無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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13話 「一夏が負けるところ、見たくないな」

「編入生?」

「ええ。昨日、楯無様から聞いたのですが、2組に中国の代表候補生が来るとか。第3世代型の専用機を持って」

「兄さん、入学早々編入って普通?」

「変だ」

「わかった。兄さんがそう言うならその女は変だ」

 

 妹のまちがいを指摘するべきなんだろうが、とうの昔に諦めているのでスルーする。問題は編入生だ。この時期に来るという事は間違いなく男性操縦者のデータが目的だろう。2組なのは恐らくアイツ狙いだ。

 

《いつかはマスター狙いの国が出てきてもおかしくは無いでしょう》

(日本は何とかなる。ロシアも同じような理由で大丈夫。百歩譲ってイギリスもか?)

《イギリスは微妙ですね。脅迫すれば間違いなく干渉してこないでしょうけど……他の国はそうもいかないでしょうね》

(ああ)

 

 どうしたものか……。あと数ヶ月もすれば各国の代表候補生が俺の所にも来るのだろうか? わざわざ本国から編入してきたり、毎時間授業の合間や放課後に付きまとってきたり……どう見てもストーカーじゃねえか……。というか女の子が俺に付きまとうところを想像するとか、ただの自意識過剰だろ。

 

「一夏?」

「少し考えごとを。私の所にもそういった輩が来るのかと……」

「……多分。でも、お姉ちゃんと蒼乃さんがいるから……」

「何時までもおんぶにだっこというわけにはいかないでしょう? 私で何とかしたいのですが、生憎社交性なんてものは持っていませんので……うまくあしらえるか心配です」

「大丈夫だよ、兄さん。私がゴミ掃除するから!」

「ん、そうか。ありがとな」

「えへへ」

 

 ゴミ掃除、の部分を自分の都合の良いように脳内変換して、俺の為にと言ってくれたマドカを撫でる。普段とはまるで別人のような笑顔だな……そこがマドカの可愛いところでもあるんだけどな。

 

《マスターだけですよ。そう考えてるの》

(姉さんもだぞ)

《……そうでしたか。ここは本当にシスコンばかりですね》

 

 妹を可愛がることの何が悪いというのだ……。

 

 とまあそれは置いといて。

 男性操縦者のデータを求めて各国がここIS学園に代表候補生、もしくは代表を送ってくるだろう。既に中国は動いているわけだし。ISの技術が発展していて尚且つ1学年に代表候補生が居ない国……ドイツ、フランス、イタリア、アメリカ、オーストラリア、カナダ、オランダ等々、急に編入してきそうな国はまだまだある。俺も無関係じゃいられないな……。

 

《今は気に留める程度でいいと思いますよ。前も言った通り、とにかくここでの生活に慣れましょう。考えるのは余裕ができてからです》

(悩みが多いな……“織斑”といい代表候補といい)

《ふぁいとっ、おー♪》

 

 まぁ、頑張るさ。心の準備だけしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終礼後。

 

「頑張ってね、一夏」

「兄さんなら大丈夫だよね」

「森宮君頑張ってね」

「スイーツの為に!」

 

 その他諸々、つい先日まで俺は空気だったはずなのに、いつの間にかフレンドリーに接してくるようになったクラスメイトから応援される。

 何でかって?

 少し遡ろう。

 

 

 

 

 

「大分先の話になるが、クラス対抗戦を行う」

 

 教室に入ってきて号令をかけてすぐの一言がこれだ。無駄に前置きを用意しない、結果からズバッと行くのが我らが教師、大場先生だ。

 

「クラス対抗戦?」

「そうだ」

 

 誰かのつぶやきに先生が応える。

 

「毎年恒例の行事でな、1年生の大体の実力の把握、IS戦の雰囲気を感じたりと様々な目的がある。初めてのクラス単位で挑む行事でもあるから、一致団結して交流を深めるとかそういう意味合いも無いわけじゃない。私としては教員の打ち上げで飲みに行くのが楽しみだ」

 

 非常に素直だ。これが我らが大場教師である。

 

「誰が出るんですか?」

「クラス委員だから、4組は森宮ってことだ。良かったなお前等、専用機持ちが代表で。優勝したクラスにはデザート券半年分だぞ~」

『!?』

 

 

 

 

 

 

 ということだ。皆が応援してくれているわけだが、その真意は「絶対に優勝しろよ!」ってとこだろう。

 デザートはどうでもいいが、こういった勝負事で負けるわけにはいかないので、優勝しようという気は十分にあるし、勝てるという自信も少しはある。安全が約束された環境で訓練してきた候補生なんて目じゃない。油断はしないが容赦もしないぞー。

 

「まあ、頑張る」

「もっとやる気出せよ! なんでそこで気の抜けた返事が返ってくるんだよ! もうちょっと声出せよ! もっとぉぉ! 熱くなれよぉぉぉぉぉ!!!」

 

 修○先生、自分はその熱さと一生縁が無いのです。

 

「適当にやるさ。勝てばいいんだろ? どうせ殆ど素人なんだから軽くでいいだろ。これでも現生徒会長とは互角にやれるんだぞ」

「えー、でもなー」「心配だなー」「デザート~」「お米食べろ!!」「欲しいな~」

 

 ブーイングの嵐と修○先生のありがたいお言葉が襲いかかってくる。

 当然か。学園最強と互角とか、素人扱いしたりとか、どう考えても舐めて掛かってやられる奴の台詞だよな。俺もそう思う。

 

 でもな、やる気はあっても本気は出せないんだよ。『夜叉』で本気になったら多分相手が死ぬ。絶対防御なんて紙みたいなものなんだって。

 

 詳しくは言わないし、そもそも企業秘密なので言えないし、勝手に使えない。『夜叉』のお披露目は楯無様と姉さんの許可が必要なのだ。

 という事で今回は打鉄を使う。それでも勝てる自信はある。不器用な俺からの目に見えるハンデとでも思ってくれ。

 

 この事を伝えると更にブーイングが襲いかかる。もはや台風、ハリケーン、サイクロン、ダイ○ン掃除機。

 

「くっ……どうあってもやる気を出さないつもりね!!」

「こうなったら……更識さん、マドカちゃん、ちょっといい?」

「「?」」

 

 だからね、俺の専用機は使えないの。ピーキーすぎてリミッター掛かってるけど、それでも酷いんだって。俺もね、辛いんだよ。折角要望通りに仕上がったってのに、危険すぎるからってリミッターかけられてさ、展開するのに許可取らないといけないんだ。『夜叉』も新しい身体を気にいってるんだぜ? マドカ、お前も言ってくれ。俺は訓練機でも大丈夫だって。………うん、俺の目とかどうでもいいから。

 

「い、一夏?」

「はい?」

「専用機が使えないの知ってるから、打鉄で対抗戦に出るのは何も言わないけど……」

「………」

 

 嫌な予感がするなぁ……にやにやしてる奴がいるし。

 

「一夏が負けるところ、見たくないな……」

「ぐはっ!」

「兄さん……」

「な、なんだ……」

「一度でいいから、デザートでお腹いっぱいになってみたい」

「げふぅっ!」

 

 強烈な顔面パンチからのアッパー、追い打ちの踵落とし。そのどれもが殺人級の威力を秘めていると来た。これは……無理だ。

 

 なるほどな。簪様からの言葉と、マドカのお願いなら俺が腰を上げると思ったんだな。的確な判断だ。俺には対抗する手段は無いし、する気も無いし、そもそも出来ない。というか最初からやる気は出してるんだって……。

 

「マドカ」

「ん?」

「兄さんに任せろ」

「やった! ありがとう兄さん!」

「簪様」

「な、何?」

「必ずや、貴女に勝利を捧げましょう」

「う、うん」

 

 マドカの頭をぽんぽんと撫でて、簪様には片膝をついて頭を垂れる。いい加減反射的にこの行動をとるようになってしまった。俺は早々に慣れたが、簪様はそうではないらしく顔が真っ赤で、始めて見たクラスの面々は黄色い歓声をあげた。

 

 

 

 

 

 

「あれでいいのか? 妖子」

「ちゃんとしたから、約束の……」

「はいはい、分かってる。これ、報酬よ」

「ふふふ、これで1ヶ月は心配しなくて済むな」

「はぅ……かっこいい……」

(………森宮君の写真数枚で色々引き受けてくれるんだから助かるわ~。チョロいわね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからの俺は毎日放課後にアリーナへ赴いた。理由は勿論、対抗戦で勝つためにだ。しかし、展開するのは『夜叉』ではなく『打鉄』。経験や実力の差に甘えるつもりは更々ない。勝利を確実なものにするため、俺は『夜叉』しか乗ったことが無いので、『打鉄』に慣れようと思ってのことだ。

 

 とにかくスペックが低い。専用機と比べれば仕方のない事だが、それでもやはり低いと言わざるを得ない。俺の場合、比較対象が『夜叉』や姉さんの『白紙』だからというのもあるだろうが。

 そして、動かしづらいのが一番困った。俺がISを動かせるのは『夜叉』と“シンクロ”して対話し、『夜叉』が俺を搭乗者と認めたからだ。コアが変われば当然、俺はISを1mmも動かせない。ではどうやって動かしているのかというと、『夜叉』を中継して電気信号を送っている。『打鉄』は『夜叉』を搭乗者だと御認識させている状態だ。本来なら必要無い工程を挟んでいるので、動きが鈍るのは必然だと言える。

 動かしづらい、遅い、なんて言ってもせいぜい0.5秒ほどだ。だが、0.01秒が生死を分けることを知っている俺としては、この遅さは結構怖い。が、今回ばかりはしょうがない、割りきろう。

 

 幸いなことに、大場先生は対抗戦で『打鉄』を使う旨を伝えると、優先的に機体を回してくれるように手配してくれた。しかもずっと同じ機体を使っていいそうなので、こっそり設定値を弄ったり、武装を変えたりと少し手を加えた。反応速度と機動関係の出力を限界まで上昇させることで、何とか第2世代専用機辺りの速度が出るようになった。おかげで各部のストレスが激しいので、使用する度に換装しなければならないが。

 

 設定を弄って、『打鉄』を乗り回し、最後に消耗の激しいパーツを取り替えて、学園側に返却する。これを毎日ひたすら繰り返した。

 遠中近どの距離でも戦えるので、どれも等しく同じぐらいの練習を行った。個人的には近~中距離が得意なので、特にこの部分を集中的にした。

 

 とりあえず、これで大丈夫だろう。すくなくとも、同じ『打鉄』で対抗戦に出場する女子には負けない。

 問題は専用機持ちだ。確認しているだけで、1組、2組がいる。毎年、専用機を持って入学するのは多くて3人。いない年もあるらしいので、クラスに専用機持ちが別に珍しくは無い。代表候補生がいないクラスだってあるくらいだ。今年は色々とイレギュラーなことが起きているのでかなり多いが、以前も話した通り、まだ増えるだろう。

 

 1組は……アイツ、2組は中国、この2人がどういった戦い方をするのか、抽選が決まって観戦する余裕があれば是非とも観て、対策を立てたいところだ。機体で既に負けているのだ、足りない部分は実力と経験と情報で埋めるしかない。

 

 というわけで、マドカにも手伝ってもらいながら、俺なりに情報を纏めてみた。

 

まずは1組。

織斑秋介。専用機『白式』。第3世代型。武装は『雪片弐型』という刀のみという、近接戦闘オンリーなIS。ハンドガンや小さなシールドを搭載する余裕すらないらしい。だが、その分性能はずば抜けて高い。特に近接戦闘において重要な機動性と旋回性、繊細かつ丈夫なマニピュレーターと関節部は目を見張るものがある。最も特筆すべきはその攻撃力。『雪片弐型』は物理刀、ビーム刀どちらも使えるという優秀な武器であり、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『零落白夜』は一撃必殺の威力を誇る。その戦闘スタイルや、ISの性能、何より単一仕様能力は、かのブリュンヒルデ、織斑千冬を彷彿とさせる。実力はまだまだだが、搭乗者は“天才”と呼ばれている。呑み込みの早さ、それをすぐに扱いこなし応用する柔軟性、同学年の数十歩先を行く知力等々、可能性を秘めている。将来有望な優良物件として、女子からの人気は非常に高い。こうしている間にもうなぎ登りだろう。だが、織斑千冬がそれを認めるかと言えば99.999999%の確率でNOだろうが……。

 

 次に2組。

 凰鈴音。専用機『甲龍(シェンロン)』。分類は第3世代。柄の短い二振りの青龍刀『双天牙月』と当ISを第3世代たらしめる『衝撃砲』が主な武装。第3世代型共通の課題である“燃費の悪さ”というところに着眼し解消した機体。全体的に安定した性能を持ちつつ、パワータイプの中でもなかなかの破壊力を秘めている。『双天牙月』は柄を連結させてることで双刃刀となり、ブーメランのように投擲することが可能。『衝撃砲』も含め、中距離での戦闘、援護もそつなくこなせる。『衝撃砲』だが、これは周囲の空間を圧縮、砲身を形成して放つ見えない空気の弾丸と言えば分かるだろう。砲身による弾道の見切り、射角修正等の必要が無い為、短い時間で高威力の弾をばら撒くことができる。そこそこの弾幕は張れるが、連射は向いていないので注意が必要。逆に言えば、そこを狙うと良い。ISのハイパーセンサーは360度見渡す事ができ、『衝撃砲』に制限は無いので基本死角は無いと思っていい。自分から近づくのではなく、向こうから近づいてくるのを待って、自分の距離に入ったところで畳みかけるのがベスト。典型的なツンデレで、貧乳。これを言うと怒るらしいので注意が必要。

 

 ………うん、少しばかり必要ないものが入っていたが、大体分かった。専用機の情報は基本後悔しなければならないので、こちらでもある程度のデータは手に入る。これはかなり貴重な情報だ。それとは別で、実際にどういった戦い方をするのかもまた重要である。情報とは、とても貴重なものだ。

 

 練習の片手間に情報収集をしていると、あっという間に前日になった。明日の準備のために、今日の授業は早めに終わり、アリーナの調整に入る。本番当日は試合前にISに乗ることはできないので、調整までの間に最終確認等を終えて、万全な状態を作らなければならない。自然と気が引き締まる。

 

 勿論俺も行く。1日の休みは3日の遅れ、なのだ。1日でも鍛錬を怠ってはいけない。

 

 更衣室へ向かう途中、1人の女子とすれ違った。見るからに貴族、といった雰囲気の奴だ。

 

「あら? もしかして、貴方が森宮一夏?」

「だからなんだ」

「確か4組の代表でしたわね。という事は今から最後の調整に入るのかしら?」

「分かっているなら通してほしいものだな。今日のアリーナの使用時間が短いのは知っているだろう? えーっと……」

「失礼しました。私、セシリア・オルコットですわ。イギリス代表候補生でして、専用機は貴方の妹のマドカさんが使われている『サイレント・ゼフィルス』の姉妹機、『ブルー・ティアーズ』です。今後ともよしなに」

「自己紹介なんぞ意味は無い、俺の事だからどうせすぐに忘れる。で、何か用か?」

「企業所属のパイロットだそうで」

「それが?」

「私達1組代表の秋介さんは“天才”ですわ。私が色々と教えて差し上げたのですが、わずか数週間足らずで様々なことを身につけられ、今では代表候補クラスの実力をお持ちです。貴方も専用機をお持ちのようで。きっと、いい勝負ができるでしょう」

「それで?」

「もしトーナメントで当たることがありましたら全力でお相手してあげてくださいな。経験では秋介さんは貴方より劣っているのですから」

 

 こいつは言外に「踏み台になれ」と言っているようだな。オブラートに包んだつもりのようだが、少しも隠せていない。尻尾じゃなくて全身が丸見えだな。現代の典型的な女性だ。無条件で女性は偉く、これまた無条件で男性は家畜同然だ、そう思っている奴だろう。この手の奴は嫌いだね。ISが産んだ負の遺産と言ってもいい。

 

 ここではっきりそう言うと面倒なので、適当にスルーしておく。

 

「そうだな、そうさせてもらおう。元より、手を抜くつもりなどない」

「そうお伝えしておきますわ。それでは」

 

 彼女――えーっと……イギリスの候補生は優雅に去って行った。見た目はホントに可愛いのに、中身がアレじゃあな……。

 

《そんなこと言ってる場合ですか。はやくいきましょう》

「そうだな。なんか久しぶりにお前と話した気がする」

《気のせいです。気にしたら負けです》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。風呂上がりの身体を覚まさないようにココアを飲みながら、各クラス代表の情報をチェックしていた。俺は忘れるだろうから、『夜叉』に覚えてもらっているところだ。どこも代表候補生が代表になっているようなので、そう簡単に勝負が決まることはそうそうないだろう。対策を練っておいて損は無い。

 

「兄さん、もう寝た方がいいんじゃない?」

「俺があんまり寝れないの知ってるだろ。眠くなったら寝るから、先に寝てていいぞ」

「兄さんより先に寝たりなんてしないよ。待つ」

「………ったく、しょうがない奴だな」

 

 寝れないから寝ない→じゃあ私も寝ない→仕方ない奴め→結局寝る。週に3回はこのやり取りをしている気がする。実際もっとしているかもしれない。なんとなく、マドカが楽しんでいる風なので付き合っている。

 

「電気消すぞ」

「うん」

 

 枕元のスイッチを押して電気を消す。カーテンも締まっているので月明かりも無く、部屋は真っ暗になった。

 

 枕を置いて、マドカがゴロゴロと転がってきてしがみついてきた。本来は2つのベッドの間には仕切りがあるのだが、マドカの要望により、仕切りを取り払ってベッドをくっつけている。これが意外と広くて俺も気に入っている。

 

「兄さん」

「なんだ」

「明日、頑張ってね」

「ああ」

「あんな奴に負けちゃ……嫌だよ」

「……ああ」

 

 あんな奴、というのは1組のアイツ――織斑秋介の事だろう。俺もよくわからないが、負けられないという気持ちが湧いてくる。それと同時に、マドカに、簪様に、ついでにクラスメイトに、デザート券を持って帰りたいとも思う。特に、マドカには。

 

「マドカ」

「何?」

「俺たちは、まっとうな生き方をしてきていないよな」

「うん」

「身体中弄られて、無理矢理人殺しをやらされて、自由な時なんか無くて」

「……うん」

「だから俺は勝ちたいと思っている。お前にデザート券をこの手で渡したいってな」

「………」

「お腹いっぱいデザートを食べたいって言ったろ? その時俺嬉しかった。ようやく我儘言ってくれたなって。それが俺の腕にかかっているって考えたら、もっと嬉しくなった。マドカに年頃の女の子らしいことをさせてやれるって、そう思った」

「そんな……我儘なんて……。妖子が兄さんのやる気を出させてほしいって言ったから……(写真をやるって言ってたから……)」

「だったら普通に頑張ってで良いだろ。でもそれを言ったって事はそう言う事なんだよ。だから嬉しかった」

「そうかな?」

「そうだ。だから頑張るよ」

「うん、頑張って」

 

 しがみつく腕の力が微妙に強くなった。返すように俺も抱きしめ、頭を撫でる。

 

「お休み」

「お休み」

 

 今日は久しぶりにぐっすりと寝れそうだ。

 

 




 セシリア初登場。
 本人はただ単に「いい試合をしよう!」と本人なりのエールを送ったにも関わらず、一夏は喧嘩を売られたと思って激オコぷんぷん丸。言葉って怖いね。

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