東方幽闇郷〜君の隣にあるために〜   作:面梟エッホエッホ

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本格的な戦闘回です。

描写がヘタで分かり辛かったらごめんなさい。

では、ごゆっくりどうぞ〜。


第十話 一変する日常(後)

 

「いや…捜し回る時間も踏まえるならば、早かったな」

「……何で……」

 

淡々と言葉を紡ぐその男、俺は彼の後ろ姿から目が離せなかった。驚き思わず口から出てきた言葉は疑問。当然だ、俺は目の前で幽々子に刀を向けているその後ろ姿を知っているのだから。

 

「どう言う事だよっ!?何で……」

 

余りの狼狽に、俺は混乱を抑えられない。驚きの余り声が微かに震えているのが分かる。俺は未だ落ち着かない思考で、現実を否定しようと言葉を放つ。

 

 

「……何で、()()()()()()()()()()()()()()()()……」

「…見て、解らないか?」

 

そう言って振り向いたのは、白玉楼の庭師兼幽々子の剣術指南役――魂魄妖忌だった。こんな現実は認めたくはない。しかし、俺の問いに対する妖忌の言葉(答え)は、その現実を俺に突きつけていた。

 

「麟祢っ!」

 

妖忌が俺を見据える。幽々子は何かを言おうとしていたが、喉に刃を当てられて遮られる。今幽々子が向けられている刀は楼観剣、人間である幽々子には十分すぎる凶器だ。

妖忌は向き直ると同時に、白楼剣も抜いた。それを受けて、俺は確信する。生真面目な魂魄妖忌が、亡霊()に白楼剣を向けた。それが意味する事は一つ。

 

―――妖忌は、本気で俺を殺しに来ている。

 

「……裏切ったってことか………そうなんだろ?」

 

それだけだった。

俺の独り言とも取れる呟きに対する妖忌の答えは無言。否定も弁解もなく、あるのは射貫くような鋭い眼光と、構えられた二振りの刀、それらが示す肯定の意だけだった。

 

「……」

「………破ッ」

 

霧散していた悪意を再び纏い、先に仕掛けた。縮地と浮遊を組み合わせた死人特有の動き、今現在の俺の最速の歩法。一旦妖忌の目の前で止まり、すぐに後ろに回り込む。打ち出した掌底は、刀の峰で防がれていた。

 

「ッ!?」

 

悪寒を感じて下がると同時に、俺が立っていた場所を刀が通過した。妖忌の最大の特徴は、二刀使い、それも間合いの違う刀二振りだ。迂闊(うかつ)に動けば確実に斬られる。

俺は再び妖忌の懐に入り、正拳突きを放つ。妖忌は刀を交差して防ぎ、間髪を入れずに斬りかかってくる。振り下ろされる刃の側面を蹴りで弾いて、俺は悪意の腕で左右から潰そうとしたが、妖忌はそれすら難なく切り払って防いでしまう。

俺は距離を離すために妖忌に向けて大量の『腕』を放つ。

 

「ふん、甘いわ」

 

だが妖忌は次々と斬り伏せて近づいてくる。俺は一瞬足を止めて下がる速度を緩める。そして追いついて来た妖忌が突きを放つのに合わせて、半身を捻り肘打ちを繰り出した。それは妖忌に防がれたが、俺はそのまま身を屈めて手を着き、足で連撃を打つ。ガッと鈍い音がして、脚と刀がぶつかると、今度はそれを利用して宙に浮き、そのまま肩目がけて踵落としを放つ。これも躱されるが、落とした脚を軸にして体を捻り、回し蹴りを放った。

 

「…当たらん」

「ならこれは、どうだっ!!」

「む!」

 

手でガードされた脚を起点に、空中で1回転する。その回転の勢いを殺さずに浸透脚を叩きつけた。さすがの妖忌も打撃と共に震動を直接伝える浸透脚は堪えたらしい。切り払って反撃に出ずに、一旦引いた。

 

「ほう、中々やるな」

「全然効いてないのかよ…」

 

だが、全くダメージが入っていないかのように、妖忌は構え直した。それを見て俺は思わず悪態をつく。俺は亡霊である以上、一太刀でも喰らえば唯では済まない。それに引き替え妖忌にはまだ余裕がある。

そもそも徒手空拳と二刀流では分が悪すぎる。勝てるとするなら短期決戦だが……。

 

―――無理だろ……。

 

経験の足りない俺にそれは不可能だった。

 

「どうした、もう終わりか?」

「……」

「ならば此方から行くぞ」

「……ッツ!!!」

 

宣言と共に妖忌の姿がぶれて、次の瞬間目の前に現れた。俺は咄嗟に飛び退いて避けた。だが当然妖忌は攻撃の手を緩めない。俺は防戦一方に追いやられた。

 

―――速い!

 

妖忌の動きがまるで見えない。辛うじて太刀筋を捉えられているが、それもいつまで持つか。恐らく妖忌はまだ余力を残している。本気で来られたら俺の負けは確定する、次の一撃で終わらせなければ。

 

「悪いな妖忌」

「ぬ!?」

「破ッ!!!」

 

悪意を具現化させた『柱』2本で刀を邪魔し、踏み込みと同時に頸を打つ。まともに喰らい後退する妖忌に、俺は抜き手を放つ。体勢を立て直せなくては、いかに達人の妖忌でも防ぐことはできない…―――

 

「温い」

 

―――…はずだった。だが妖忌は半身を引いて抜き手を躱すと、そのままカウンターを返してきた。俺は咄嗟に避けようとするが叶わず斬られる。

 

「成っておらん」

「がッア!!?」

 

そして、一撃を受けて体勢を崩した俺は、連撃を喰らって激痛に襲われた。亡霊であるために血は流れない、だが受けた傷はかなり深かった。

 

「麟祢っ!?」

 

幽々子が心配して俺の方に来ようとした。だが直ぐにその首元に刃が突きつけられ、動きを止められた。俺は妖忌を睨みながら立とうとするが、痛みに気をとられて上手く動けなかった。

 

「……そこで見ているが良い」

「なっ!妖忌、お前」

「約束を守れず、傍にいると誓った相手が斬られる様をな」

「やめろ……やめろよ」

 

妖忌は俺に見向きもせず、白楼剣を振りかぶった。そして躊躇いもなく振り下ろす。

 

―――斬らせて、たまるか……!!!

 

「何っ!?」

「麟、祢?」

 

妖忌が驚き、幽々子は呆然と俺の名前を呟いた。まるで目の前で起きていることが信じられないとでも言うような声音だ。それもそのはず、妖忌が振り下ろしたはずの白楼剣は、俺の手に掴まれて止まっていたのだから。

 

「麟祢、お主は…」

「捕まえてやったぞ、妖忌。もう、避けらんねぇな」

 

驚きを隠せずにいる妖忌に向かって、俺は笑ってみせる。左手だけとはいえど白楼剣で斬られたために、気を抜けば成仏しそうになる。だが俺は悪意を表層に出して身を保ち、強がって見せた。

俺の扱う『悪意』は、()()()()()()()()()()。他者のものも、怨念という形で含まれている。故に白楼剣で斬られても少しの間なら耐えられるのだ。

俺は手が裂けるのも厭わず、白楼剣を握り締めて引き寄せる。そして悪意の腕で、妖忌に向けて抜き手を放った。

 

「あ?」

 

だが、妖忌には当たらなかった。見れば、俺と妖忌の間に見慣れたスキマが開いていて、腕はそこを通っていた。俺は横に立っているだろうそいつに向かって言葉を放つ。

 

「……何だよ、紫」

「はあ~、幽々子、もう教えてあげたら?」

「もう良いわよ~、妖忌」

「は?」

 

俺は二人の言っている意味が分からず、呆然とした。妖忌は刀を収めると下がり、紫は溜息をついた。

 

「ごめんなさい麟祢、これは試験だったのよ」

「…試験?」

「そう、麟祢がちゃんと『私が傍にいても守れるか』って言う試験」

「……は?」

「ついでに、麟祢にとってどれくらい幽々子が大切なのかって言うのもね」

「ちょ、ちょっと紫!?それは言わなくても良いじゃない!」

「結果は合格じゃな」

 

三人の種明かしに少しの間呆けていた俺だったが、笑っていた。結構本気で戦ってたのに、それが全部演技だったとは。逆に演技で良かったが、なんとも滑稽な話だ。

 

「…ハハ…何だそりゃ」

 

―――あぁ、だめだ。もう限界みたいだな。

 

全てが終わって緊張が解けたせいで、傷が痛む。意識を保つので精一杯だ。

 

―――今度こそ、あの世行き、か?

 

なら、最後になるかもしれないなら、伝えとこうか。

 

「……幽々子」

 

そう呟いた俺は、そばにいた幽々子の肩を抱き寄せる。幽々子は吃驚して俺を見るが、妖忌と紫は俺が何をしようとしているか分かっているらしい。

二人とも生易しい目でこっちを見ているのが何よりもの証拠だろう。

 

「り、麟祢?」

「幽々子。好きだよ」

 

俺は幽々子にしか聞こえない声で囁く。すると幽々子は、頬を赤く染めて俯いてしまった。

 

「私もよ、麟祢。私も好き」

 

恥ずかしそうに言う幽々子の声を聞きながら、俺はついに堪えきれずに気を失った。

カッコ悪いな…。それが俺が気絶する前に思った事だった。

 

「麟祢っ!?」

 

卍卍卍卍

 

目を覚ますと、知らない天井が目に入ってきた。慌てて身を起こし、辺りを見回す。だが部屋も、そこから見える庭も、()()()()()()()()だった。

様子を見に来たのか、襖が開いて女の子が顔を出した。その少女は()を見て心配するよう

に声をかけてくる。

 

「麟祢、大丈夫?」

 

だが、その少女が言った名前にも、その少女自身にも、覚えがなかった。

 

「……()()()()()()()()()?」

「えっ?」

 

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