無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 新ヒロイン登場! おかげで後半ぐだった感が……


14話 「蹴散らす」

 日は変わってクラス対抗戦当日。この学園は一学年10クラスあるので、今回の出場者は10人となる。俺含む10人は一番大きな第1アリーナに集まっていた。綺麗に1列に並んで、学園長を始めとしたお偉いさんや、来賓来客がズラッと並んでいる観客席を向いている。既に開始時刻を過ぎているので、開会式を執り行っている最中だ。たった10人しか参加しないのに開会式を行う必要があるのだろうか?

 

《外から客を招くからでしょう。確かに内輪事ではありますが、人に見られる以上必要なんだと思いますよ》

(面倒くさい……)

《そう言わずに。ほら、マスターの出番ですよ》

(ああ)

 

 参加者側の出番と言ったらアレしかない。選手宣誓。体育祭じゃあるまいし、なんでこんなことを……と楯無様に聞いてみた。

 

「1年生初の行事でしょ。これから頑張ってね! みたいな意味があるらしいわ。IS学園には普通の体育の授業はあっても体育祭は無いから。あ、ちなみに私もしたわよ。滅多に出来ることじゃないし、名誉なことなんだからやっておきなさいな。一夏がそう言う事に興味が無いのは知ってるけどね」

 

 らしい。分かるような分からないような話だ。行事には積極的に参加するタイプじゃ無いので体育祭の有無なんてどうでもいい。

 

「選手宣誓。4組の森宮一夏が、選手宣誓を行います」

《ここでマイクスタンドまで進んでください》

 

 式を進行するにあたって、必要な行動やセリフなどをかかれたカンペを『夜叉』が思いだして俺に指示する。A4数枚にわたって書かれていた指示を俺が覚えられるはずもなく、少しも悩まずに『夜叉』に丸投げした。

 しかし、流石のこいつも全部覚えるのは無理だった。そこで、どこでどう動けばいいのかだけを覚えてもらい、残りの部分……台詞はデータ化して網膜投影することで解決した。

 ということで、俺の目にはプリントが丸々映っている。これでテストも安心だな。

 

「宣誓、我々10名は――――」

 

 後は読むだけ。ルビも振っているので抜かりは無い。

 

 緊張することも無くあっさりと終わり、開会式は終わった。

 

 

 

 

 

 学園にはIS実習用のアリーナが、グラウンドや体育館とは別に幾つも設けられている。当然授業はそこで行われるし、放課後の自主練習や今日のような試合などもここだ。しかし、どれだけアリーナが大きくても全学生を1つのアリーナに収容し、観戦することは不可能に近い。外や控室、観客席とは別に、観戦室などもあるが難しいだろう。

 なので、トーナメント式の試合、大会が行われる場合は他のスポーツ同様に会場を分ける。見たい選手や試合が行われるアリーナへ向かうのだ。重なっても後で学園の端末から視聴できるので問題ない。

 

 俺は開会式が行われた第1アリーナに待機している。1回戦がここなのだ。色々と言いたいことがあるが、組み合わせは自分たちが引いたクジで決まったので文句は言えない。

 相手は6組のイタリア代表候補生。専用機は無いが、基礎的な技術と無駄のない素早い動きが武器と聞いている。優勝候補の1人ということで、非公式に行われているトトカルチョでのオッズは低い。

今回の出場者は学園が認める範囲内なら『打鉄』もしくは『ラファール・リヴァイヴ』の設定を弄ってもいいことになっている。少しでも『夜叉』の速度に近づけるために俺も弄った。恐らく、相手は俺同様に速度特化に調整してくる。射撃も近接もこなすバランスタイプだそうで、どんな戦法を取ってくるか読みづらいがまぁ大丈夫だろう。

 

 ピットにはクラスメイトと先生2人が応援に来ていた。正直気が散るので簪様とマドカ以外とっとと観客席に行ってほしいが、流石に我慢している。その程度の社会性は持っているつもりだ。

 

「コスプレ?」

「違う。俺の専用機専用のISスーツだ」

 

 そして面倒なことに事あるごとに俺のスーツを弄ってくるのだ。珍しいのは分かるが、集中しているのだから空気を読んで後日聞くとかしてほしい。

 

 ISスーツは操縦者の電気信号を少しでも効率よくISに送る為のスーツである。着用義務は無いが、ある方が良い。最近になって、耐弾耐刃性能もついたそうだ。安全性を考慮して、と言えばそれまでだが、ISがますます軍用化していっているとも言える。

 話が逸れた。

 女性用の場合、スクール水着にオーバーニーソックスにブーツを履く。男性は例によって前例がない為、比較のしようがない。織斑は短パン半袖(へそ出し)なのでそれに比べたら確かに変だ。というか女性用から見ても変だ。

 

「全身なのはまあ分かるんだけどさ……」

「なんで所々に機械がついてるの?」

「お腹とか太ももとか二の腕とか中途半端に肌が見えてるんだけど」

「いえ~、いっちーせくしぃ~」

 

 まず全身スーツ。これはまだいい、調べたところ、無いわけではないらしい。問題なのはちらほらと肌が露出していること、スーツの各所にアシストデバイスが取り付けられている事だ。背中、膝と肘から先は機械で覆われており、言われた通り、二の腕、脇腹、足の付け根部分の太ももはスーツではなく肌が除いている。本当に肌ではなく、特殊生地で透明になっているだけなので、他の部分同様しっかりと身体を保護してくれる。

 すごく簡単に言うなら、最近のロボットアニメのパイロットスーツと言えば、誰もが納得するような見た目をしている。これを始めて着たとき、簪様が少し興奮していた。アニメ好きな人なので、似たようなものを見たことがあるのかもしれない。

 始めて見た時は俺も嫌だったが、女装よりマシだと思って諦めて着ることにした。着心地は割と良い方なので気にいっている。

 

「本音様、何故ここに?」

「応援に来たのだ~」

「1組……でしたよね?」

「いかにも! デザートは惜しいけど、おりむーよりいっちーに勝ってほしいから抜けだしてきたんだよ~」

「はぁ……」

 

 いいのだろうか? ……本人が良いって言ってるんだからいいか。更識>布仏≧森宮という組織図なので、上の人が言う事に俺に口答えする権利は無い。結構個性的な人なので返しに困るが、見ているだけでなんとなく楽しくなったような気分になるので、本音様はこのままでいいと思っている。

 

「そろそろ戻らないといけないから行くけど、ちゃんと応援してるからね~。かんちゃん泣かせちゃだめだよ」

「存じております」

「よしよし。じゃあね~」

 

 長い袖をぱたぱた振りながら、本音様はこっそり出て行った。気付かれずに抜けだすあたり、流石更識専属メイドだなと思う。気が抜けているようで、見ている所は見ているし、勘も鋭い。

 

「そろそろ時間になりますので、席までお戻りください。クラス全員分の席は用意されているのでしょう?」

「うん、そうする。頑張ってね、一夏」

「兄さんだったら優勝できるよ」

「ありがとうございます」

 

 やり取りを終えると、クラスメイトを連れて簪様とマドカはピットから出て行った。

 

試合開始まであと数分。最終チェックも済んでいるし、アリーナへ出よう。

 

「いくぞ」

《ちゃんと手加減しましょうねー》

「わかってるさ」

 

 待機状態の『打鉄』を起動させ、開いた装甲に手足を突っ込んで纏う。視界と思考がクリアになっていき、『夜叉』との違いに酔いそうになりつつも我慢して歩く。

 

 アリーナから歓声が上がった。空中投影ディスプレイにはちょうど向こうの『ラファール・リヴァイヴ』がピットから出てきたところを移している。

 

「ハッチ開放」

《ハッチ開放完了》

 

 薄暗いピットに眩い光が差し込む。ハッチから見える景色の先から、6組代表がこちらをじっと見ていた。随分と警戒されているな。

 

「なんだっていいさ」

《?》

「蹴散らす」

《おお、怖い怖い》

 

 カタパルトに足を乗せ、アリーナへと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始めまして、であってるか?」

「ええ。ベアトリーチェ・カリーナよ」

「森宮一夏だ」

 

 目の前の女子――6組クラス委員、イタリア代表候補生ベアトリーチェ・カリーナと握手を交わす。お互いの右手を部分解除して、手を握った。

 

 金髪碧眼のセミロングヘアーなんて本当にいるんだな。

 

「何か失礼なことを考えてない?」

「いや、初めて金髪碧眼の女子を見たんだが、結構綺麗だなと思ってた」

「そ、そう? 実は自慢なのよね」

「自分の身体に自信を持つことは誇らしい事だと思うぞ」

「ありがとう。貴方みたいな男子もいるのね」

 

 にっこりと満面の笑みを浮かべるベアトリーチェ。俺みたいな男子って……何を言ってるんだと思うが、彼女は男と何かあったと推測する。聞こうとは思わないし、聞く気も無いのでスルー。

 

《先日すれ違ったイギリス代表候補生も金髪碧眼ですよ?》

(そんな奴いたっけ?)

《居たんです》

 

 忘れた。これっぽっちも思いだせないって事はその程度って事だ。忘れていい。

 

「お互い正々堂々と試合(しあ)おう」

「望むところよ。こんな公の場で、全学年(・・・)実技首席と戦える機会なんてそうそうないしね」

「ただの噂を信じるのか?」

「目の前に立って確信に変わったのよ」

「そうか」

 

 入試の実技試験の際に、担当教員を3秒でKOしてしまったので、全学年合わせて最も強い=実技首席なんて噂が立っている。自信が無いわけではないし、3年生だろうと負けるつもりは無いが、学園における最強は生徒会長に与えられる称号だ。楯無様の名誉に傷をつけるような行為をするはずが無いので、俺としては否定の位置を取っている。楯無様より姉さんの方が強いのは秘密だ。

 

 何にせよ、首席だろうが次席だろうが底辺だろうが、この場で向かい合うならやるべきことは1つ。

 

「簡単に墜ちてくれるなよ? ベアトリーチェ」

「そっちこそ、黒焦げのハチの巣になっちゃダメよ? 森宮」

 

 シールドエネルギーが0になる(息の根を止める)まで、戦うだけ。

 

 試合開始のブザーと、観客の歓声が巻き起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬時に近接ブレードをコールして飛び出す。ベアトリーチェも同じことを考えていたようで、『打鉄』と『ラファール・リヴァイヴ』はアリーナの中央でぶつかりあった。

 

「見た目に寄らず、血の気が多いのかしら?」

「長引けばそれだけ手の内を晒す事になる。早めに決めさせてもらおうか」

「随分と先を見ているのね。そんな事だと――」

 

 ベアトリーチェはわざと力を抜いて鍔迫り合いの拮抗を崩した。スラスターの噴射を止めるも間に合わず、前かがみになって体勢を崩した俺の胴を狙って2本目のショートブレードを振りかぶる。

 

「――足元を掬われるわよ!」

 

 迫ってくるブレード。対する俺は身体をひねって、ちょうど『打鉄』の浮遊シールドがブレードの軌道上に来るように体勢を変える。

 

 ガキンッ!

 

「嘘ッ!?」

「さっきの言葉、そのまま返すぞ」

 

 スラスターを噴射してその場で一回転。ブレードが弾かれたことによってガラ空きになった胴を全力で切り裂き、その勢いで回し蹴り。モロにくらったベアトリーチェはきれいにアリーナの電磁シールドまで吹き飛んだ。

 

「痛っ!」

 

 電磁シールドとの接触によって若干のシールドエネルギーを奪われ、ベアトリーチェに隙が生まれた。そこへ追い打ちのこいつをブチ込む。

 投擲用の巨槍。『打鉄』同様学園からレンタルした物なので、『夜叉』とは比べるまでも無いが、それでも威力は高い。相手が量産型なら尚更だ。上手く命中すればこれで終わる。センサーのロックに合わせて、引き金を引いた。槍は吸い込まれるように『ラファール・リヴァイヴ』へ向かい命中。

 

「こんなもの!」

 

 することは無く、シールドで弾かれた。槍に対して垂直に構えるのではなく、すこし斜めに構えて軌道を逸らす事で防いだようだ。伊達に代表候補生をやっていないということだろう。その代わり、槍が貫通してシールドは使えなくなった。

 

「驚いた。あれで終わったと思ったんだがな」

「言ってくれるわね!」

 

 シールドを捨て、代わりに両手にサブマシンガンを持ってこちらへ迫ってくるベアトリーチェ。なんとなく怒っているように見えなくもない。

 

《怒りじゃなくて焦りだと思いますよ》

(む、そうなのか?)

《相手に怒ってどうするんですか……ほら、来ますよ》

 

 どこからどう見ても怒っているようにしか見えないんだが……。

 

「考えごとなんて余裕ねぇ!」

「まあな」

「まともに返されると困るんだけどー!?」

 

 急発進、急停止、急上昇、急降下をひたすら繰り返しながら弾幕の雨をすり抜ける。時に浮遊シールドで防いだり、近接ブレードで弾いたり斬り裂いたり。掠ることも無いので、俺のシールドエネルギーは満タンだ。

 

「どうした? このままだと俺の完封になるぞ」

「言ったわね……! やってやろうじゃないの!」

 

 サブマシンガンを放り投げ、次にコールしたのは自動拳銃2丁。銃身下部には分厚いナイフが取り付けられているのが見えた。

 

 俺に接近戦を挑むか!

 

「はあああああ!!」

「ふんっ!」

 

 交わる刃と銃から火花が散りあう。武器だけでなく肘や肩、足など全身を使ってお互いに攻防を繰り返す。

 

「俺についてくるとはな……」

「私が一番驚いてるって、の!」

「おっと」

「一発くらい当たってくれてもいいんじゃないかしら!?」

「情けでダメージを与えたところで嬉しくないだろう?」

 

 俺も大分飛ばしている方だが、それでもついてくるベアトリーチェに驚いたが、彼女は限界ぎりぎりのようだ。そろそろ終いにすべきだろう。

 

 わざと大きく振りあげて大上段から真正面に斬りおろす。銃剣を交差して受け止めたベアトリーチェと、開始時のように鍔迫り合いをする。

 

「久しぶりに楽しめた」

「いきなり何の話かしら? もう勝負を終わらせるって聞えるんだけど?」

「分かってるじゃないか。ベアトリーチェ・カリーナ、その名前、覚えておく」

 

 一瞬だけスラスターを全開にして押し切る。左から右へ大きく振ってベアトリーチェを弾き、返す手でブレードと浮遊シールド2枚を回転するように投擲する。

 

「なんの!」

 

 上手に3つとも弾いたようだが……

 

「それは悪手だ」

「目暗まし!?」

 

 投擲物に対応している内に瞬間加速で距離を詰める。両手を使って手首を握って動きを封じ、もう一度瞬間加速。壁に叩きつける。ベアトリーチェは頭を下に向けて大の字になった。

 

 手刀を胸の前で交差させてそのまま上げて、めいっぱいの力で振り抜く。

 

「“刀拳・燕”」

 

 壁と『ラファール・リヴァイヴ』に×の傷痕を刻むほどの威力を秘めた技は当然のように残りのシールドエネルギーを削り取った。

 

『勝者、森宮一夏』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……あれ?」

「気がついたか。気分はどうだ? 怪我はないか?」

「わからない……特に痛い所とかはないけど」

「そうか、よかった。少し待てば教員が来る。それまで待ってくれ」

「あ、ありがとう」

 

 気絶したベアトリーチェを抱えてピットに戻った。次の試合は大体2時間後に行われる予定なので、それまでの間に準備を済ませる必要がある。『打鉄』の設定を限界ギリギリまで弄っているので各部パーツの損傷具合が酷い為、毎試合の後に交換しなければならないので待ち時間はありがたい。ピットにあるモニターで他の試合も観戦できるので、相手選手の情報もそこそこ手に入る。

 

「聞いてたより優しいね」

「何がだ?」

「君が。視線も態度もキッツイって言われてるわよ」

「俺は何時だって普通にしている。それが他人からは厳しく見えているだけだろ」

「正論ね」

「珍しいこともあるもんだ」

 

 かけていた毛布を羽織って、ベアトリーチェが隣に座った。彼女との試合が終わったが、大会自体は終わっていないので余り覗かないでほしいんだが……。

 

「ねえ、森宮」

「なんだ?」

「君はイタリアのIS事情をどれだけ知ってる?」

「すまないが、全くだ」

「そっか。今の欧州――特にIS技術が高いイギリス、イタリア、ドイツ、フランス、オーストリア、オランダ、トルコみたいな国は、次の波に乗る為に新技術開発に躍起になってる。簡単に言うと、第3世代型を開発して他国より一歩リードしたいの。『イグニッション・プラン』っていう計画のモデルに選ばれる為にね」

「競争を生き残る……とでも言うのか?」

「そうそう。でもさ、技術力が高いって言ってもピンからキリまであるよね? イギリスがBT兵器を実用化させたように、ドイツがAICを開発したように、イタリアが可変型を作ったように上手くいくところはいく。そうじゃない国は失敗して事業から撤退しなくちゃいけない。そういった国々がとった対策って何だと思う?」

 

 今までの話を纏めると、新技術開発に成功した国と失敗した国に分かれてしまった、失敗した国は撤退しない為に何をしたのか? であっているだろう。

 

 似たような状況は今まで見てきたことがある。歴史の教科書にだって載っているだろう。つまり……

 

「手を組んだ」

「そう。アラスカ条約を始めとして、たくさんケチ付けて技術公開を迫ったんだ。議会は大荒れだったらしいよ。ま、最低限の情報は公開してたから条約には触れてないし、どの国も研究成果をばらしたくは無いから失敗に終わったんだけど」

「ならイタリアには何も起きてないじゃないか。含みのあるような言い方をしていたが?」

「世間から見ればね。でもイタリアとしてはとても困っているんだ。私達が持つ技術の可変機構は確かに凄いよ。ISは纏うように展開するからね、関節を邪魔せずに形態を変えるんだから。でもそれを上手く活かせないのが現状。世界大会で使用された『テンペスタⅡ』以降、新型の開発ができていない。『イグニッション・プラン』の有力候補に選ばれてはいるけど、いつ弾かれてもおかしくないわ。『テンペスタ』に求められるのは究極の機動力。その為には優秀なパイロットと、お金が必要なのよ。候補生を下ろされていった子たちは三ケタに入ってるわ」

「お前もその1人ということか」

「一応ね。これでもイタリア代表候補生の中じゃ1,2を争うぐらいの実力はあるんだよ? ってそうじゃなくて。私としてはそういう背景があるから、今日の試合を楽しみにしてたんだ。完封されたけどね」

「………」

「私から見た森宮の動きはね、無駄を感じなかった。体の捌きや重心の置き方、指一本に至るまで。きっと君の動きや感じ方、考え方、戦闘スタイルは『テンペスタ』に必要なものを秘めていると思ったんだ。だから、その辺りをちょーっとおしえてほしいなー……なんて」

 

 よくわからないが、ベアトリーチェは俺が新型の鍵になる何かを持っていると考えたようだ。そんなこと言われてもなぁ……。俺の場合、身につけたんじゃなくて刷り込まれたんだから、こうしろって言葉にできないんだよ。次にどう動くべきなのか、実は余り考えていない。

 でもこういう話をされたら「知らん」って無下に返すのもな……。

 

「上手く言葉にできん。俺からは経験が全てとしか言いようがない。すまん」

「あ、謝らないでよ……これは私の我儘みたいなものだから……」

「口では言えないが、まぁ、見せるぐらいなら構わないぞ」

「は?」

「これが終わって一段落ついたら模擬戦でもしよう」

「………ありがとう」

 

 ベアトリーチェは静かに立ちあがった。教員が迎えに来たようだ。その後ろには4組と6組の生徒がちらほら見える。

 

「ベアトリーチェ。2つ言っておくことがある」

「ん?」

「非常に残念な話だが、俺は完封勝ちできなかった。最後にブレードとシールドを弾く為にばら撒いた弾が掠っていたようでな」

「それは……喜んでいいのかな?」

「好きなように解釈するといい。もう一つ、俺には姉がいるから名前で呼べ。面倒くさいことになる」

「はいはい。じゃあね、一夏」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先の試合でシード権を勝ち取った俺は1試合浮いた。準決勝を10秒で終わらせ決勝進出を難なく果たす。何時の間に仲良くなったのか、4組と6組の面子がハイタッチをしながら喜んでいた。

 

 『打鉄』のチェックをしながら決勝戦であたる相手の情報を見る。近接戦闘オンリーの高速機動型IS『白式』。単一仕様能力の“零落白夜”はまさしく一撃必殺だ。そこに気をつければ『打鉄』でも負けは無い。

 

 トーナメント表に残ったのは2人。俺と織斑秋介だけだった。

 




 語る機会が無いだろうからここでかるーく紹介。

〇ベアトリーチェ・カリーナ
・6組クラス委員。イタリア代表候補生。実力は折り紙つきで、本人は否定しているが本国では代表並の評価を得ている。本来なら新型『テンペスタⅢ』を与えられるはずだったが、本編で語られた通りの理由で実現せず。
・金髪碧眼のモデル体型。若干癖のあるセミロング+ちっこいアホ毛。
・普通にやさしい。普通に優秀。

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