第十四話です。
ゆっくりしていってね!
「……」
僕が倒れた日から数日、僕は一人で縁側に座っていた。紫と妖忌は今日も解決の手がかりを探しに行っている。珍しく幽々子も出かけてしまったので、今この屋敷には僕しかいない。なんとなく幽々子の様子が気懸かりだったが、本人から着いてこないでと言われてしまっているので、大人しく待っていることにした。
「……」
しかし、ただ大人しく座って待つわけにはいかない。みんなが僕の記憶を取り戻す為に動いているのに、僕だけ何もしないというのは間違っていると思う。だから僕は自分に出来ることをやっている。
「この前の夢、あれも何か関係あるはず…」
あの夢に出て来た声は、必ず何かしらの関係がある。あの声が言っていた『その時』というのが何を表しているのかは分からないが、あの声は全てを知っている、そんな気がしてならなかった。だけど、あの声にもう一度会う事が出来ない。この前は偶然だったが、あの声の言い方からして、何らかの方法があるようなのは確かだ。
僕はしばらく考えたが、結局何も思い浮かばなかった。
「……どうやったら行けるんだろう?」
「知りたいのですか?」
「っ!?」
「驚かせてしまいましたか」
「…誰ですか?」
突然後ろから声がし、振り返ってみるとそこには一人の少女がいた。一体いつから後ろに立っていたのだろうか。全く気付けなかったことに、僕は少しだけ恐れを感じた。
「私は四季映姫。地獄の裁判長の一人―――いわゆる閻魔です」
その少女は僕の前に回り込むと、笏を手に持ちながらそう名乗った。
少し時は遡り、とある桜の大木の前―――
「藍、用意は出来ているかしら?」
「はい紫様。後は発動させるだけです」
「そう。上出来ですわ」
スキマを開いてやって来た紫の問に、藍が答えた。そこに妖忌も姿を現した。
「紫殿、欠片の方はいかがなさった?」
「萃香が集めてくれましたわ。おかげでもう全てそろっているわよ」
「心配は無用だったようですな」
「ええ、全て手筈通りに運んでいるわ」
紫はそう断言するが、険しい目つきのままであった。それもそのはず、この桜の周囲には人の
「藍、私は魂の欠片を届けてくるわ。その間、ここに簡易結界を張っておきなさい」
「畏まりました」
「人避けか?」
「ええ、何だか嫌な予感がするのよ」
藍が結界を張ったのを確認すると、紫は再びスキマを開いて去って行った。
「閻魔?」
「ええ、そうです」
「何か用でしょうか?」
「ええ」
僕は目の前の少女―――いや、閻魔様にそう尋ねた。見た目はどうであれ、相手は死者である僕を裁ける神だ。敬っておくに越した事はない。もしかしたら、僕を地獄へ連れに来たのかも知れない。閻魔様は手鏡を出すと、それを覗き込んだ。
「……やはり、そう言うことですか」
「何でしょうか?」
「確認しただけですのでお構いなく」
閻魔様は一人で何かに納得したようで、手鏡を仕舞うと、笏を僕に向けた。
「貴方は記憶を取り戻したい」
「…はい」
「方法が分からない」
「…はい」
「あの場所へ再び行きたいですか?」
「!……何でそれを…」
「先程の鏡、あれは
僕は手鏡の意外な効果に驚きつつ、何とか閻魔様が僕の目的を知っていたことに納得した。
閻魔様は再び僕に同じ質問をしてきた。
僕が以前夢の中で訪れた『あの場所』。あそこに行けば、必ず何か手掛かりがあるはず。『あの場所』へ行けるというのなら、それは願ったり叶ったりだ。
「……僕はあの場所に行きたい。あいつに訊かなきゃいけない事があるんです」
「そうですか。分かりました、今から貴方を『心界』へ送ります」
「しんかい?」
閻魔様の言ったその聞き慣れなれないワードをそのまま聞き返すと、彼女は説明してくれた。曰く『心界』とは読んで字の如く心の世界であり、個々人の精神が有する心の奥底の空間の事で、どうやらこの前の夢は僕がその世界を覗いていた影響らしい。
心界へ行くには、深く念じるだけでいいらしい。本当はもっと手順があるようだが、僕は死霊であり、その上地獄から特権を得ているので必要ないのだとか。過去の僕は一体何をやっていたのだろう?
「では、そろそろ始めましょう」
「はい…」
「心の奥へ行く。そう強く念じなさい」
「…分かりました」
かつての自分がどんな人物だったのか気になったが、すぐに切り替えて閻魔様の指示に従う。それをこれから知りに行くのだから、気にしても無駄だ。程なくして僕の意識は沈んでいった。
「……行きましたか。間に合うと良いですが…」
麟祢の意識が心界へ転移したのを見届けた四季映姫は、空を見上げながら小さく呟いた。その言葉の続きは、誰に聞かれる事もなく日が傾き始めた空に消えていった。
「もし間に合わなければ、きっと……」
幻想郷はまだないので、映姫様はヤマザナドゥという肩書がありません。
補足です。