疲れるなぁ……
「私にできる事でしたら」
「うん……ありがとう」
今日は以前の約束通り、簪様とマドカに駅前のデザートを驕りに来ていた。ここは美味しい、甘い、高いの三拍子がそろった地元では甘味で有名な店だ。
「何の話をしているんだ?」
「マドカ、お前簪様の『打鉄弐式』についてどれだけ知ってる?」
「日本の主力IS『打鉄』の発展機……だったか。違いと言えば、『打鉄』は防御力特化の機体で、『打鉄弐式』が機動力特化ということぐらいだな」
「他には?」
「………専用機なら何らかの試験的なものを搭載しているんじゃないのか?」
「うーん、まぁ及第点だな」
「むぅ、答えは?」
「……マルチロックオン・システム」
従来のロックオン・システムは、基本ハイパーセンサーによるオートロックが主流だ。射撃武器、投擲武器、物や機体によっては近接武器ですらロックオンすることがある。
元々、ISにおけるロックオンはゲームと違って補助的なものだ。しっかりと弾丸が敵に向かうように手振れ補正や若干のパワーアシストをしたり、全天周視界の中でもどこにいるのかはっきり分かるようにしたり、ホーミング性能がついたモノが目指すためのマーキングだったりする。ISは機械ではなく、人が動かすのだから当然だ。
しかし、それは1対1の話。多数の相手と戦闘する場合、状況にもよるが基本ロックオンは邪魔でしかない。じゃあ、皆ロックオンしちゃえばいいじゃない! という発想のもと生まれたのがマルチロックオン・システムらしい。それが『打鉄弐式』に搭載されているわけだが……
「世界初の試みだからな。まだ分からないことが多いみたいで、上手く作動しないそうだ。今のままではただ性能が抜きん出ている第2世代だ」
「それが兄さんとどう関係があるんだ?」
「一夏は、IS関連の事とても詳しいから」
「ああ、そう言う事か」
俺はISの情報にだけは詳しい。というのも、施設でそれらの情報をインストールされて染みついただけで、必死こいて勉強したわけじゃない。勉強したところで覚えられるはずが無い。
「何ができるかは分かりませんが、精一杯やらせていただきます。楯無様や姉さんにも声をかけてみては? 虚様や本音様も整備の知識は明るいと聞いてます」
「帰ってから聞いてみるつもり。できればマドカにも……」
「私か? そんなに詳しくは無いぞ。できることと言ったら、代表のように簡易整備と定期点検ぐらいだが……」
「それでもいいから……お願い」
「そう言われれば断るわけにはいかない。何せ、簪の頼みなのだからな」
むふー、と円満の笑みで胸を張るマドカ。いや、お前が胸を張る意味がわからん。そして簪様の目が光りを失っていく。視線は服の内側にある二つの柔らかな膨らみ。2人を比べてみるとその差は歴然だった。
「む、どうした簪?」
「……すいませーん」
ハイライトを失ったままの瞳でベルを押し、店員を呼んだ。……何をするつもりなのだろうか?
「はい、お呼びですか?」
「……コレと、コレを追加で」
「かしこまりました。少々お時間頂きますが宜しいですか?」
無言で頷いて、店員を下げさせた。いったい何を頼んだんだ? そーっとメニュー表をみて、額に驚いた。
「3500円と3680円……」
どこの高級料理店だよ! なんでこんなものがなんで駅前にある!? 金持ちしか食べそうにないものを……。
「な、何故これを?」
「この中じゃ、そんなに高くないから」
「高くないって……」
確かにもっと値の張るものがある。だが、あれで高くない方って……どんだけ金持なんだよ。
《更識は日本有数の名家でしょう? なら、当主の妹である簪ちゃんは立派なお金持ちでは?》
そうだった……。本当のお金持ちだったな。庶民以下の俺とは感覚が違って当然だ。
「しかし、そんなに食べてもいいのか? 写真を見る限りかなりの量だ。相当運動しなければ太るぞ」
「……いいもん。たくさん動くし、余剰分は胸とお尻に……」
《お財布、大丈夫ですか?》
(今はな。だが、この調子で追加されまくったら分からん。止めるわけにもいかないし……)
《ご苦労様です》
美味しそうに食べる簪様を見ているととても安らぐが、財布の中身がどうしても気になって焦ってしまう。
「よし、私も同じものを追加しよう」
「!?」
「だ、ダメか?」
「何を言うんだ。良いに決まってるだろう」
……無理だ。俺には断れない……。
気遣ってもらったのか、満足したのか、これ以上の追加は無かった。が、今まで生きてきた中で一番の出費だった。向こう1年ぐらいは節約しなければ。
休日を挟んで月曜日、クラスでは1つの話題で盛り上がっていた。
「あ、森宮君」
「ん?」
「知ってる? 1組に編入生が来るんだって」
「今度は1組か」
中国の代表候補生が2組に編入してわずか1ヶ月ちょっと。またしても、織斑のデータを狙って他国家から来るらしい。しかも2人、どちらも代表候補生で専用機持ちだそうだ。送られてくる女子も大変だな……。
「で、フランスから来る人ってね、3人目らしいよ」
「3人目? 何のだ?」
「男子。実は、男性操縦者が他にも居たんだって!」
「………胡散臭いな」
「ソースは信頼できるよ。なんたって大場先生だから」
「………そうか」
あの人、結構大雑把なところがあるけど、嘘だけは言わないんだよな。冗談と事実(嫌がらせ)は言いまくってるけど。
「気になるでしょ~」
「全然。元々必要以上に他人と関わるつもりは無い。口下手だし、コミュニケーションをとることが苦手だからな」
「そうなの? 普通に喋ってる気がするけど」
「昔に比べたらかなり良くなったけど、まだまだだな」
「ふーん」
正直に言うと、かなり気になる。何故今更公表したのかとか、どういう奴なのかとか、今までどんな暮らしをしてたのかとか、自分のことをどう思ってるのかとか。それ以上に、俺達姉弟や更識にどう関わってくるのか。
《クラスが離れていますから、しばらくは無視してもいいんじゃないんですか? 1組という事は、狙いは織斑でしょう》
(今はそれでいい……のか? とりあえず、休み時間にこっそり見に行く)
《まずは情報ですね》
近いうちに……できれば今日が良い。時間割りの関係もあるので上手くいくか分からないが、なるべく早めに済ませたい。その3人目が脅威となるのか、邪魔ものなのか。敵かどうかをはっきりとしなければ。
《楯無さんに聞けばいいのでは?》
(主を頼るバカが居るか。それに、自分で確かめて見るのが一番だ。なんて言ったかな……)
《百聞は一見にしかず、ですか?》
(そうそう)
記憶力はかなり衰えているが、代わりに五感は発達してる。表情や態度から心境を読むこともできなくはないし、読唇術もそれなりに習得した。見て、感じ取ったものは何よりの証拠、判断材料、情報になると俺は思う。
後から来たマドカ、簪様と一緒に本音様がいたので今日の時間割りを聞いたところ、普通に昼休みが開いてそうだったので、その時間帯に行くことにした。授業が終わってすぐに1組に向かう旨を伝えると、少しなら教室にとどまるよう足止めすると言ってくださった。ここは好意に甘えるとしよう。
《楯無さんには頼らないのに?》
(本人が手伝うと言ってくれたんだ。断ることはできない)
《マスターの基準がイマイチ分かりませんわー》
(覚えておいてくれよ。忘れたら大事だ)
《了解です》
4限目終了間際に『夜叉』の一言で思いだした俺は、マドカを連れて1組へ来ていた。そこで問題発生。
「人が多すぎる」
「むぅ……兄さん、蹴散らそうか?」
「止めい。普通に人をかき分けながら行くぞ」
世界で3人目の男性操縦者を一目見ようと見物客が押し寄せていた。見ればリボンやネクタイの色が違う女子も混じっているので、2年3年の生徒も来ているのかもしれない。昼休みという事でかなりの人数が廊下に集まっていた。
とにかく謝罪の言葉を口にしながら、教室の中が見える場所まで移動する。嫌な目で見られることもあったが無視する。俺に対する評価などどうでもいい。
ようやく最前列に到着。ここで更に問題が発生。
「誰が3人目何だ……? マドカ、分かるか?」
「さっぱり。織斑以外女子にしか見えない。というか、誰が1組なのかすらわからない」
「そうなんだよな」
誰が誰なのか分からなかった。
(どうすればいい?)
《人に聞きましょうよ……》
(その手があったか!)
近くの誰か……できれば1年生がいいな。よし、教室に入ろうとしているポニーテールの子に聞いてみよう。
「すまない。今日編入してきた生徒を教えてくれないか」
「!? お、お前は決勝で秋介と戦っていた……」
「それが?」
「よくも秋介を……!」
「あれは試合だろうが。それで一方的になったからといって、俺を憎むのは違う」
「くっ! ……転校生だったな。あの眼帯をつけた銀髪がドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒ、秋介と話しているのが3人目の男性操縦者でフランス代表候補生シャルル・デュノアだ。さっさと行け!」
「どうも」
聞きたいことは聞けた。オマケでもう1人の編入生も教えてくれたし、とっとと4組に戻ろう。あの手の我儘系女子は苦手だ。同じことを考えている奴が他にもいるみたいだし、居心地が悪いことこの上ない。どれだけ視線に慣れてもこの感覚は中々拭えないな。
《マスター。マドカちゃんが……》
「ん?」
………居ない。どこに行ったんだ! マイシスタァァァァ!
《とりみだし過ぎですって。ほら、さっきいた場所にいますよ》
(何!?)
勢いよく振り返る。マドカは……さっき話しかけた女子の所にいた。
「おい」
「………なんだ、連れの男子は行ったぞ」
「お前、もう一度兄さんにあんな口をきいてみろ。貴様が誰だろうと関係ない。次は、コロス」
「っ!」
「今日は見逃してやる」
思いっきり喧嘩売ってた。……俺の為に怒ってくれたのか。何か、嬉しいな。マドカでも……いや、だからこそかな。
「お待たせ。ゴメン、どうしてもあいつが許せなくて。今騒ぎを起こしたら絶対に兄さんに迷惑かけるからって我慢したけど……ああもう! 今すぐナイフでグシャグシャにしてやりたい! でも、兄さんが……」
「………ありがとう」
「ぁぅ」
いつもの二割増しで優しく頭を撫でる。良い妹をもって嬉しい限りだ。持つべきものは家族、だな。
「ラウラ……」
「どうした?」
「な、何でもないよ! 早く戻ってご飯食べよう。今日は楯無と姉さんも一緒だからな!」
「そうだな」
「兄さんの弁当は美味しいから大好きだ。楽しみだな♪」
「世事なんていいぞ」
「そんなこと無い!」
マドカのつぶやきが気になるところではあったが、教室に帰ってからのお楽しみを前にすると忘れてしまった。別にいつものことなんだが、こればっかりは忘れてはいけないことだったこと、しっかりと本人に問いたださなければならなかったことをこの後俺は後悔した。嫌なこと、面倒なことは先に済ませるに限るというのに。
「で、どうだった?」
「?」
「3人目さ。マドカから見て」
「男装」
「同じく」
だよなぁ。さっきの子に聞くまで、ズボンを履いただけの女子にしか見えなかった。だからこそ、着いた時に見つけられなかった。その道の人間なら一発で見抜かれる程度の変装だな。嘘が露見した時のリスクを考えると、こんなお粗末な変装で大丈夫なわけがない。本人、或いはフランスが抜けているのか、それともバレることが目的なのか。
(お前はどう思う)
《少し感がいい人なら誰でも気付く程度にしか見えません。何か裏があるとしか………………ふむふむ》
(どうだ? 何か分かるか?)
《ハニートラップでも仕掛けるんじゃないんですか? 目的の『白式』のデータ含め織斑のデータや遺伝子情報も手に入る。暗い過去でも捏造して気を引けば更に相手の気持ちを引きつけられる。男女の関係になって、事後に捨てられたゴムの中の精液でも手に入れれば、本国の連中は発狂モノですよ》
(意外と普通の理由だったな)
……まぁ、俺にはどうでもいい話だ。帰ろう
腕時計を見る。針は午後10時58分を指していた。寮の門限は言わずもがな、消灯時間まで過ぎようとしているこの夜中に、私は屋上で人を待っていた。ベタではあるが、ゲタ箱と机の引き出しにこっそりと手紙を仕込んでおいたのだ。ラブレター何かでは決してない。兄さん以外の男に惚れるとかありえない。
「待たせたな」
声がしたので振り向く。そこには私が呼んだ人物が――ラウラ・ボーデヴィッヒがいた。兄さんと似て異なる銀色の長髪、目を引く無骨な眼帯、鋭い眼。昔と随分と変わった。
「久しぶりだな、
「その名で呼ばないでくれ、私は織斑が嫌いだ。私と、兄さんを捨てたあの家が。今は森宮マドカだ」
「すまん。無事なようで安心したぞ」
「ラウラこそ」
どちらからともなく、手を差し出して握る。初めて会った時の柔らかさは薄れ、ナイフや銃を握り続けてできたであろうタコの感触がした。私も似たようなものだが、身体の強度が違う。それは
「マドカ、お前あの後どうしていた?」
「施設を襲撃した組織――亡国機業と共に人を探していた」
「亡国機業だと? あのテロリスト集団のことか。なぜそんな奴らが施設を破壊したのだ……いや、今は関係ないな。だが、どうやってここに? テレビの事もそうだが、お前にはいつも驚かされてばかりだ」
「はははっ、追って話そう。亡国機業に入ってから数年経った頃、私は実力を認められて実動部隊に配属されたんだ。簡単に言うとエリート部隊だな。上に上がれば上がるほど、持てる力も動かせる人も多くなる。必死だったよ。それで、初の任務先で探していた人を見つけたんだ。その時は仕方なく引き下がって、もう一度会う機会を待っていたんだが……同じ部隊の奴がその人を殺そうとしたんだ。事実、死にかけた。だから私は、機会を待たずに亡国機業を脱走して、追い返される覚悟で単身その人の元へ向かったんだ。腹いせと自衛のためにISを持ってな」
「そのISが『サイレント・ゼフィルス』というわけか」
「ああ。正直な話、私は返すつもりだった。無理矢理持たされて、戦わされていたとか嘘を言うつもりだったんだ。学園の入試なんて専用機が無くても簡単だしな。だが、私の為にと手を回してくれて……。そこからは知っての通り、私は専用機を手に入れた」
「良い人に出会ったのだな……」
「ラウラはどうだ?」
「私か? 元いた場所……ドイツ軍になんとか帰ることができた。私が奴らに捕まったのは、野外で基礎的な教育を受けている時だったのは話しただろう? あの後、何とか軍と連絡を取ることができ、無事に帰ったというわけだ。一時期大変だったが、今では軍の特殊部隊隊長と専用機を任され、国家代表候補生だ。いつまでもお前に負けている私じゃないぞ」
肌寒さや規則も忘れて、昔話に花を咲かせる。施設は決して良い場所ではなかったが、そこで出会った同じ境遇の仲間達との思い出はとても大事なものだ。兄さんと再会できたこと、ラウラを始めとした人達に出会えたことだけは、あの施設に感謝していると言ってもいい。私にとって、それだけ大事だという事だ。
「編入してきた日、クラスまで来ていただろう?」
「なんだ、気付いていたのか?」
「あれだけ殺気を出せば気付くに決まっている。流石の私も一瞬竦んでしまった」
「すまんすまん、あいつが兄さんを侮辱したからつい……」
「兄さん、か……やはり、お前と一緒に居るあの男子は……」
「覚えているだろう? 私の実の兄、ずっと探していた人、森宮一夏。兄さんも織斑を捨てた……というか、忘れてしまっているだけだが」
「そうか、ではやはり……」
月明かりだけで薄暗い屋上でも分かるくらい、ラウラは頬を染めていた。見ての通り、兄さんに恋してる。ラウラだけでなく、施設にいた半分以上の女子は兄さんの事が好きだった。優しいからだ。どれだけ頭がイカレてしまっても、物を忘れてしまっても、何があっても同じように実験体にされた子供たちには優しかった。男女を問わず、兄さんは人気者だった。
「会いたいか?」
「当たり前だ。だが、迷惑ではないだろうか……」
「そんなことあるものか。むしろ、優しくしてくれるに決まっている」
あの施設にいた子で、兄さんのことをとても慕っていた。そう言えば大丈夫なはず。ライバルが増えてしまうのは嫌だが、数年前からずっと想い続けているラウラに意地悪なんてできない。私にとって、唯一心を許した友だ(簪と楯無は主だ。2人よりも年下で、友のように接しているがそのことを忘れてはいない)。
「よし、いくぞ」
「ど、どこにだ?」
「決まっている。兄さんの所にだ」
「な、まてまて!」
有無を言わせず、私はラウラを部屋まで引っ張って行くことした。
「遅い……」
《ついさっき出かけたばかりじゃないですか》
「もしマドカに何かあったら……」
《大丈夫ですよ。マスターの妹じゃないですか》
「そ、そうだな。うん、大丈夫なはずだ」
《何これ可愛い……♪》
「やっぱり心配だーー!」
《何これ超メンドクサイ……》
マドカがつい10分ほど前、人と会う約束をしているからと言って出かけて行ってしまった。既に寮の消灯時間を過ぎているが、まったく帰って来ない。心配だ。先生に捕まってしまったのかもしれない。どこかのスパイにさらわれた可能性だって0じゃない。風邪をひいてしまったら……ぬああああああああ!!
「………」
「………………!」
……話声が聞こえる。この声は……マドカだ!
ドアをすーっと開けて外を見る。マドカは銀髪の女子を連れてこっちに……というか部屋に来ていた。
「あ、兄さん」
「何!?」
「遅かったじゃないか、心配したぞ。それで、その子は?」
「ごめんね兄さん。大事な話もあるから、部屋に入れてもいいかな」
「ああ。いらっしゃい、寒かったろ」
「あ、う、うむ」
ラフな格好のマドカと違って、眼帯をつけた子はきっちりと制服を着ていた。真面目なのか、服が無いのか……。カスタム自由な学園の制服をまるで軍服のように仕立てている所を見ると、ミリタリーの知識があるのか、本当に軍属なのかだろう。ここは本当に様々な人種が集まる。
適当に好きな場所に座ってもらい、淹れたお茶を渡した。
「日本茶しかない。それで我慢してくれ」
「う、うむ。ああ、いや……ありがとうございます」
「そう堅くなるな。同い年だ」
「あ、ああ……」
ガチガチだな……大丈夫なのか? と思う反面、俺の心は狂喜乱舞していた。マドカが……あのマドカが友達を連れてきた! もし、ココに誰もおらず監視カメラも無ければ、小躍りしていたかもしれない。
「それで、話は?」
「その前に自己紹介だな。ラウラ」
「ラ、ラウラ・ボーデヴィッヒであります! 所属はドイツ軍IS特殊部隊
「……ココは軍隊じゃないから、そんな肩肘張った挨拶なんてしなくていいぞ」
「そ、そうか……いや、失礼しました」
ビシィッ! そんな擬音が似合う年季を感じさせる挨拶と敬礼に驚きつつ、言外に止めてほしいと言ってみる。たいして変わらなかった。俺は軍人じゃないし、君の上官でも無いんだぞ。
「は、話というのは、だな……その……私のことを覚えてはいないだろうか!?」
「うん? ………悪いが覚えに無い。どこかで会ったことがあるのか?」
「とある施設で1年と少し……。私を含めたたくさんの子供たちが、貴方の世話になった。私がここに居るのは、紛れもなく貴方のおかげだ」
「施設? まさか、あそこの事か!」
「そう。ラウラは、私の後に来たんだ。あの辺りから、兄さん特に酷くなっていったから覚えてないと思う」
「あ、ああ。さっぱりだ……」
まさか、まさかこんな場所で、あの施設で過ごしたことのある奴と会う事になるとは。しかも、俺とこの子――ラウラは知らない仲じゃ無いらしい。それどころか、どこか尊敬に近い何かすら感じる。
向こうは俺のことを覚えているというのに、俺は全く思い出せない。マドカの時とは違って、カケラもラウラのことを思い出せなかった。
「すまない。君のことを思い出せない」
「あ、いや、いいんだ。私は他の奴よりも貴方に近かった。だから、どういう状態だったのかもよく知っている。気にしなくていい」
「助かる」
深々と、頭を下げて謝罪の意を示す。俺がここまですることはあまりないレアなシーンだったことだろう。
「森宮一夏だ。よろしくラウラ」
「あ、ああ。よろしく頼む、一夏」
互いに手を出して握手をした。
「言った通りだろう? あんな心配などするだけ無駄だ」
「そうだな。何に怯えていたのやら」
丸く収まったようで何よりだ。マドカに友達ができたことはとても嬉しいし、俺としても過去を共有している人間がいるのは悪い気分じゃない。笑って話せるような内容じゃないが。
「今日はもう遅い、ルームメイトも心配しているだろうから帰った方が良い」
「む、そうだな。名残惜しいが、明日もあることだしな」
「ラウラ」
「何だ?」
「妹をよろしく頼む」
「任された。他ならぬ貴方の頼みだ」
こうして俺にとって初めてと言ってもいい友達ができた。
ラウラを主人公側に。
「それにしてもラウラも変わったな」
「昔はどんな奴だったんだ?」
「お兄ちゃんお兄ちゃんと言って、私と一緒に兄さんの後ろをついて回っていた」
「…………」