オチを変えずに自分が納得のいく展開にしたオルフェンズ   作:類川成句

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3.地球圏撤退戦・2

「くっ・・・やはり強い!」

「シノの所には行かせない」

 

ジュリエッタ・ジュリスにとって幸運だったのは、相手が三日月・オーガスであったこと。殲滅戦にしか向いてない彼の、露骨な誘導は狙いを看破するに容易く、故にこうして旗艦襲撃阻止に動くことが出来た。

 

ジュリエッタ・ジュリスにとって不運だったのは、相手が三日月・オーガスであったこと。狙いがバレ、三日月にとって面倒な誘導をする必要がなくなったことで、全力で殺しにかかることができるようになった今、元の鋭さを取り戻した攻撃は、一撃一撃が必殺の意思をもって繰り出され、結果的に救援に向かうジュリエッタを阻止していた。

既に通信で鉄華団の狙いが旗艦であることは伝えてある。ダインスレイヴ隊の攻撃で見る間に穴だらけになっていく輸送船だが、まだ前進を止めない。

確実に仕留められる距離まで近づこうという魂胆が透けて見える動きだ。

 

このままでは間に合わない。そう判断したジュリエッタは外道に手を染めることを決めた。

 

「恨んでくれて良い・・・でも今はラスタル様のために!」

「ふぅん・・・ギャラルホルンなのにこういうことするんだ」

 

ジュリアンソードの連結が解かれ、ワイヤーを最大まで伸ばす。伸ばした剣は戦場に無数に漂うMSの残骸に絡み付き、即席のモーニングスター(鎖分銅)としてガンダムに襲いかかる。

MSごと叩きつけてくるという戦法は決して珍しいものではない。さんざんやって来たし、やられてもいる。

しかしそんなダーティな手を、体裁を気にするギャラルホルンの兵士がするとは思ってもみなかった。

 

避ける、避ける、受け止める。その瞬間、剣が意思を持ったかのように動く。

バルバトスの左肩にしっかりと巻き付いたワイヤーは、近くにあった戦艦の破片だろう、巨大な残骸に突き刺さり、縫い止める。

さらにその上から左腕を残骸ごと絡めとり、重石を抱かせる事に成功した。

いかに強大な出力を誇るガンダムフレームとはいえ、この足枷を付けたままでは追い付くことは不可能だ。

 

「コイツ・・・!」

「良し!今のうちに!」

 

ジュリエッタはワイヤーを切り離すと一目散に輸送船を目指す。

兵士の亡骸を利用した戦法に不快感が込み上げるが、それでもこうしなければあのガンダムは止められなかっただろう。

 

人が悪魔(ガンダム)を相手取るということはつまり、そういうことなのだから。

 

 

 

■■■■

 

 

 

鉄華団の輸送船ホタルビは、内部に1発限りの切り札を抱えてアリアンロッド艦隊の中心、ラスタル・エリオンの座乗艦を目指していた。

鉄華団お得意の『頭潰してトンズラ作戦』のために。

ノルバ・シノはさっきから直ぐ隣を貫通していくダインスレイヴ弾頭に冷や汗が止まらない。

ダメージを受けた流星号(フラウロス)では遠距離からの正確な狙撃はできない。確実に命中させるためにはもっと近づかなければいけないが、さっきから迎撃が激しい。どうやら予定よりも早く目眩まし(ナノミラーチャフ)を使わなければいけないようだ。

 

「頼むぜ・・・あと少しなんだ。こんな所で沈むなよ・・・」

 

船体各所に仕込まれたチャフが勢い良く放出される。少なくともこれで本隊が逃げ出す隙は作れたはずだ。チャフの煙の中を進むホタルビ。その煙の中、流星号を起動させる。

 

「新たなエイハブウェーブを探知!一致した周波数は・・・ガンダム・フラウロスです!」

「何だと!」

 

ラスタル・エリオンはこの戦いに臨む際、敵の要注意戦力を調べていた。特にガンダムフレームについては念入りな調査を命じたほどである。

鉄華団の保有する三機のガンダムフレームの一つ、フラウロス。イオクの暴走の時、ダインスレイヴの不法所持を名目にしていたが・・・

 

「取り舵一杯!全速回避!」

 

ラスタルの号令で旗艦が急速に進路を変える。

 

その悪魔(ガンダム)がこのタイミングで来たということはつまり、そういうことなのだから。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

「バカな・・・そんなバカな!」

 

ガエリオがマクギリスと打ち合えたのはほんの数合だった。

バエルの目が紅く光った後、明らかに動きが変わった。

 

「フフフ・・・素晴らしい。これこそが阿頼耶識の先!アグニカ・カイエルの至った境地!」

 

今までマクギリスは阿頼耶識で繋がっていたとはいえ、バエルの全力を引き出せていなかった。例えるなら買ったばかりの新車でヘアピンカーブを攻めているようなものだったのだ。どれだけ踏み込めばどの程度のスピードが出るのか?その速度でのグリップ力は?マシンに負荷はどのくらいかかるのか?

それら経験でのみ理解できるマシンの癖を、リミッターを外した阿頼耶識は教えてくれる。

 

「分かる、分かるぞ!バエルの全てが分かる!今私はバエルと一つになっている!」

 

人機一体。阿頼耶識の目指したもの。それは膨大な機体パラメーターの全てを、各部モーターの回転数制御、リアクター出力制御、スラスターの推進力制御、エネルギー伝達制御、それらを()()()()理解させる。

それは思い描いた通りの動きを現実にする。()()()()()()と考えたら、機体が()()()()()()()調節してくれるのだ。

剣を振るう動作一つにとっても、使わない部分のエネルギーカット、必要とされる箇所に出力を回す、反動を押さえるための最適なタイミングでのスラスター噴射。望む動きのための必要な動作を意識せずに行うことができてしまう。

心臓を動かそうと意識する人間はいないように、阿頼耶識はモビルスーツを身体レベルで操ることを可能にする。

それが圧倒的な反応速度を生む。もっとも、人間の脳はその膨大な情報量に耐えきれないために後遺症、脳の一部に機体制御用のプログラムを上書きすることで生身の身体を動かすことが出来なくなるのだが。目や耳などの、一部の感覚器に障害を負った人間は、無事な器官が使われなくなり空いた脳のリソースを使うことで常人よりも優れた能力を発揮するという。リミッターを解除するということは、人工的にその状態を作り出す事だ。

()()()()()()()()()()()()()()()のではない。()()()()()()()()()()()()()のが本来の阿頼耶識なのだ。

バエルは最適な動きでキマリスの左肘を切断、その後返す刀で右手首を切り飛ばす。そこでキマリスが、いやアイン・ダルトンが大量のエラーを吐き出す。

 

「何だ!?どうしたアイン!?しっかりしろ!」

 

奇しくもそれはエドモントンでの戦いで三日月・オーガスに破壊された箇所だった。アインの脳にかつてと今が交錯し混乱を起こす。その隙を見逃さずマクギリスは次いで膝から両足を切る。これでキマリスにもう武器はない。

 

「やはりこうなったなガエリオ。お前ではここが限界だ」

「ぐっ・・・マクギリス!」

「お前が本当に私を殺したいのならば、ダインスレイヴ隊と一緒に狙うべきだった。持っているのだろう?バエルにはキマリスのその姿も記録されている」

 

事実であった。キマリスのシールドは片側に4発のダインスレイヴ弾頭が装填でき、ドリルランスを砲身として接続すればダインスレイヴを発射可能になるのだ。

だがガエリオは今回弾頭を装備せずに出撃していた。

 

「直接矛を交えなければプライドが許さなかったか?その余計な感傷がこの結果を招いた。私がお前を革命の同士に誘わなかったのはな、そうやって些末なことに拘り、目的のためならなりふり構わず何でもするという貪欲さが無いからだ」

 

そう言うとマクギリスはキマリスのシールド、ボードウィン家の紋章である八肢馬(スレイプニル)の上にラスタルに向けたメッセージを刻み付ける。

 

‘火星にて待つ‘

 

「所詮育ちの良さしか取り柄のないお坊っちゃんには、こうしてメッセンジャーを勤めるのが関の山だろうさ」

「キサマァァァ!」

 

冷笑を浴びせキマリスをアリアンロッド艦隊の方へ蹴り飛ばし、マクギリスは後退する。どうやら鉄華団の攻撃も失敗したらしい。ガンダムフレームを一機失ったのは痛手だが、まだ終わってはいない。万が一を見越して地球外縁軌道統制統合艦隊の本拠地であるグラズヘイム1の備蓄資材は火星へ運び出す準備をさせていた。

既に石動が連絡をして輸送を開始しているだろう。アリアンロッド艦隊は空っぽのグラズヘイムに警備の手を割かねばならなくなり、火星に派遣できる戦力を減らさざるをえないだろう。

これだけの資材と火星で準備中の戦力があれば、遠路はるばる火星までやって来て、補給線の延びきったアリアンロッド艦隊を撃滅することも十分に可能だ。

バエルにも、自分に合わせた最適なカスタマイズが必要だろう。

 

「そう、まだここから巻き返すことも十分可能だとも」

 

ふと、アルミリアに刺された左手を見る。痛覚までも制御されているのか、痛みは全く無い。

スラムで生きてきたマクギリスにとって、アルミリアは生まれが、育った環境がここまで人間の品性に差を与えるのかという驚きを与えた。思えばただひたすらに力を求めた自分が、曲がりなりにも革命などという理想を掲げているのも彼女との出会いが有ったればこそだろう。全ての人間が彼女のように育つ環境を整えてやれば、幼い頃の自分のような荒んだ人間には育たないだろうという考えを持ったのも、彼女の影響である。マクギリスが初めて力付くで勝ち取ったのではない、自分の人格に向けられた純粋な好意。

それが同じ愛でもカルタ・イシューとの差だった。一目惚れとは言うものの、それは義父イズナリオと同じ容姿を気に入っただけのもの。そんなものでは彼の心を動かすことはできない。だからこそカルタは策謀に利用され、アルミリアは自殺を阻むまでの扱いの違いになった。

彼女に対する思いを正確に表現するならば、驚き、嫉妬、宝物、言葉は色々あれども、愛と表現するならば親愛、親子の愛であろう。

 

「フッ、感傷か。私も人のことを言えないな」

 

そう言って愛を切り捨てる。全ては事を成し終えてからの話だ。今それは重要ではない。

 

 

 

 

 

「ここまで・・・ここまでしてもまだ届かなかったというのか・・・!まだ足りないというのか!」

 

アラートを吐くコックピットの中で一人、ガエリオは握り締めた拳をコンソールに叩きつける。

 

「良いだろうキマリス・・・!アインを犠牲にしただけではまだ足りないというのなら俺の命もくれてやる・・・っ!」

 

ガエリオはマクギリスとの差を認識し、さらなる覚悟を決めた。ここに契約は結ばれる。

 

人が悪魔(ガンダム)手懐ける(操る)とはつまり、そういうこと(代償が必要)なのだから。




今回の変更点.ガエリオ大敗北。さらなる修羅の道へ
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