時間を少し遡る。
レイフォリアが空襲されているという情報は、バルクルス基地にも届いていた。
「くそっ、ムーめ! オタハイトを空襲された意趣返しか!!」
事実上、基地司令を兼任するガオグゲル軍団長が毒づく。
「哨戒飛行中を除く〈アンタレス〉を、全てレイフォリアに向かわせろ」
命令に従い、『オタハイト空襲』で減った、なけなしの〈アンタレス〉が空に上がった。彼らはレイフォリアに針路を取った。
(始まった、始まった)
柘植三等陸佐は、遠くから響いてくるサイレンを聞きながら、命令を待っていた。
『SH司令部より、ラビットへ。状況1-3、
待望の命令が来た。柘植は即座に返信する。
「こちらラビット、状況1-3、
柘植はハンドサインで隊員たちに指示を出す。各隊員はあらかじめ決められた割り当てに従い、爆撃目標にレーザー光線を照射した。
総理の指示により、防衛省は精密誘導爆撃が可能な装備を密かに増産していた。それが〈LJDAM〉である(〈ASM-2X〉の前身はフライングだったが)。
〈LJDAM〉は、無誘導爆弾を
しかしレーザー光線による誘導を行うには、爆撃目標にレーザー光線を照射しなければならない。湾岸戦争では航空機からレーザー照射を行ったが、本作戦では〈F-2〉戦闘機は高高度から爆撃を行うため、それができない。そこで陸自の部隊がバルクルス基地周辺に潜入し、地上から照射を行うことになった。
だがこれは、極めて困難かつ危険な任務である。そこでこうした特殊任務を想定して編成された、特殊作戦群の出番となったわけである。
「第2空域、異状なし」
『了解、第3空域ヘ向かえ』
グラ・バルカス帝国レイフォル占領軍第22陸軍航空隊所属のスタバルは、第2空域哨戒の任務を終え、第3空域へ向かおうとしていた。見落としが無いよう、3機編隊で哨戒を行う。
スタバルは、滑走路から次々と〈アンタレス〉が離陸しているのに気づいた。
「こちら第22航空隊。〈アンタレス〉が緊急発進している。何があった?」
『レイフォリアが空襲を受けている。〈アンタレス〉の数が足りないので、
「我々は?」
『そのまま哨戒飛行を続けられたし』
「了解」
その直後、僚機2機が爆散した。
「何が起こったっ!?」
スタバルは反射的に、機体を翻した。何らかの未知の脅威から逃れようと、本能に従った。
だが〈AAM-4〉は見逃してくれなかった。
「こちらRUBY1、敵哨戒機を殲滅した」
〈F-15J改〉を駆る槙田二等空尉が報告する。
『了解。引き続き滞空して、制空権を維持せよ』
「了解、RUBY
だが〈F-15J改〉の出番は二度となかった。
御空は〈LJDAM〉を装着した、〈Mk82〉爆弾を満載した〈F-2〉戦闘機で、高度1万メートルを飛行していた。
コクピットの
「GLASS1よりGLASS
御空が指揮する第6飛行隊の〈F-2〉は、次々とスマート化した〈Mk82〉爆弾を投下した。
バルクルス基地では、哨戒機がレーダーから消えたため、騒ぎになっていた。
「第22航空隊、応答せよ。第22航空隊、応答せよ」
何度も呼びかけるが、返事がない。
「おそらく無線機の故障か、事故で墜落したのでは?」
「3機同時にか? あり得ないだろう」
電探士と通信士の間で、議論が始まった。だがその議論は長続きしなかった。
不意に滑走路で爆発が起きる。誰もが事故を連想した。着陸に失敗した航空機が爆発したのかと思ったのだ。だが着陸や離陸中の航空機など無かった。
今度は格納庫で爆発が起きる。もはや事故を疑う者はいなかった。
「敵襲、敵襲!」
バルクルス基地に、これまでとは違う音色のサイレンが鳴る。それをかき消そうとするかのように、次々と爆発音が響く。銃座や砲座、レーダー施設が爆発する。
「爆撃か! 対空射撃開始。手の空いた者は、防空壕へ退避だ!!」
ガオグゲル軍団長が吠える。
ガオグゲルたち司令部要員は、地下指令室に立て籠もった。しばらく経つと、爆撃が止んだ。まず歩兵が斥候に出て、地上の様子を見る。間もなく斥候が青い顔色で戻ってきた。
「どうした。まだ爆撃は続いているのか?」
「いいえ。爆撃は止みましたが、地上は酷いことになっています」
ガオグゲルたち司令部要員は、地上へ出た。
「なっ!!」
地上は更地になっていた……わけではないが、重要な施設は狙い撃ちにあったかのように破壊されていた。滑走路、格納庫、レーダーサイト、対空攻撃施設。空への備えが全て破壊されていた。
ここに至って、ガオグゲルは真相を悟った。
「くそっ! レイフォリアは陽動で、本命は
その不吉な予言は的中した。無数のエンジン音が聞こえてくる。内陸部からかき集めてきた〈マリン〉その他の複葉機が、雲霞の如く、東北の空からやってくるのが見えた。
ああ、くそ! 何か手はないか? 必死に考えるガオグゲルの頭に、一つのアイディアが閃いた。
「機関銃だ。機関銃を兵士に持たせて、塹壕へ立て籠もらせろ。機関銃で対空射撃だ!」
部下たちは直ちに命令を実行した。そんな方法で空襲を防げるとは誰も思っていなかったが、古来より言うではないか。「無いよりマシ」と。
部下を鼓舞するため、ガオグゲルも機関銃を持って、塹壕に入る。
まずは〈マリン〉が(〈マリン〉なりの)急降下爆撃で、残った建物を爆撃する。兵士たちは命令通り、対空射撃を実施する。よほど当たり所が悪かったのか、一機の〈マリン〉が墜落する。だがラッキーパンチは続かない。あらかじめ準備していなかったので、すぐに機関銃は弾切れになって、使えなくなった。
今度は〈マリン〉より旧式の複葉機が、水平爆撃を実施する。急降下爆撃でなかったのは、別に対空射撃を警戒したわけではなく、重い爆弾を抱えていては、急降下が出来ない機体だからだった。
だがバルクルス基地に複葉機より大きな損害を与えたのは、ニグラート連合のワイバーンだった。『第一次フォーク海峡海戦』の敵討ちに燃えていた竜騎士たち200騎は、兵士を狙って導力火炎弾を撃つ。狙われた兵士にとって不幸だったのは、機関銃の弾を〈マリン〉相手に撃ち尽くしてしまったことだった。塹壕が次々と火の海に変わる。ガオグゲルは部下に説得されて、地下指令室へ退避することにした。
そして〈C-2〉輸送機が、最後の仕上げをしにやって来た。
『我がムー陸軍特殊部隊、初の任務である。各員の健闘を期待する!』
部隊長の激励がスピーカーから流れる中、習志野で第一空挺団に鍛えられたムー陸軍の精鋭たちが、パラシュートでの降下に備えていた。
「「「レンジャー!」」」
激励が終わると、彼らは一斉に答えた。第一空挺団は全員がレンジャーを目指す。ムーの特殊部隊もそれに倣った。どうやら彼らは、すっかり陸自
ガオグゲルは、これまでと違うエンジン音に気づいた。空を見上げると、これまで見たことがない大型機から、白いパラシュートがタンポポの綿毛の様に舞い降りてくる。ここでガオグゲルは、四ヵ国同盟の本気度を知った。
「やつら、この基地を占領する気か!」
まだグラ・バルカス帝国陸軍でも数少ない空挺部隊。それをこれほど大量投入してくるとは!
「司令、早く避難を」
部下に急かされて、ガオグゲルは地下通路への扉に向かった。
だがガオグゲルが地下通路を2、3メートル進んだところで、目がつぶれるかと思うほどの白い閃光が光り、大音量の爆発音が響いた。柘植三佐率いる特戦群が仕掛けた、
着地したムーの特殊部隊隊員が、閃光と爆音に気づいて、次々と集まってきた。こうしてバルクルス基地司令部は、丸ごとムーの捕虜になった。
頭を失ったグラ・バルカス陸軍の諸部隊は、組織的な抵抗もできず、戦意を失い、次々と投降した。かつてガオグゲルが「要塞」と自画自賛した基地は、日本側の周到な準備によって、驚くほど呆気なく占領された。
かくしてグラ・バルカス陸軍は、アルー侵攻の足掛かりを失った。それどころか、ムー陸軍に橋頭堡をプレゼントしてしまった。
こうして『スーパーハンマー作戦』は、成功を収めた。
ムーは、アルーの防衛とレイフォル地区への橋頭堡の確保という作戦目標を達成し、『オタハイト空襲』の意趣返しまで出来た。
神聖ミリシアル帝国は、〈グレードアトラスター〉の戦場伝説を再現し、世界最強と謳われた面子を保った。
エモール王国は、ムーに恩を売ったうえに、『レイフォリア空襲』で風竜騎士団の存在感を高めた。
全体では、四ヵ国の結束の高さを示し、同時に『第二次フォーク海峡海戦』で高まったグラ・バルカス帝国の存在感を貶めることができた。
グラ・バルカス帝国の蛮行に、正義の鉄槌を下すという意味で名づけられた作戦は、その名に恥じない成果を挙げた。
だがグラ・バルカス帝国に真の恐怖を与えるための、『スーパーハンマーⅡ作戦』が、まだ残っていた。