というわけでハイスピード投稿。雑な仕上がりになってしまいました……。
「ほい、お茶」
「ありがとう。………うん、おいしい」
「バカ言うな、素直に拙いって言え」
「兄さんが作るものなら何でもおいしいよ」
「……はぁ」
俺と大分離れてたってのに、変なところだけ似るんだからなぁ。姉さんみたいに色々とできるくせに、こんなところだけ何もできない俺と兄妹してるよな。
「一夏……ダレ?」
「え、えっと、ほら、前に言いませんでしたっけ? 生き別れの妹がいるって……」
「それがこの子?」
「はい、マドカです」
目をじーっと細めてマドカを見る。対するマドカは全く気にせずお茶を飲んで和んでいた。次に俺をじーっと見る。そしてまたマドカ。見比べてるのかな? 俺は実験の影響で殆ど別人になってるから似てないと思いますよ。
「……なんだか、雰囲気が似てるかも。納得」
似てるか?
《見た目鋭い所とかじゃないんですか? マスターはデフォで睨んでますし、マドカちゃんもそんな感じですし》
(……俺ってそんな感じなのか?)
《視線で人を殺せますよ♪》
(マジかよ……気をつけた方がいいのか?)
《マスターはどう頑張っても社交性は皆無、警戒心MAXですし、誰かと仲良くするなんて絶対に無理ですから今のままでいいと思いますよ。そっちの方がカッコイイってのもありますけど》
(………社交性皆無は否定できない)
いや、分かってるよそんなことは。でもさ、そんなザックリ言われたらちょっと落ち込むぞ、いくら俺でも。うん。気にしてるんだよ……道歩いてたらモーゼみたいに人が割れていくし、電車に乗ったら混んでても俺の周りに空間できるし……。
《ほ、ほら! 聞きたいことがたくさんあるんじゃないんですか? せっかく再会したんですからもっと楽しくいきましょうよ! マスターふぁいとっ!》
(……ああ)
《思ったよりも傷が深かった!?》
デフォで睨んでるって……というかマドカまでそんなふうに見られてるなんて……。なんてこった……マドカがぼっちになっちまう!?
《ホントにシスコンですねぇ!?》
「兄さんどうかしたの? もしかして、来ちゃダメだった?」
「ん? そんなことないさ。だから、冗談でもそんなことは言うな。俺はずっとお前に会いたかったんだからな」
「本当! 嬉しい! アハハハッ」
見たことが無いくらい綺麗な笑顔で抱きつくマドカの頭を撫でる。昔はこうしていると喜んでたっけ。いつの間にか寝ちゃってたりしてたな。またこうして一緒に居られるのか……俺も嬉しいよ、マドカ。
主がいて、姉がいて、妹がいる。森宮に居た頃じゃ考えられないくらい、今の俺は幸せというものを肌で感じていた。誰にも壊させたりしない。必ず主と家族を守ってみせる。その為に俺はいる、そのためのISだ。頼むぜ『夜叉』。
「ねえ、兄さん」
「ん?」
「あの女、誰?」
………目が笑っていないぞ、妹よ。
とりあえずざっくばらんに俺がここにいる経緯を話した。何かあるたびに怒り狂うマドカをなだめるのに苦労したが、最終的には納得したようだ。
「私も森宮を名乗る」
「そう言うだろうと思ったよ。……簪様、何かいい方法はございませんか?」
「え? ……やっぱり陣さんに言うしかないんじゃないかな? もしくはお姉ちゃん、もいい、のかなぁ……?」
「楯無様にしましょう。森宮は更識に仕える者、その更識の当主の決定には逆らえないでしょうから」
「………えげつないね」
「確実な方法をとったまでですよ」
ポケットから再び登場タブレット型端末。通話履歴の一番上にある名前――“17代目楯無様”に発信する。
驚いたことにワンコールを待たずに出た。念のためのスピーカーモード。
『やあやあ待ってたよ一夏ー! さあ、おねーさんともっとお話ししよう!』
「すみません、少々簪様共々困っていることがありまして……」
『なぬ!? 一夏と簪ちゃんのピンチですって!? 任せなさい! 今の私は超野菜人9を凌駕するわ!』
「……そんなのないと思う。というか、やっぱりえげつない」
「森宮に新しい席を用意したいのですが、どうすればいいのかと……」
『んー? 誰かな?』
「私が信頼している者です」
『へぇ、一夏がねぇ~。いいよ、私が許可する。近々そっちに帰るからその時にね。それまでは家で暮らすように言ってて頂戴』
「かしこまりました。では、失礼致します」
『え、ちょ、おねーさんとのおh――』
通話を終了して、端末をポケットに入れる。昔なら考えられないようなことだが、なんとなく、楯無様の扱い方というものが染みついていた。あれだけ悪戯に振り回されていたら嫌でも身につくか。というか俺が覚えるってどれだけ性質悪いんだよ……。
「ってことで、楯無様が戻ってくるまでは保留だな。屋敷から出ないように」
「わかった。兄さんにベッタリくっついてる」
「俺と簪様は学校があるから無理だ。ここで大人しくしておいてくれ」
「私は追われる身なんだよ? 可愛い妹を放っておくの?」
「わかった、連れていく」
《ええー!?》
うるさいぞ。妹が大事で何が悪い。
「一夏……」
「うぐっ……そ、そうだ。マドカ、追われているってどういう事だ?」
「話逸らした……」
申し訳ありません簪様、私は自分本位な男なのです。
「兄さんは亡国機業って知ってる? 私はそこのエリート部隊のメンバーだったんだ。ISだって持ってる」
「亡国企業と言えば……あいつがいる組織だったな。たしか名前は……」
「オータム、じゃなかった?」
「ああ。オータムでしたね」
「そいつだ。オータムが兄さんを刺した事を知った私は組織を抜けだしたんだ。私を手伝うだの言ってたが、全くのウソだった! 兄さんに剣を向けるだけでも許せないのに、ISのブレードで串刺しにするなんて………絶ッッッ対に殺してやる!!」
大体は分かった。オータムと同じ組織にマドカはいた。多分、あの日俺が森宮に救い出されたように、マドカも亡国企業に救い出されたんだろうな。で、そのままエリート部隊入りして活動していたが、オータムが俺を刺したことを知って脱走、と。どうして俺がここに居ることを知ったのかは知らないが、訪ねてきて今に至るということか。
《マドカちゃんがいたから、マスターの事を公表しなかったのかもしれませんね。マスターが兄だという事を知ってたようでしたし、こうなることを予測していたんでしょう》
(その線が濃いな。というか、マドカを見ればそうとしか考えられない)
《マドカちゃんがブラコンで良かったですね♪》
(まったくだ)
《慣れろと言うんですね? このシスコンとブラコンばかりのこの空間に慣れろと言ってるんですね!?》
まったく、失礼な奴だな。家族を大事にして何が悪いと言うんだ。
「学校にも更識の人間はいますから、なんとかなるでしょう。最悪、転校生にしてしまえばいい話です」
「本当に、やるの?」
「簪様……」
そこから先は口に出して言えない。どれだけ小声であろうとも、俺と同様にクスリと情報によって強化されたマドカには聞こえてしまう。続きはプライベート・チャネルを使う。
『マドカを見たでしょう。俺が言うのもなんですが、傍についていないと何をするか分かりません。最悪、ISで学校に乗り込んできてもおかしくないんですよ。だったら、最初から目が届く場所に居させる方が安全です。追われているという事もありますしね』
『それは分かるけど……信用していいの? 洗脳されててスパイしているってことだってあるかもしれない…』
『その手の心配は無用です。私達は洗脳や自白剤、毒などには耐性がありますので。もし、無理矢理投与されたとしても、身体が拒絶して破壊します。裏切り防止の為に色々と仕込まれることがあるので、それに対する為です』
『ぅ……分かった。………またライバルが増えちゃった』
『?』
とりあえず、これで主からのお許しは頂いた。多分姉さんも問題ないと……思う、よ? うん。修羅場になりませんように……。
夜。
日課である日記を書きながら、今日の出来事を整理していた。
マドカが亡国機業を抜けだして、俺の元を訪れた――いや、帰ってきた。それもイギリスから強奪したIS『サイレント・ゼフィルス』を持って。マドカの安全を考えるなら一緒にIS学園に入学した方がいいと考えた。だが、元テロリストな上に強奪した第3世代型を日本人が使うのだ、下手しなくても国際問題に発展する。そこで姉さんに電話してアドバイスを貰う事にした。どうやらイギリスにも更識の息がかかった会社があるらしく、そこ経由で仲の良い国家代表を通して政府と交渉してくれるそうだ。政府と交渉とか……スケールが違うな。こればっかりは姉さんに任せるしかない。結果を待つだけだ。
学校の話は簡単に決まった。転校生の体でいく。学校側には妹を1人で留守番させるわけにはいかないから、といった当たり触りのない理由でゴリ押しした。明日から卒業まで一緒に登校することになる。教材は……まぁなんとかなるだろう。俺と違って日本人に見えるし、友達にも困らない……はず。メチャクチャ不安だ。
後は……そうだな、簪様とマドカが仲良くなったところだろうか? 所々で険悪なムードを感じることもあったが、基本的に仲は良いようだ。人見知りの簪様と、野生の動物のように他人を警戒していたマドカが、仲良くお菓子を食べているのは意外だった。昔と違って、マドカは変われたようだ。しっかりと人間に見える。
《マスターだって人間ですよ》
「見た目はギリギリだが、そうだろうさ」
ここには誰もいない。『夜叉』もスピーカーをオンにして話しかけてきたので、俺も頭の中で返さず声に出す。
「前は目が見えないくらい、後ろは膝まで伸びた真っ白な髪。右目は赤、左目は緑のオッドアイ。全身は傷だらけ。そこまで身体がしっかりしているわけでもないのに、片手で重機を軽々と持ち上げる力。最高速度は音速。中身はスッカラカンの大馬鹿野郎ときた。その上男のくせにISを使う。これが人間って言えるかよ」
《マスター、私は――》
「世事はいい。ったく、お前はいっつも喧しいくせに、優しいよな。俺には過ぎた相棒だ。なぁに気にしなくていい、言われるのには慣れてるんだ。俺も自分の事をそう思ってる。正真正銘“化け物”だってな」
《世辞ではありませんよ、私は本気でそう思っています。自分本位なところだったり、家族や主の為に命をかける覚悟といい、マスターは自分で思っているよりも人間臭いんです。少しスペックが高いからなんだと言うんですか? それに、マスターは楯無さんや簪さん、お姉さんの前だけですが、偶に笑顔を見せてますよ。そんな人が“化け物”なわけ無いでしょう?》
「………ありがとう」
《おやおや、素直にお礼を言うとは。私、驚きです》
「なんだ? うるさい、って言った方が嬉しかったのか? 虐められる方が好きなんだな」
《サディスティックなマスターとの相性はバツグンですね☆》
「……どうだかな」
きっと最高に良いんだろうさ。『夜叉』、お前が俺のISで良かったよ。口にも顔にも絶対に出さないけどな。
コンコン
「はい?」
「兄さん……」
障子を開けながら入ってきたのはマドカだった。
「寝れないのか? 安心しろ、誰が来ようが兄さんが守ってやる」
「いや、そうじゃないんだ。ただ、その……い、一緒に寝たいなって……」
「は?」
「だ、だって……兄さんと一緒に寝たのはたったの1回だけだし……」
「待て待て待て! 俺はお前と寝た覚えは無いぞ!」
「それはそうだよ。兄さんは昔の事を覚えて無いだろう。私だってあんまり覚えてないくらいだから。すっごく小さい頃、多分私が物心つく前、雷が怖くて寝れなかった私と一緒に寝てくれたんだ」
「あ、ああ……そういうことか」
俺はてっきり無意識のうちに妹に手を出していたのかと……。
「折角一緒に暮らせるんだから……その、我儘を言ってもいいかなって。ダメ、かな?」
「ダメじゃない……ちょうどそろそろ寝ようと思っていたところだ。ほら、こっち来いよ」
「うん!」
先に敷いていた布団をポンポンと叩いてマドカを呼ぶ。マドカが先にもぞもぞと入って、俺が入る。
「枕使うか?」
「いい。その代わり、腕枕してほしい」
「分かった。ほら」
伸ばした右腕に軽い重さを感じる。
「堅いね」
「そりゃそうだ。男だからな」
「でも、どんな枕よりも安心できる。生まれて初めて安らかな眠りにつけそうだよ」
「嬉しい限りだ」
マドカは俺の胸に手を当てて目を閉じた。それを言うなら俺もそうだ。昔姉さんにこうやって寝かされていた時、俺も同じことを思ってたよ。姉さんがいるから大丈夫だって、安心して寝られた。きっと、マドカも同じなんだろうな。
自由な左手で頭を優しく撫でる。昔は匂わなかったシャンプーの甘い香りと、女性特有の男を誘う香り。綺麗になったな、マドカ。
「兄さん、お休み」
「ああ、お休みマドカ」
「あー、諸君。まずは入学おめでとうと言っとく。あたしはこの1年4組担任の大場ミナトだ。んで、あっちは副担任の古森京子。この1年お前等の面倒見るから嫌でも覚えるように」
時は流れてIS学園入学式。俺は
俺の席は窓際の前から2番目、前が簪様で、隣がマドカと、これまた仕組まれたとしか思えない並びだ。護衛の俺が離れるわけにはいかないし、マドカに何かあったら俺が対処するしかないので妥当ではあるが。
ちなみにマドカの事だが、結果から言えば何とかなった。亡国機業所属時に強奪したIS『サイレント・ゼフィルス』はそのままマドカの専用機となった。イギリスの代表は姉さんと非常に仲が良く、製造会社であるBBCを説得し、データ採集と研究に協力することを条件に倉持技研と提携し、ISを譲渡してもらった。“森宮”マドカは倉持技研所属のテストパイロットであり、技術提携したイギリスのBBCから譲渡されたBT2号機の稼働データをとる。こういう事になった。前代未聞とはこの事だ。
そしてもう一つ。マドカは俺と兄妹なんだが、どう見てもそうは思われないだろうということからマドカは白髪のウィッグをしている。カラーコンタクトまではしていないようだが、それだけでも大分印象が変わった。鏡に並んで見ると結構似合っており、兄妹にも見えなくもない。だが、これは別の意味があるだろうと思っている。楯無様がそんなことを言うはずが無いからな。なんだよ、兄妹に見えないから、って。
「じゃあ、そっちから自己紹介」
俺がいる窓際ではなく、廊下側の方から自己紹介が始まる。わざわざ教壇まで行って全員の前でするあたり、いい性格してる先生だと思う。
順番は巡ってマドカの番。
「森宮マドカ。私の隣に座っている男性、森宮一夏の妹だ。倉持技研所属のテストパイロットで、イギリス製の『サイレント・ゼフィルス』が専用機だ。こんな口調だし、口下手だから色々と迷惑をかけるかもしれないがよろしく頼む」
ふぅ……普通だ。よかった、何かとんでもないことを言いそうだったからな。あんまり目立つようなことはしてくれるなよ。主に俺の精神が困る。
「あと、これだけは言っておく。私は兄さんに色眼を使う奴と、傷つける奴は絶対に許さない。それだけだ」
やりやがったぁぁぁぁぁ!! 宣言しちゃったよこの子! みんな引いてるよ!
《早速ブラコンですか。見せつけてくれますねぇ~》
頭が痛い。あれほど変なことは言うなよって言ったのに……。まったく、しょうがない妹だな。
そして、簪様の番。
「えっと、更識簪、です。日本の代表候補生で、専用機は『打鉄弐式』…です。技術関係は得意だから…分からなかったら、聞いてくれても大丈夫…です」
立派ですよ簪様。中学のクラス替えの度に噛みまくっていた頃とは大違いです。
(『夜叉』、録画してるか?)
《してますよ~。楯無さんのストーカーっぷりには呆れますね》
(そう言うな。くだらないと思っても“命令”だから仕方ないだろう)
《あの人は“命令”の使いどころを間違ってる気がします。さ、次はマスターですよ》
(ああ)
席を立って、教壇の前に立つ。そして俺に集まる視線。ISを動かした男という珍しさ者、それとも今の女尊男卑の風潮に染まった者、はたまたマドカの紹介から変な興味をもった者からの様々な目が俺を見る。
面倒だ。だが、やらなければならない。とっとと終わらせよう。
「妹から名前が上がった森宮一夏だ。俺も倉持技研所属で、専用機は『夜叉』という。マドカが言ったことはあまり気にしなくていい。ただ、俺も口下手だから不快な思いをさせることがあるかもしれないが、1年間よろしく頼む。あと1つだけ。森宮は代々更識という家の従者だ。先程自己紹介した簪様や生徒会長の楯無様のことだ。関係は無いかもしれないが、頭の隅に留めておいてほしい。長々と失礼した」
言う事は言った。拍手などが起きるはずもなく、黙って席に座った。
《あんまり良い出だしとは言い難いですね》
(構わんさ。ああは言ったが慣れ合うつもりは無い。やる事をやるだけだ)
《いつも通りドライですねぇ。人生に1回の高校生活を楽しもうと思わないのですか?》
(楽しい3年間になるならそれでもいいさ)
《亡国企業ですか。それ以外にもちょっかいをかけられそうですが……》
(今年は世界初の男性操縦者が2人もいるんだ。何が起きても不思議じゃないし、何か起きないことの方が不思議だ)
《それでもですよ。楽しめるうちに楽しむべきです。青春は今ですよ》
(前向きに検討してみよう)
《マスターのそれは却下と同意です》
物語は進みだす、と思う。俺は主人公って器じゃないけど、多分俺を中心に色々と面倒な事が起こるんだろうな。マドカの事もあるし、2人目もなんとなく気になる。無傷ってわけにはいかないだろうが、俺は主と家族を守るだけだ。新しくなった『夜叉』と姉さんもいる事だし、退屈はしないだろうさ。大変だろうが、俺なりに高校生活を楽しませてもらうかな。
なんて考えは一瞬にして吹き飛ぶ。まだ先の話になるだろうが、そんなに先というわけでもない。何が起きたのかって? 実の姉と弟がいたんだよ。学園にな。
え? 学園編じゃない? やだなぁ、自己紹介してるじゃないですか~。