そろそろストックが尽きそうでヤバいです〜(泣)。
妖怪の山―――
富士見の西行寺屋敷を出て、まず先に向かったのは妖怪の山だった。毎日毎日歩き続けて、今日ようやく
そんなこんなで山に来たのは良いんだが―――…
「だからさ、鬼に会いに来たって言ってるだろ?」
「会いに来たって、貴方はただの亡霊でしょう?信じられませんね」
…―――目の前の天狗に邪魔されて、山に入れずにいた。前に来た時は遠目に河童が見えたくらいで、天狗は直接見なかったけど、こうも頭が硬い連中だとは思わなかった。朝方に山へ入ろうとして呼び止められてから、大分時間が経つ。もうとっくに昼過ぎだ。その間ずっと押し問答。正直飽きた。
「大体、彼ら
「しばらく旅に出るから別れの挨拶にだよ。友達がいるんだよ」
「鬼と亡霊が友達?そんな見え透いた嘘をついても…」
「おーい、麟祢じゃないか!」
何を言っても頑なに通そうとしない天狗に、苛立ちを通り越して呆れ始めた頃、そんな声が聞こえたと思うと、天狗の隣に黒い
「おい萃香、コイツが山に入れてくれねえんだけど、どうなってんの?」
「あっはっは、そう言えば天狗に麟祢の事を言うの忘れてたよ!ごめんごめん」
「何だよ~折角持ってきた酒やらねえぞ?」
「え~!それ土産だろ~?だったらくれたって良いじゃんか~!」
「あのー、伊吹様?」
やって来た友人、萃香とそう笑いあっていると、さっきまで俺と言い合っていた天狗がおずおずと話しかけてきた。萃香は天狗を見ると、「あ~コイツは大丈夫だ。ほら、戻った戻った」と言って追いやってしまった。天狗は一礼するとそのまま飛んでいった。俺はそれを見ながら萃香に気になったことを訊いてみる。
「なあ萃香、さっきあの天狗が『鬼は今日山を去るんです!』って言ってたけど、どう言
うことなんだ?」
「あ~、まあいつか話すつもりだったし、いっか……私達は地底に引っ越すことになったんだよ」
「鬼全員がか?また大掛かりな話だな。何でまたそんなことを?」
訳を聞くと、萃香は苦笑いしながら語ってくれた。何でも、鬼は人が好きだったらしい。弱い存在でありながら、それでも鬼と張り合うかのように成長する人間が。そんな人間達を
「まあ、人間の中にも、麟祢みたいな良いヤツはいるんだろうけどね。みんながもう嫌気差しちゃったみたいでねえ」
「鬼も色々と大変そうだな。……そしたら、ここに残ってたのは萃香が最後だったのか」
「うん、勇儀なんかは割と初めの方に行ったよ」
立ち話も難なので、話の途中から萃香と二人で酒盛りをしている。肴にするにはいい話とは言えないが、今は飲めれば何でも良いかな。そう思って杯を傾けると、萃香が何かを思い出したように声を上げた。
「そう言えば、怪我の方はもう良いのかい?」
「ん?あー、そっか。萃香が俺の魂萃めてくれたんだって?ありがとな」
「へへ、まあ友達の為だからな。私も頑張ったよ」
「何が出来るか分からないけど、いつかこの恩は返すよ」
「いいっていいって、お互い様だろ?それより、今日はどうしたのさ?」
「ああ、旅に出ようと思ってさ。別れの挨拶に来たんだ」
それからは俺が話す番だった。萃香も紫から聞いているだろうけど、今回のあらましを最初から全部話した。心界での戦いも、最愛の人―――幽々子が、死んだことも。萃香は最後まで黙って聞いていてくれた。そして話が終わると、一時何かを取りに行ったかと思うと、すぐに戻ってきた。
「麟祢、これあげるよ。私からの餞別さ」
「…これ、楽器か?」
「そうそう、二胡っていう擦弦楽器だよ。鬼子母神様から貰ってたんだけど、私は弾けないからねぇ」
「良いのか?貰っちまっても」
「遠慮するなよー、折角貰えるんだから喜べって」
そう言ってむくれる萃香に、ちょっと吹き出しながら二胡を受け取る。背負えるようになっているらしく、琵琶見たいな形をしていた。俺は、それをちょっと弾いてみた。触るのはおろか、見るのも初めての筈だが、不思議と弾き方が分かる気がした。昔、死ぬよりも遙かに前に、誰かが弾いていたような気がして考えたが、思い出せない。
「おおー、上手いじゃないか麟祢!」
「弾き方これで合ってたのか」
意外と才能があったのか、萃香によると下手ではないらしい。俺が礼を言うと、萃香は急に真顔になって、俺を見た。そう言えば、酒を呑んでいるのに珍しく酔ってないな。
「麟祢、悲しいのは分かるけどさ、アンタには友達がいるじゃないか。私達は地底に行くけど、別にいなくなったりなんかしないさ。だから、遊びに来なよ」
萃香は、俺が落ち込んでいるのを励ましてくれていたらしい。俺はまだ数えるほどしか会ってないのにここまで気に掛けて貰えることをちょっと嬉しく思った。
「ああ、約束する。また美味い酒持って遊びに行くよ。楽しみにしてろよ?」
「応ともさ!みんなと一緒に待ってるよ」
その後萃香は麓まで見送りに来てくれた。俺は最後に握手して、改めて命を救って貰った礼を言った。萃香は少し照れながら、それでも笑って見送ってくれた。
妖忌に貰った鏡と、萃香の二胡。新たに増えた旅の友を携えて、俺は一歩踏み出した。
「待ってください」
が、直ぐに呼び止められた。振り返るとそこにいたのは天狗。ただ、さっきの天狗とは別の奴だった。
「何か用か?」
「伊吹様のご友人、麟祢さんですよね」
「まあ、そうだけど」
「私、烏天狗の射命丸文と言います。以後、宜しくお願いします」
「何が?」
「ええと、実はですね…」
射命丸と名乗ったその天狗少女曰く、天狗社会には新聞大会があるらしい―――ゴシップ記事の大会か?嫌な予感しかしないな―――で、その記事のネタを提供して欲しいとの事だった。取り敢えず萃香や勇儀がいない今、天狗に知り合いがいた方が良いだろう。何かあって帰ってくるかも知れないし。そう思った俺はその申し出を了承した。
「ありがとうございます!機会があったらまた聞かせてください」
「こんな話でいいなら喜んで」
じゃあまたいつか、そう言って射命丸は山の方へ飛んでいった。俺はその後ろ姿を見送りながらくすりと笑った。波瀾万丈、そんな言葉が似合いそうな奴だな。
そして今度こそ歩き始める。
目指す高みは知れず、行く宛ては無い。
ただ強くなる為だけの、果てしない旅。
この時の俺はそんな旅立ちに、少し気分が高揚していた。
感想をもらうと作者のモチベが上がります…。