東方幽闇郷〜君の隣にあるために〜   作:面梟エッホエッホ

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お待たせしました〜。

第十五話です。

ゆっくりしていってね!


第十五話 湖上の望月

 

「さあ、始めましょう。妖忌は下がっていなさい」

 

紫は藍と妖忌の2人にそう声を掛けると、一歩前へ出た。その体は薄い紫色の光を(まと)っており、膨大な妖力が練り上げられていた。藍の方でも目の前の桜の大木―――今回の事件の原因であり、危険な存在である妖怪桜―――を取り囲むように地面に置かれた巻物へ呪言を唱え始める。妖忌は2人よりも少し下がった所でその様子を見ていた。

 

「……」

「【四重結界】……」

 

2人の圧倒的な妖力によって、辺り一帯が包まれた。そして紫は遂に結界を展開した。妖怪桜の抵抗を抑えるためだ。この妖怪桜―――西行妖は、人妖を問わず全ての生けるものを死に誘う恐ろしい妖怪である。失敗は許されず、また失敗すればどうなるかは想像に難くない。

 

「……ッ!」

「ふっ」

 

案の定、西行妖の抵抗が始まった。無数の根が紫に襲いかかる。だが、それは紫に届く前に妖忌によって切り払われる。四重結界の外にいる藍へは矛先が向いていないようで、攻撃は全て紫に向けられていた。

 

「………」

 

紫は結界を強めながら封印の準備を始めた。臨界値を超えた妖力が紫色の光となって具現化する。その妖力を感知したのか、西行妖の攻撃も次第に激化して来る。枝分かれして数を増やしながら向かってくる枝や根を、妖忌は二刀でもって切り裂いた。

 

「藍、結界の維持は任せたわよ」

「はい、紫様」

 

紫は四重結界の展開を藍に任せ、自身も西行妖への対処にまわった。スキマを用いて攻撃を返しながら、封印術式を編んでいく。

最悪の妖怪桜・西行妖との死闘が、幕を開ける。

 

卍卍卍卍

 

「……」

 

気が付くと前のようにくらい空間に僕はいた。あの時と違うのは、自力でここに辿り着いたという事。そしてここがどこなのか知っている事だ。

 

《また来たのか?ずいぶん早い再登場だな……まあ良いけど》

「……」

 

ただ前を見据えていると、いつかのように声が聞こえて来た。僕は黙って前だけを見据える。それから少しの間お互い無言で様子を伺っていたが、やがて声は諦めたように溜息を吐いた。

 

《はあ、分かったよ。俺の負けだ》

「……いい加減、姿を見せろよ……『()()()()』」

《……へぇ》

 

拉致が明かないと思った僕は、暗闇の奥に向かってそう言い放った。暗闇にその名前が響き、再び沈黙が降りる、僕は上を見上げ睨んだ。暗闇の向こうにいる奴が驚いたのが気配で分かる。やがて声の主が口を開いた。

 

《……どこで気付いた?》

「最初から、ここに来た時に」

《たった2回で分かったのか?…はは…さすが俺》

「この世界の名前、それが答えでしょう?」

 

始めから分かっていた。この暗闇の名は『心界』。心の深層に存在する自分だけの世界。そこに他者が入り込むのは難しいだろう。そんな場所に誰かいるとするのなら、それは自分自身に他ならない。だからこの声は『俺』だと分かった。そして、こいつが()()()『俺』であることも。

 

《どうやらお前を甘く見てたみたいだな。まさか自分の状況まで正確に理解してるとは、思わなかった》

「買いかぶりすぎだよ……それで?どうするんです?」

《どうもしないさ。俺とお前が同一存在なのは変わらないし、そっちも分かってるなら都合が良い。どうせやることは変わらないからな》

 

『俺』がそう言うと、暗闇が罅割れ始めた。崩壊は加速し、砕けた闇が粉雪のように降り注ぐ。明かりが差したそこに広がっていたのは…―――

 

「ここが…」

 

―――…無数の摩天楼が天を穿つ、青空と海の境界だった。水面は静かで揺れも無く、風は凪いでいる。だけど、無数の高層ビルや高架線、巨大な環状線などのせいで長閑さが掻き消されているし、空は途中で途切れて雲に囲まれているのも穏やかではない。無風状態も相まって、まるで台風の目の中にいるみたいな、そんな静かで無機質な空間が広がっていた。

 

《そうだ。ようこそ、『俺』の心界へ》

 

ふと声が響き、俺は後ろを振り返った。摩天楼に囲まれた円の中央に、一つだけロッキングチェアが置いてあり、そこに俺が座っていた。

 

《さてと…時間が無い、1秒たりとも無駄に出来ない……俺は約束したんだ》

「いい加減記憶を取り戻したいんだ…だから」

「《……手っ取り早く終わらせるぞ、俺》」

 

お互いを正面に見据えて、2人の『俺』は同時に言った。

 

卍卍卍卍

 

西行妖付近―――

 

「…っ!!」

 

紫は咄嗟にスキマを繋げて離脱した。先程まで紫の居た場所に、幾つもの影が襲い掛かった。紫は少し離れたところから結界を構築している自身の式神―――藍に、顔を向けずに言った。

 

「藍!四重結界が弱まっているわ!一度範囲を狭めなさい!」

「し、しかし紫様!それでは…」

「その上からもう一度張り直すわよ!妖忌、少しの間堪えられる?」

「無論!これしきの事、耐えて見せよう!」

 

言葉を交わしながらも、3人は動いた。藍が結界の範囲をより狭め、紫が新たに展開する。結界の総数は八重となり西行妖を抑え込む。西行妖は尚も暴れ続けるが、妖忌が2本の刀で以て斬り伏せる。この妖怪桜を無力化するための結界術式の完成まであと少し。だが、戦い始めて数時間が経つにもかかわらず、未だに弱まる気配を見せない西行妖に紫は焦りを感じていた。

 

(…いけない。ここで気が早っては失敗する。落ち着かなくては…)

 

紫は考えた。持久戦になればこちらが不利となってしまう。何か、状況を覆せるものは無いか。紫は、妖忌に向かって叫んだ。

 

「妖忌!西行妖を斬って!」

「承った!」

 

妖忌が刀を構え踏み込む。それと同時に紫の妖力が膨れ上がった。妖力を感知した藍が結界を収縮、封印術式へ切り替えた。

 

「ハアッ!」

 

行く手を塞がんとする枝や根を躱しながら、妖忌は駆けた。裂帛の気合と共に西行妖の巨大な幹に白楼剣を薙いだ。一瞬の間が開いた後、悲鳴のように枝が震え、西行妖の力が弱まる。紫はその隙を逃さなかった。刹那の間に組み上げた術式を展開し、西行妖に境界を築いた。藍が封印をかけ、西行妖はようやく鎮まった。

 

「……やったか?」

「…なんとかなったみたいね」

「人避けの結界も付与しました。しばらくは問題ないかと」

「そうね…」

 

―――だが、紫達はこの戦いが()()()()()()()事をまだ知らない。

 

その先に、更なる()()()が待ち受けている事も―――

 




西行妖との戦いが終わりましね〜。

次の投稿は、早くて明日、遅くて土曜日になります。
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