原作のキャラです。
今日はこの話で最後です。
どうぞごゆっくり〜。
「……っ!?」
目が覚めた。部屋の中はまだ暗く、夜であることは言うまでもない。私は息が上がっていて、たった今見ていたものが夢だと分かったのに、安心することが出来なかった。
お父様が死んでしまった時の夢を見たのはいつ以来だろう。その悪夢の中で、お父様と同じように麟祢も―――
「……嫌…」
私は今見た悪夢を拒絶するように呟いていた。何でこんな夢を見たのか、多分麟祢の記憶が無くなったからだろう。また大事な人がいなくなるなんて、私は嫌だ。
「……麟祢」
大丈夫、麟祢は記憶が無くても麟祢だ。彼だってそう言っていた。変わらないと言ってくれた。私はそう自分に言い聞かせて、気分を落ち着かせようとした。
そもそも私があんな事を考えつかなければ、こんな事にはならなかっただろう。私が麟祢の気持ちを確かめたいなんて、言わなければ。それにもかかわらず、麟祢は私を責めることは無かった。紫と妖忌から、事の顛末を聞いていたはずなのに。
「……ごめんなさい、麟祢」
結局、言いようのない不安と罪悪感を拭えないまま、私はしばらく眠れなかった。
卍卍卍卍
「……と言う訳なのよ」
「…なるほどねぇ。それで、アンタがここに来た理由ってのは…」
明け方、紫はとある山に来ていた。そこはかつて麟祢を連れてきた所で、天狗や河童、鬼が住む山であり、紫は四天王の萃香を訪ねていた。
今二人の周りには誰もいないことを確認してから、紫は話を切り出した。萃香は珍しく酔っておらず、真面目に聞いていた。
「貴女にも協力をお願い出来ないかしら?」
「おいおい、紫。冗談はよしてくれよ。私がその手の術が苦手なの知ってるだろう?」
紫の言葉に、萃香は思わずそう言った。これでも、紫とは長い付き合いなる。流石に紫も分かっていて言っていたようだ。紫は、今説明しますわ、と言うと虚空に向かってスキマを開いた。
「お呼びですか、紫様」
「藍、頼んでいたものは集まったかしら?」
「はい、数は少ないですが……」
「それで構わないわ」
スキマから現れたのは狐の妖獣だった。しかもただの妖怪狐ではない。その尻尾の数は九本、いわゆる九尾の狐―――大妖怪だ。紫は藍と呼ばれたその妖獣から何かを受け取ると、彼女を下がらせて萃香に向き直った。
「これが何か分かる?」
「ただの徳利じゃないのかい?……っ!!?」
紫が渡したのは、一見ただの徳利だったが、栓を開けて中を覗き見た萃香は、驚愕した。そこには淡い光を放つ小さな欠片が、いくつか浮いていた。
萃香は『それ』に見覚えがあった。割れたガラスの破片のように形も大きさもまちまちで、半透明な『それ』は…―――
「これって人間の魂じゃないか!まさか…」
「ええ、そのまさかですわ」
―――…人間の、麟祢の魂の欠片だった。話の流れからその欠片の持ち主を特定した萃香は、続く紫の台詞で言葉を失った。それでも、紫は話を聞いていると判断して、続きを話しだした。
「これは昨日偶然見つけて、藍に探させたものよ。でも正直手が足りないの。他にも調べないといけないことが多いのよ、だから…」
「…私はこれを『萃め』れば良いんだね?」
「ええ、頼めるかしら」
「やるに決まってるじゃないか!」
紫の言葉を引き継いでそう言った萃香は、その頼みを快諾した。
「麟祢は私にとっても友だちなんだ、助けるのは当然だよ」
「そう言ってくれると思ったわ。頼んだわよ、萃香」
卍卍卍卍
「…貴女が西行寺幽々子、ですね?」
「貴女はどちら様かしら?」
一方その頃屋敷では幽々子が緑髪の少女と対面していた。麟祢が何か思い出せるものがあるかもしれないと言って、自室に籠もってしまったので、幽々子は一人庭を眺めていた。そしてこの少女が目の前に現れ今に至るのだった。
「私は四季映姫、地獄の閻魔です」
「閻魔様?…まさか、麟祢を連れ戻しに来たの?」
「いいえ、彼自身の存在については問題ありません」
「……待って、麟祢自身に?それってどう言う…」
「貴女に忠告をしに来ました。西行寺幽々子」
「忠告?どういうこと?」
幽々子は、訝しがって閻魔―――四季映姫の顔を見た。麟祢は亡霊だ、普通ならば彼岸に行くべき所を、特別に許されている。それと何か関係があるのではないかと思ったのだが、どうやら違うらしい。映姫は、手に持った悔悟棒をある方角に向けると、幽々子に向けて言った。
「―――、―――」
「…嘘、でしょう…!?」
映姫の言葉を聞いた幽々子は、屋敷を振り返ると、走って戻っていった。かなり慌てているようで、何回か躓いているのが見えた。
「麟祢っ!?」
それを見届けながら、映姫は背を向けて歩き出した。
「忠告はしましたよ。後は貴女次第です、西行寺幽々子」
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「さて、と……何かあるといいんだけど」
自分が生活していたらしい部屋で、僕はそう呟きながら一通り見回した。何故僕が朝から部屋の片付けをしているのか、それは当然自分の記憶を取り戻したいからだ。
因みに幽々子はここにはいない。僕が部屋を調べる事を伝えても、ほとんど上の空だったので、休んでいるように言ったのだ。それから僕は部屋と私物の調査を始めた。
―――数十分後
「…何もない…」
あらかた探し終わった僕は、部屋の真ん中で立ち尽くしていた。結構細かく調べたはずだが、驚くほど何も無かった。どうやら僕は日記とかつけないタイプの人間だったらしい。仕方ないので幽々子に他にも何かないか訊きに行こう。
そう考えた僕は歩き出そうとして…―――
「っ!?」
―――…その瞬間、視界が割れた。見える景色が歪み割れて、感覚が掴めなくなった。視界が揺れる。頭も痛い。全身がベキベキと悲鳴を上げている。
そのまま為す術も無く僕は倒れた。
急激に意識が薄れていく。
「麟祢っ!?」
最後に、取り乱したような幽々子の声が、聞こえた気がした。