無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 BB武器登場!
 異常に強化された“魔剣”はもう自分でもこれはやばいと思ったくらいです。

 ボーダーの方なら、魔剣と聞けばお分かりですよね?



19話 「お前は俺以上の”無能”だな」

「ラウラ!」

 

 爆煙から出てきた黒いIS『シュヴァルツェア・レーゲン』。ラウラはボロボロになりながらも、イギリス、中国、フランスの代表候補生達と同等の戦いを繰り広げていた。それも劣勢に陥りつつある。

 

「マドカ、いくぞ」

「分かった!」

 

 理由はわからない。もしかしたらただの模擬戦かもしれないが、ラウラの表情からして違うと断定。あれは覚悟を秘めた目だ。

 

「知り合いなの?」

「……施設にいた子だよ。マドカの話じゃ俺と一緒にいたらしい」

「そう。なら、いかないとね♪」

「ええ」

 

 専用機を展開して、アリーナに出る。制限がかかっているとはいえ、この中では『夜叉』が最速だ。頭一つとびぬけてラウラへ一直線。パイルバンカーを構えていたオレンジ色を蹴り飛ばして、ラウラをキャッチした。

 

「3対1とは、随分とえげつないことをやっているな」

「………なっ、お兄ちゃん?」

「おう。………ん? お兄ちゃん?」

 

 確かにお前は妹みたいな感じがするけど、お兄ちゃんって……。

 

 んーー?

 

「ちょっと失礼」

「あ、何を……」

「ふむふむ」

 

 眼帯を外してみる。その左目は右目と違って金色に輝いている。俺と違って、吸い込まれるような綺麗なオッドアイだ。確か“越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)”とか言ったっけ。

 

「思い出した」

「は?」

「眼の色が一緒だったら見た目だけでも妹になれたのにって、毎度のようにぼやいてたっけ」

「あ」

「マドカといっつも追いかけっこしてさ。髪の毛梳いてもらったこともあったっけ。膝枕してっておねだりばっか、稀の昼寝はマドカと一緒に寝てたな」

「お、思い出した……のか?」

「ちょーーっとだけな」

「う、ああ……」

 

 ぎゅっと抱きしめて、頭を撫でる。こうしてやるのが一番大好きだった……はず。

 

「おかえり」

「うあああああああああああああん!!」

 

 そうそう、泣いちまえ。ガラにもなく、子供みたいに大声で泣いて色々と吐きだしちゃいな。お兄ちゃん(・・・・・)が全部受け止めてやるからさ。

 

「で、何が起きたんだ?」

「そいつが一方的に襲って来たのよ! 秋介がどうのこうのって!」

「と中国の子が言ってるが、本当か?」

 

 両目の涙をぬぐいながら、優しく問いかける。俺は怒るつもりなんて全くない。

 

「……我慢できなかったんだ」

「嫌なことでもされたか?」

「そうじゃない。教官と2人を苦しめたあいつが……織斑秋介が許せなかったんだ! 傲慢で、自分勝手で、我儘なヤツを悔い改めさせて、土下座でもなんでもさせてやる! そう、思ったんだ……」

「そっか……ありがとう、俺達の為に怒ってくれて」

 

 教官と2人を苦しめた、か。ラウラが言う教官が誰なのかは知らないが、2人は間違いなく俺とマドカ。それを織斑が原因だとラウラは言っている。正直なこの子が嘘を言うとは思えないし、嘘の為にここまでする人間じゃない。ということは真実、なのか? 少なくとも、俺と織斑が何らかの関係を持っているという信憑性は高まった。

 

「これ、本当か?」

 

 良識のありそうな、落ちついた雰囲気の女子――じゃなくて男子の奴に聞いてみる。シャ、シャル……シャルロッテ?

 

《シャルル・デュノアですよ》

 

 そうだ、シャルル・デュノアだ。

 

「えっと、多分。ボーデヴィッヒさんは織斑君と勝負したがってたんだよ。理由も色々言ってたから間違ってないと思う。強引に勝負しようとしてきたから、僕らが割って入ったんだ」

「他人の決闘にか」

「織斑君はその気じゃ無かった。見ればわかるでしょ」

「それはそこにいる、やる気が満ち満ちている男の事か?」

「え?」

 

 シャルルが振り向く。俺から見ればシャルル・デュノアを挟んだ向こう側だ。目をギラギラと光らせる織斑がこっちを睨んでいた。ライバル視でもされたかな? 相手じゃないが。

 

「森宮、一夏……!」

「トーナメント以来だな。睨まれるようなことをした覚えなんて俺には無いが」

「次は負けねぇ!」

 

 傍にいる『打鉄』を纏った子の制止を振り切って、ブレードを構える織斑。

 

「ラウラの決闘を無視しておきながら、俺とやろうって? それは虫がよすぎるとは思わないのか?」

「負けることは別にかまわねぇ、それは俺の糧になる。でもな、お前が俺のことを嫌いだって言ったのと同じように、俺はお前にだけは負けたくねえ!」

「はぁ……話がかみ合わない。姉さん、楯無様、どうすれば……?」

「模擬戦すればいい」「相手してあげたら?」

「はい?」

 

 なんとまぁ同じ答えが返ってきた。

 

「一度徹底的に叩けばいい」

「その気が無くなるまでね」

「………模擬戦しろって事ですね」

 

 やれやれ、2人がそう言うのならそれがいいんだろう。ラウラを下ろして、織斑に歩み寄る。間に立っていた他の代表候補生は道を開けてくれた。その顔には警戒と恐れが見える。実際に戦った織斑ならともかく、この人たちからそんな目で見られるようなことしたっけなぁ……?

 

《『打鉄』で専用機を圧倒したからですよ》

(そんなことか)

 

 性能は確かに戦闘に於いて重要なファクターであると言える。だが、それ以上に重要なのは乗り手、それを扱う人間の技量だ。身体のどこに命中しても一発で殺せる銃があったとしても、イロハも知らない素人が扱えばただの銃に成り下がる。豚に真珠と言ったかな? つまりはそういう事。いつかの金髪が言ったように、俺と織斑では経験が段違い……いや、次元が違うと言っても過言ではない。住んでいる世界が違う。

 

「ということらしいが、どうする?」

「決まってる、やるさ」

「そうか………」

「なんだよ」

 

 相手をしてもいいんだけど、時間無くなっちゃうよな。瞬殺でもいいけど、外野がうるさそうだ。この専用機組もそうだけど、アリーナに居る他の女子たちも織斑の味方って感じだし。

 時間を無駄にせず、尚且つこちらに利益がある方法。

 

 ………。

 

「どうせだ、専用機持ちで試合をしないか? 俺と姉さんはもともと模擬戦しに来たんだよ。『打鉄』の子は悪いけど訓練機で、5対5でさ。ラウラは損傷が酷いから抜き。勝負自体は1対1で、勝ち星の多い方が勝ち」

 

 時間を潰すなら使いつくしてしまえばいい。惜しい気持ちはかなりあるが、姉さんとの模擬戦はまた今度にしてもらおう。その代わりに、他国家の代表候補生の実力と専用機の実戦データを手に入れる。まったくもって釣り合わないが、このあとの準備運動(・・・・)程度にはなるだろう。

 

《うわ、なめきってますねー》

(織斑に負けるようなやつ、そしてそれと同等が3人でようやくラウラを追い込める程度の実力では、こちら側の誰にも勝てはしない。俺と姉さん、楯無様は別格だし、マドカも俺と同じく施設の出だ、簪様だって更識の人間。負けるか?)

《想像がつかないに一票》

 

「………みんなはどうだ?」

「エネルギー補給だけさせてほしいかな」

「あたしは10分欲しい」

「そちらのBT2号機の方と出来るのでしたら」

「秋介が言うなら、私は構わん」

「よし、やる。10分後だ」

「分かった」

 

 それだけを行って、5機はピットに戻って行った。

 

「勝手に話決めちゃってー、このこの」

「すみません。サクッと済ませて、この後の姉さんとの模擬戦の準備運動ぐらいにはなるかと思いましてね」

「あはははははははは! うんうん、大分良くなってきたね」

「大丈夫ですか?」

「うん? 私は特に問題ないよ。後輩たちを指導するのも先輩のお仕事よ」

「同じく」

「……丁度実戦データが欲しかったところだから」

「調子に乗ったヤツらの鼻っ柱をへし折ってやろうじゃないか。あの『打鉄』と出来ないのは癪だが」

「まだ根に持ってたのか……」

 

 こちらは特にすることは無い。エネルギーも満タンだし、整備も既に済んでいる。ラウラの自己紹介とか、駄弁ったりとかした。相手の戦術の予測と作戦も必要ない。全て、全員の頭に入っている。ラウラを除けば更識と森宮の人間だ、歳が近いこともあって共同作業や遊んだりすることも多かった(俺は付き合わされた)ので、このあたりは阿吽の呼吸と言っておこう。

 

 8分ほどで戻ってきた。

 

「組み合わせはどうする」

「そっちで好きに決めていい。ハンデ、欲しいだろ?」

「バカにしやがって……!」

 

 挑発もいい感じに効いてくれる。青いなぁ。

 

 因みにこうなった。

 

 マドカ VS イギリス候補生

 簪様  VS 『打鉄』の子

 姉さん VS フランス候補生

 楯無様 VS 中国候補生

 俺   VS 織斑

 

 試合相手も、順番も全てあちら側に決めさせた。偶然かどうかは知らないが、まるで剣道の試合のような組み合わせだ。俺は大将の気質じゃないっての。先鋒で玉砕するタイプだな。

 

 

 

 

 

 急ではあるが、ダイジェストでお送りしようと思う。何故かって? そこまで魅力的な試合じゃ無かったからさ。

 

 マドカ VS イギリス候補生

 同じBT試験機どうしで模擬戦がしてみたかったのだろう。実弾が全く飛ばないという珍しい風景だった。が、イギリス候補生は全く手が出せず完敗。『サイレント・ゼフィルス』のみに搭載されたシールド・ビットに防がれて届かず、マドカの攻撃は“偏向射撃”という特殊な技能を用いたことで驚くように当たった。どうやら向こうの金髪はできないらしい。非常に悔しそうだった。

 

 簪様  VS 『打鉄』の子

 狙ったのかどうかは知らないが、同じ『打鉄』シリーズ同士の対決だ。俺が予想するに、簪様の雰囲気や見た目から弱そうとか思ったんだろう。

 大間違いである。IS最先端の国日本で、森宮蒼乃に次ぐレコードを記録し続け、国家代表に最も近い代表候補生と言われているのだ。世界で最も強い代表候補生の1人である。近接特化の『打鉄』とそれが得意な搭乗者だが、一太刀も入れることはおろかかすりもしなかった。まさかの完全勝利2連である。マドカから、先日の話を聞いて怒り心頭と言った表情だった簪様は非常にすっきりした顔で戻って来られた。怖い。

 

 姉さん VS フランス候補生

 一瞬で決まった。わずか15秒の出来事である。

 フランス候補生がものすごい武器展開速度を披露しながら牽制してくるのに対して、姉さんは一歩も動かず『災禍』で作りだしたシールドで防ぎ、これまた『災禍』で作りだした一本の矢を命中させ、そこへ無数の剣やら槍やら矢やらを降り注がせた。あれはトラウマになっても仕方ないレベルだな。十字剣が無かっただけまだマシだと言える。

 

 楯無様 VS 中国候補生

 『ミステリアス・レイディ』の水のヴェールはかなりの高威力で無い限り、何でも止める。武器の種類に関わらずだ。爆弾だってお手の物。中国候補生の専用機が持つ第3世代相当の武装『龍砲』はこれっぽっちも通用せず、槍捌きは楯無様の方が圧倒的に上。ひょいひょいと避けられるのが頭に来たのか、突貫したところを綺麗に捕まり、水蒸気爆発『クリア・パッション』でワンキルした。

 

 ただいま4連続完封記録を更新中でーす。責任重大だ。

 

 

 

 

 

 

 注目の……というか本来の目的である俺VS織斑戦。

 

「お前、専用機を持ってたのか。なんで『打鉄』でトーナメントに出てたんだよ」

「『夜叉』が使えなかったから。当時の稼働率は60%前後だったが、更にリミッターをかけた稼働率45%でようやく使用許可が下りたんだ。今日はそれに慣らすために来たんだよ」

「45%って……半分以下じゃないか!」

「そうだ、そこまで削って削ってようやくこうして使えるんだ。お前のISと同じぐらいの基本スペックらしい」

「つまり、同じ土俵に立ってるわけだな」

「好きに解釈すればいい」

 

 同じ土俵だって? とんでもない。

 

「試合開始!」

 

 審判役のラウラが合図を出す。

 

「前回の続きといこう。剣を使ってやる」

「いいぜ、来いよ! 前の俺とは違う!」

「“死体あさりの鴉”と“銀の流星”、特別にほんの少しだけ見せてやろう」

「ほざけ!」

 

 ブレードを構えて突進してきた織斑。

 

 対する俺が展開したのはIS一機分の重量と大きさを持つ大剣『SW-ティアダウナー』。大きさ、破壊力、リーチ、もはや剣というカテゴリに分類していいのか分からないほどのコレは開発者から“魔剣”と恐れられている。どう考えても使えるISがいないのでお遊び武器だったらしいコイツを使わせてもらった。理由? 使えるからさ。

 

 両手持ち+PIC込みでも持てるか怪しいそれを片手(・・)で織斑と打ち合った。

 

「うおっ!」

 

 たったの一合で吹き飛ばされる織斑。電磁シールドに接触する直前にブースターを吹かして何とか姿勢を持ちなおしたようだが、気持ちまでは持ち直せていない様子。

 

「なんて武器だよ……加速して思いっきり斬りつけたのに、ただの一振りでここまで吹き飛ばされるって」

「見かけ倒しと思ったか?」

 

 ぶらりと『ティアダウナー』を持ち、織斑へ向けて加速する。

 

「残念、見かけ以上だ」

 

 ビビったヤツは電磁シールド沿いに逃げていく。それを追うように、右後ろにつけて並走していた。

 

「どうした? お前が望んだ剣の勝負だぞ、逃げるのか?」

「作戦を考えてるだけだ!」

「精々悩めよ。この“魔剣”と『夜叉』の前では、お前など蟻だからな」

 

 窮鼠猫をかむ、ということわざがある。舐めてかかると手痛いしっぺ返しを食らうぞ、という教訓であるが、この状況ではありえない。神に名を連ねた鬼と蟻では食らいつくことさえできはしない。

 

 敵からすれば、『夜叉』もなかなかだが、『ティアダウナー』が与えるプレッシャーは相当なものだ。流石の姉さんでもビビったらしい。言ってしまえばISを振り回しているようなもの、訓練機など粉々に出来る。

 

「そろそろ覚悟を決めろ」

「一か八か……いくぜ!」

「来い」

 

 誘いに乗って、電磁シールドまで接近。魔剣を叩きこむ。紙一重で避けた織斑は俺の頭上を通って後ろをとった。が、センサー越しにみた織斑の表情は驚愕と恐怖に染まっていた。

 

 魔剣の名にふさわしい光景である。

 

 たったの一振りでアリーナの電磁シールドを破壊していた。

 

「嘘だろ……」

「どうした? 折角後ろをとったのに何も仕掛けないのか?」

「っ!?」

「来ないのなら――」

 

 ゆっくりと首だけを振り向いて、織斑を視界に収める。ああ、今の俺は――

 

「――俺から行ってやろう」

 

 最ッッッッ高にイイ笑顔をしていることだろう。

 

《シャッターチャンス! さぁ、今のうちに撮りまくるのです!》

 

 ………台無しだ。

 

「クソッタレェーーー!」

「その度胸は評価してやる」

 

 勝負に出てきた織斑は、一際刀身が大きくなったブレードを構えて突進してきた。速度からして瞬間加速。そして一撃必殺の“零落白夜”か。

 

 学ばない奴め。

 

「うごっ!」

「前もこうして捕まえたことを忘れたのか?」

 

 顔を掴んだ左手を後ろの壁にブチ込む。織斑は頭からアリーナの壁に埋もれた。

 

「だとしたら――」

 

 『ティアダウナー』をゆっくりと両手(・・)で振りあげる。威力は電磁シールドを破壊した時の比ではない。

 

「お前は俺以上の“無能”だな」

 

 勢いよく振りおろ……せなかった。

 

 俺と織斑の間には一本のIS用ブレード。柄の方へ視線を移すと、スーツを着た女性が生身でそれを持っていた。

 

「何でしょうか? 生身では危ないですよ」

「心配無用だ。模擬戦をするのは結構だが、流石にアリーナにシールドを破壊されるのを見過ごすわけにはいかない。森宮一夏、織斑秋介、この勝負は私が預からせてもらう」

 

 その鋭い眼は有無を言わせない強さを感じる。1人の教員とは思えないほどの重さだ。

 

この人は、強い。

 

「この勝負は織斑が挑んできたものです。そいつに聞いてください」

「だそうだが、どうなんだ?」

「お、俺はまだ負けて――」

「諦めろ、お前では絶対に勝てない。それに、ビビって手を震わせているヤツが言っても何の説得力もないぞ」

「くっ………わかり、ました」

「よし。では、次のタッグマッチトーナメントまで一切の私闘を禁ずる。解散! 森宮、お前のその武器だが、模擬戦ならびに公式戦での使用を禁止する。理由はわかるな?」

「分かりました」

 

 言いたいことを言って女性は去って行った。

 

 悔しそうに顔を伏せている織斑を一瞥して、俺は姉さん達の居る場所まで移動した。称賛は無い。勝って当たり前なのだから。

 

「お疲れ」

「疲れてないけどね。どうします? 模擬戦出来なくなっちゃいましたけど」

「そうねぇ……何だかやる気無くなっちゃった」

「わ、私は機体のチェックがしたいな」

「眠たい」

「じゃあお開きって事で。簪ちゃんの機体整備終わったら、皆で食堂にでも行きましょう♪」

「楯無の驕りか?」

「違うわよ!」

 

 どんどん話が進んでいく中、俺はさっきの女性が気になっていた。どこかで、あった気がするんだよなー。

 

「姉さん」

「?」

「さっきの人って誰?」

「………織斑千冬。元日本代表で、世界最強の称号を持っている。織斑秋介の姉」

「ふぅん……」

「一夏。近づいちゃダメ。一夏は姉さんと一緒に居るの」

「そのつもりだよ。行こう」

 

 それっきり俺は織斑千冬への関心を失った。

 

 世界最強、ね。その程度か(・・・・・)

 

 急遽行われた5対5の模擬戦は、俺達の完全勝利によって終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏……」

 

 遠くに居るようで、実はとても近くにいた弟の名を呟きつつ、先程の模擬戦を思い出す。

 

 偶然管制室で訓練している生徒を見ていたので、実はボーデヴィッヒが勝負をしろと言っていたところからじっと見ていた。あんなことまで考えていたのかと教え子の成長に嬉しくなり、秋介がまたやらかしたのかというちょっとした疲れ、ボーデヴィッヒの言う尊敬する兄が わ た し の 弟だったことに驚いた(決して森宮を意識しているわけではない)。

 

 見た目は全くの別人である。というか日本人とはかけ離れているし、外国人でもそうそういない。だが、それでも一夏だなと思える場面が多々あった。

 

 流れで行われた模擬戦。圧倒的な力の差を見せつける森宮達。それもそのはず、経験の差が違い過ぎるのだ。暗部の家で教育を受けてきた人間と、軍の訓練に参加しつつも普通の学生として過ごしてきた人間では話にならない。私の目から見ても勝負は見えていた。これがいい経験になることを願っている。

 

 最後の兄弟対決は前回のトーナメントを思い出させたが、内容は以前にもまして酷かった。ワンサイドゲームという言葉では足りないほどの一方的な試合内容だ。最後の秋介はもはや竦んでいて何もできなかった。それでも“零落白夜”を発動させたのは意地だろう。それすらもあしらい、アリーナのシールドを破壊した武器を軽々と扱い止めを刺そうとしたところまで見て、危ないと判断して中止させた。

 

 アリーナのシールドを破壊されたから、という理由は間違いではない。むしろ正しすぎる。だが、それ以上にあの一撃を受けたら秋介は再起不能に陥ると判断した。一夏があの大剣を振り抜こうが寸止めしようが結果は同じだ。寸止めの方がむしろ酷いかもしれない。

 

――私の弟と妹に近づかないで

 

 以前森宮に言われた言葉を思い出す。

 

 そんなもの知るか、一夏は私の弟だ。マドカは私の妹だ!

 

 だが、森宮と一緒に居る2人は私に一度も見せたことのない笑顔で幸せそうに話していた。

 

 悲しい、だがそれ以上に悔しかった。それが自分に向けられたものではないことが。

 

 人知れず、誰も居ない管制室で私は涙をこぼした。

 




 シールドを破壊した時の一夏の笑顔はシャフトの顔だけ振り向くあれをイメージ。やばいめっちゃ怖い。

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