日本国召喚・異聞録   作:無虚無虚

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第6話『死を呼ぶ青い虹』

 航空戦は、日没によって小休止を迎えた。両軍ともレーダーを備えてはいるが、目視があてにならない夜間戦闘を本格的に遂行する能力はなかった。

 ミリシアル海軍第4魔導艦隊旗艦〈スケッティア〉の艦橋では、状況分析が行われていた。

「〈エルペシオ3’〉の性能も、基地航空戦の結果も、期待を裏切らなかったと言っていいだろう。だが跳雷は……5割の損耗を出しながら、戦果が空母1隻とは……やはり地球の歴史が示す通り、友軍に多大の犠牲を強いるものなのだな」

 レッタルがぼやく。

「その結論は早計かと。〈ジグラント2〉の損害の大半は、敵直掩機によるものです。敵制空権下で攻撃を強行したのが原因ならば、跳雷の責任とは言えません」

 参謀の理路整然とした反論に、レッタルは一瞬不快感を覚えた。味方の損害の原因が兵器の欠陥でなければ、自分の作戦指揮の欠陥が原因ということになる。だがレッタルはすぐにその感情を打ち消した。指揮官は常に責任から逃れられないものなのだ。

「その主張を証明することはできるかね?」

 レッタルは意地悪ではなく、純粋な興味と好奇心から訊いた。

「こちらの制空権下でもう一度跳雷を使えばよいかと。もちろんそのような機会に恵まれればの話ですが」

 参謀は回答に条件を付けた。第4魔導艦隊の作戦目標はイルネティア島の占領であって、新兵器のテストではないのだ。

 レッタルは気を取り直す。

「夜間戦闘は、やはり水上艦を主力とするしかないか」

「はっ、こちらには魔力レーダーとチャフがあります。必ず先手を取れますし、照準の精度でも有利です」

 

「初日で空母を失うとは」

 イルネティア派遣艦隊旗艦〈オグマ〉の艦橋で、キリング提督がぼやいた。

〈サダルバリ〉は浸水を止めることができず、087号の魚雷により沈没処分された。

「パイロットと整備兵のほとんどを救助できたのは、不幸中の幸いです。艦載機は失いましたが、他の2隻の(空母艦載機の)稼働率はかなり向上します」

 参謀がフォローする。

「基地航空隊のパイロットから敵新型機の情報が得られました。対抗策も検討済みです。明日以降の航空戦では後れを取ることはないでしょう」

 キリングは参謀の言葉には、いささか懐疑的だった。

「とりあえずは目の前の夜戦に集中しよう。水上部隊には期待できると思うかね?」

「夜戦のスペシャリストのレプス級軽巡洋艦の一番艦(ネームシップ)がいます。後れを取ることはありません」

 

 軽巡洋艦〈レプス〉の艦載機、夜間偵察機〈クリムゾン〉は艦隊前方へ展開していた。

〈クリムゾン〉は小型の飛行艇だった。複葉機で、胴体こそ金属製だが主翼と尾翼は布張りという、ムー製と言われても納得しそうな航空機だ。

 当然空戦能力などない。だから夜間のみ飛行する夜間偵察機として使われている。それでも気休めに7.7ミリ旋回機銃が艇首に取り付けられている(これを使うようでは運命(さき)は知れているが)。

 このような機体でも軍の要求仕様を満たしており、調達数が少ないこともあって、軍としても夜間偵察機に金と時間と人手をかける気はないらしい。

 パイロットのハウエルは、見張り員2人を同乗させた鈍重な機体を操り、海上を旋回させる。同乗者たちは、この偵察機よりも貴重な存在だ。グラ・バルカス海軍では、夜間見張り員は目のよい者を選抜している。さらに見張り員は、日中は暗い部屋で過ごして、夜目に慣らすようにしている。食事も一般兵にはないデザート(視力に良いとされる食品)付き。いささか行き過ぎた人力頼みだが、レーダーにはまだ取って代われるほどの性能はない。そして2名の同乗者は、戦隊の中でも選りすぐりの見張り員なのだ。

 それでも見張り員はまだ敵艦隊を発見できずにいた。

 ハウエルは敵艦隊が見つからないことにイライラしつつも、同乗者たちの機嫌を損ねないよう、用心して声をかけた。

「もうそろそろ接敵してもおかしくないんですが……」

「黙ってろ!」

 いきなり怒鳴られた。理不尽な態度にハウエルは憤りを覚えたが、彼らが敵を発見しないと自分たちは帰投できないのだ。彼らに見られない角度に顔を向けて、ハウエルはブスっとした表情をした。

 そのときハウエルは敵の兆候を発見した。曳光弾が自分たちに向かってきたのだ。

「敵襲!」

 ハウエルは怒鳴ると、ペダルを踏んで操縦桿を引き、通信機のプレストークボタンを押した。主翼上の620馬力のエンジンが悲鳴をあげる。布張りの主翼も。〈クリムゾン〉は本来の性能に似合わない急激な機動を始めた。ハウエルは途中で機体が軽くなったのを感じた。見張り員のどちらかが機体から落ちたのだろう。それがどうした? 撃墜されたら全員が死ぬのだ。

 ハウエルは必死の機動で射線を躱そうとしたが、ついに撃墜された。だが撃墜されるまでの間、無線機に向かって状況を怒鳴り続け、味方に敵の存在を警告し続けた。

 

〈クリムゾン〉の母艦の〈レプス〉では、乗組員の間に緊張と焦燥が走った。

「〈クリムゾン〉が墜とされただと!?」

 艦長が驚きの声を上げた。

「敵は夜戦(夜間戦闘機)を持っているのか?」

「いいえ、通信では海面からの対空射撃を受けていると言ってました」

 通信士の返事を聞いて、艦長の表情が驚きから困惑に変わる。

「やはり敵艦隊が近くにいるのだな……だがなぜ夜偵(夜間偵察機)が墜とされた?」

「敵のレーダーは我々のより優秀なのでしょう」

 副長の答えは艦長にとって、とてつもなく不吉なものだった。〈レプス〉の艦載機は1機だけで、それが失われた今、〈レプス〉が率いる第115水雷戦隊の索敵能力は大幅にダウンした。そのうえ敵がレーダーの性能でも上回っているとなると、夜戦におけるグラ・バルカス側のアドバンテージは、〈レプス〉に搭載されている照明弾くらいのものだ。

 グラ・バルカス海軍の水雷戦隊は、旗艦の軽巡洋艦1隻と6~8隻の駆逐艦で編成される。第115水雷戦隊は試験的に夜戦に特化した〈レプス〉級軽巡洋艦が旗艦に配備されていた。その特徴的な装備は、夜間水上偵察機〈クリムゾン〉と主砲である14センチ両用砲で撃てる照明弾、そして敵の水上レーダーが発するレーダー波を検出する逆探知レーダーである(さすがに探照灯はない)。

 だがこれらの装備は今のところ役に立っていなかった。〈クリムゾン〉は墜とされ、逆探知レーダーは沈黙。敵を発見していなければ、照明弾は使い道がない。

 この夜戦に参加しているグラ・バルカス海軍の戦力は第115水雷戦隊だけではなかった。他にも1個の水雷戦隊と、ヘルクレス級とオリオン級の戦艦を主力とする臨時編成の砲戦部隊が参加していた。その中で〈レプス〉が配備されている115戦隊が最も敵を発見する確率が高いだろうと予想されたので、115戦隊が先陣を切って前進していた。

 だがその予想はあっさり裏切られた。今の115戦隊は目を潰され、耳は何も聴こえない状態なのだ。

 艦長は辛酸をなめる思いだった。現在は無線封鎖中で、友軍に助けを求めるわけにもいかない。そこで彼は副長に意見を求めようとした。

 だが事態は待ってはくれなかった。

『西上空に発光現象!──』

 甲板見張り員から報告は、最初意味が分からなかった。だが続きで誰もが事態を理解した。

『──『ミリシアルの青い虹』です!』

「砲弾はどちらに飛んでる?」

 艦長が怒鳴り返すように訊く。

「こちらに飛んできます!」

 そこからは全員の行動が早かった。

「機関両舷全速、回避運動開始! 駆逐艦は各艦長の判断で回避しろ! 無線封鎖解除、友軍に状況報せ!」

 艦長命令は驚くべき素早さで実行された。敵砲弾は全て後方に着水した。そのとき上がった水柱の高さから、敵は戦艦らしい。

 ああ、くそ! 敵はどこだ? 艦長がそう思ったとき、耳元で副長が言った。

「虹です!」

「虹がどうした?」

「青い虹のたもとには、敵がいます!」

 ああ、なるほど。頭がいいな。艦長は直ちに駆逐艦に命じた。

「青い虹のたもとには敵がいる。虹に向かって突撃せよ!」

 

 ミリシアル側の夜戦部隊の旗艦、ミスリル級戦艦〈エアトゥース〉の艦橋で、部隊長のギュンナー提督はぼやいていた。

「僚艦の〈スケッティア〉がこの場にいれば……」

 夜戦部隊には第4魔導艦隊の4隻の戦艦のうち3隻が揃っていた(〈エアトゥース〉の他にはゴールド級戦艦2隻)。さらにシルバー級巡洋艦が2隻おり、1隻は新編成で急遽進水を早めた新造艦で兵の練度が低いが、もう1隻の〈ベガルタ〉は第1魔導艦隊から引き抜いた古参で、兵の練度が高い。さらにグラ・バルカス海軍の駆逐艦対策として、護衛の小型艦を12隻も引き連れている。第4魔導艦隊の編成を考えれば、夜戦部隊はほぼ満額に近い戦力と言えたが、ギュンナーはもう1隻のミスリル級戦艦がいないのが不満だった。

 ギュンナーは攻撃指向が強い提督で、『見敵必戦』を良しとする海軍の中では評価されやすい人物だった。戦艦は砲を撃ってナンボで、艦隊旗艦だからといって安全地帯に置いておくのは本末転倒という考えの持ち主だった。もちろん与えられた戦力は決して少なくはないが、それでも、戦艦がもう一隻あれば戦果が拡大できるのに、と考えてしまう人物だった。

 このような指揮官は自分の策が上手くいっている間は強いが、いったん思惑が外されると脆い。だがそこを補える参謀があてがわれている限りは大丈夫である。

 その補佐役の参謀のヘイゼルが声をかける。

「そこまで欲張らずとも、状況は上手くいってます。敵は電磁レーダーを使用しておらず、こちらの魔力レーダーを妨害できません。これなら一方的に撃てます」

「だからこそだ。一方的に撃てるのなら、艦隊旗艦を出さない理由はないだろう……しかしなぜ敵は電磁レーダーを使わんのだ?」

「おそらくレーダー波で逆に位置を特定されるのを恐れているのでしょう。日本から警戒(逆探知)レーダーを借りたのは、抑止力として有効だったようです」

 レーダー担当から報告が上がる。

「敵小型艦、戦艦3隻に突撃を開始……レーダーに新たな感! 敵艦後方より別動隊と思われる敵艦多数出現!」

「閣下、日本によると敵の魚雷の最大射程はおよそ8kmです」

 ヘイゼルが注意を促す。

「わかった。敵が10km以内に入るまで小型艦はシルバー級以下に任せ、戦艦は新手を狙え」

〈エアトゥース〉以下の3隻の戦艦は発砲した。再び青い虹が夜空を走る。

 

 グラ・バルカス軍のもうひとつの水雷戦隊、第117水雷戦隊は、同僚たちが水柱を掻い潜りながら、敵に向かって突撃している現場に駆け付けた。その様子を見た旗艦の艦長が命令を出す。

「彼らだけに苦労を押し付けるわけにもいかんな。全艦、虹に向かって突撃せよ!」

 ほぼ同時に砲戦部隊も戦場に到着した。その司令官は水雷戦隊とは別の命令を出した。

「虹で敵の位置は大まかに分かるが、もっと詳しい位置が知りたいな。水上レーダー使用」

「よろしいのですか?」

 参謀が確認する。

「これ以上無線封鎖を続けても意味が無かろう。友軍の駆逐艦が沈められる前に、敵を沈める必要がある」

 

〈エアトゥース〉の艦橋に警報音が鳴り響く。

「何事だ?」

 ギュンナーの問いに担当者が答える。

「警戒レーダーの警報です。複数の敵大型艦からレーダー波の照射を受けています!」

 ギュンナーはある意味で納得した。日本から借りた機材だから、自分は警報音の正体が解らなかったのだ。だが別の、もっと重要な疑問が沸き上がってきた。

「今頃になってか?」

「おそらく照準合わせのために、水上レーダーを使用したのでしょう」

 ギュンナーの疑問にヘイゼルが答える。

「ほう、我らと正面から殴り合って勝つつもりか。受けて立つぞ。艦長、最大速度まで加速しろ」

〈エアトゥース〉以下のミリシアル魔導戦艦たちは単縦陣で突撃を開始した。だがその先頭は〈エアトゥース〉ではなく小型艦だった。航空機用のチャフ散布器をマストに取り付け、風神の涙でチャフをばら撒く役割を担った艦である。

 

「レーダーに感……敵戦艦とおぼしき3隻、突っ込んできます!」

 レーダー担当者の報告を聞いて、グラ・バルカス海軍の司令官はレーダーのスコープを覗き込んだ。

「こちらも増速だ。突撃するぞ!」

 参謀が、冗談なのか本気なのか分らない質問をした。

「まさか敵前回頭して、丁字戦法をなさるつもりではないでしょうね」

「莫迦言え。白夜戦争のときとは時代が違う。今は40センチ砲とレーダー照準で撃ち合いをするんだぞ。反航戦で叩き潰す!」

 ヘルクレス級1隻とオリオン級2隻の単縦陣が加速した。

 同時にミリシアルの青い虹が海面に着水した。グラ・バルカス戦艦たちより遠方に水柱が立つ。司令官が鼻で笑う。

「これがミリシアル海軍の本気か。ではグラ・バルカス海軍の敢闘精神を教育してやれ!」

 いささか分かりづらい表現だったが、命令は正しく実行され、3隻のグラ・バルカス戦艦は敵魔導戦艦に向かって発砲した。

 

「着弾、今!……全弾、遠距離で外れました! 敵艦発砲!」

〈エアトゥース〉の艦橋に、無言の落胆が舞い降りる。

「思ったより反応が速いな。次弾発砲急げ」

 ギュンナーは冷静に部下を鼓舞する。だがそのギュンナーの顔色がすぐに青くなった。

「敵弾着水、本艦は夾叉(きょうさ)されました」

「しょ、初弾だぞ!?」

 さすがにギュンナーの余裕が吹き飛んだ。

「カルトアルパスといい、敵は魔弾の射手を揃えているようですな。等速運動や等加速度運動は危険です」

 ヘイゼルはギュンナーを落ち着かせるため、あえて冗談交じりに初歩的な助言をした。

「分かっている。先頭艦に更に加速するよう指示を出せ。艦列が延びても構わん」

 この命令は速やかに実行された。魔導戦艦が再び青い虹を吐く。だが着弾前にグラ・バルカスの戦艦が負けじと発射炎(ブラスト)を吐く。

 再び青い虹が着水する。夾叉(きょうさ)こそしなかったものの、オリオン級の1隻の至近に着弾した。これを見たミリシアル海軍の将兵は、まだまだこれからだと思った。

 だがその士気はすぐに突き崩された。直後にヘルクレス級の40センチ砲弾の1発が、〈エアトゥース〉の檣楼を直撃したのだ。ギュンナーとヘイゼルを初めとする幹部たち全員は、何も解らぬまま即死した。それでも〈エアトゥース〉は沈まなかった。だが完全に頭を失った〈エアトゥース〉は減速し、イルネティアの浅い海を漂流し始めた。

 後続のゴールド級戦艦〈セイドリック〉のハーパート艦長は、〈エアトゥース〉の惨事を見て思わず呟いた。

「なんじゃこりゃ!?」

 だがすぐに事態を呑み込んだハーパートは、即座に宣言と命令を出した。

「これより本艦が旗艦任務を引き継ぐ! 面舵いっぱい」

 宣言はともかく、命令の方は乗組員から意外に思われた。舵を切るのは当然だ。前にいる〈エアトゥース〉が漂流を始めたので、これを躱さなければならない。だがこのときグラ・バルカス艦隊は(ミリシアル艦隊から見て)左舷側にいたのだ。ハーパート艦長は敵と〈エアトゥース〉の間に割って入るのではなく、逆に〈エアトゥース〉の影に隠れようというのだ。

 だがそのことに気付いた乗組員たちは、誰も疑問の声をあげなかった。艦長の判断が戦術的に間違っているとは思えないし、その是非を議論する時間もない。それにこの命令が後で問題になっても、その責任を負うのは自分たちではない、艦長なのだ。

 命令は実行され、〈セイドリック〉は〈エアトゥース〉の右舷に出た。後続のゴールド級戦艦〈ガラハン〉もそれに続く。

 ハーパートはこの夜戦の作戦目標(翌朝の上陸作戦を成功させるための敵戦力の漸減)は達成不可能だと判断し、そのまま戦場からの離脱を試み、苦労の末なんとか成功した。

 結局、〈エアトゥース〉が〈セイドリック〉と〈ガラハン〉の楯となって被弾することはなかった。だが115戦隊の魚雷によって沈没し、乗組員の救助活動が行われる機会はなかった。

 不運な一撃によって圧倒的に不利な状況に陥ったミリシアル夜戦部隊が全滅しなかったのは、シルバー級巡洋艦〈ベガルタ〉の働きが大きい。完全に足が止まった〈エアトゥース〉は救えなかったが、〈ベガルタ〉がグラ・バルカスの駆逐艦を追い払って雷撃の機会を与えなかったので、2隻のゴールド級戦艦は中破状態で戦場を離脱できた。

 それに対しグラ・バルカス側の戦艦の損害は、オリオン級戦艦の1隻が小破しただけであった。軽巡以下の小型艦は双方とも大損害を出しており、夜戦の翌日も稼働可能な艦は、どちらも半数程度だった。

 昼の航空戦と逆の結果が出た理由はいくつかある。ひとつは戦艦の性能である。マグドラ群島における第零式魔導艦隊と東征艦隊の海戦が示した通り、ミリシアル海軍最強の魔導戦艦であるミスリル級は、グラ・バルカス海軍の旧式戦艦オリオン級とほぼ互角であった。従ってヘルクレス級は、超弩級ならぬ超ミ(スリル)級とも言うべき存在だったのである。だがグレードアトラスター級の印象が強すぎたため、ミリシアル側はそれ以外のグラ・バルカス海軍の戦艦を過小評価してしまった。

 またミリシアル海軍にはそれ以外にも重大な誤算があった。昼間の航空戦を見て、ミリシアル海軍はチャフによるレーダー妨害に過剰な信頼を抱いてしまった。そこで小型艦のマストに航空機用のチャフ散布機を取り付け、風神の涙を使ってチャフを散布するというレーダー妨害(この方法はあらかじめ計画されていたものだった)が成功すると思い込んでしまった。だが実際は、

 

・グラ・バルカス海軍の対空レーダーと水上レーダーでは、使用するレーダー波の周波数が異なる

・海面近くで風神の涙を使う方法ではチャフがうまく散らず、チャフを撒いていた小型艦の影しか隠せなかった

・魔導戦艦は砲弾の発射に伴う「青い虹」である程度位置を暴露してしまった

 

等の理由でほとんど効果をあげていなかった。

 その結果両者は、夜戦ゆえの近距離で、レーダーを使った射撃を行い、(主にミリシアル海軍側が)短時間で深刻なダメージを負った。この戦訓はその後の闘いに大きな影響を与えた。どちらも積極的に夜戦を仕掛けようとはしなくなったのだ。彼らの任務はイルネティア島の実効支配であって、敵との心中ではないのだ。

 

 翌朝、ミリシアル軍は一抹の不安を抱えながらも、上陸作戦を開始した。

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