦隊には、駆逐艦の掃討が終わるまで湾内突入を待つよう、念を押してくれ。敵には魚雷があるからな」
ミリシアル第1魔導艦隊旗艦〈カレドヴルフ〉で、レッタル・カウラン司令は、第1護衛隊群から転送された映像を、日本から貸し出された装置で見ていた。
「凄いな。この艦の最大射程の3倍の距離で、全弾命中とは……これが誘導魔光弾か」
レッタルの呟きを、艦長のタグスは聞いていた。
「日本が味方でよかったです。グラ・バルカス帝国の甘言に乗って、日本を敵に回していたら、アレが我々に飛んできた筈です」
「全くだ。だがラヴァーナル帝国もアレを持っていると思うと、あまり気楽にはなれんな」
「今は目の前の戦いに集中しましょう」
「もっともだ」
通信士が報告する。
「第1護衛隊群から通信。『敵小型艦を掃討するまで突撃を待たれよ』です」
「そうか。もう少し高みの見物をさせてもらおう」
レッタルがそう言い終わる前に、第2波の〈SSM-1B〉が発射された。
レイフォリア上空は、派手な空中戦が展開されていた。
「アルファ7、右へ
ミネイスは部下へ指示を出すと、7番機の後方に回り込もうとした〈アンタレス〉にロケット弾を撃つ。
〈アンタレス〉も回避運動を開始したが間に合わず、左主翼を吹き飛ばされた。そのままきりもみ状態になり、市街地へ墜落する。パイロットの脱出は確認できなかった。
ミネイスはロケット弾の残弾数を確認した。
(あと1回が限界か。ケスラーはよく4機も墜とせたな)
そのケスラーが率いるブラボー中隊は、レイフォリアには来ない。迎撃機が次々と上がってきて、交戦中にロケット弾が切れたため、リュウセイ基地に帰投したからだ。
「こちらアルファリーダー、弾切れの機体は直ちに離脱せよ」
ミネイスがそう命じると、ほとんどの〈ヤムート〉が離脱する。
(おいおい、ずいぶん無駄弾撃ったな。てか、弾切れで戦場に留まっていたのか? よく撃墜されなかったな!)
気がついたら、〈ヤムート〉はミネイス機のみになっていた。〈アンタレス〉たちが包囲せんと群がってくる。
「ちっ!」
ミネイスはスロットルを全開にすると、目の前を横切ろうとした〈アンタレス〉に、残ったロケット弾を全部放った。だが当たらない。
(やはり後ろを取らないと当たらないか)
そのまま最高速度差を利用して振り切ろうとしたが、1機の〈アンタレス〉に食らいつかれる。低速からの加速は、ジェット機よりレシプロ機の方が速い。〈アンタレス〉が20ミリを撃ってきた。ミネイスは機体を
20ミリを撃った〈アンタレス〉の方が爆散した。
(?)
ミネイスはレーダーに新たな騎影が映っているのに気づいた。
『ムー国人、よく頑張った。後は我らに任せよ』
竜人族独特の低音が魔信から響く。
「5分遅刻ですよ」
『誤差の範囲内だ』
(やれやれ)
そう思いながらも、ミネイスは有難く戦場から離脱した。
レイフォリア上空は、ジェット機対レシプロ機から、レシプロ機対ドラゴンにステージが変わった。
レイフォリア湾では、6隻の駆逐艦が燃えていた。
ミリシアル第1魔導艦隊旗艦〈カレドヴルフ〉の艦橋で、レッタルは通信士の報告を受けた。
「第1護衛隊群より通信。『障害は排除した。突撃されたし』、以上」
レッタルはおもむろにタグスに命じた。
「戦艦、突撃せよ」
「両舷全速前進」
タグスが命じると、ミスリル級魔導戦艦は使命を果たすべく加速を開始した。
グラ・バルカス帝国軍レイフォリア司令部は、
「ムーの新型の次は、ワイバーンだと!?」
「〈アンタレス〉隊、何やっている? 相手はワイバーンだそ!」
飛行隊から反論が返ってきた。
『あれは
司令部の要員は驚いた。だが返信に対するリアクションは無かった。直後に砲弾が司令部を直撃したからだ。
「第1射、目標に命中!」
〈カレドヴルフ〉の
「相手は動かない地上目標です。この程度は俸給のうちです」
タグスは砲術長に頷くと、レッタルの方に顔を向けた。
「風竜騎士団を援護する。次の目標は滑走路、その次はレーダー基地だ」
艦隊司令のリクエストに応えるべく、〈カレドヴルフ〉は主砲を斉射した。
第1護衛隊群は、その様子をレーダーで観測していた。
「奇妙ですね」
海上自衛隊でただ一人の女性の隊司令の西第1護衛隊司令が、誰に言うともなく発言した。
「ミリシアルの砲弾の着弾位置は、こちらのプログラムの予想位置より伸びています。飛翔中にも加速しているようです」
「ミリシアルは砲弾にも推進器を付けているのか?」
南雲群司令の質問に、西隊司令は首を傾げて見せた。
「それは、なんとも……我々の艦砲とは、やはり原理が違うのでしょう」
それを聞いた南雲群司令は、映像を見た。ミリシアルの砲弾は、青い尾を曳いていた。
その日、旧レイフォル人は、悪夢を呼び覚まされることになった。
最終的にレイフォル湾入り口近くにまで進出した〈カレドヴルフ〉は、容赦なくレイフォリアに砲弾の雨を降らせた。
その目標は軍施設、行政施設、グラ・バルカス人居住区に絞られ、旧レイフォル人が多くいる地域は慎重に避けられていた。
グラ・バルカス人は、艦砲射撃が自分たちの専売特許でないことを思い知らされた。その青い尾を曳く砲弾は、『ミリシアルの青い虹』と恐れられるようになった。
「魔導レーダーに感あり! 東から航空機多数が接近。距離およそ70
報告を〈カレドヴルフ〉の艦橋で受けたレッタルは、即座に通信士に命じた。
「第1護衛隊群に支援を要請せよ」
通信士は命令に従った。だがすぐに報告した。
「第1護衛隊群より返信。『すでに対処済み。なれど念のため対空警戒を厳とされたし』、以上」
「各対空銃座は備えよ」
艦長のタグスは命じた。だが有難いことに、命令は杞憂で終わった。
こうしてレイフォリアには再び砲弾の雨が降り、市街地は炎に包まれた。
『スーパーハンマー作戦』の前半は成功したのだ。