「あぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
誘拐されてからどれくらい経ったんだっけ? 時間の感覚が無いからよく分からないが、とりあえずそこそこの日が経った。俺がどう扱われているのかは知らないが、少なくともただの家出ではないと分かるだろう。まあ、気付かれたところでどうでもいいけど。あの家に居場所なんてない、どうせ誰かに言われたことを黙々とこなすだけだ。それならあのおっさん達の金になった方がまだマシだ。
「ぎぃぃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっうううううううああああああああ!!!!!!!!」
絶賛人間とは思えない声を出している俺だが、何をやらされているのかと言うと、簡単に言えば人体実験だ。毎日クスリ漬けだし、電流と一緒に流れ込んでくる情報、明らかに何か入ってるマズイ飯、寝る時は体中に電極張られたりしてるから間違いない。
「ぐふぇええぇぇっぇぇえええぇふううあああああああうううあうあうあぎぎぃぃぃぃいいいえええええええァァァァァああああああああああああ!!!!!!」
で、なんでこんなに呑気に考えごとができるのかと言うと、慣れた。いや、勿論自分が異常なのは分かる。でも慣れてしまった、多分クスリが効いているってことなんだろう。でもやっぱり苦しいので叫んでしまう。というか日に日に出力が上がってきてる。
意識を手放したくなっても手放せない。かといってぶっ飛ぶ事も出来ない。常に冷静な思考をしてしまう。俺はもう自分が人間じゃないってことを分かってきていた。姉とは全く違うベクトルの。
「ああ……………ぎ……………ぃ………う……ぅぁ…………………ぁ」
おお、ようやく喉が潰れてきたか。ここまでくると終わってくれるので一種の時報と化している。あわれ俺の喉。
『放電止め。睡眠薬を投与して、部屋に放り込んでおけ』
ほらね。じゃ、ひと眠りしますか。
ぱっ。という効果音がふさわしいくらいスカッと目を覚ました。時間になったので覚醒剤(麻薬じゃなくて、目を覚まさせるクスリらしい)を投与されたんだろう。最初は驚いたがこれも慣れた。ここじゃ、睡眠すら管理されている。もしかしたら夢とかも見させられているのかもしれない。
『起きろ。C-1』
さあ、今日もクソッたれな1日の始まりだ。
部屋をでてホールに入る。
電流と一緒に色々な情報が流されてくるわけだが、偶にそれが定着しているか確認する日がある。今日はその日だった。
というわけで、模擬戦と言う名の
昨日まで流されて来たのは銃器の基本的な扱い方。
テーブルに置かれた部品の数々を産まれて始めて手に取り、なんの問題も無く組み立てる。1つも部品を余らせること無く、4分38秒で組み立てた。
直ぐに構えて、スコープを除き、遠くの的を狙って撃つ。
『命中。今回も成功だ』
いやあ、この瞬間が結構焦るんだよね。失敗したらまた電流だし。まあ成功してもあんまり嬉しくないんだけど。
『続いて実戦テスト開始』
奥の方のシャッターが開いて、俺と同じくらいの子供が5人出てきた。散らばって俺を囲もうとしてくる。反射的に構えて距離を取り発砲。早速1人が死んだ。
これが嬉しくない理由。
たとえインストールに成功したとしても、実戦で使えなければ意味が無い。それを確認するために、同じ境遇の子供たちと殺し合いをするのだ。
「くらえっ!」
気合いを入れた声と共に銃が火を吹いて、俺を襲う。
対する俺は唯一携帯を許されている特殊合金製のナイフを抜いて、刃の腹を銃弾に添えるようにして弾道を逸らす。軌道を変えた鉛は俺の右後ろに居た2人目の眉間に命中した。のこり3。
やられてばかりも何なので仕返し……したくは無いがするようにプログラミングされている。俺の意志とは無関係に。だったらこんなことしなくてもいいだろが! と思うが批判的な声を出すことはできない。
「ぎゃあっ!」
「 」
牽制するつもりでばら撒いた弾に2人が命中。1人は声を出すことなく倒れていった。あと1。
その1人はカタカタと銃を震わせて泣いていた。まだ日が浅いんだろうな、それなりに長くいる奴は震えたりしない。俺もその一人だ。
「う、うああぁ」
目に涙を浮かべて俺を見上げてくる。
「た、助けて……」
悪いがそれはできないんだよな。俺は助けてやりたいが、ここの連中が許してくれるはずないし、俺も勝手に動く自分を止められない。
俺に出来るのは、ただ一つ。こうなる前に、楽にさせてやることだけ。自分で何一つ出来なくなるより、まだ自由に出来る今死んでしまった方が幸せだ。だからと言って殺していい理由にはならないが。
「助けてやるさ、この地獄から」
引き金を引く。頭、首、心臓に弾がめり込んでいき貫通する。あふれ出た鮮血のシャワーを浴びながら、俺は何も感じず、ただボーっとしていた。
『実戦テストを終了する。本日は部屋で待機。以上』
言われた通りに動く。銃をテーブルに置いて、彼らが出てきたシャッターとは別の所からここをでて、部屋に向かう。この施設はかなり広いが、自分の部屋まではシャッターを上手く使って1本道を作るので迷うことは無い。
部屋に入るとピピッという音と共に鍵が閉まる。出たところで行く場所なんてどこにもないっていうのに。
浴びた血を落とそうと思い、シャワールームへ行く。俺はどうでもいいが、ここの連中はそうでもないらしく、血液から細菌やDNAがどうのこうの言っていたのを覚えている。わざと放置していたら丸3日電流を流されたのでもうしない。絶対に。流石にあれはキツかった。
服を脱いで蛇口をひねる。温かい雨が身体を打つ。ここでもっとも満たされる時間をしっかり有意義に使うとしよう。
今日も今日も無駄な一日が始まったったたあ。
おっと、最近こういう事が増えてきて困る。のか? もういっそ壊れてしまった方がらくなんじゃないかいいい?
もうどれくらいここに居るかとか思い出せないし、昔の事はさっぱりだ。どこに居たとか、何してたとかぁ、何もんだったのぉかとか。というかここに居た頃のこともよく覚えていない。
『起きろA-1』
忘れてもいいようにってことで書かされている日記に曰く、昔はC-1だったらしいけど、今の俺はA-1と呼ばれている。
なんかAの方が進んでいるとか。うん、さっぱああありだ。
『ベッド脇の下から3段目の引出しを開けて装着しろ』
言われたところを開ければそこに入っていたのは、イヤフォぉンとマイクが一体化した通信機だった。左耳につけて電源を入れる。
『これから指示するルートを記憶しろ。指示された通りのコースを通って、ホールまで行け。では始める』
シャッターが開く。
『上下下下右左上左下左下右右左上右下右下上上上下下右右下左左右右上左斜上下』
……………。
『開始。制限時間は10分だ』
ダッシュ。記憶した通りにいいい進んでいく。100mごとに分かれる道、上と下には梯子を使って移動する。そして1階ごとの移ぃ動が時間を食うので、さっさと動く必要がある。
「………」
到着。タイマーは7分53秒。
『成功。その場で待機せよ』
なんか出来ちゃったよ。まあいいんだけどさ。
ふとその場にあるマジックミラーに目をやる。きっとこの向こうには連中が居て、データがどうのこうのああのそうの言ってるうだろう。
そして目に映る自分の姿。ボサボサの長くて白い髪。きっとストレスとか、クスリの影響で脱色しちんだろう。前髪は目元が見えなくなるくらい伸びていて、ウ後ろは膝裏まである。
どれくらいここに居るのか分からないし、記憶が無いので身体がどれくちい大きくなったかとかから推測もできない。
そいえばいたであろう家族とか友達とかどうしてるかなー。今となっては他人だけどー。
『成功。その場で待機せよ』
「はあっ、はあっ……」
誰かが入って来た。それに続いて続々と子供が入ってくる。どうやら俺以外にも同じことをやらせていたらしい。
その中に見たことがあるような顔をした子がいたので近づいてみる。
「ふう………あ、兄さん」
「にいさんんん? エット………マドか、だっけ?」
「うん! マドカだよ! 今日は覚えてくれてたんだね!」
飛び付いてすりすりしてくる女の子、A-5って言われていたと思うんだけど、俺にはマドカだって言ってきて、俺の事を兄さんといってついてくる。謎。
「兄さん凄いよね。私は1番だって思ってたのに、入ってきたら2番だったよ」
「俺の部やが、ホぉるにさかいってだけだロ?」
「近いも遠いも無いよ。ホールと私達の部屋は一定の距離を保たれている。指定されたルートもグネグネしてるけど、全員同じ距離なんだよ」
「へぇえぇ……まどカは者知りダな」
「そ、そんなこと無いって。もう、兄さんのバカ」
確か……頭撫でると喜ぶんだっけ? なんでマドカの事はしっかありと覚えてるんだおるな? 俺が兄さんだから? 謎。てかよく俺の言葉が分かるな、自分でもおかしいって思うんだが。
『10分経過。シャッターを閉める。通路にガスを散布開始。ホールに居る物は待機』
ああ。間に合わなかった奴は死ぬのか。うらやましいな、楽になれるんだからさあっ。
「あいつら……絶対いつか殺してやる!」
おお、怒ってぇる。何に対してなのかはさっぱりだけど。
ズドン………
なんの揺れだ? って尋ねようとした時、イヤフォンから声が聞こえた。
『A-1、G-2、A-3、B-9、P-11、T-7。銃を取り、こちらの指示に従って行動せよ』
呼ばれた。身体が動く。
テーブルに置かれた銃をてにとって、走り出、した。
シャッターを抜けて声の通りに進んでいく。曲がってぁあぁ曲がってぉ上がってぇ曲がってぇ上がっぁた。
そこに居たのは黒っぽい男達、銃を持ってこっちを見ていぃる。
「おい、あれが例の子供たちじゃないのか?」
「かもな、保護するぞ」
複数のおこと達がこっちにくる。
『撃て』
身体が動いた。構えて、引き金を引くまで1秒も無い。
それからはひたすら撃ち続けた。俺以外の奴もたいしてくぁわらない。人を見かけたら撃つ、とりあえず引き金を引く、グレネードが投げ込まれても撃ち返す。
沈黙。
「なあ、終わったのか?」
「しらね」
「てか、何だったの今の? 大人じゃん」
「どーでもいいだろー、撃てって言われたんだから」
「確かに」
待っていても何もない、だが指示も無い。警戒しつつも駄弁る。まあ俺はこんおとおりだから話さないけど。
ぱしゅっ
今何か音がした。他も気が付いたようで、前を向く。
すると飛んできたのはミサイル。勿論撃つ。
勿論そんなことをすれば爆風で煙だらけで見えなくなるわけで。隣も誰だか分からなくなってしまった。
そんな状況になっても撃ち続ける隣の奴。あほかぁあぁ?
「ウツな! ばしょがバレる!」
「何言ってんのか分かんねえっての! 日本語喋りやがれ!」
「じュうをウツなといってル!」
「はぁ!? お前な、この状況でミサイル撃たれたらどうすんだよ!」
「ヤツらはミエ無いバショニウたない! 煙にマギレてホヘイがチカヅいテくるぞ!」
タァン!
俺達が扱う銃とは違うオト、行ってるソバからこれ階なぁ。
動こうとした時、後ろに気配を感じた。振り向くとそこには銃口。俺は構える前に撃たれてしまった。
「いタ」
ああ、痛い、熱い。何度も経験した血が流れる感覚がするし、耐えられない熱さを腹に感じる。
でも、これで死ねる。今まで殺してきたであろう奴らと同じように楽になれる。次は俺の番ってだけだ。ああ、これが嬉しいって気持ちかい?
「あー眠い眠い」
あ、俺
銃を握る力もでず、首も動かす事も出来なくなり、眠気に負けて瞼を閉じた。傷の熱さも、失血で身体が冷えていく感覚すら無くなっていき、俺は全てを投げ出した。
兄さん達がホールを出て行ったあと、直ぐに変化は起きた。
『ぎゃあっ!』
突然の事にみんなが動揺する。私も耳元でそんな声がしたので驚いた。
『あー、あー』
死んだであろう男の代わりに聞えて来たのは女の声。それと同時に、兄さんが行った方の近くのシャッターが爆発して、武装した男達がなだれ込んできた。
『あなた達、そこの男達の誘導に従って。ここから出してあげるわ。さあ、速く!』
逃げられる!
日が浅い実験体からどんどんとそちらに走っていく。ちょっとすれば全員が破壊されたシャッターを目指していた。
が、私は1人で逃げるつもりなんてサラサラ無い。クソッたれな両親に連れ出されて姉さんと兄さんと引き離され、金に困ったあいつらに売られてここに来た。そこには居るはずのない兄の……一夏兄さんの変わり果てた姿。髪も、声も、身体も何もかもが記憶と違っていたけど、やっぱり兄さんだった。頭をグチャグチャにされて、1人をろくに覚えられなくなった兄さんは私の事だけちゃんと覚えてくれていた。家族なんだから当然の事だ。その家族を置いて逃げるわけにはいかない!
「すまない! 兄を探しくれ! 兄さんと一緒じゃなければ逃げられない! 経った1人の家族なんだ! 頼む!」
「………司令。指示を」
『許可するわ。探してあげて』
「だそうだ。特徴を教えてくれ」
「ああ、ありがとう! 白くて長い髪で、前は目が見えないくらいで、後ろは膝裏まである。目は右が赤で左が緑、どちらも虚ろだ。声もどこかおかしくて発音がしっかり出来なくて、慣れてないと聞き取りにくいかもしれない」
「大分いじくられているな。分かったよ譲ちゃん、部下に探させる。どっちに行ったかとか分からねえかい?」
「あっちだ! 頼む!」
私は開きっぱなしのシャッターを指差した。
「おい、聞いてたな、行け! 譲ちゃん、向かわせた部下とは外で落ち合う事になってる。今はこっちに従って逃げてくれ」
「………分かった」
本当はここに残りたい。兄さんと一緒に出たい。
だが、これ以上助けてくれると言っているこの人たちに迷惑をかけられない。大人しく従って、私は先に行った子供達を追い掛けた。
「こいつはヒデェ……」
俺たちは更識本家の指示で、子供達を使って人体実験している施設がある場所を訪れていた。本来なら、偵察で済ませるはずだったが、先に亡国機業が来ていたらしく、恐らく子供達の救助と情報収集の為に中に入って行ったのだろう。入口は瓦礫ばかりだ。
「当主、こっちに子供たちが……!」
「なんだと!」
そこに行けば確かに子供たちがいた。だが、どの子も致命傷を受けている。即死だ。
銃を握っているので、恐らく防衛に出たのだろう。それがこの子達の意志かどうかは分からないが。
「あっちにもいます!」
「生き残りが居るかもしれん、くまなく探せ! 亡国機業が直ぐに来るぞ! それまでに何としても見つけるんだ!」
部下達に檄を飛ばして、自分も動く。足場が悪いことなど気にもならない。走って、瓦礫を動かして、ただただ探し続けた。
腕の中には1人の少年。
髪は女性よりも長い、だが、ボサボサで手入れなどしておらず、自らの血と土埃で汚れきっていた。服と身体も同様に汚れており、お腹を中心に赤い染みが広がっている。
結局見つけられたのはこの少年1人だった。だが、この少年の命もまた、他の子供と同じように消えようとしている。
俺は捜索を打ち切り、この少年を抱えて本家御用達の病院へ向かっている。
「絶対に死なせはしない……!」
結果から言うと、この少年は助かった。
だが、失ったものは大きく多かったようだ。ろくに言葉を離せず、簡単なこともすぐに忘れてしまう。
助けたことに後悔は無い。だが、これから生き続けることがこの少年の為になるのか、俺には分からなかった。
崩壊した施設に再度侵入し、残っていた資料とデータ、この少年の首輪に刻まれた番号から、この少年について分かった事が幾つかある。
あの織斑千冬の弟、織斑一夏だったこと。誘拐され、施設に入ったこと、そして、彼が受けた全ての実験。
始めは彼を織斑千冬の元へ送り返そうと思った。が、彼はもはや織斑一夏ではなくなっている。これではただ一夏の家族を、そして本人を傷つけるだけだ、という結論に至り、俺の養子になることになった。名は森宮一夏。
これからの彼の人生が幸あるように。ただそれだけを願う。
「見つかった?」
「いえ、施設周辺まで調べましたが、いませんでした。そもそも、白髪の子供自体見当たりません」
「……死体も?」
「……ええ。恐らく、爆発に巻き込まれて……」
「そう」
「嘘だ」
私はその言葉を信じられなかった。
「兄さんは強いんだ! ここにいた誰よりも兄さんが強かった、A-1なんだ! そんなことで死んだりなんかしないんだ!」
でも、認めるしかなかった。
「ううっ……兄さんが、死ぬわけ……無いんだ……」
たった1人の家族は、もういない。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
言葉通り、塵も残らず、消えた。
拾われた一夏が、そのまま養子になるところがかなり無理やり感ありますけど、スルーで。