東方幽闇郷〜君の隣にあるために〜   作:面梟エッホエッホ

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ストックがとうとうなくなりました。

そしてリアルが忙しくなりそうなので週一投稿できなくなるかもです。
ごめんなさい…

第十九話どうぞ〜


第十九話 遠路遥々

 

妖怪の山を離れてから、もう大分遠くまで来た。俺は今とある港街で何年か過ごしている。久しぶりに大きな街が見えたため、少し立ち寄ってみることにしたのだ。

 

「よいな、頼みの品をくれぐれも違えるなよ」

「…しかし、次に船を出すのは…」

「時間は掛かっても良い、褒美も取らせよう。どうだ」

「……承知致しました」

 

何かないかと回っていたら、見知った顔の若い青年が、貴族の使いらしき人に何かを頼まれていた。二人はしばらくの間問答していたが、青年が渋々承諾すると帰って行った。俺はその貿易商の青年に声を掛ける。

 

「久しぶりだな、旦那」

「!…ああ、秋津の大哥(あにい)か」

 

青年はビクッと肩を跳ね上げるほど驚くと、声をかけたのが俺だと分かって安堵の溜息を吐いた。俺は先ほどの役人が去って行った方を指す。

 

「浮かない顔してるな、さっきのは貴族だろ?仕事が入ったんじゃないのか?」

「見てたんですか……まあ、そうですね」

「どうした?貴族から依頼が来たって言うのに、らしくないな」

「それがちょっと…」

 

青年は一旦そこで言葉を区切り、悩むそぶりを見せた。恐らくさっきの役人に口止めでもされているんだろう。だが当の青年は、麟さんなら良いかな…と案外簡単に口を割った。

 

「麟さん、これから話す事は」

「くれぐれも他言無用に、だろ。心配しなくても喋んないよ」

「一応念のためですよ。それで、さっきの話なんですが、仕事依頼なのは確かなんですよ、ただ…色々あってちょっと困った事になりましてね」

「儲け話って感じじゃなさそうだな、仕入れか?」

 

貿易商の青年は難しそうな顔で説明する。それを聞いて、俺が少し考えなら言うと、青年は少し驚いた顔で感心した。

 

「流石、秋津の大哥の慧眼には敵わないですね。全くその通りで、ちょっと厄介なものを頼まれまして」

「厄介なもの?旦那がそう言うんじゃ、曰く付きか高級品のどっちか…」

「そうなんですよ…」

 

溜息と伴に肩を落とすと、青年は大まかなあらましを語ってくれた。彼の談によると、先ほどの男はやはり都に住む貴族の使いで、その貴族に商いを持ちかける時に取り次いで貰っていた男らしい。装束には詳しくないが、確か直垂(ひたたれ)だったようにも見えたから傍仕えかなんかだろう。

その貴族はかなり高い位の身分にあるようで、今までは宋の国(中国)から仕入れた焼き物や絵などを売っていたのだが、向こうから依頼することは無かったと言う。それが突然、金を積んで頼みに来たので青年は面食らったそうだ。

そして一番の問題が、その頼まれた物と言うのが…―――

 

「“火鼠の(かわごろも)”?」

 

―――…聞いたこともないような品だった事である。裘…皮衣と言うからにはなんらかの獣から取ったものなのだろうが、それが加工品なのか、通称なのか、いまいち判別が付かなかった。ただ分かるのは、世界にそう多くは無いだろう珍品、と言うことだけだ。

そんな俺の様子を見て、意外そうに青年が補足してくれた。

 

「流石の大哥も知りませんか、大陸でも滅多に見られない奇獣の毛皮なんですよ」

「奇獣?」

「ええ、何でも赤い獣で、その毛皮は決して燃えることがないそうで…」

 

なんだそりゃ。

俺自身が亡霊であり、萃香や紫といった妖怪を友人に持っているからこそ、頭ごなしに否定したりはしない。だが、これは少し信じられないな。

そう思う理由は二つ、一つは燃えないという事。いかに奇獣と言えど所詮は生き物、多少は火に強いのかも知れないが、燃えないと言う事はないだろう。

二つ目は火鼠が“奇獣”だと言うこと。霊獣でも幻獣でもなく、奇獣。そう呼ばれていると言うことは、火鼠は魔物の類いとは思われていないと言うことだ。真偽はどうであれ、そこまで力のある存在では無いのだろう。……とここまで考えて、俺はある疑問に引っ掛かった。

 

「ところで、何で貴族様はそんな物を欲しがるんだ?」

 

俺の疑問に青年は首を傾げ、詳しい事情は分かりませんが…と前置きして答えた。

 

「都で貴族達が珍品を集めようとしているらしい?」

「ええ、皆が皆と言うわけじゃ、ないみたいですけどね。なんでも一人の姫君が求婚してきた貴族様方にそれらの品を持ってくるよう言っている、と言う話だそうです」

「その姫君って言うのは?」

「私も直接お目に掛かったことは無いのでなんとも言えませんが、えらい美人だそうです。親は讃岐の造と言う翁で、元は拾い子の筈ですが、貴族様は熱を上げていると専ら噂になってます」

「……」

 

一体どこからそんな話を聞いたのか、青年は噂と言いながらかなり詳しく教えてくれた。途中まで聞いた時点でもしかしたら…と思っていたけど、確信した。この話はただの噂ではない。昔話として有名な「かぐや姫」だ。となると珍品というのは、“燕の子安貝”、“竜の首の玉”、“蓬莱の玉の枝”、“仏の御石鉢”、そして“火鼠の裘”の事だろう。そう思いながら俺は青年に相槌を打っていたが、青年は部下に呼ばれて船の方へ言ってしまった。

 

(かぐや姫、ね)

 

見に行ってみるのも一興かも知れないな。なんせ目的も何も無い旅だ。時間は有り余っている。見聞を広める為でもあるし、丁度良い。

 

(……果たしておとぎ話は真実か否か、なんてな)

 

割とどうでもいいことを考えながら、俺は旅支度をするために宿へ向かった。

 

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