東方幽闇郷〜君の隣にあるために〜   作:面梟エッホエッホ

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お待たせしました〜。

ゆっくりしていってね!


第十六話 華散る恵

 

―――それは、ある少年の追憶だ。

 

―――その少年は、生まれながらに、不幸だった。周囲の不幸を一身に受け、そして振りまく存在だった。

 

―――彼の短い人生は、そんな能力によって瞬く間に終わりを告げた。不幸を纏うだけならず、それを振りまくのみならず、彼は祅を悪意によって引き起こした。それが彼の持つ天性の力だったのだから。

 

―――現世では幕を閉じた彼だったが、彼自身は終わっていない。彼は地獄で修行をすることになった。責め苦を受けるのでは無く、修行。それが彼にとっては救いであり、また同時に苦痛の始まりだった。生前自身と関わった者達の声は彼を殺すだけ。長い修行を終えて地獄から出た時には、世界が一巡している程だったが、最早何も感じなかった。

 

―――現世に戻った彼が最初に出会ったのは、妖怪の少女。彼女に連れられて彼はとある屋敷にやって来た。そこでもまた出会いがあった。恐らくは一度の運命的な出会い。彼の心を癒したのは、その少女だったのだ。守りたいと思ったその少女は、彼女だったのだ。

俺はこんな所で呆けている訳にはいかない。幽々子の所に戻らないと。

 

「……」

《気分はどうだ?》

《…んなもん、最悪に決まってんだろ…》

「………だけど………すっきりしたよ」

「そうか…」

《ならもう終わりだな…》

「ああ、全て―――思い出した」

 

所々入れ替わる。だが数瞬で再び一人に戻った。

 

―――秋津麟祢は、ここに蘇った。記憶を取り戻し、感覚を取り戻した彼は、ゆっくりと、静に目を開いた。

 

「よし、帰るか…と、言いたいところなんだけど…」

 

一人呟きながら一点―――自分の足下を見つめる。そこには先程まで無かった影が出来ていた。俺は、自身の勘に従ってその影を踏み付けた。だが影は消え去り、笑い声が響いた。再び黒い影が集まり、今度は目の前に人型が形成される。

 

「返して貰うぞ……俺の能力」

『アハ、ハハハハ。バ~レちゃった、バレちゃった』

 

その影には見覚えがあった。アレは俺の能力、『人の悪意を操り具現化する程度の能力』による形を持った意思だ。何故俺の姿をとっているのかは知らないが、アレが今回の事件の黒幕だろう。

 

『良いのかな?良いのかな?僕の正体知りたくない?』

「興味ない。それにお前が誰だろうが関係ない。ぶっ潰す!」

『ハハハアハァ!ここで!死ぬのは!!お前の!!!方なんだよ!!!!』

 

気持ちの悪い笑い声を響かせながら、影は突っ込んできた。俺はそれに向かって全力で拳を叩き込む。灰色のビル群に囲まれた空で、二つの黒がぶつかった。

 

卍卍卍卍

 

西行妖の周りに人影が見えた―――

紫の施した人避けの結界があるにも関わらず、集まり続ける。その人々は、皆一様に西行妖を目指していた。その瞳に力は無く、足取りも生者のそれではない。彼らの周りには黒い霧が纏わり付いていた。

 

―――そして、幾つもの紅い花が咲き乱れる、阿鼻叫喚の地獄絵図が、描かれ始めた。

 

卍卍卍卍

 

「………覇ッ!!!」

 

裂帛の気合と共に影に掌底を叩き込む。敵を憎む心が俺自身の能力によって還元され、強化された一撃は、影を軽く吹き飛ばした。壁を蹴って跳び、俺は追撃を仕掛ける。激突し、起き上がろうとしている影に向かって膝蹴りを叩き込み、正拳突きを放つ。最後に駄目押しとして踵落としを背中に決める。海面に水柱が立ち、大きな波が起きた。これだけダメージを与えれば、少しは効くだろう。だが、俺はすぐに影の落下地点に跳躍した。

 

『無駄ぁ…残念でした!ってあれれ?』

「………疾ッ」

 

見当違いの方に向かって語りかける影に接近、振り向いたところにアッパーをした。追い打ちで踏み込みで体重を乗せた左ストレートを決める。どうやらコイツは慣れていないみたいだ。耐久力は異常だけど、それだけ。それなら一撃で核を壊す。

さっさと終わらせて帰ろう。

 

『ムカつくな!お前は!僕に食われて死ねっ!』

 

影が吠える。だけど俺は止まらない。縮地を応用して速度を上げる。影は【黒】を展開して何かしようとしている。だがそれは無駄に終わる。突如として、【黒】が霧散し、影自身の姿がぶれて心臓のような核が見えた。その瞬間を俺は逃さない。

 

『なっ!?邪魔をされた?何で?…あいつか?』

「約束したんだ、帰るって……秘宗拳、我流一撃決殺……日輪転翔蓮華葬」

 

俺は中華拳法の一つ、秘宗拳を使える。だけど中華武術は一つの分野を習得して終わるものじゃない。だから、学んだ。剣術、槍術、杖術、弓術、射撃…死んでからは忍術じみたものまで会得した。その中で最も殺傷力の高く、速い技、それが日輪転翔蓮華葬。厳密には日輪転翔と蓮華葬は別の技で、一連の流れで出来るから一緒にしてるだけだけど。

 

『巫山戯るな!僕が能力を与えたんだぞ!何で邪魔をするんだよ!』

「…煩い、お前は消えてろ」

『クッソがアアアアアアアアアアッ!!!』

 

一瞬の交差の後、俺は自身の右手、突きだしたその手に掴まれている核を潰す。影は、断末魔だけを残して消滅した。俺は目の前に浮かぶ透き通った『何か』の欠片に、そっと触れた。瞬間、辺り一面が白く染まった。

 

卍卍卍卍

 

麟祢が眠りについて大分時間が経った頃、私は紫に外へ連れ出されていた。

 

―――事の顛末を聞くために。

 

「…西行妖は、封じれたの?」

「ええ、結界も張ったわ。もう大丈夫なはずよ」

「じゃあ、麟祢は?」

 

私の質問に、紫は一瞬言葉に詰まった。西行妖は封印した。ならばその時点で麟祢も目覚めるはずだったのに、彼は今も眠っている。紫は何を言えば良いのか分からないのだろう、口を噤んでしまう。そんな紫を見て私は聞いた通りであることを確信した。

 

(紫の結界でも封印出来ない…やっぱり、閻魔様の言ってたことは…)

 

これまでも何度も疑った。だけど、疑ったところで今更状況は変わらない。時間ももう余り残されてない。麟祢は目を覚ますだろうか?彼がどうなってしまうのか、私にそれを知る術はない。不安は、なくならない、寧ろ大きくなるばかり。私はそんな自分の心から逃げるように空を見上げて…―――

 

「そんな…」

 

―――…『それ』を見つけてしまった。『それ』は青白い光を放って、星空を流星のように飛んで行った。それも、一つや二つじゃない。私は『それ』を知っている。見たこともある。毎年見てきた『それ』……でも見たことがあるのは当たり前。何故なら『それ』は、人の魂だから。

 

(嘘、でしょう……紫の結界が、こんなに早く破られたと言うの?)

 

自分でも半信半疑だった予感。それが見事に的中してしまった。私は、そっと隣に座る紫を見た。昼間の戦いが予想以上に厳しかったのか、消耗して疲れている彼女は気付いた様子はない。どころか既に起きているのも辛そうだ。きっと能力を使いすぎたのだろう。

 

「紫、疲れてるの?」

「…そう、ね。思ったよりも疲れたわ」

「もう休んでたら?」

「…幽々子はどうするの?」

「私なら大丈夫。ここなら家も近いから」

「そう…」

 

じゃあ私は帰るわね。そう言って紫はスキマを開いた。去り際に力になれなくてごめんなさい、と謝って、紫は帰っていった。私は、それを見届けながら心の中で謝った。これから私がすることを、親友に黙っていた事を。私は、そのまま屋敷に帰る道を外れて、森の奥へ向かって走りだした。

 

「ごめんなさい、紫」

 

最後にスキマが閉じた場所に向かって、聞こえるはずのない言葉をかけた後、私はもう振り返らなかった。

 

卍卍卍卍

 

「……帰って、来れた、か」

 

閉じていた目を開けると、布団に寝かされていた。見覚えのある天井、見覚えのある部屋。間違いない。自分がどこにいるのかも、誰なのかも、はっきりと思い出せる。

俺は、帰ってきた。記憶を失していた間の、体が浮ついた感じはもうしない。白楼剣を受けて出来た傷は、完治したらしい。あれは魂が直接斬られたみたいだったから、分裂でもしたんだろうか?根拠のない推論だけど、多分当たっている気がした。『心界』で最後に触れた欠片も、俺の魂だったんだろう。

俺は、ゆっくりと体を起こして、妖忌と幽々子を探した。

 

「む、麟祢!気がついたか!」

「ああ、心配かけたみたいだな、先生」

 

広間に妖忌は居た。けれど、幽々子の姿はどこにもない。

 

「なあ、妖忌、幽々子はどこに行ったんだ?」

「幽々子様ならば紫殿と散歩に行くと言っていたぞ」

「散歩…にしちゃあ遅くないか?」

 

少し嫌な予感がした。大丈夫だろう、と妖忌は言ってたけど、やっぱり心配だ。

 

「ちょっと見てくる!」

 

そう言って俺は屋敷を飛び出した。

 

卍卍卍卍

 

「幽々子!」

 

屋敷を出てからずっと走って、ようやく幽々子を見つけた。俺は西行妖の前に佇んでいる彼女に声を掛けた。

 

「麟祢?」

「探したぞ、幽々子」

「良かった…目が覚めたのね。記憶は?」

「ああ、全部思い出したよ」

「そう…良かった…」

「幽々子?」

 

そこまで言って、幽々子の様子がおかしいことに気付いた。幽々子は俯いたまま応える。その声は微かに震えていた。俺は幽々子の足元に小さい刃物が落ちているのを見つけて、その刃が少し血に濡れているのを見ると、慌てて駆け寄った。

そっと肩を抱いて彼女を振り向かせると、幽々子は―――泣いていた。手首は斬れて血が滲んでいる。刃に着いていた血は幽々子のものだった。

 

「幽々子、どうしたんだこの傷?」

「ごめんなさい、麟祢。こうするしか、なかったの」

「何言ってるんだよ。帰ろう、幽々子」

 

俺がそう声を掛けても、幽々子はただ泣いて首を振るばかりだった。そして、幽々子の体が光り始めて、俺はようやく幽々子の言葉の意図に気付いた。

 

「幽々子…まさか…西行妖を…?」

「ええ、私が封じるしかなかったの。紫の結界も…通じなかったわ」

「でも、そのために幽々子が死ぬことはないだろ!?」

「ごめんなさい、ごめんなさい麟祢」

 

幽々子は静かに謝ると、俺から離れた。後ろで西行妖が幽々子を呑み込もうと根を伸ばしている。俺は、ただ手を伸ばすことしか出来なかった。

 

「幽々子!」

「…また、会いましょう?次は、私も亡霊になっておくから」

 

―――だから、待っていて……

 

そう言い残して、幽々子は西行妖に呑まれた。同時に西行妖が枯れていく。あれだけ美しく、同時に妖しくも咲き誇っていた花々は萎み、枝葉が朽ちていった。まるで、生贄となった少女の命のように。

 

―――こうして西行寺幽々子は、その短い生涯に終止符を打った。

 




主人公の技は適当です……

すいません調子乗りました。
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