東方幽闇郷〜君の隣にあるために〜   作:面梟エッホエッホ

4 / 22
第三話 初めの頃の話

 

ある日のこと―――

俺と幽々子は縁側から庭を眺めながらお茶を飲んでいた。

珍しく妖忌は出かけていて、俺はすることがなくなって暇を持て余していた。

 

「……暇だな」

「そうねぇ」

「今日は紫来ないのか…」

「あら、私じゃ不満?」

「い、いやそうじゃないけど…」

 

暇とは言ったけど、こういうのも悪くはないな、とは思う。

こうしていると、生前どれだけ時間に追われていたかがよく分かる。少し勿体ないことをしたと、後悔する。

 

「ねえ、麟祢」

「ん~?」

「前にもこうして2人で話してた時のこと、覚えてる?」

「……また随分前の話だな、それ」

「あの日まで麟祢、話しかけても答えてくれなかったわねぇ」

「っし、仕方ないだろ!」

 

幽々子が言っているのは、俺がまだここに来たばかりの時のことだ。その日もちょうど今日と同じように妖忌は出かけていて不在で、俺は縁側に座っていた。

 

卍卍卍卍

 

「…………」

 

あの頃の、というか亡霊になってから、俺は一度も食事を取らなかった。腹は減るが、別にどうって事も無かったし、霊体故に食事は必要がなかった。だけどそんなコトはどうでも良くて。俺はすることもなく、何かをしようと思うわけでもなく、ただ庭を眺める毎日だった。

今思えば、思えばこういう所は生前と余り変わらなかったかもしれない。

生前からずっと一人だったのだから。

 

「隣、良いかしら?」

「………」

 

突然後ろから声が聞こえてきて、隣に幽々子が座ってきた。でも俺は無言で前を見ているだけだった。それでも幽々子は話しかけてくるのを止めない。

 

「ねえ、妖忌が買ってきてくれたお菓子があるの、一緒に食べない?」

「………」

「…貴方、お腹空いてないの?」

「………」

「いつもここにいるけれど、飽きないの?」

「………」

 

でも、幽々子がどんなに話しかけてきても、言葉どころか何の反応もない、ただいるだけ。それがこの頃の俺だった。この頃の俺には何もかもがどうでも良くて、その目には何も映って無かった。

 

「ねえ、秋津と言う名字しか聞いてないけど、名前は教えてくれないの?」

「………」

「そう言えば、貴方はどこから来たの?」

「………」

「亡霊って、やっぱり冷たいのね」

「………」

「もぉ~、何か喋ってくれても良いじゃない」

「………」

 

幽々子は庭に降りて俺の前に立ったが、俺は相変わらずの無反応。

だけど、この時俺は幽々子の拗ねた顔を見て、1つだけ疑問に思った。

 

―――この人は、どうして俺に構うんだろうか?

 

―――あの事を、知っているはずなのに。

 

「……どうして……に、……ん……だよ」

「…え?」

「……どうして、アンタは俺に関わるんだよ……」

「………」

 

だからこの時、幽々子に訊いたのかも知れない。ここに来た時、紫は俺の秘密を知っていた。幽々子もそれを聞いていた。なのに、こうして話しかけてきた。そんなコトは今まで一度も無かったから、そしてそれを信じたかった。既に壊れたと思っていた俺の心は、まだ辛うじて生きていた。支えが欲しかったのかもしれない。

そんな俺の言葉を聞いて、幽々子は優しく微笑んだ。

 

「家族だからよ」

「……は?」

「貴方もここで一緒に暮らしてるでしょう。だから家族」

「なんだよ、それ……俺は、『()』なんだぞ…」

「関係ないわ。私だって似たようなものだもの」

「……アンタ、が?それってどうゆう……」

「ここには貴方を避ける人はいないってことよ……それとアンタじゃなくて、私は西行寺幽々子よ」

「………」

 

気がついたら、涙がこぼれていた。気になることはあったけど、それよりも幽々子が言った言葉が、嬉しかった。

 

「あらあら、泣いてるの?」

「……悪いかよ」

「良いじゃない、誰にだって泣きたくなる事くらいあるわ」

「………麟祢だ」

「え?」

「麟祢だ。俺の名前。家族なんだろ?幽々子」

「ええ、そうよ。これからもよろしくね、麟祢」

 

この日、俺は始めて心から家族と思える人が出来た。

帰る場所が、自分の本当の居場所が、やっと見つかったのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。