日本国召喚・異聞録   作:無虚無虚

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第9話『ハイマクス』

 ルーンズヴァレッタの実験部隊を率いるコルカナ魔導師はご機嫌だった。自分の可愛い魔導兵(わがこ)のデビューが約束されたからだ。

 ミリシアル軍の兵器開発は、主に三つの魔導学院が分担していた。艦艇のルーンポリス、天の浮舟のルーンズヴァレッタ、陸戦兵器のルーンズウィーヴスである。海・空・陸ときれいに分かれていた。

 だから天の浮舟をメインに開発していたルーンズヴァレッタが魔導兵の開発に着手したのには、軍内部でも違和感(さらに言えば疑問)があった。そして開発責任者のコルカナから開発コンセプトを聞いた人間は、一様に否定した。彼ら曰く、

「魔法帝国も造らなかった物を開発するなんて馬鹿げている!」

 それに対してコルカナはこう答えた。

「誉め言葉をありがとう!」

 そう言われて戸惑う相手に追い打ちをかけるのだ。

「魔帝と同じことをやって、魔帝に勝てるわけないでしょ!」

 ド正論を言われた相手は、必ず言葉を失うのだ。

 そんな彼女は、同僚や学生たちから尊敬・侮蔑両方の意味を込めて「魔女」と呼ばれている。

 実際「魔女の思い付き」とも呼ばれる新型魔導兵のコンセプトは、少々ぶっ飛んでいる。「三次元機動(そら)可能な(とべる)魔導兵」というのがそれだ。

 ルーンズヴァレッタは天の浮舟の開発を行ってきた。航空兵器に一家言あるのは分かる。だが陸戦兵器の魔導兵を飛ばす? それになんの意味がある? そもそもそんなことが可能なのか? もしできたとしても、それが有効なら魔法帝国がとっくにやっている筈だ──それが圧倒的多数の反応だった。

 それに対しコルカナは反論した。空中を移動できれば陸上を移動するより、速度や不整地踏破性で圧倒的に有利になり、部隊の機動力は飛躍的に増す──この反論に一理あることは、誰もが認めざるをえなかった。

 だが実現可能性の点では反論は難しかった。最初は既存の魔導兵(現在主力の〈マクスタ〉)に〈エルペシオ3〉の魔光呪発式空気圧縮放射エンジンをポン付けしたのだが、エンジンの推力不足で飛ぶことができなかった。そこで〈マクスタ〉の軽量化を図ったが、僅かに車体を浮かせることしかできなかった。それでも軽量化は陸軍に評価され、軽量化のみを行った車両が、高機動/支援型魔導兵〈マクスライツ〉として正式採用された。

 こうしてコルカナの研究は一時期行き詰ったが、日本からもたらされた福音(バイパス比の改善)によって、研究は再び前進を始めた。〈マクスライツ〉に〈エルペシオ3’〉のエンジンを搭載した車両は、連続30秒の空中移動が可能になった(それ以上だとオーバーヒートする)。空中移動時は最大高度15m、最大水平移動距離400m、最高移動速度100km/h(地上移動時は40km/h)という記録を叩き出した。コルカナはこの車両を〈ハイマクス〉と名付けて陸軍に売り込んだ。

 だがこれらの数字を見て「機動力が上がった」と早とちりするほど陸軍はお人好しではなかった。魔光呪発式空気圧縮放射エンジンは航空機用の液体魔石をがぶ飲みするのだ。空中移動は常時行えるものではなく、頻繁に使うと航続距離が短くなり、かえって機動力は落ちてしまう。また高価な液体魔石を使うことによるコストアップに見合うだけのメリットが空中移動にあるのかといえば、陸軍の多くの専門家は否定的だった。

 自らが利点として持ち出した機動力に疑問符を付けられたコルカナは、別の利点を持ち出した。対戦車兵器としての有用性だ。

 ミリシアル陸軍に自走砲はあるが戦車はない。重装甲を施した車両を動かせるだけの大出力のエンジンが作れなかったからだ。これまで陸の王者は魔導兵だった。

 だが戦車の登場は、この構図を塗り替えてしまった。日本の一〇(ヒトマル)式戦車を知ったときは、驚きはしたものの脅威として深刻には捉えていなかった。だがグラ・バルカスも戦車を保有していると知ったときは、そう鷹揚にも構えていられなかった。グラ・バルカスの主力戦車である〈ハウンド〉が、旧日本陸軍の九七式中戦車(チハ)にそっくりなことを知ったミリシアル陸軍は、日本に頼んで九七式中戦車のデータを貰い、シミュレーションを行った。その結果、ミリシアルの〈マクスタ〉はグラ・バルカスの〈ハウンド〉に勝てないという結論が出た。致命的なのは車高の高さと正面装甲の薄さで、〈マクスタ〉はほぼ確実に先手を取られ、ほぼ確実に最初の一撃で撃破されてしまう。第一次フォーク海峡海戦以降、グラ・バルカス帝国を敵国として研究していたミリシアル陸軍にとって、これは特大の頭痛のタネになった。

 そんな陸軍に、コルカナは〈ハイマクス〉を対戦車兵器として売り込むことにした。自走砲と違い、戦車の主砲は仰角を高く上げられない。しかも上面の装甲は正面より薄い。空中に飛んだ〈ハイマクス〉は〈ハウンド〉に撃たれることなく、一方的に〈ハウンド〉を撃破できる、と。

 それでも車高と装甲という弱点は変わらない。そこでコルカナは日本の某アニメ映画と某テレビゲームを引用した。映画とゲームを陸軍のお歴々に披露した後、こう言った。

「ご覧の通り、日本も〈ハイマクス〉と同じコンセプトの兵器を検討しています! 日本より先に我が国が実用化すれば、我が国の威信と国益になります!」

 とんでもない詭弁だが、以前は日本を文明圏外国と侮って情報取集を怠っていた官僚や軍人は騙されてしまった。

 こうしてコルカナの研究は学院に加えて陸軍からも予算が付き、第4魔導艦隊への同行が許された。

 だがミリシアル陸軍は、コルカナの〈ハイマクス〉に全てを託したわけではなかった。自らが音頭を取って、〈エルペシオ3’〉のエンジンを使った戦車の開発に乗り出したのだ。開発を担当するのは、〈マクスタ〉の開発元で陸軍と懇意にしていたルーンズウィーヴス魔導学院になった。ルーンズウィーヴスはルーンズヴァレッタの魔導兵開発のことを「縄張りを荒らされた」と思っており、学院のメンツにかけて戦車の開発に取り組み始めた。だがさすがに第4魔導艦隊の出航には間に合わない。

 そこでミリシアル陸軍はこれまでの自前主義を曲げて、日本から対戦車兵器として84mm無反動砲を輸入した。この方針転換は陸軍の内外から反対の声も多かったが、作戦の成功と兵の命には代えられない。

 こうして〈ハイマクス〉と84mm無反動砲を装備した、臨時編成の第501対戦車小隊が、イルネティア島に上陸した。

 

 橋頭堡を確保したミリシアル陸軍は、基地本体がある内陸に向けて偵察部隊を放った。

 海岸の橋頭堡とドイバ基地本体の間は軍用道路で結ばれていたが、陣地がミリシアル軍に落ちるとグラ・バルカス軍は道路を封鎖して厳重にバリケードを築いた。その手際の良さから、あらかじめ準備をしていたのだろう。更に基地周辺を〈ハウンド〉がパトロールしている。

 帰ってきた偵察部隊の報告を聞いたダグラスは、新戦力の未知の戦闘力を測定することにした。

 

「第501対戦車小隊に威力偵察を命じる」

 指揮官の命令を聞いたハンリ小隊長は、ダグラス司令官の意図を理解した。

「敵は基地周辺のパトロールに〈ハウンド〉を使用している。これを1輌鹵獲せよ」

 ハンリは慎重に言葉を選んで質問した。

「質問をしてよろしいでしょうか?」

「ウム」

「〈ハウンド〉は無傷の状態で鹵獲するのでしょうか?」

「そこまでは望んでいない。最悪、動かなくてもいい」

 ハンリは確信した。司令部(うえ)が欲しがっているのは、〈ハウンド〉ではなく〈ハウンド〉に勝った実績だ。

「動かなくなった〈ハウンド〉を、どうやってここまで運ぶのでありますか?」

「魔導兵が4輌あるのだから、なんとかならないか?」

「いただいた資料によれば、〈ハウンド〉は推定15トンもあるのですが」

「フム……最悪の場合は現物ではなく魔写でもいい」

 どうあっても自分たちを〈ハウンド〉と戦わせたいらしい。ハンリは無意味な抵抗をやめた。

「最善を尽くします」

 小隊一同は上官を敬礼で見送った。上官が完全に部屋から出ると、さっそく置き土産の地図を検討し始めた。

 上官と入れ替わりにコルカナ魔導師が戻ってきた。コルカナは実験部隊の責任者だが、指揮権は持っていない。小隊の指揮系統のトップはハンリである。

 ハンリたち隊員のほとんどは、陸軍の軍務経験者で、予備役だった。今回の参加は予備役招集という形で行われた。陸軍と学院の紳士協定で、実験部隊に関しては部隊編成は変更しないことになっていたが、ダグラスは必要とあらば再編成するつもりでいた。彼にとって重要なのは、新兵器のテストではなく、作戦の成功なのだ。

「先生、どちらにいらしていたんですか?」

 隊員の一人、バーニーが訊いた。

「司令部よ。──」

 コルカナが自分たちのために何かを司令部に掛け合ってくれた、と期待する阿呆はさすがにいなかった。コルカナはどちらかと言えば、過酷な要求をしてくる「魔女」なのだ。

「──戦利品を分捕ってきたわ。敵の技術水準を知ることは必要だから」

 扉越しにコルカナの助手たちが、重そうな荷物をゆっくりかつ慎重に運んでいる姿が見えた。鹵獲したグラ・バルカス軍の武器らしい。

「司令部は我々の水準を知りたいようです。〈ハウンド〉を1輌狩って来いと命令されました」

 バーニーの言葉を聞いて、コルカナは問いたげな視線をハンリに向けた。

「威力偵察任務です」

「それは分かっている。問題はありそう?」

「相手が1輌だけならできるでしょう。擱座した〈ハウンド〉の運搬方法が問題でしたが、最悪魔写でもいいと言われました」

「それなら任せて大丈夫ね」

 コルカナはそう言うと、返事を待たずに取って返した。そして扉の向こうで戦利品を運んでいる助手たちに何か指示を出し始めた。

 残された小隊一同は肩をすくめた。

「初の実戦だというのに……もう少し心配とかしてくれても、罰は当たらないのにな」

 魔導兵操士(パイロット)のコルネウスがぼやく。

「先生にそんなもの期待しても無駄ですよ。『魔女』の二つ名は伊達じゃないんですから」

 同じくパイロットのバーニーが答える。彼は小隊の中で、唯一予備役でないメンバーだった。本来の身分は学生で、この任務のために陸軍に志願した。他のパイロットより一回り以上若い。

「後方で安全なセカンドライフが送れると思っていたのに……予定が狂っちまった」

 四人目のパイロット、ドリストイもぼやく。

「グラ公どもが現れた時点で狂ってるよ。遅かれ早かれ予備役招集はあっただろうな。特に本土決戦になったら絶対だ」

 今度はハンリが答えた。

「どっちのです?」

 バーニーが訊いた。

「どっちとは?」

「ですから、俺たちの本土か、グラ公の本土か、どっちです?」

「……両方だ」

 ハンリの答えに全員が納得した。だがバーニー以外の三人は、祖国が負ける可能性を勝つ可能性と同様に堂々と論じるバーニーの姿勢に、ジェネレーションギャップの様なものを感じた。

 

 

神聖ミリシアル帝国本土 陸軍演習場

 

 甲高い唸り声をあげて、鉄の箱が走る。そのシルエットは低く、天井からは正面へ角が生えている。8つの車輪が地面を掴み、胴体を前へ送り出そうとする。だが、少し高い傾斜を登ろうとしたとき、それは大きな金属音を残して停止してしまった。

「またやったか!」

 ルーンズウィーヴス魔導学院・主席魔導工学士のブルワーは悪態をつきながら、試作戦車のもとへ駆け出した。金属の破壊音から故障の原因はすぐに分かった。変速機が壊れたのだ。

 試作車から操縦者が這い出してきた。ヘルメットを脱ぎながら、ブルワーに伝える。

「変速機から物凄い音がして、動かなくなりました」

「やはりな。聞いての通りだ。変速機を取り出すぞ」

 ブルワーは集まってきた助手たちに指示を出した。助手たちが重い車両と格闘している間、視察に来ていたローレア学長の相手をした。

「見ての通り、悪戦苦闘中です。変速機はエンジンと同等の重要部品ですが、そいつが保たないんです。こんな大出力のエンジンを地上の車に搭載するのは初めてで、勝手がわからないことが多すぎるんです」

「魔素を使って強化してもダメなの?」

「ただ単に頑丈にすればいいというものでもないようです。わざわざムー経由で日本車を輸入していただき参考にしたのですが……魔素を使わない地の冶金技術で、帝国は日本にかなり後れをとっていると言わざるをえませんな」

 主席魔導工学士から悲観的な言葉しか出てこないことに、ローレアは軽く驚いていた。

「戦車の実用化は急いでもらわないと困るの」

「ルーンズヴァレッタの……」

「これは学院の縄張り争いなんて小さい問題じゃない。国益が掛かっているのよ」

 話が大きくなり驚いた様子のブルワーに、ローレアは畳みかけた。

「グラ・バルカスと日本は既に戦車を持っている。そしてムーも持つわ。日本のフタマルシキの輸入を決めたのよ」

 フタマルシキとは一六(ヒトロク)式機動戦闘車の輸出モデルの二〇式機動戦闘車のことである。

 

 ムーは神聖ミリシアル帝国よりもかなり早く(日本が転移する以前から)戦車の保有に動いていた。魔導工学の産物である魔導兵に対抗する兵器として、自前で開発をしていた。だがグラ・バルカス軍の登場により、すでに完成した戦車を保有する日本からの輸入に切り替えた。

 日本に派遣した技官の報告をもとに、ムー陸軍は七四式戦車G型に目を付け、日本政府に働きかけた。朝霞駐屯地にある陸上自衛隊広報センターに展示してあった実車を借り受け、陸上自衛隊の演習場内で評価を行った。その結果にムー陸軍は満足した。そこで日本政府に七四式G型の輸入を打診したが、日本政府からあっさり断られた。

 七四式は国内に600輌近く残っているが、いずれも油圧懸架装置が設計上の寿命を迎えており、あと数年で使えなくなるのだ。また主砲の105mmライフル砲は、一六式機動戦闘車の主砲に流用する予定になっていた。

 ムーの技官は油圧懸架装置を省略した七四式の輸出を提案したが(七四式の油圧懸架装置は稜線射撃で役立つが、大陸を国土とするムーでは稜線射撃ができる地形が乏しいのであまり役に立たない)、車体の再設計と再生産が必要なことから、やはり日本に断られた。

 その後の両国の話し合いの結果、一六式のムー仕様車(二〇式)を作って輸出することで決着がついた。二〇式と一六式の違いは、APFSDS弾が提供されないこと(それ以前の徹甲弾は提供される)、通信機がムー陸軍の規格に合わせてあることの2点だ。

 日本は国内に配備する一六式と同じ部品と生産ラインが使えることに満足し、ムーは戦車ではないものの、グラ・バルカス軍の戦車より強い車両が手に入ること、特に(車両本体は)国内配備の一六式と同性能であることに満足した。

 

「このままだと、我が国は日本、グラ・バルカスどころかムーにまで後れを取ってしまう」

 ローレアのため息交じりの言葉を聞いたブルワーは、ため息をつきたいのは自分だと思った。他国に後れを取るのは、要するに上の方針が時流とマッチしていなかったからではないか。もちろん日本やグラ・バルカスの転移を予想などできない。だから上を責めることはできないだろう。だがそのツケを安易に現場に回すのはさすがにどうか? どうせ無反動砲で自前主義を捨てたのだ。祖国も日本から戦車を輸入するぐらいのことはできないのか?

 ブルワーはそう思ったが、ローレアに面と向かってそう言うことはできなかった。

「最善は尽くしますが、増援の第一(魔導)艦隊の出航には間に合わないと覚悟してください」

 

 

イルネティア島旧ドイバ市街地

 

 海岸から(現在は瓦礫となっている)市街地を通ってドイバ基地に至る道路は、途中で何か所も障害物で塞がれていた。一般車両はもちろん、履帯を履いた軍用車両でも難儀するだろう。

 だがバリケードを設置した人物は、二足歩行までは想定していなかった。ましてや15mまでジャンプできる二足歩行兵器など、想定どころか想像の範囲にも入っていなかったに違いない。

 〈ハイマクス〉2号車に乗っていたバーニーは、建物の残骸を利用して、陰に隠れながら先頭を進む。魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの甲高い騒音が微かに車内に聞こえてくる。本当は爆音なのだが、静寂の魔法を掛けて音量を絞ってある。そうしないとパイロットが耐えられないし、自分の存在と位置を敵に教えてしまう。今回のような先手必勝の威力偵察任務では必需品だ。

 2号車の前進が止まる。バーニーが魔信で状況を報告した。

「こちら2号車、敵戦車らしき車両を発見。数は少なくとも2輌」

『こちら1号車、敵に歩兵はいるか?』

「戦車の上に乗っている。数は1輌当たり5、6人」

『増援を送るから現状で待機せよ』

「了解」

 ハンリの魔信にそう答えたバーニーは、魔画(動画)の録画ボタンを押すと、視線を離さないままじっと待った。だがその待機は長続きしなかった。

 少し離れた場所から何かが崩れるような大きな音が聞こえてきた。そちらの方向を見ると、建物が土煙を立てて崩れ落ちていた。

 魔信から傍受した会話が流れる。

『こちら1号車、何があった?』

『こちら4号車、すまん。建物に登ろうとしたら建物が崩れた』

 またドリストイがドジを踏んだのか。当然敵も気づいた。2輌の戦車から歩兵が降りると、戦車は土煙の方向へ走り始めた。

 厄介なことになったと思いつつ、バーニーはペダルを踏み、魔光呪発式空気圧縮放射エンジンに液体魔石をがぶ飲みさせた。エンジン出力が上がり、噴射口から大推力を産む排気が放出される。2号車は宙へ跳んだ。

 2号車の存在に真っ先に気付いたのは歩兵だった。彼らは自分の方を仰ぎ見、何かを叫んでいる。中には手持ちの小銃を自分の方に向ける者もいた。バーニーは彼らを無視して、戦車を狙った。

 第二世代イクシオン対空魔光砲が短い時間で二度吼えた。それで2輌の戦車は沈黙した。後は着地した後歩兵を……そう考えたとき、新たな敵戦車2輌を発見した。近くにいたらしい。

 既に滞空時間は半分以上を過ぎている。1輌は空中で仕留められるだろうが、2輌は無理だ。だが地上に降りて水平射撃で正面から撃ち合えば、勝ち目は薄い。援軍は……期待しない方がいい。

 バーニーはもう1輌を空中で仕留めると、必死に車両を操った。そして2号車を敵残存戦車の上に着陸させた。足元で無駄に旋回している砲塔の真上に魔光砲弾を撃ち込む。それで4輌目も沈黙した。

 周囲にはまだ敵がいるかもしれない。長居は無用だ。バーニーは魔信に手を伸ばした。

「こちら2号車、敵戦車4輌を撃破。魔画を撮ったので敵戦車を放棄して撤退する」

『こちら1号車、4輌だって? バーニー、ちゃんと報告しろ』

「詳細は後で報告する。まだ敵が潜んでいるかもしれない。今は魔画を持ち帰ることを優先する」

『……了解。2号車は撤退しろ。後でちゃんとした報告を聞かせてもらうぞ』

 ハンリの半分諦めたような声を聞いたバーニーは、魔画があるから報告は信じてもらえるだろうと楽観した。

 

 魔画を見せられたダグラスは、直ちにこれをルーンポリスへ送信した。翌日、ミリシアル陸軍は〈ハイマクス〉の正式採用をスピード決定した。


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