東方幽闇郷〜君の隣にあるために〜   作:面梟エッホエッホ

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第八話 贈り物(後)

 

「じゃあな、世話になった」

「おう!今度は私と1対1でやり合おうじゃないか!」

「その時は私の相手もして貰おうかねえ」

「ハハッ、良いぜ」

 

夜が明けて、起きてから近くの沢で水浴びして戻ってくると、萃香に頼んでいた物を渡された。もう出来ていたらしい。そして、四天王2人、勇儀と萃香と戦う事を約束した。昨日の話の中で、中華武術について話したら、2人とも戦ってみたいと言いだしたからだ。やはり鬼は強者との戦いを楽しむ節がある。戦闘狂というわけではないと思いたい。

それはともかく、目的を果たした俺は帰ることにした。紫がいつ迎えに来るかは分からないし、この山から屋敷まで相当遠いのは分かっているが、霊魂は一日に千里を行くと言うし、大丈夫だろう。

俺は萃香や勇儀達山の妖怪に見送られて山を下りた。

 

卍卍卍卍

 

一方その頃、西行寺家の屋敷では――

 

「はあ~」

 

私は何度目か分からない溜息をついていた。

ここ数日はいつも一緒だった彼――麟祢がいないと、ここまでつまらなくなるとは思わなかった。

 

「幽々子様、そんなに心配なさらずとも。麟祢の奴も書き置きを残していたでは有りませぬか?」

「そうだけど、その内容がこれじゃあねぇ」

 

朝から溜息ばかりついている私を気遣ってか、妖忌がそんな事を言ってきた。確かに麟祢は、無用心に飛び出していったわけではないし、ちゃんと書き置きに外出するとは書いてある。だけど、その内容が…―――

 

「『急で悪いが、ちょっと出かけてくる』って、いくら何でも雑すぎないかしら?」

「まったくその通りですな」

 

―――…これだった。一日で帰って来れない用事のどこが『ちょっと』なのか。帰ってきたら少しお灸をすえる必要があるかもしれない。

 

「……本当に、どこに行ったのかしらねぇ?」

「紫殿なら、何か知っておられるのではありませぬか?」

 

私の落ち込み方が余程酷かったのだろう、妖忌がいつもに増して気を遣ってくれているのが判る。私自身も麟祢が居ないだけでここまで寂しく感じるとは思わなかった。

決して、麟祢の少し可愛い寝顔が見れなかったから、では無い。

 

「そうね、紫も一緒にいたはずよね?」

「呼んだかしら、幽々子?」

「貴女、最初から居たわね………麟祢はどこか知らない?」

 

私は、都合良く現れた親友に睨むふりをして訊いた。確か、私の誕生日が一昨日だと知って何故か落ち込んでいた麟祢を慰めていたのは、紫だったはず。

 

「ああ、麟祢のこと?彼なら今日中に帰って来るでしょう。何の心配要らないですわ」

「紫、あなたやっぱり知っているのね……教えてくれないのかしら?」

「ふふふっ、帰ってくれば分かるでしょう」

 

しかし、紫は教える気はないのか、まともに取り合ってはくれなかった。

それどころか、なにやら楽しげに笑みさえ浮かべている。

その笑顔を見て、何故か胸が苦しくなる。紫と麟祢が仲良くしていたのかと思うだけで、何故か無性に苛立たしい。理由は分からない。

私は、少し不安になった。

 

「……早く帰ってこないかしら」

 

卍卍卍卍

 

再び、麟祢(帰路の途中)――

 

「しまった、簡単に水浴びはしてきたけど、酒臭いか?」

 

帰路を真っ直ぐに帰っていた俺だったが、途中でふとそんな事を思った。

昨日は久しぶりに飲みすぎた。酔うほどではなかったが、出来れば屋敷に帰る前に、酒気を落とすためにサッパリしておきたい。

そんな俺は幸運にも、途中で温泉を見つけた。

 

「あ~、本物の温泉って良いな」

 

折角なので、湯舟に浸かって行くことにした。朝早いせいか、誰も居なかったので、俺一人の贅沢だ。それにしても、今頃幽々子達は何しているのだろうか。心配しているとは思わないが、やはり早く帰るにこした事はない。

 

「行くか…」

 

俺は遠くの空を見て、そんな事を呟いていた。

 

卍卍卍卍

 

しばらく後、西行寺家門前――

 

「ただいま、って…え?」

 

ようやく屋敷についた俺が門をくぐると、幽々子が待っていた。

それだけなら少し嬉しいと思うのだけど、何やら幽々子は怒っているみたいだ。俺は何かした覚えは無いが、明らかに俺が原因らしい。

 

「幽々子…?」

「……」

 

呼びかけてみたが、そっぽを向かれるだけだった。これでは折角用意してきたプレゼントも渡せない。俺がオロオロしていると、幽々子は半眼で睨んできた。

 

「麟祢」

「な、何だ?」

「随分遅い帰りね」

「いや、でも書き置きしといただろ?」

「一日のどこが『ちょっと』なのかしら?」

 

どうやら幽々子が怒っている理由は、勝手に遠出した事のようだ。ちょっとのつもりが丸一日外出する羽目になるとは思わなかったとは言え、これは明らかに俺が悪い。勇儀や萃香と酒を飲んでいる最中だったが、紫が来た時点で一度帰るなり、書き直しておくなりしていなかったのは俺の落ち度だ。

 

「……悪かったよ」

「本当よぉ。心配したんだからね?」

「ちゃんと連絡くらいしとけば良かった、ゴメン」

 

すぐに謝った事で、幽々子の怒りは治まったようだ。それは良いのだが、果たして今日渡せるかどうか、いやどう考えても無理だろう。明日にした方が良い気がする。

と言うよりも、この流れで俺の方から切り出すのは無理だ。

 

「結局、麟祢は何処に行ってきたのかしら?」

「ん?ああ」

 

俺がどうしようかと悩んでいると、絶好のタイミングで、幽々子の方から切り出してくれた。幽々子は気になったから訊いてきただけなのだろうが、俺にはちょうど良かった。

 

「実は、コレを手に入れにちょっと山までな」

「扇子と帯留め?でもどうして麟祢が?」

「本当のところは当日に渡したかったんだけどな……」

「え?それってどう言う……」

「誕生日、おめでとう幽々子」

「えっ!?」

 

言いながら、萃香に作って貰った二つを渡した。幽々子はとても驚いたようだったが、すぐに笑顔になって喜んでくれた。

 

「ありがとう麟祢、とっても嬉しいわ~」

 

ちょっと心配だったが、この笑顔が見れただけでも行ってきた甲斐があったと思う。間に合いはしなかったが、ようやく俺は幽々子にお返しが出来た。

 

 

 

 

「ほら見て、幽々子ったらあんなに嬉しそうにしちゃって」

「しかし紫殿、麟祢を鬼の所につれて行っていたとは…」

「あら良いじゃない、妖忌だって乗り気だったでしょう?」

 

紫と妖忌がこっそり見ていた事は、後になって知った俺と幽々子だった。

 

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