東方幽闇郷〜君の隣にあるために〜   作:面梟エッホエッホ

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第四話 麟祢の過去(前)

「…祢……麟祢?」

「ん?どうかした」

「どうかしたって、呼んでるのに返事しないから声かけたのよ~」

 

独りで物思いにふけっていたら、幽々子が目の前に立っていた。

ちょうど思い返していた記憶と重なって、俺は少し笑った。

 

「そっか、なんかゴメンな」

「何か考え事でもしてたの?」

「いや、昔のこと思い出してたんだ」

「そう……」

 

また隣に座った幽々子は、それを聞いていて何か思ったのか。突然黙り込んでしまった。何かまずいことを言ったのかと思って、俺は焦る。

 

「そう言えば聞いてなかったけど、麟祢はどうして亡霊になったの?」

 

しばらくして幽々子がそう言った。そう言えば確かにそれは話した事が無い。昔と聞いて気になったのだろうか?理由はともかく、あまり話したくない話だ。

 

「話しても良いんだけど、面白いもんじゃないよ?」

「でも、聞きたいわ」

「そっか、じゃあ良いよ」

「え?いいの?」

 

俺があっさり承諾したのが意外だったのか、幽々子は目を丸くした。俺はその様子がおかしくて、つい口元がほころんでしまった。

 

「……昔の麟祢があんなに酷かったから、教えてくれないかと思ったわ」

「ああ、それでか。……今は平気だよ。それに」

「それに?」

 

一旦言葉を切って、幽々子に向き直る。幽々子もこっちを向いて首をかしげた。俺は彼女の目を見つめて言う。

「それに、幽々子だけには知って欲しいから」

「麟祢…」

 

面と向かって『自分だけに』と言われたからか、幽々子は照れたように、顔を赤く染めた。何か勘違いしているようだが、そこには敢えて触れず、俺は話し出した。

 

「俺は、1000年先の時代に生きてたんだ…」

 

卍卍卍卍

 

俺が生きていたのは、1000年後の現代。妖怪や神、魔法なんてモノは科学に否定されて消えてしまった時代だ。そんな現代で、俺は『()』だった。

始まりは小さなことだった。俺と遊んでいた子供が、怪我をした。それだけなら、普通のちょっとした事故で済んだだろう。だが、そうはならなかった。

その後も俺の周りでは、日を重ねるごとに事故や怪我がが増えていった。やがて、俺は近所から疎まれるようになった。

 

「あの子の近くにいると怪我をする」

「あいつの近くにいると不幸になる」

 

そう言われて、誰も近づいてこなくなった。そして今度は、家族が死んだ。事故じゃなかった。殺されたのだ。

まだ幼かった俺は孤児院に入ったが、そこでも、俺は疎まれた。

 

「あの子がいるから、怪我をした」

「あいつが周りを不幸にするんじゃないか」

 

陰ではそう言われていた。俺の事を、孤児院は知っていたらしい。この噂のおかげで、いじめにならなかったことが不幸中の幸いだった。

学校に通い出しても、状況は変わることはなく、何もかもが俺の所為にされた。

そうして、俺が17歳の時に、孤児院が潰れた。理由は借金だった。

 

「お前のせいで、こんな目に遭ったんだ!」

 

そして俺は、管理人だった男に、そう言われて殺された…―――

 

 

 

 

 

ハズだった。いや、死んだのは間違いない。刺されたときの痛みはどう考えても本物だった。あれが夢なら、今までの人生全ても幻だ。

だが、アレが本当なら、ここはどこなのか?冥界、いや極楽か?

ともかく死後の世界なのだろう。俺は混乱しながらも、どこか落ち着いていた。

しばらくして誰かが飛んでくるのが見えるまで、俺はただ突っ立っていた。

 

「ハァーイ、私はこの地獄の女神、ヘカーティア・ラピスラズリよん」

 

俺の目の前にやって来た、妙なデザインのTシャツを着て、頭に地球が乗っかっている青髪の女性はそう名乗った。死んだのに生きている時点で、考えるのを止めていた俺は驚かなかったけど。

 

「あらん、あまり驚かないのね~」

「刺されたとこまで覚えてるんで」

「そう、貴方は死んだわよん。それでね、貴方の事なんだけど」

 

ヘカーティアは、そう言って今の俺の状況を説明しだした。

曰く、俺は普通の人間だったが、偶然続いた周囲の事故と不幸によって、他人から『悪い出来事の原因』であるように思われた。それが行き過ぎた結果、俺は『全ての悪』であることを願われ、死んだ後に本当に『悪』を操る力が出来たらしい。

その力があるせいで、転生しても似たような人生しか送れないようになってしまった。だから、俺はもう生まれ変わる事は無い。勝手に解脱出来てしまったと言うわけだ。

 

「その力は厄介だから、馴れるまで地獄にいて貰うわよん」

「……分かりました。どこに行けば良いんですか?」

「そうね、最下層、無間地獄なら他に人はいないわよん」

 

そして、コレが俺の能力『人の悪意を操り具現化する程度の能力』に対する措置だった。

この後、俺は自らが望んでもいなかった力に馴れるため、4000年ほど無間地獄で過ごすことになった。その後は無為の時間を過ごす日々だった。

地獄では、地上とは異なる時間軸が存在している。そのため地獄と現世には途方も無い時間のズレがあるそうだ。実際、地獄の時間で一日、それは現実の時間での500年に相当するらしい。俺が無間地獄に引き篭もっていた間にいつの間にか世界が滅び、再生していた。一巡してしまい、そのせいで俺は『過去に来た』ことになってしまったのだった。厳密には『そっくりだけど完全に違う世界』らしいので、歴史の大筋は大して変わらないが、この世界に生前の俺はいないことになっている、とかなんとか。

地獄を出るときにヘカーティアからそう教えられた。要約すると『ifの可能性』ということなんだろう。だけど…―――

 

―――結局俺は異物じゃないか。

 

―――…やっぱりこう思わずには、いられなかった。

 

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