無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 大変お待たせいたしました! 大学初の学祭とても楽しかったです! もしかしたら来られた方がいらっしゃるかもしれませんね。うどん一杯200円でした。

 学園祭の準備と片付けで大学内を走り回り、それが終われば他サークルの会議に参加して、今度は先輩が引退するので引き継ぎをして、さらには栗酢魔巣の会議……………気がつけば3週間近く経ってました。これからも忙しいです。言い訳臭いですがお許しください。

 ついでにもう一つ。出来が悪いです。特に山田先生のくだりが。机の角に頭をぶつけたくなるくらいに。申し訳ないです……。


11話 「悪いのは……”織斑”だ」

「―――ってーことだ。じゃあ授業終わり、森宮号令」

「起立、礼」

『ありがとうございましたー』

 

 入学式を終えて1週間ほどが経った。クラス委員なんてものを押しつけられた俺は、授業の号令、先生のパシリ、授業日誌や掲示板の整理など、面倒な仕事を毎時間の休みに行っていた。ちなみに仕事の内容は覚えていない。そこは『夜叉』の領分だ。

 

《マスターの事情は知ってますけど、何でもかんでも私に丸投げしないでくださいよ?》

(分かってるさ。まぁ、覚えた頃には次の学年に上がってるだろうがな)

《しょうがないですねぇ……そっちのプリントを抑えてる画鋲が外れそうですよ》

「おっと」

 

 言われた通りに動く。入学したばかりという事で、教室後方の掲示板は隙間が無い。各施設の案内や注意事項、ISスーツの申込期限、学食や寮の門限、時間割りに各教員の名前などなど、他にも色々と貼り付けられている。内容を覚えているのか、あるいは興味が無いのか、誰も見ようとはしない。ま、そんなものだろうさ。

 

 では何をしているのか? 勿論おしゃべりをして交友を深めていた。既に幾つかのグループができつつある。俺か? アウェーに決まってんだろ。気配を殺してるってこともあって、もはやエアーの領域に片足突っ込んでるぜ。俺としては簪様とマドカがクラスに馴染めたら十分だからな。

 

「ねえねえ、森宮さんのISってあのイギリスのでしょ? テレビであってたんだ」

「そうだ、『サイレント・ゼフィルス』という」

「で、更識さんのは打鉄シリーズなんだよね?」

「う、うん。第2世代だけど、出力は第3世代にも負けないよ…」

 

 専用機持ち、ということで2人は早速色々な人から話しかけられた。クラスの中心人物になるのも時間の問題、といったところかな。簪様は得意じゃないだろうが、当主の妹としてそういう経験も必要になってくるだろうから、いい機会だ。本当は簪様にクラス委員をやってもらうつもりだったのだが、誰も立候補しないから他薦でもいい、という話になって俺に決まった。『夜叉』と“シンクロ”できていなかったらどうなっていたことか……。

 

「その『サイレント・ゼフィルス』って、1組のイギリス候補生と姉妹機なんだってね~」

「む、そうなのか?」

「そうなんだよー。『ブルー・ティアーズ』って言うんだってさ。なんか1組は誰がクラス委員になるかで揉めて、今日ISを使った模擬戦で決めるんだって」

「? 1組に他の専用機持ちって……いた? 私、イギリスの子しか知らない…」

「えっとね、2人目の男性操縦者の“織斑秋介”君に専用機が政府から与えられるんだって。彼、“織斑先生”の弟らしいよ~」

 

 ………オリ、ムラ?

 

 ドクン

 

「あ、ああ……」

「す、ストップ! それ以上言わないで!」

 

 オリムラ……!

 

「ぐっ、ああああああああっ!」

《マスター! しっかりしてください!》

「兄さん!」「一夏!」

 

 許すな許すな許すな許すな殺せ殺せ許すな許すな許すな殺せ殺せ許すな許すな殺せ許すな許すな許すな許すな許すな殺せ許すな許すな許すな殺せ許すな許すな許すな殺せ許すな許すな殺せ殺せ許すな許すな許すな殺せ殺せ殺せェェェェェェェェェェ!

 

『お前は本当に“使えない”な。一夏』

 

 うるさい!

 

『はぁ………なんで一夏が僕の■なんだろ……』

 

 俺だって好きでこんなになったんじゃない! それだってのに……!

 

《マスター、失礼しますよ!!》

 

 バチンッ!!

 

「あぐっ!」

 

 ……………はあっ、はあ……っく。

 

 ……ああくそ、まただ。“織斑”という言葉を聞いたらこうなる。苦しくて呼吸ができないくらい、何も考えずに壊したくなるくらい、その“織斑”とかいう奴を殺したくなる!! 理由は分からない、だが、身体が、心が叫んでいる気がする。“許すな”“殺してしまえ”“苦しみを与えろ”と。

 勿論そんな感情に流されるわけにはいかない。俺が暴れてみろ、学園の生徒は全員死ぬだろうな。自分がどれほど危険な存在なのか理解しているつもりだし、全開の『夜叉』はどのISよりも恐ろしいのだ。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 マドカががっちりと抱きついて、簪様が俺の手を握りながら背中をさすってくれる。心なしか、待機形態の『夜叉』も温かく感じる。おかげで大分楽になってきた。まだ苦しいのに変わりは無いが。

 

「兄さん、大丈夫?」

「なんとかな……ふぅ……ぐっ」

「一夏、保健室に行って休んで」

「……分かり、ました」

 

 ゆっくりと、壁を支えにしながら立ち上がる。マドカが支えてくれたので、倒れずに済んだ。

 

「兄さん、私も一緒に――」

「大丈夫だ。お前は授業受けてろ」

「でも……」

「俺はそんなにヤワじゃないさ。今の俺じゃ説得力皆無だけどな……」

 

 マドカの頭を撫でて、教室を出た。クラスメイト達は何が起きたのかさっぱり、といった表情をしていた。向けられる視線は疑心だったが。

 

 ………そういえば、保健室どこだっけ? 案内見たんだけど忘れちまった。

 

《ナビしますよ》

(助かる)

 

 

 

 

 

 

 やっぱり。

 それが私が思ったことだ。一夏と同じようにISを動かした、一夏の実の姉“織斑千冬”はここの教員で、実の弟“織斑秋介”も私達と一緒に入学したのだ、こうなることは予測していた。そうなる前にお姉ちゃんと蒼乃さんと対策を立てようと思ってた。でも、こんなに早く……どうしよう。

 

「ねえ、更識さん。森宮君、どうしちゃったの? 私、気に障ること言ったかな?」

 

 さっきマドカと話していたクラスメイトが話しかけてきた。その顔は若干青く、申し訳なさそうな雰囲気を感じた。

 彼女は悪くない。私は首を横に振る。

 

「……そうなの?」

「そうだ。お前は悪くない。悪いのは……“織斑”だ」

 

 私と同じことを言い、震える拳を抑えてマドカは席に戻って行った。

 

「詳しいことは言えないの。原因を私達は知ってるけど、一夏には教えていないから、一夏の前で織斑君と織斑先生の事を離さないでほしいの。耳がいいから小声も、止めてほしいな。すごくつらい目にあったから、名前を聞いただけでああなっちゃう。だから、協力して。お願い」

 

 何も言えない、言いたくないマドカに変わって私は頭を下げる。他ならぬ一夏の為、恥なんて微塵も無い。

 

 クラスメイトは基本良い人たちばかりだけど、男を良く思っていない人がいるかもしれない。普段そう見せないだけで、実は嫌っていたとか、今の時代ではよくある話だ。

 視線を床へと向けて、言葉を待つ。最悪、協力してくれなくていいから一夏を放っておいてくれれば良い。これ以上一夏が傷つかなければ十分だから。

 

 ふと、私の視界に手が現れた。顔を上げると、私に手を出していたクラスメイトは皆の方を向いた。

 

「協力するわ。みんなもいいよね?」

「んーいいよー!」「OKでーす」「あんなの見せられたらねぇ……」

 

 ショートでメガネをかけた女子――清水さんだっけ? 彼女の声を皮きりに、皆が賛成してくれた。今まで虐げられてばかりだった一夏の為に協力してくれる人がいる。その事実に心が温まった。マドカも驚いた表情をしているあたり、かなり珍しいことだっていうのがわかる。

 

「えっと……清水、さん?」

「清水妖子。だから、妖子でいいわ。で、なに?」

「ありがとう…」

「気にしないで、困ってる人を放っておけない性格なの」

 

 彼女とは気が合いそうかもしれない。差し出された手を握りながらそう思った。

 

 さっきまでの暗い雰囲気もどこかへいって、クラスみんなで一夏の話で盛り上がる。目が綺麗だとか、髪が女の子より手入れされてるってどういう事よ! とか。今まで一夏が嫌われていた原因だった容姿をほめちぎる光景は、一夏の代わりに怒っていた私とマドカをとても嬉しくさせてくれた。

 

「目が怖いんだけど、聞けば応えてくれるし助けてくれるんだよね」

「当たり前だ! 兄さんはとっても優しいんだからな!」

 

 そして、言ってはいけない事を言った女子が現れた。

 

「彼って結構イケメンだもんね!」

「おい」

 

 それは……マドカの前で言っちゃだめだよー。言おうとしたがもう遅かった。南無。

 

 態度が豹変したマドカが肩を掴む。

 

「兄さんに色眼を使うなと、私は言ったよな?」

「は、はぃぃぃ……」

「そして、そんな奴は許さないとも言ったよな?」

「いいいいいいいいいましたぁあぁぁ!!!!」

「ほう? つまり分かっていながら言ったのか……極刑だな」

「ぎゃああああああああああああああああ!!!」

「まぁまぁ、待ちなさいな」

 

 振りあげられたマドカの手を止める人がいた。妖子だ。

 

「なんだ妖子。私は持田を断罪するのだ」

「持田さんが言ったのはマドカさんが思っているようなことじゃないの。森宮君を褒めたのよ、カッコイイって」

「む、そうなのか?」

 

 速すぎて遅く見えるくらいの速度で、持田さんは首を振っていた。勿論、縦に。

 

「ほう。兄さんの凄さが分かるとは、持田は良い奴だな」

「助かったよ妖子ぉぉ」

「貸し一つね」

 

 謝らないあたりが、なんというかマドカらしい。

 

 そんな3人のやり取りのおかげで、再び訪れた暗い雰囲気はどこかへいってしまった。まだ、会って間もないのに、一夏の事で協力してくれたり、こうやって皆で笑いあっているのを見ると。4組というクラスがとても良い空間に思える。まぁ、実際そうなんだろうけど。少なくとも嫌じゃない。

 

「おら、席につけー」

 

 先生が入ってきたので、急いで席に座った。それでも話し足りない人がたくさんいるみたいで、まだ教室は騒がしい。最初だからか、それとも性格か、授業が始まれば自然と静かになるからか、大場先生は多少の私語は見逃してくれる。今回も「程々にな~」と言うだけだった。

 

 昼休みになったら、保健室に行こう。教科書を開きながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

《カッコつけずにマドカちゃんについてきてもらえば良かったじゃないですか》

「マドカは俺ほどじゃないが、それなりに弄られてんだ。しっかり勉強させないと……こんな大馬鹿は俺一人で十分なんだよ…」

 

 教室を出て保健室に向かう途中、『夜叉』が話しかけてきた。誰もいないし、大声で話すわけでもないから別にいいかと思って、口に出して応える。

 

《あまりそうは見えないんですけどね……》

「だからこそ忘れるなってことだ。俺だって覚えてる」

《覚えておきましょう》

 

 『夜叉』が視覚に表示したルートに従って角を曲がる。もう始業のチャイムは鳴ったのだが、あまり目的の保健室に近づけてない。まだ身体が重くてしょうがないんだよ。というか悪化してる気がする……。遅効性の毒かっての……。

 

「なぁ『夜叉』……」

《何ですかマスター?》

「お前さ、俺が“織斑”って言葉に反応する理由分からないか?」

《そんなことを言われましてもねぇ……確かに“頭”ですけど、個人情報とかその辺りの事は私も知りませんよ。まぁ、心当たりが無いわけでは………マスター》

「なんだ?」

《誰かが近づいてきています。そこの角を曲がったあたりの所に1人》

 

 俺は何も感じない。が、こいつは冗談を言っても嘘は言わないので信じることにした。口に出さず、まとまらない思考で返す。ああ、更に頭痛が……。

 

(俺には分からないんだが……)

《マスターは悪意や殺気などに過敏に反応してるからじゃないですか? この人間、そういった類のモノを全く感じません》

(見えない相手の気質まで分かるのかよ、お前……)

 

 俺の突っ込みはさておき、『夜叉』言う事は正しいと思う。これは予想になるが、悪意や敵意、殺気の中で生きてきた俺は好意100%の奴が俺に後ろからこっそり近づいても分からないだろう。負の意識=視線に置き換えてるってことか。まぁ、そんな奴は殆どいないだろうが。姉さんぐらいだろ、そんなの。もしいたとしても気にする必要は無い。俺や姉さん、お嬢様方に突っかかって来ないならどうでもいい。

 

(話の続きは後だな)

《そうですね。ついでに、その人に連れて行ってもらいましょうよ》

(初見の女性に、保健室まで連れて行ってくれ、なんて言えるかよ……見てな、自力でたどり着いてやる!)

《変なところでやる気出さないで貰えます? 扱いに困りますので》

 

 こんな会話をしながら歩き続けているが、一向に進まない。距離で言うなら10mぐらいか。身体引きずってるからってこれは無いわー。今の俺は亀のノロさと兎の調子の良さが混ざった感じだな。

 

《来ますよ。いいですか、恥ずかしがったりせずにちゃんとお願いしてください。今の私は真面目モード入ってますからね。それに、無茶してマドカちゃん達を困らせても良いんですか?》

(卑怯な奴め……! 分かったよ、頼む)

 

 ふぅ、と大きな息を吐いて壁に寄りかかる。そのままゆっくりと力を抜いて床に座り込んだ。気を抜いたらこうなるなんてな……結構無理してたみたいだ。やっぱりわからんな、自分の痛みってやつは。

 

「あーー急がないと! 試合が始まっちゃいます! ………って、大丈夫ですか!?」

 

 叫びながら角を曲がってきた女性――授業中なので先生だろうな。先生は俺を見ると駆け足でよってきた。緑の髪にメガネで童顔、そしてありえない位デカイ二つの膨らみ。綺麗って言うより可愛いって感じの人だった。

 

「すみません……具合が悪くなったので保健室へ向かっていたのですが、動けなくなってしまいまして……」

「わ、わかりました! 捕まってください!」

 

 差し出された手を握る。「いきますよ!」の声に合わせて立ち上がり、先生に肩を貸してもらってなんとか立つことができた。そのままゆっくりと歩く。先生はどうやら急いでいるらしく、早歩きしているが不思議と俺への負担は無い。それなりに訓練を受けていてもここまでできる人はそうそういない。かなり腕が立つようだ。

 

「しっかりしてください! もうすぐ着きますよ、森宮君!」

《あ、寝そうになってますね。ダメですよ~風邪ひきますよ~通りかかった人にお持ち帰りされても知りませんよ~。あ、歌でも歌いましょうか? 大丈夫です、子守唄にならないように頑張りますから! んんっ! では一曲………Brush Up! ユウキ~今日も~》

 

 励ましの言葉を貰うが、あまり聞きとれない。疲れきっているからなのか、“織斑”という言葉がもたらした毒のせいなのか、とにかくボーっとしていた。『夜叉』が終始うるさかったので寝ることは無かったが、おかげで少しも休めねぇ。ちくせう。

 

 

 

 

 

 

 気がついた時には知らない部屋のソファに寝ていた。首を動かすのも億劫なので目だけで部屋を見渡す。幾つか並んだ白いベッドと、それを区切るこれまた白いカーテン。そして棚の中には何らかの液体が詰まった色つきの瓶。利用したことが無いので分からないが、多分ここが保健室なのだろう。

 

 窓の外はまだ明るいので、そこまで時間が経っているわけではなさそうだ。

 

「あ、起きました?」

 

 起き上がろうとすると、さっきの先生がこっちに来た。両手に毛布を持っているってことは俺が風邪ひかないようにってか? ………無いな。うん、無い。いくら先生でもそんなことしないだろ。俺は特に。でもまぁ、世話にはなったしお礼ぐらいは言わないとな。

 

「………ええ、ありがとうございます。ここは、保健室ですか?」

「はい! 見ての通り、保健室です!」

 

 にこっと笑って首を傾ける仕草はまさしく子供だ。

 

「で、先生は保健室の方でしょうか? 少し休ませていただきたいのですが……」

「いえいえ違います、私は1年1組の副担任で山田真耶です。ここの先生は今は留守にしています。もうすぐ戻ってくるみたいですから、それまで待っていてくださいね。私は用事があるのでもう行きますけど、何か必要なものあります?」

「いえ、特には……」

 

 面倒な話だ。だが、無視するわけにもいかないだろう、この先生の為にも。迷惑をかけない程度にぐうたr――休ませてもらおう。

肘かけをまくら代わりにして横になる。堅いし痛いんだけど、そこは仕方ないな。我慢しよう。

 

「あの……どうして廊下でうずくまっていたのか、聞いてもいいですか~?」

「具合が悪くなったから、と言ったと思いますが」

「あ、ごめんなさい、言い方が悪かったですね……。え、えっと……どう具合が悪いのかとか、って言えばいいですか?」

「ああ」

 

 “織斑”という言葉に反応してこうなりました、なんて言えないな。もう1人の男子は1組らしいから余計なことになりそうだ。そいつの姉も1組の担任ってんだから尚更だな。俺にとって1組は鬼門に違いない。近づくのは止めておこう。

 

 でもなぁ……なんで具合が悪くなるのか、俺もよくわからないんだよね。

 

「そうなんですか?」

「え、声に出てました?」

「ばっちり。なんで苦しくなったのかわからないんですか?」

「ええ、さっぱり」

「そうですか……それは困りましたね……」

 

 口をへの字にしてこめかみを掻いている姿はやっぱり子供だった。なんというか、見た目通りと言うか、分かりやすいな。

 

《マスター、具合はどうですか?》

(大分良くなってきた)

《では1つ。“なにが原因なのか分からない”と返したのは拙いのでは? 男性操縦者が原因不明の病にかかった、なんてことになったらどうなることか……》

 

 あ。

 

 ………やばい。ヤバいヤバいヤバいって!! 風邪とか熱が酷くなったとか言えば良かったのに何正直に答えてんだよ俺!? 

 

《深読みしすぎましたね……》

 

 こんなんだから“無能”なんだろうな……どうしよう? 病院とかマジで嫌なんだけど。点滴のパックと針みたら暴れ出す自身あるぜ。

 

《今から取り繕うのも不自然ですし、本当に分かってませんから何も言えませんし………これは神頼みするしかないですね。申し訳ありません、私が気付いていれば……》

(いや、お前は悪くない。何時だって俺がバカやらかすんだ。でもほんとどうするよ? 流れに任せるしかないのか?)

《そう……ですね。最悪、楯無さんや蒼乃さんになんとかしてもらう形になります》

(また迷惑かけるのかよ……クソ!)

「まあ、ただの風邪だと思いますよ!」

「………え、あ、はい?」

「それより、なんだか怖い顔で思いつめていましたけど大丈夫ですか?」

「な、何でもありません」

 

 顔にでてたのか……まったく、ポーカーフェイスが笑えるな。

 てか、風邪て……

 

(この先生で助かった……)

《全くです……》

 

 見た目とか仕草だけじゃなくて、中身も子供だな。本当に大人なのだろうか? クラスの生徒に弄られている姿しか想像できない。

 

「何か悩みがあるなら相談してくれても良いんですよ? 何たって私は先生ですから!」

 

 エッヘン、と胸を張る山田先生。俺の事気に掛ける事より、急ぎの仕事片付けた方がいいんじゃないんですか?

 

 ~~~~~♪

 

「ひゃあっ!!」

「………先生の携帯ですよ」

「え? あ、ホントですね……すいません」

 

 先生は後ろを向いて電話に出た。外に出ないのは俺がいるからだろうな。……別に逃げたりとかしないのに。

 

「はい、山田です………す、スイマセン~! えっと、実は体調を崩した生徒がいたので保健室で介抱を……はい、はい……担当の先生がもうすぐ来られるので、すぐに変わって……え、今来たんですか!? わ、わかりました、すぐに行きます!」

 

 電話を切ると同時に慌てて先生は支度を始めた。元々持ってきていた資料をかき集めて、バタバタしながら保健室内を走り回っていた。

 

「本当に申し訳ないんですけど、今から外せない用事があるんです! もうすぐしたら保健の先生も来ますから、1人でいてもらっても良いですか!?」

 

 言わんこっちゃない。

 

「………ええ、大丈夫です」

「ありがとうございます!! そしてごめんなさぁぁぁ………」

 

 勢いよくドアを開けて、走り回っていた勢いのままエコーを響かせて去って行った。

 

 ………せわしない人だったな。

 

 開けっぱなしのドアを閉めて、入口から一番遠いベッド目指して歩く。体調を崩した生徒の為の備品なんだ。薬品を勝手に使うわけでもないし、別に良いだろう。フラフラと頼りないが、休んだおかげでさっきよりはまともに歩けるようになっていたので、こけたり躓いたりすることなくたどり着けた。もぞもぞと潜りこみ目を閉じた。

 

 ふぅ……やっと一息つける。大分楽にはなったが、それでも身体は重いし、頭も痛いままだ。名前を聞いただけでこうなるなんてな……俺は相当“織斑”って奴と縁があるらしい。それも悪い意味での。

 

《話の続きをしても?》

(………ああ、そうだったな)

《“織斑”という言葉に反応する心当たりがあります》

(俺には無いんだが……)

《ただの推測ですよ。私は人体の仕組みはよく分かりませんが、1つの仮説を立ててみました。マスターは実験の影響によって記憶を失い、今も障害が残っています。でも“織斑”という人名に反応してしまう。間違いありませんか?》

(ああ)

《マスターは昔の出来事を覚えていません。ですがマスターの“身体”が覚えているのではないでしょうか? 何をされたのか、何があったのか、どう過ごしていたのか、“織斑”という人物とどういう関係で、どう関わっていたのか。マスター自身が忘れていても、実際に動いて触れ合った“身体”が覚えている》

(俺の……身体の記憶?)

《反射と同じようなものだと考えています。後ろから肩を掴まれたら投げ飛ばしてしまうように、ナイフを持てば切りたくてたまらなくなるように……“織斑”という名前を聞いたら、傷つけたくて、殺したくてたまらなくなるのでは?》

 

 反射、習慣、癖、そんなところか。でも、なんとなくそうなんじゃないかって思えるな。『夜叉』の考えを覆すような案は浮かばないし、否定もできないし。

 名前を聞いただけで殺したくなる、それってさ、殺したくなるほど憎い相手だって事だよな? どんな関係だったんだ……?

 

《さすがにそこまでは分かりませんよ。ですが、マスターが“織斑”を憎んでいるのは確かな事だと言えます。でなきゃ、殺したくなるなんてありえないでしょう。それがマスターの一方的な感情なのか、それとも互いに憎みあっていたのかは知りませんが》

(何にせよ、関わりたくは無いな)

《ですが、避けられる問題ではありません。いつか必ず直面するでしょう。同じ学園に居るのですから》

(何とかしないとな、“織斑”って聞くたびに暴れてちゃ世話無い)

《………良いのですか? 拡大解釈になりますが、マスターがしようとしていることは昔を知ることですよ? 下手したら今より酷い精神状態になります。今は何も考えず、休まれては?》

(………そうだな、今は忘れよう。入学したばかりなんだ、時間はまだある。今すぐ知る必要は無いよな)

《まずは身体を休めてください。ゆっくりと学園に慣れて、それから考えてみましょう。マスターに必要なのは時間だと私は考えます》

 

 言ってみればただ問題を先延ばしにしただけだ。良いことじゃないのは分かるが、今は許してほしい。今の俺を狂わせ、過去を知る手がかりである人達が数十枚壁を挟んだ向こう側に居るのだから。

 とにかく疲れた。寝よう。

 

「ああ……そうだな」

「何が?」

「!?」

 

 『夜叉』へ言葉を返して寝ようとした時、声をかけられた。さっきまで俺だけだったし、ドアが開く音もしなかった。先生が後から来るからと山田先生から聞いていたので鍵は駆けていなかったから誰かが入ってくることはできる。だが、俺が気付けないはずが無い。しかし、声の主は入って来た。俺でも拾えないほどの小さな音だけで、ベッドのすぐ脇まで。

 

 袖に忍ばせた特殊合金ナイフをいつでも抜けるようにして、ゆっくりと目を開く。

 

 そこに居たのは……

 

「久しぶりね、一夏君」

「貴女は……当主様の秘書」

「ええ。でも名前は覚えていないのね……」

《天林美里、ですよ》

「(助かる)……天林美里様、ですか?」

「そう! 覚えててくれてうれしいわ~」

 

 森宮現当主秘書、天林美里だった。

 

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