今回もBB装備登場です。ブラスト・ランナーに合わせたままだとISじゃ活躍しそうにないのでかなり魔改造施してます。〇〇が数分間使えるだなんて……麻乗りじゃなくても、いや、麻乗りじゃないからこそ恐怖しか感じない。
「よし、じゃあ始めるか」
「オッケー」
食堂で楯無様から情報をフライングゲットした俺はその場で友人であるベアトリーチェ・カリーナにペアを申し込んだ。彼女に申し込んだ理由は2つ。
1つ、強い。そもそもベアトリーチェと知り合ったのは前回の公式戦である、クラス代表対抗戦で対戦相手だった時だった。諸々の理由で『夜叉』を使うわけにはいかず、俺用にチューニングした『打鉄』で勝負を挑んだ。決勝戦まで行ったので結果は勿論俺の勝ち。だが、俺個人の感覚から言わせてもらうとあの1回戦が決勝戦のような気分だった。彼女は俺が当たった誰よりも強かった。専用機で出場した織斑よりも、だ。今回の特別ルール、専用機同士では組めない事を考えると、どう考えても最高のペアだと言える。
2つ、知り合いが極端に少ないから。特に1年は。ベアトリーチェという友人ができたこと自体が奇跡に近い。
《自分で言っててものすごく寂しくありませんか?》
(そうでもない)
《変なところで図太いですね》
以上の理由から、俺は彼女をペアに選んだ。以前の約束もあるから丁度いいだろう。今日発表されたトーナメント情報と配られた用紙を持って、受付に俺達は一番で乗りこみ、その流れでアリーナに来ていた。無論、練習あるのみ。
「時にベアトリーチェ、お前の得意な事を教えてくれ」
「私? 基本何でもできる器用貧乏」
「自分でそんなことを言うな」
「事実だし、それがイタリア候補生ってものなのよ。全てを高い水準で保つ必要があるの。理由は、前に言ったわよね?」
「覚えている」
珍しいことにな。
「その中でも、自分が得意としている事だ。技術に関して俺から言うことは無い。後は連携を磨くこと、そして武装の扱いを徹底すれば問題ない」
「うーーん………機動、かな。ウチのテンペスタは世界最速レベルだし」
「ほう? 他には?」
「わかんない」
「では逆の質問をしよう。苦手なものを教えてくれ、それ以外は得意と判断する」
「苦手かぁ……狙撃は好きじゃないな。あとは偵察とか」
「よし、分かった」
ここから導き出される解は1つ。俺と同じタイプだ。ムラがあるが、磨けばもっと光るであろう原石。これだけの力を持っていながら彼女はまだ路上の石のまま。殻がついたままのヒヨコ状態。
俺がやるべきことは、彼女を次の段階へステップアップさせることだ。今回のトーナメントの勝利へと直結するし、彼女が求める国家代表と専用機にぐっと近づく。悪いことは何もない。
「今回は全生徒が参加することになっているから、設定を弄ることができない。その代わり、装備は自由に選択できる。だから、この練習期間は装備に慣れてもらいつつ、連携を磨こうと思う」
「装備ねぇ……そんな言い方するってことは、何かいいの持ってたりするってことよね?」
「機動が得意と言った自分を憎むなよ」
「うわ、いい顔してるね」
ベアトリーチェの『ラファール・リヴァイヴ』にとあるものをプレゼントした。
「こ、これってもしかして『アサルト・チャージャー』!?」
「よく知っているな。いや、イタリア候補生なら常識か」
『アサルト・チャージャー』とは?
簡単に言うと、増槽のようなものだ。しかし、たかが増槽と侮るなかれ。ISに装着するこの
使い方は至って簡単、展開するだけ。基本どこにでも装着できるように小型の箱のような形に作られた。大体のIS乗りは背中か腰につけている。それだけでエネルギー系統が切り替わりISではなくACのエネルギーを消費し始めるのだ。ACの種類に寄るが、爆発的な速度を得られる。重火力タイプのISでも、高機動型同等の速度を実験では見せつけた。世界最速の戦闘機が出した最高速はマッハ2.8前後。IS最速の機体、イタリアの『テンペスタⅡ』高速形態がマッハ3.1。その『テンペスタⅡ』にACを搭載した時の最高速は……マッハ4.3。ACがどれだけ異常なのか、分かっていただけると思う。
弱点……というより欠点も勿論ある。ノーリスクならどんなISにだって装着されている。
まずは速度。非常識と言ってもいい速度を与えてくれるわけだが、速すぎて逆に使いこなせないのだ。汎用性が低すぎた。アリーナのような閉鎖された空間での使用、戦闘のように複雑な機動を求められる状況ではまず不向き。小回りが利くタイプも開発されたがそれでもAC、やはり速かった。
次にコスト。ISの武装にしては考えられないほどのコストがかかる。量産することなど出来るはずもなく、完全なオーダーメイドとなった。
「さらに強化した物だ。名前は『AC-マルチウェイⅡ』。出力を犠牲にする代わり、使用時間と消費エネルギー効率を改善してある。最大の特徴はACの速度を保ちながら小回りが利くところにある」
「ACの速度を保ちつつ、小回りが利く? それってかなり凄いわよね」
「お前の知っているACに比べればかなり遅いが、それでもACだ。速度はバカにならないぞ」
「こいつを使いこなせってことね」
「将来『テンペスタⅡ』を越える速度のISに乗る代表候補生の練習にはちょうどいいだろう?」
「言うじゃないの」
ガン、と拳を合わせて特訓を始めた。
「いぃぃぃぃぃぃやあああああぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
「………はぁ」
『AC-マルチウェイⅡ』はACの中では比較的遅い部類に入る。ベアトリーチェにも言ったように、連続使用時間やエネルギー効率、小回りに着眼した物だ。故に、あまり速い方ではない。だが、それでもACだぞ。確かにそう言った。
しかし、訓練を始めて見れば散々な結果。今までのテストパイロット同様ACに振り回されていた。
「とりあえず戻ってこい。飛行機が着陸するときのイメージだ」
「無理無理むりむりムリムリだってばぁあああああああ!!」
「仕方が無いな……」
『夜叉』を展開して、ベアトリーチェの予想進路に移動して待つ。
「何してんの! ぶつかるわよ!?」
「それが狙いなんだよっ!」
「きゃっ!」
通常ではありえない速度で突進してきた『ラファール・リヴァイヴ』を受け止める。ブースターを全開にしても慣性を相殺できるはずもなく、地面に叩きつけられ壁に激突した。出来ることと言ったら、ベアトリーチェが怪我しないようにギュッと抱きしめるぐらいだ。
「いってぇ……大丈夫か?」
「あ、うん……ありがとう。それと、ゴメン」
「気にするな、最初からできる奴なんて1人も居ない。ゆっくりやろう、時間ならあるしな」
「ん」
コイツにしては随分としおらしいな……頭でも打ったか?
「顔が赤いぞ」
「もう少しだけこのままでいさせてくれたら治るかもね」
「1分な」
「ありがと」
そのまま眠るんじゃないかってくらいゆったりとしたまま、1分が過ぎた。寝てないだろうな?
「ベアトリーチェ」
「うん、やろうか。続き」
「ああ」
ベアトリーチェを立たせて、自分も立ち上がる。後ろの壁は幸いなことに壊れていなかったので、始末書を書く必要は無さそうだ。
「俺が手本を見せよう。同じ『AC-マルチウェイⅡ』でな」
「おおっ。ちゃんとできるのかな?」
「舐めるな」
上昇してから『AC-マルチウェイⅡ』を装着。エネルギー系統が切り替わり、武装欄に項目が追加、腰に装着された物のシルエットとSPゲージが現れた。ACの残量はこのSPゲージで表示され、ゲージが無くなった時強制的に収納しリチャージが始まる。途中で収納した場合も同様だ。因みに、使いきってからのリチャージよりも、途中で収納した時のリチャージの方が早く回復するようだ。
いつもの数倍繊細に扱うイメージを持って、飛び始めた。それなりに扱う瞬間加速よりも早く景色が流れて行く。あっという間に端から端へ、しかし慌てず鋭角を描くように方向転換する。アリーナをグルグルと回り、少しずつその円を小さくしていく。
「嘘……」
その半径が1mも無くなり狭まっていく。急に出力を上げては楕円を描き、N字飛行のうなカクカクと飛んでは、蛇のように滑らかに仮想障害物をすり抜けて行く。
白い髪をたなびかせ、夜が縦横無尽にアリーナを駆け巡った。
残り稼働時間が3秒を切ったところでACを収納、エネルギー系統が切り替わり、飛行速度が元に戻った。ゆっくりと呆けているベアトリーチェの元へ下りる。
「まああれぐらいはできるようになってもらわないとな」
「………はは、いいわ。やってやるわよ! 見てなさい! エネルギーも回復したし、あれぐらいすぐに出来るわ!」
『ラファール・リヴァイヴ』が再びACを装着し、超高速飛行を再開する。
が……
「きゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「………はぁ」
ま、急に出来るようになるはずが無い。特にアレはじゃじゃ馬だからな。出来るようになるまで、気長に付き合うとしよう。
「うぅ……」
「そう落ち込むな。そう簡単に出来るようなものじゃないし、出来たら俺が困る」
「なんで?」
「直ぐに自分のものにしてしまう奴ばかりだと、俺みたいな無能は立つ瀬が無いのさ」
「ふぅん」
更衣室で着替えを済ませて、外でベアトリーチェと合流。折角なので一緒に夕食をとることにした。俺は日替わり定食、ベアトリーチェはカルボナーラだ。
「一夏はさ、“無能”なんかじゃないよ」
「ん?」
フォークをクルクルと回して麺を絡めて崩す、それを何度も繰り返してソースを絡めていく。目の前の彼女は下を向きつつも、優しい笑顔で俺の言葉を否定した。
「何でもできる、何でもしてくれるとかそんなことじゃなくて、それだけは違うって私は思うな」
「根拠は?」
「実は私さ、一夏の小さい頃のことちょっと聞いたことがあるんだ。イタリアに来たことあるでしょ? その時、私の友達が会ったの。すごく驚いたわ。IS学園に入学して、トーナメントで面と向かい会ったら、聞いてた印象と全然違うんだもの。知り合ってからも少しずつ変わっていって、私にも笑顔見せてくれるようになって、こうして私のこと頼ってくれて。それだけ必死に努力してる人のこと、私は“無能”なんて思わない。そんな人がいたらまず私が一発ぶちかましてやるわ」
「………そんなことないさ。確かに俺は変わってきたと思う、でも、俺がどれだけ頑張ったとしても“無能”って言葉は一生ついてくる。俺だからな」
「それでいいの?」
「良いも悪いも無い、森宮一夏はそうあるべきなんだよ。俺という存在がいて、より際立つ人たちがいる。この家で生きていくことを決めた時から、日に照らされることのない影として、命を捧げると」
最初は嫌だったけどな、という言葉は口に出さない。確か、はっきりとそう決めたのは『夜叉』に会った時だったか。それまでは仕事だからとか、森宮としての義務だからと思って深くかかわるつもりは無かったけど、無意識に俺は楯無様と簪様を信頼していた。
「強いね」
「弱いさ」
「いいや、強い。一夏が弱かったら私はなんなのさ。自分の事をよく知ってて、誰かの為に自分を落として、命賭けて。そんなのできる人なんてほんの一握りしかいないよ」
「そうか?」
「そうだよ。前から思ってたけど、一夏って戦ってる時以外はまるで別人みたい。自信ないし、どっか抜けてるし……ネガティブっていうの?」
「インドアじゃないとは思う」
「そういうとこが抜けてるって言ってるの。因みにインドアとネガティブは別」
「…………分からん」
「ま、それが一夏らしいんだけどね」
釈然としないな。俺は天然じゃないぞ、それは否定させてもらおうか。自信ないとかネガティブは分からなくもない。
ベアトリーチェは上品にパスタを食べ、ナプキンで口をぬぐって言葉をつづけた。
「本人がそう言うんならそれでいいか、言っても聞くとは思えないし」
「どういう意味だよそれ」
「そのまんま。決意が固いってこと。何かあったらいつでも言ってよ、出来る限りのことは協力するからさ。一夏が大切な人を支えるのなら、一夏を支える人が必要でしょ?」
「ん、そうか。なら困ったことがあったら相談するとしよう」
「はぁ………軽く流してくれちゃって。勇気だして言ったのになぁ」
「?」
流す? 俺何もしてないんだが……。
《どれだけ調子がよくなっても、鈍感なのは変わりませんね》
(?)
一気に呆れられた気がした。
「おい女狐、そこをどけ」
「あら? 私の場所じゃなくて隣に座ればいいじゃない。それとも、わざわざ隣を譲ってくれるのかしら?」
「兄さんの隣など誰がくれてやるか。兄さんは私と食べるのだ、お前ではない」
「残念だけど、私じゃなくて一夏のお誘いで食堂に来たのよね~」
「うぐ」
後ろから声がしたと思ったらマドカだった。それが当り前であるようにベアトリーチェへ威嚇し、俺の隣に座る。お前も日替わり定食か。
「兄さん、友達を作るのはいいことかもしれないけど、その一線を越えさせちゃダメだよ。厄介事の種になるんだから」
「? 俺とベアトリーチェは友人だぞ」
「向こうがそう思ってないことだってあるって事」
「え? ベアトリーチェは俺のこと友人だと思ってないのか?」
「そんなわけないじゃない! ただ、その、ねぇ……もう一歩踏み込みたいなーとか思ってるけど……」
「そういうこと。とにかく! 兄さんは――」
「「「「私のことを見ていればいい!」」」」
「うおっ!?」
いきなり色々な方向から声が聞こえてきた。しかも同じセリフ。
机の下から楯無様が、マドカの隣にいつの間にか座っていた簪様が、マドカとは反対側の俺の隣に姉さんが現れた。楯無様に至っては器用に器の乗ったトレーを持ったままの登場である。
「………いつからそこに?」
「最初から♪」
絶対嘘だ。
「おお、一夏。ここにいたのか。む、なんだその目は」
ラウラは悪くない、出遅れた感が漂ってるけどラウラは悪くない。はず。
トーナメント当日まであと3日。第3アリーナで上級生に囲まれながらも、俺とベアトリーチェは特訓を続けていた。見られている事を頭の隅に放りやって、ひたすらベアトリーチェのAC操作に付き合う。
「まだまだ。もっと小刻みに動けるはずだ」
「こんな、ふう、にっ!」
「いい感じじゃないか」
ほぼ毎日、放課後にアリーナへ足を運んでAC操作と連携を磨いてきた。それなりに互いのクセも把握できたと思うし、俺につられてベアトリーチェの技術も格段に上がってきている。日に日にやる気をましていった彼女はとうとうAC技術を物にした。今では応用としてACを起動させた状態で近接戦闘の訓練を行っている。振り回されることはもう無く、滑らかな機動は時に俺すら翻弄される事があるくらいだ。始めた頃はシールドエネルギー満タンのまま訓練を終わっていたが、今では少しずつ削られてきている。目に見えて成果が出ていることを喜んだベアトリーチェは更にやる気を出す。これをひたすらループしている状態だ。
「もっとスピード上げられるか?」
「厳しいかも! ISもだけど、私が、キツイ!」
「分かった。あと10秒このペースを維持。終わったら休憩を挟もう」
「了解っと!」
学園から借りることができるショートブレードで何合も打ち合う。『夜叉』と比べて格段に性能が劣っている『ラファール・リヴァイヴ』でも、ベアトリーチェは俺についてくる。
10秒経過。丁度SPゲージが切れたようで、ACが収納された。
「隅の方まで移動するか」
「オッケー」
疲れ切ったベアトリーチェを支えながらフラフラと飛行する。ピットから伸びるカタパルトでできた日蔭まで運んで、腰を下ろした。
「しかしまぁ、よくここまで出来るようになったな。俺は無理だろうと踏んでいたんだが」
「前に言ったでしょ、イタリアが求めているモノを一夏が持ってるって。必死になるのは当たり前なの」
「ベアトリーチェ・カリーナ個人としては?」
「最新型専用機はIS乗りの憧れってね。それに、簪達と対等になれるわけだし」
「お嬢様と対等? ライバルなのか?」
「そうよ。他にもマドカとか……最近はラウラもかな? 一夏は見てないかもしれないけど、私達結構仲がいいのよ。手加減もしないし、負けるつもりも無いけどね。………ISも恋も」
最後に何か言っていたようだが、仲良しなのはわかった。そのままいい友人でいてほしいと思う。勿論俺ともだ。
「試合の組み合わせがどうなるかは当日まで分からないが、戦いたいならとにかく勝ち上がる事だ。そして目指すは優勝、だろ?」
「当たり前じゃない。訓練機だろうが、専用機だろうが、負けるつもりなんてこれっぽっちも無いんだから」
「頼むぜ相棒」
「任せなさい相棒」
ISの拳をガンとぶつけ、訓練を再開した。
「ねえ、知ってる?」
「何を? 豆しば?」
「噂よウワサ!」
「もしかして、アレ? 今度のタッグマッチで優勝したら――」
「何かあるのか?」
「「ひゃあああああああ!!」」
単なる雑談だと思っていたが、聞いてみれば優勝したら何か貰える、みたいな言い方じゃないか。失礼して会話に割り込んでみると凄い驚かれた。最近はクラスメイトとも話すようになってきたので、これくらいじゃ嫌われたりはしない、はず。どうも女子校育ちが多いらしく、男が珍しいようだ。
「い、いきなり話しかけないでよ!」
「そうそう! 驚くじゃん!」
「すまん。ちょっと気になる事を話していたからな。それで、優勝したら何かあるのか?」
「そ、それは……」
クラス委員なのに、何か聞き逃していた事があったのかもしれないからな。本当にあったら大事だ。
「おら、席につけー」
「せ、先生!」
「助かったー! 森宮君また後でね!」
俺が何か悪いことをしたみたいな言い方だなオイ。助かったって何だよ。
しかし先生が来ているので止めることもできず、仕方なく席に着く。
「おはよう一夏」
「おはようございます」
そうだ、簪様とマドカなら何か知ってるかもしれない。俺よりもクラスに馴染んでいるからな。
「マドカ。何か噂が流れているんだが、知ってるか? トーナメントの優勝者がどうのこうのって……」
「なななななななな何のことだか!?」
「………簪様はご存知ですか」
「しっ知らないっ!」
「………」
《絶対知ってますよね、コレ》
(分かりやすいなぁ)
《隠すって事は、公にはされていないことでは? 例えば、賭け事とか》
(あー、そうかもな)
教室のひそひそ話に耳を傾けると、誰もが「あのウワサ……」と言っている。俺にだけ秘密にされてるのか。って事は、俺が景品? 嫌だなぁ……また晒し物かよ。
《勝てばいいんですよ、勝てば。仮にマスターが景品扱いされていたとしても、マスターが勝ってしまえば無効です》
(おお、なるほど。これで優勝しなければならない理由が増えたわけだ)
ただ単に勝つために、簪様やマドカ達ライバルに負けない為に、そして景品にされない為に!
………最後の奴、余計に聞こえる。
「今日からトーナメントが数日間にわたって行われるわけだが、羽目外し過ぎないように。トトカルチョなんてもってのほかだからな、見つけ次第没収、その分の金はアタシの酒になるぞ。まあ優勝目指して頑張んな。4組には優勝候補が3人も揃ってるからな。負けんじゃねーぞ」
『はい!』
「配るプリントに日程書いてあるから、失くさないように。一番前の奴取りに来い。それと――」
更衣を済ませた1年生全員が更衣室でトーナメント表の発表を待っていた。もうちょっとで分かるはず。
「誰になると思う?」
「名前も顔も知らないどっかのクラスの女子」
「もしくは専用機持ちのペアかな」
「その2択しかないだろうが」
「まあねー」
俺もベアトリーチェも緊張はなく、リラックスしている。元の地力が高いことに加えて今日の為にかなり訓練を重ねてきた。付け焼刃の連携ではあるが、それでも他のペアに比べればまだいい方だろう。余程の事が無い限り、負ける気がしない。
自信はある、実力もある、油断しなければまず負けない。
「お、出た出た」
「ふむ」
更衣室の仮想ウインドウには今日の対戦表が映し出されている。
俺とベアトリーチェはシードか。先の公式戦もそうだったが、微妙なところで運が良いな、俺。
簪様と本音様のペア、マドカと清水妖子(期待の新聞部、1年4組)は別のブロック、順当に行けば準々決勝、準決勝辺りで戦うことになる。
気になる1組の専用機持ちは、ラウラ含めて全く反対側のブロックだった。
「決勝で簪様達と会うことは無い、か。惜しいな」
「確かに、残念だね。でもまぁ1組の専用機とやれるかもしれないって思ったらちょっとやる気出た」
「出るのか?」
「実力知らないもん。織斑秋介は一夏と戦ってるの見たけどさ、一夏がいれば問題ないでしょ」
「他の奴らもたいして変わらないぞ。この前偶然模擬戦をすることになってな、拍子抜けした。流石に姉さんと楯無様に当たった2人は可哀想だったが」
「あ、あはは………」
「やることは変わらない、前を見て戦い続ければいいだけだ」
「相手が誰であろうと」
「「ぶっ飛ばす」」
互いにニッと笑って更衣室を後にした。
トーナメントの幕が開ける。