日本国召喚・異聞録   作:無虚無虚

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第10話『場外乱闘』

グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ

 

 アーリ・トリガーは緊張して、カルスライン社の格納庫でジークスに説明をしていた。

「これが技術検証機です。手前が1号機、奥が2号機です」

 ジークスは2機の四発機を一瞥して、疑問を口にした。

「エンジンカウルの形が違うな」

「1号機は〈アンタレス〉のスコルピイエンジン2基を串形配置して、二千馬力の出力を実現しています」

「2号機は違うのか?」

「〈アンタレス〉の次世代戦闘機用に開発した、二千馬力のタウリエンジンをそのまま使っています」

「〈アンタレス〉の次世代機か。もっと早く開発・配備すべきだったな」

 ジークスがぼやいた。〈アンタレス〉は前世界(ユグド)でも新世界でも無敵だった。その状況に産軍複合体は胡座をかいてしまったのだ。次世代機の〈アルデバラン〉が投入されていれば、現在のイルネティア島の状況は、もっと楽になっていたはずだった。

 それを言えば、そもそも戦闘機の陸海統合に反対するべきだった。いや、反対はしたのだが、それを貫徹できなかった。カルスライン社と海軍が共同で、陸軍と海軍の戦闘機を統合した場合の費用対効果の見積もりを帝王に奏上したとき、陸軍にはこれに反論できる材料が全くなかった。海軍機に対する陸軍機のアドバンテージは、空母への発着艦の必要がない分設計の自由度があり、海軍機より高性能にできる点だ。だが当時の〈アンタレス〉は無敵であり、陸軍がそれ以上の高性能機を提案しても過剰性能扱いされてしまった。ユグドの統一もカウントダウン状態で、政界はいかにユグドを統一するかではなく、いかに安上がりに統一を成し遂げるかに興味を持っていた。そして帝国の航空機産業はカルスライン社の一強状態で、陸軍といえどカルスラインを敵には回しづらかったのだ。

 こうして軍事的な考察ではなく銭勘定に基づいた軍政が行われた結果、〈アンタレス〉は不自然に長生きした。今はイルネティア島派遣部隊がそのツケを、自らの命で払っている。

 過ぎたことをくよくよしても仕方ない。ジークスは後悔を振り切り、次の質問をした。

「名前はあるのか?」

「検証機ですから正式な名前はありませんが、愛称ならあります。1号機が〈グティー〉、2号機が〈マウン〉です」

 どちらもグラ・バルカスの古語で、『祖国』と『栄光』という意味だ。

「いい名だ」

 ジークスはそう評すると、トリガーの案内で、〈グティー〉の中に乗りこんだ。

 

 

ムー マイカル

 

 今日の港には日本からの輸送船が着いた。グラ・バルカスの潜水艦が出没し始めたときは物量が一時落ちたが、現在は日本とムーの貿易は元の水準に戻っている。海上自衛隊の潜水艦狩りが成功してからグラ・バルカスの潜水艦は現れなくなったが、それでも念のため、輸送船は護送船団を組んで日本とムーの間を往復している。だが港の作業員の中には、今日の護衛の中に〈ラ・カサミ改〉がいることに気付いた目ざとい者がいた。

 だが荷下ろしが始まると、目ざとくない者でも否応なく、いつもとの違いに気付いた。

「なんだありゃ?」

 港のあちこちからそんな声が漏れた。自動車運搬船ではないのに、車両がぞろぞろと船から降りてきたのだ。大きくてごつい車両なので、乗用車用の運搬船は使えなかったのだろう。そこまでは誰でも分かった。だがその車両が何なのかは、誰にも分からなかった。

「こんなに堂々とやっていいんですか? スパイがいなくてもバレますよ」

 二〇式機動戦闘車の陸揚げ作業を見ていた〈ラ・カサミ改〉のローハット副長が、艦橋で誰にともなく訊いた。

「わざとやっているそうだ。グラ・バルカスの戦意を挫き、ミリシアルに恩を売るのが外務省と統合軍司令部の狙いだそうだ。ついでに我が国の戦意高揚も入っているらしい」

 艦長のミニラルが答える。

「賛成はしかねますが、最初と最後は分かります。ですが真ん中のは分かりません」

「今、ミリシアル軍はイルネティア島奪回作戦をやっている。大陸にいる我が国の陸軍が動きを見せれば、グラ・バルカスはこれ以上の増援をイルネティアに送れなくなる」

「なるほど。ですが、あのミリシアルが恩に着るとは思えません」

「それは外交官が考えることで、軍人が口を出すことじゃない。私としては陸軍に同情するね」

 ミニラルは肩をすくめた。

「これから攻撃をするぞと敵に予告するようなものですからな」

 ローハットはミニラルに同意した。

 40輌ほどの二〇式の陸揚げが終わると、二〇式は二列縦隊を組んで高速道路を走り出した。車列の中にはムー製の指揮車両が混じっていた。

 指揮車両の中で、新たに編成される機甲大隊の大隊長に内定しているマキシムとマイラスが向かい合っていた。

「昇進おめでとう、マイラス少佐」

「中佐殿、有難うございます」

「貴官が交渉の際にアドバイスしてくれたおかげで、いい結果になった」

「ですが最初の目的の戦車は輸入できませんでした」

「それは仕方ないさ。九〇式や一〇式は、さすがに日本も売ってくれんだろう」

「確かに。しかし、履帯など戦車特有の足回りの技術が導入できなかったのは、やはり残念です」

 マキシムの眉がちょっと動いた。

「貴官は二〇式には否定的かね?」

「いえ、そういうわけではありません。100km/hで長距離を自走できる機動力などは、国土が広い我が国に向いていると思います」

「そうだな。このパレードまがいの行軍も、表向きは我が国の高速道路を走れるかのテストだ」

「ですが、この指揮車に合わせて60km/hに速度を落としてますね」

 マキシムは軽く笑った。

「指揮車も日本から輸入しないといけないかな?」

「戦場で100km/hで走る機会はそう多くはないでしょう」

 運転席からムーの国歌が聴こえてきた。

「どうした?」

 マキシムが運転手に訊く。

「はっ、兵たちが無線で国歌を合唱しています」

「今度は新調した無線機のテストですか」

 マイラスの冗談に、マキシムはまた軽く笑った。

「そういうことにしておこう」

「やめさせますか?」

 運転手の質問にマキシムは首を横に振った。

「その必要はない。好きなだけ歌わせてやれ」

 そう答えると、今度はマイラスに語り掛けた。

「今まで陸軍は除け者だった。海軍が〈ラ・カサミ改〉、空軍が〈ヤムート〉という新兵器で華々しく活躍しているのを、陸軍は指をくわえて見ているしかなかった」

「なるほど。兵たちが高揚するのも当然ですな」

「バルクルス攻略では特殊部隊が活躍したが、彼らは陸軍の中でも極少数のエリートだ。多くの兵にとって、他人事なのだ。だが今度は自分が主役になれる機会なんだ」

「新兵器を操る兵の士気がこれほど高ければ、次の作戦も成功するでしょう」

 二〇式の車列の上を、一機の航空機が通過した。

「〈マリン〉だ」

 マキシムの言葉を、マイラスが訂正した。

「海軍の〈マリン改〉ですね」

「〈マリン〉とどこが違うのだ?」

「日本から輸入した過給機でエンジン出力を上げ、足を胴体に引き込むように改良しました」

 マキシムは目の上に掌をかざして、上昇中の〈マリン改〉をもう一度見た。

「本当だ。足がない」

「空軍が輸入している〈ヤムート〉では空母に発着艦できないので、海軍は〈マリン〉を改良して使い続けるんです」

 マキシムは椅子に座り直した。

「すでに単葉機にする〈マリン改二〉の計画も上がっています。グラ・バルカスの〈アンタレス〉に勝てる性能を目指す予定です」

 マイラスの言葉を聞いて、マキシムは一転して考え込むように言った。

「……偉そうなことを言える立場ではないが、我が軍の主力兵器が日本製に置き換わっていくな」

「仕方ありません。戦争に勝つためです。いずれ我が国も、日本製に引けを取らない兵器を造れるようになります」

 

 

東京 首相官邸地下

 

「ではこれより国家安全保障会議(NSC)を開きます」

 進行担当の宣言を聞いて、全閣僚が居住まいを正した。

 防衛大臣が挙手する。

「まずはイルネティア島の情勢ですが、ミリシアル軍は概ね順調に作戦を遂行しています。海岸の陣地を確保し、そこを橋頭堡としてドイバ基地侵攻の準備を進めています」

「グラ・バルカス軍の動向は?」

 首相の質問に防衛大臣が答える。

「上陸作戦のときは積極的に反撃をしていましたが、今は反撃を控えています。現在のイルネティア島は小康状態を保っています」

「それは何故かね?」

「おそらくどちらも航空戦力に大ダメージを受けて、大規模な戦闘を行いにくい状況にあると思われます。太平洋戦争の経験から申し上げれば、空母機動部隊による打撃力は恐るべきものがありますが、その消耗も激しいのです。最初の2日間の戦闘で、両軍とも100機近い犠牲を出したと思われます」

 100機という数字に、一部の大臣から驚きの声が漏れる。

「現在は空母内で航空機の修理と整備を行い、戦力の回復に努めている筈です」

「消耗戦ではないか!」

 財務大臣が渋い表情で言った。両国の同業者に同情したのだろうか。

「それだけの犠牲を払っても、イルネティア島を確保する必要があるわけです」

「それは何故ですか?」

 新任の環境大臣が訊いた。まだ40歳になったばかりの、閣内最年少の大臣だ。

「これはまだ真偽不明だが……ですが」

 年下の人間に訊かれたのでつい敬語を忘れた防衛大臣が、慌てて言い直した。

「ミリシアル軍は空中戦艦〈パル・キマイラ〉をイルネティア島に駐留させるのではないか、という観測が流れているのです」

 今度は閣僚全員からざわめきが漏れる。

「なぜイルネティア島なんですか?」

 環境大臣の再度の質問に、防衛大臣はうんざりしたように答えた。

「神聖ミリシアル帝国本土から比べれば、1万kmもグラ・バルカス帝国本土に近いからです」

「いえ、そうではなく、パガンダ島ですか、その島でもいいんじゃないですか?」

 環境大臣は状況説明のために掲げられた地図を指しながら、再び訊いた。

「それは私が答えよう」

 外務大臣が手を挙げた。

「パガンダ島にはかつてパガンダ王国という国があったが、グラ・バルカス帝国に完全に滅ぼされた。いわば政治的空白地帯だ。ここを神聖ミリシアル帝国が武力で占領した場合、新たな政治的緊張が生まれることになる」

「ミリシアルが第2文明圏に領土的野心を持っているとか?」

 意外と頭がいいのかもしれない、外務大臣と防衛大臣はそう新参者を見直した。

「第2文明圏の中には、そう受け取る国もあるかもしれない。だからミリシアルとしては、自らの行動の正当性を主張できた方が都合がいい。そこでイルネティア王国から亡命したエイテス王子を保護して亡命政権を樹立させ、亡命政府の要請に応じてイルネティア王国の主権を回復するという大義名分を作ったんだ」

「我々がアルタラス島でやったのと同じことだよ。占領後の統治も自分たちが直接やるより、協力的な原住民にやらせた方が上手くいく」

 財務大臣が身も蓋もない言い方をした。

「回りくどいやり方ですね。ムーに頼んで基地を借りた方が早くないですか?」

 今度はやはり新任の女性総務大臣が訊いた。

「〈パル・キマイラ〉はミリシアルの秘密兵器です。同盟国のムーにも見せたくないのが本音でしょう」

 これがNSCのメンバーで大丈夫かと、少々失礼なことを考えながら、防衛大臣が答えた。

「機密保持だけではなく、テロ対策の観点からも、大陸より離島の方が都合がいいのです」

「他に目新しい情報は?」

 総理大臣が先を促した。

「ミリシアル陸軍の主力兵器が明らかになりました」

 防衛大臣がそう答えると、防衛省の文官が地図の替わりに魔導兵の映像を映し出した。多くの閣僚から驚きの声があがる。

「まるでアニメだな」

 環境大臣が素直過ぎる感想を漏らした。

「ミリシアル陸軍では魔導兵と呼んでいます。彼らの軍隊では、これが戦車に替わる主力兵器になっているようです」

「それで、実力のほどは?」

 総理大臣が問うと、例の魔画のコピーが再生された。

「これはグラ・バルカス陸軍の主力戦車〈ハウンド〉との実戦の映像です」

 全閣僚は映像を食い入るように見た。だが魔導兵(ロボット)が宙を跳んだという事実に気付かず、何が起こったのか分からなかった閣僚の方が多かった。

「驚いたな。空を跳べるのか。モビルスーツやナイトメアフレーム並みだ」

 環境大臣の言葉もほとんどの閣僚には意味不明だが、それはスルーして防衛大臣は先を続けた。

「環境大臣が言ったように、この魔導兵は短時間なら空を跳べるようです。空中で3輌の戦車を撃破し、残った戦車の上に着地して、計4輌の戦車を撃破しています」

 会議場が一瞬沈黙に包まれる。

「とんでもない兵器だな。もし陸上自衛隊が戦ったら危ないのでは?」

 文部科学大臣が危惧の声をあげたが、それを打ち消したのは環境大臣だった。

「確かにとんでもない兵器ですが、大丈夫ですよ。この兵器が有効なのは市街戦など限られた状況だけで、まともに撃ち合えば陸自の戦車が必ず勝ちます」

 他の閣僚は驚きの眼差しで環境大臣を見た。視線に気づいた環境大臣は、バツが悪そうに言葉を継いだ。

「差し出がましい口をききました。すみません」

 防衛大臣は咳をすると、発言権を引き取った。

「彼の言う通りです。映像で見た通り遮蔽物が多い市街戦では無敵ですが、遮蔽物がない平原などでは戦車のカモでしかありません」

「それは何故ですか?」

 再び総務大臣が訊いた。

「接近戦に持ち込まないと、魔導兵は戦車に勝てないからですよ。火力、防御力、射程距離のいずれでも戦車の方が有利です。魔導兵が有利に立てるのは、戦車の死角である真上へ跳んだ時だけです。そのためにはまず戦車に接近しなければならない。ですが遮蔽物が無ければ、接近する前に戦車の砲火で確実に大損害を出します。実際、上陸作戦では魔導兵は砂浜で大損害を出しています。陣地に取り付いてからは、逆転しましたが」

 閣僚たちは防衛大臣の説明を咀嚼して、納得した。

「ところで、先ほどの映像はどうやって入手したのかね?」

 総理大臣が訊いた。

「偶然入手したのです。たまたま第一文明圏を航行中の日本船舶が、魔信による映像通信を傍受したのです」

 防衛大臣の説明の半分以上は嘘だと出席者たちには分かった。だがそのことを指摘する者は、一人もいなかった。

 

 

神聖ミリシアル帝国 ルーンポリス アルビオン城

 

 神聖ミリシアル帝国の皇帝ミリシアル8世の居城、アルビオン城の謁見の間には、三学院の学長が呼ばれていた。更に国防長官アグラと情報局局長アルネウス、技術研究開発局室長ベルーノ、古代兵器分析戦術運用部部長ヒルカネが同席している。

「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。今後の我が国の兵器発展の方向性を議論してもらいたい」

 メンバーを聞いたときから、全員がこの議題を予想していた。過去にもこのような会談はあった。だが三学院のトップが一堂に会するのは初めてだった。三学院の間では、陸・海・空と分担が出来上がっていたからだ。

 この初の試みは荒れに荒れた。台風の目になったのはルーンズヴァレッタ魔導学院のハーミス学長だった。彼は強硬に航空主兵論を展開した。

「これからは空母の時代です。航空機で戦艦を沈められない時代は終わったのです。エアカバーが無かったマグドラ群島の悲劇を繰り返してはなりません」

 この主張はルーンポリス魔導学院のオズワル学長を大いに刺激したが、彼は有効な反撃を行えずにいた。その理由の一つが、ミスリル級を越える戦艦の建造の目途が立たないことだった。

 魔法帝国の遺跡からは超ミ級のオリハルコン級、アダマンタイト級戦艦が発掘されているが、いずれも解析が進んでおらず、コピー生産の目途が立っていなかった(この件はベルーノやヒルカネにも飛び火した)。

 それに比べるとハーミスの手札は豊富だった。彼が示した天の浮舟のロードマップには、改良型魔光呪発式空気圧縮放射エンジンを双発にし、超音速を目指す〈エルペシオ4〉(完成予想図は〈ヤムート〉こと〈T-4〉にそっくり)、遷音速の多用途機の〈ジグラント4〉(〈エルペシオ4〉を大型化した機体)、4発機の軍用輸送機〈ゲルニカ42型〉などが載っていた。中でも〈ゲルニカ42型〉は〈ハイマクス〉を輸送可能で、これを空中から投下する空挺作戦が可能となっていた。

 なお投下された〈ハイマクス〉はパラシュートを展開せず、自前のエンジンにより減速を行い、着地までの間に上空から敵を掃討するという新戦術まで提案されていた。さすがにここまで来ると絵に描いた餅という気もするが、ミリシアル陸軍は本格的な空挺作戦を行ったことがなく、これを否定できる材料を誰も持っていなかった。

 ミリシアル8世はハーミスのプレゼンを興味深く聞いていたが、彼の本当の関心は別にあった。

「ところで、誘導魔光弾の開発はどうなっている?」

 皇帝の言葉を聞いたとたん、全員の歯切れが悪くなった。

「現在は艦対艦の誘導魔光弾を研究していますが、芳しくないと言わざるを得ません」

 代表してベルーノが答えた。

「どこで難儀している?」

「誘導システムです。どのように目標を補足・追尾し、どうやって魔光弾の針路を修正するのか、その基本設計が定まっていないのです」

「日本に協力を求めたか?」

 ミリシアル8世の言葉に、全員が戸惑った。

「日本、ですか?」

 ベルーノが呆けたような声を出した。

「そうだ。おかしいか? 日本は既に誘導魔光弾を実用化している」

「ですが日本は科学文明国です」

 ヒルカネが反論する。

「だが日本の助言で、魔光呪発式空気圧縮放射エンジンは大幅に性能が上がったではないか」

 これにはヒルカネも沈黙せざるを得ない。

「それと、潜水艦対策はどうするのかね?」

 オズワルが自信なさげに答える。

「日本から民生用のソナーを輸入し、解析を行っています」

「民生用?」

「魚の群れを探す、漁業用の物です」

「なるほど。それで、どこまで解析できた?」

「水中で音波を発するスピーカーと、反響した音波を拾うマイクロフォンのメカニズムは解明できたのですが、その信号をどのように処理しているかが全く分かっていません。魔導回路ではなく電気回路で処理しているのですが、我々には未知の原理で動いているのです」

「解析には相当な時間がかかりそうだな」

「残念ながら御意でございます。そこで輸入したソナーをそのまま艦艇に取り付けることを検討しています」

「それもひとつの手ではあるな。潜水艦を攻撃する兵器はどうする?」

「水上から投下する爆雷を検討しております。水圧によって起爆する物と時間によって起爆する物を試作し、いずれも試験に成功しています」

「そうか。では実用化できるのだな」

「御意」

「日本も爆雷を使っているのか?」

「いいえ、日本は誘導式の魚雷を使っています」

「ウム、魚雷の実用化の目途はついたのか?」

「残念ながら、未だに……」

「魚雷も日本の協力を仰ぐしかないのではないか」

 今度は誰も答えない。

「何を躊躇っておる? 我らの文明とて、所詮は魔法帝国の借り物ではないか。借りる相手が一つ増えたところで、何の遠慮が要る? 魔法であれ科学であれ、役に立つものを取り入れるのに躊躇う必要などあるか。喫緊に必要なのだぞ。魔法帝国の復活に間に合わなかったら、取り返しがつかないではないか!」

 その場にいた全員が首を垂れる。

「日本との技術協力を選択肢に入れれば、これまでの議論も変わるのではないかね」

 この皇帝の駄目出しによって、全員が意気消沈した。そして三学院はロードマップの見直しを迫られることになった。


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