東方幽闇郷〜君の隣にあるために〜   作:面梟エッホエッホ

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十三話です。

ごゆっくり〜。


第十三話 彷徨う命運

 

時間は少し遡り、紫が山で萃香に協力を頼んでいた頃、妖忌と藍は人里周辺を調べていた。

とは言っても、二人は原因の調査をしていたわけではない。それは紫が自ら取りかかると言って藍と妖忌には、別件を頼んでいたのだ。

 

「…ここにおったか」

 

妖忌はそう言って、何かを手に掴んだ。そこへ藍がやって来た。藍は先程紫に呼ばれて、スキマで別の場所へ行き帰って来たところで、藍の手には栓をされた徳利が握られていた。

 

「藍殿か、そっちはどうだ?」

「いるにはいる、だが少し気になることがあったのでな」

「…気づいておったか」

「…と言うことはやはり」

 

言いつつ妖忌が手を開くと、そこから淡い光の欠片が浮いた。凜祢の魂の欠片である。妖忌の手から飛んだそれを、藍が素早く徳利に入れる。徳利の中には、他にも欠片が入っていた。全てこの人里付近で漂っていたものである。妖忌は藍の言葉に頷いて、続ける。

 

「何かに引き寄せられているか、若しくは逃げているか…」

「どちらにしろ、元凶が近くにいると言うことか」

 

二人が気づいた事、それは魂の欠片の動きだった。ただ彷徨(さまよ)っているように見えてその実、ある場所から先には決して近寄ろうとしなかったのだ。元々は一つだったとは言えど、今の状態の魂は小さな欠片に過ぎず、自我など持ち合わせようもない。だからこそ見つけづらいのだが、既にいくつか回収出来ている。更にその範囲は絞られつつあるとなれば、そう予想するのは難くない。

 

「そう言えば、先程の魂はどれも里の方から飛んできていたな。あの様な所に何故集まっていたのか…あの体では里とは関わりなど無さそうであるが…」

「里に何かあったのか?その口ぶりだと大したことでもなさそうに思うんだが」

「何、藍殿の言うとおり大したことではない。気が触れたらしい人間が数人、騒ぎを起こしただけのようでな」

「…確かに余り関係はなさそうだな…っ!」

「……!」

 

瞬間、一際巨大な妖気が波動となって辺りに広がり、二人は構えた。だがその気配は予想に反して直ぐに霧散し、再び静けさを取り戻した。二人は警戒を解かぬまま、目配せをした。

 

「今のは…」

「どうやら先程言っていたことが当たっていたようだな」

 

それは、当然黒幕を指した言葉だった。今の波動はまず間違いなくそいつ――まだ尻尾すら掴めぬ事の元凶――が解き放ったものだろう。そう思わせるには十分なほど強大で、濃密な気配だった。2人は波動の感じた方向へと歩みを進めていった。

 

「…これは!」

「……一体、何が……」

 

    

 

「……暗い」

 

気が付くと、僕は暗い場所にいた。辺りを見回すが、どこを向いても暗闇しかなかった。ここがどこなのか、どうしてこんな場所にいるのか、何とかして思い出そうとするが、何一つ思い出せない。何もかもが分からない事だらけな状況のせいか、次第に焦ってしまっているのが、自分でも分かる。

 

「何か、あるはず……さっきまで、何してたんだっけ?」

 

どれだけ考え込んでも何も変わらない。むしろ考えれば考える程思い出せなくなっていく。

それでも何かを思い出そうとして、僕は頭を捻る。

 

「何でだ?……何で思い出せないんだろう?」

《……知りたいか?》

「誰だ!」

 

突然独り言に返事が返ってきた。僕は慌てて辺りを見回すが、ここには僕しかいない。何故かこの声に聞き覚えがあったが、この声の正体もやはり、黒い霞が纏わり付いて思い出せそうにない。

 

《…俺が誰か分からないみたいだな?》

「……」

《ハハッ、無駄だよ。()()()()じゃどう頑張ったって思い出せねーよ》

「……」

《だって、今はまだ『()()()』じゃないんだ、当たり前だろ》

「その時ってどう言うことですか!?」

 

声は僕を笑った後続けてそう言った。その意味の分からない台詞に思わず怒鳴り返すと、声は綺麗に一拍の間を開けて答えた。

 

《お前がここに来たのは、唯の偶然だろ?だから何でここにいるのか解らないんだ》

「……」

《理由がないのに来るなとは言わないが、それじゃ困るんだよ》

「……意味が分かんない」

《…出直してこい》

「は?え、ちょっと待」

 

僕の呟きに返ってきた声は、明らかに呆れを含んでいた。そして溜息を吐いたような気配の後、声が言った途端に、僕の意識は問答無用で刈り取られた。

 

    

 

「…待てって!」

 

何か悪い夢でも見ているのか、魘されていた麟祢が、突然叫んで飛び起きた。私は不安になって声を掛けた。

 

「麟祢?」

「……幽々子」

「どうかしたの?」

 

麟祢は声を掛けられて始めて私がいたことに気付いたらしい。一応訊いてみたが、そのままの体勢で何かを悩むそぶりを見せる。

 

「いや、何でもないよ」

「……そう」

 

しばらくして、麟祢は静かに首を振った。やはり教えてはくれないらしい。それが私の不安を煽り立てる。一瞬、無理にでも訊きだそうか迷う。

 

「…お昼、用意してくるわね」

「すみません、もう少し休んでます」

「気にしないで良いわよ」

 

結局、私はそれ以上は何も言わずに、部屋を去った。いや、逃げ出したと言っても良いだろう。麟祢が夢の中で何に魘されていたのか、それがもし『あれ』だったとしたら、そう考えれば考えるほど他に心当たりが無いことが分かって怖くなる。気を紛らわそうにも、先程の様子が頭から離れない。

 

―――貴女に忠告をしに来ました。西行寺幽々子。

 

そんな私の脳裏に、あの閻魔様の言葉が思い浮かんだ。あの閻魔様―――四季映姫は、悔悟棒を麟祢の居る方へ向けながら、静かに告げてきたのだ。

 

―――今の彼は記憶の喪失だけで済んでいるようですが、それは長くは持たないでしょう。

 

突然の通告だったが、それが言葉通りの意味だということは分かった。

 

―――どうしてかは、貴女もよく解っているはずです。そして彼、秋津麟祢がどうなってしまうかも……

 

そんなの解りきっている。それを止める為に紫も妖忌も必死になって探しているのだから。

 

―――あれは魂を吸い糧としている。今の不安定な状態の彼では碌に抗うことも出来ない。

 

―――貴女が、その鍵となっている限り、彼の行く末は変わりません。

 

それも、解っている。()()()()が、麟祢を更に追い詰めているということも。私だって、何かできることがないか、考えた。だけど、結局何もしてあげられない。紫も妖忌も私を責めることはしなかったけれど、私が悪いのは変わりようのない事実。だから…―――

 

―――あと数日、それが過ぎれば今度こそ、秋津麟祢は『()()()()()()()()()()

 

―――…それ以上、言わないで。麟祢の死を、意識させないで。言われなくても解っている。麟祢を助けるためにはどうしたら良いのかなんて。

 

「ごめんなさい……麟祢、待ってて…きっと、きっと助けてみせるから」

 

 

 

 

―――その為なら、私は……

 

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