無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 夏休み、ですね! リアルもこの話も。

 だからと行って更新速度は変わりませんが。


31話 「待っててね! ちーちゃああぁぁぁん! 箒ちゃあああぁぁぁん!」

「………くぁ」

 

 朝……か。

 

《おはようございます、マスター》

 

 夜叉の挨拶も頭に入って来ない。久しぶりにぐっすりと眠れた気がする……。

 

 時計を見る。デジタル表記は慣れないが、午前7時なのは理解できた。

 

《よくお休みになられていましたね》

「昨日は結構疲れたから、かな」

《ああ、麻雀してましたね》

「なんとか勝てた。これで留年の心配は無いな」

 

 昨日はと言えば、学園から旅館まで移動してきて、海に行きたくないからと部屋でごろごろしていたら大場先生から呼び出されて、平常点を得るために必死に麻雀して、終わったら嫉妬全開の簪様をなだめて、リーチェのピンポン勝負に駆り出されて、ラウラも混ぜてトランプで遊んで…………何をしているんだ俺は。

 

《学生らしくていいじゃないですか》

「ここまでだらけていたら腑抜けになる」

《そこまで言います……?》

 

 弱くなる事だけは勘弁だ。それは俺で無くなる。

 

 時計から視点を移動させると、部屋には見慣れない人物が二人寝ている。

 

 織斑秋介、織斑千冬。生徒と教師、弟と姉。

 

 つい数ヶ月前まではよくわからないが憎かった相手だ。名前を聞くことすら嫌だった。それがどうだ……話す事を不快に思う事は無いし、同じ部屋で寝泊まりしてもなんの変化も無い。気にしなくなっただけなのか、それとも慣れたのか……。

 

 主に干渉しなければ別にどうでもいい。大事なところはそこだ。

 

 何度も疑問に思ったことに、俺は何度も同じ答えを出し続けている。だが、違和感というか、しこりと言うべきか、胸に残っている何かを取り除くことが未だに出来ないままだ。

 

 俺は……どうしてしまったんだろうな?

 

 これがなんなのか、俺には見当が付かない。

 

《マスター》

「ん?」

《今日は望月から新武装が届く日です》

「ああ、そうだったな」

《体調を崩されませんよう……いつも通り、お願いします》

「迷惑をかける」

《マスターの為、ならばです。元気で過ごしていただけるのであれば、夜叉はどこまでもお伴致します》

「………どうした?」

《ご自分に疑問を持たれているのでしょう?》

 

 ………隠すつもりはないが、よくもまあ分かるな。

 

《正直に申し上げますと、私はその理由を知っています。いえ、理由と言うよりも原因でしょうか? 上手く表現できませんが……》

「それは今俺に言えないことなんだな?」

《言うことは簡単です。今ここで言ってもかまいません。ですが、それを認識したところで理解し、自分の物として使いこなす事は不可能でしょう》

「気付けってことか」

《はい。マスターならできると信じております》

 

 夜叉はこう言っている。

 

 俺に訪れた変化には何らかの原因があって、夜叉はそれを知っている。だが、夜叉が今ここでそれを明かしたところで意味は無く、俺のこの不気味な何かは取れないまま。これを解消して、モノにするには俺が自分で何とかするしかない。

 

 ってところか。

 

 それだけ分かれば、あとは何とかする。自分でしてみせる。

 

「………よし、やるか」

《はい!》

「今日送られてくる武装の一覧を整理して後で見せてくれ」

《既に出来ております》

「流石だな」

《今度、新しいアニメをインストールしてくださいね》

「簪様にお勧めでも聞いてみようか?」

《大賛成です!》

「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は昨日と違って一日中授業で埋め尽くされている。アリーナではなかなかできない広域を使った高機動が練習メニューとなっているらしい。電磁シールドはここには無いので、一般生徒は今回武装の使用を禁止されている。

 

 対して候補生……専用機を持っている生徒は、企業や国家から送られてくる新武装やパッケージのテストを行う。他国の人間が居る前でやってもいいのかと思うが、そんなことを言いだしてはキリがないので、誰も突っ込みはしない。どうせバレる事だし、どこぞの国はスパイでも送っているんだから知ってるはずだ。情報公開の制度もある。

 

 そしていい知らせが一つ。

 

「ベアトリーチェ」

「はい?」

「イタリア本国からお前宛に手紙が届いている。差出人は……飯田博士、か?」

「先生から!?」

「代理で読むぞ。『クラス対抗戦、タッグマッチトーナメント、お疲れ様。政府や国家代表の一部からリーチェを称える声がそこかしこから上がってきて私も鼻が高いです。そ・こ・で。以前から作成をしていた最新型テンペスタを君に預けます。政府からの許可も取り付けました。イタリアの技術を詰め込んだ最強のIS、使いこなす姿を私達に見せてくださいね。今度の帰国でお友達を連れて来てくれると嬉しいです。  飯田明美』だそうだ」

「………うそ」

「山田先生、案内を」

「はい。こっちですよー」

「は、はい! やったぁー!」

 

 リーチェはイタリア政府の最新型ISを託された。

 

 第三世代型『テンペスタ・ステラカデンテ(流星)』。白をベースとしたカラーリングで、流線的なフォルムが特徴だ。目を引くのは大きな四枚の翼と、両腕に付属しているシールドか。第三世代相当の装備や、テンペスタらしさがどう磨かれているのか、見ものだな。

 

「ベアトリーチェさん、調整はできますか?」

「大丈夫です! うっはーー! 何これ何これぇ! めっちゃ凄いんですけど!!」

 

 ………相当凄いらしい。

 

「一夏! 調整終わったら勝負よ!」

「いいだろう」

 

 リーチェの言う勝負は恐らくスピード勝負だな。夜叉も相当な化け物だと知っているはずだが、それでも仕掛けてくるって事は相当な暴れ馬らしい。俄然興味がわいた。

 

「さて、それでは各々送られて来た新装備やパッケージの換装、調整に入れ。監督は山田先生と古森先生にお願いしている」

「分からないことがあれば聞いてくださいね」

「問題起こしたらぶっ殺」

 

 おっかないな。隣の山田先生の眉が引きつってるぞ。

 

 織斑先生と大場先生を始めとした教員は、他の生徒達の実習監督を行うべく離れた場所へと去って行った。どちらかと言うとココが離れているのか? ……まあどっちでもいいか。

 

 俺も望月からの新装備、試してみるか。

 

(夜叉、リストを見せてくれ)

《はい。今回送られて来たのは二つです》

 

 ヘッドギアを部分展開、視界がクリアになり、現在の夜叉の稼働状況と新装備リストが現れる。

 支援兵装『リペアフィールド』、散弾銃『ワイドスマック』か。芝山さんは何を考えているのやら……。

 

《まったくです! 夜叉は万能機ですが、後方支援が主ではないのです! おこですよ!》

 

 夜叉が言うように、日本二台目の第二世代型IS『夜叉』は高機動型万能機にカテゴライズされる。高機動、ということは素早さがウリなわけで、それが輝くのは中~近距離戦闘。万能機、ということは、場所、時間、環境、戦況、状況等を選ばずどんな場面においても最高のパフォーマンスが出来る機体というわけで、どんな兵装であれ、ある分には問題ない。

 ただ、幾ら夜叉といっても拡張領域には限界が当然あるし、その兵装があったとしても常に携行していて使うのかは謎だ。

 

 何に夜叉が怒っているのか? それは『リペアフィールド』に対してだろう。

 

 夜叉のコンセプト上、どうしても装甲が薄くなりがちだ。特殊な合金を使用していても、薄いことには変わりない。具体的には「量産機よりは堅いけど、他の高機動型と比べると見劣りするかなー」ぐらいだ。白式と比較したとして、正確なデータは無いが、恐らく夜叉の方が装甲防御力は僅差で低い。

 

 ただし、装甲を薄くしているのは機体速度を速くするためで、機体速度を上げているのは「どんな攻撃でも当たらなければ意味が無い」という言葉を体現する為だ。夜叉に限って……とまでは言わないが、装甲を削ってまで高速化した機体は“速度が防御力”になる。

 

 被弾前提の回復装置は本来夜叉には不要な装備だ。

 

 そして俺は近接戦を得意としているし、夜叉も遠くからピスピス撃つよりはそっちの方が爽快感があって気持ちいいと呟いていた。

 

 どうやら、夜叉は『リペアフィールド』が気に入らないようだ。

 

「怒るな。必ずしもお前に装備されるって決まったわけじゃない」

《いやぁ、分かってはいるんですけどね……。回復装置なんて甘ったれたモノは積みたくはないと言いますか。出来れば地雷なんかも……》

「そう言うなよ。ISの修理装備なんて世界初じゃないか」

《むむっ! そう言われると悪い気はしませんね……。もう、マスターは口が上手なんだからっ♪》

「なんか……久しぶりだな、そのテンション」

《シリアス続きでしたから》

「それもそうか」

「ねぇねぇ一夏。誰かと電話中?」

「……まぁそんなところです」

「だめだよ、ちゃんとしよ?」

「はい」

 

 ………俺、口に出して夜叉と喋ってたのか。まだ今朝の眠気が取れていないのか? とにかく、気をつけないとな。こんなこと久しぶりだ。

 

《私も皆さんとお喋りしたいんですけどねぇ……》

(我慢してくれ、姉さんから厳しく言われている。夕食の海鮮をまた食わせてやるから)

《手打ちにしましょう!》

 

 以前は果物を好んで食べていたが、今は普通の食事を気にいっているようだ。昨日の夕食で出された刺身は俺でも分かるほど格別な味で、夜叉も大層喜んでいた。ここしばらくは海鮮がブームになるかもしれない。

 

「さて、やるか」

 

 リペアフィールドに関しては何かしらの負傷を負わなければ実験できない。これは後回しにしよう。リーチェとの模擬戦後に使ってみるか。今はワイドスマックを試してみる。何気にショットガンを使う事ってないんだよな、コレの射程に入るなら直接斬った方がはやい。まぁ、何かしらの削りには使えるか。

 

 どちらにせよ、今日の二つは夜叉に載せることはないかな。

 

 

 

 

 

 リーチェが新型に慣れたという事で模擬戦を先生監督の元に行った。ペイント弾の使用を勧められたが、リペアフィールドの実験もある為に断った。ただし、大きな損傷を受けるわけにもいかないので、ペイント弾以上実弾以下の模擬弾を使用する。口径が合わない絶火や、ニュード兵器、爆裂するタイプは勿論使えない。

 

「楽しみだな」

「もっと期待していいよ」

「なら――」

 

 左手に展開するのは『M92ヴァイパー』。速度特化型ならとにかく弾をばら撒くのが意外と効いてくれる。掠めるだけでも他機種よりは削れるし、何より焦りが出て行動を単調化させやすい。

 

「――どれほどのもんか見てやるさ」

 

 前進。どこかで聞いた話だが、戦闘が始まった瞬間に前に進まない奴は気持ちで負けているらしい。後ろは勿論、横も逃げ。斜めでもいいから前に出ろ。それに影響されるわけじゃないが、下がることは基本しない。それじゃあ楽しくない。

 

 ヴァイパーをリーチェに向かって発砲。反動が小さいおかげで弾がばらけることなく、敵を捉える。それでいてしっかりと弾幕を張ってくれるから牽制にも丁度いい。

 

 勿論これが当たるとは思っていない。量産機でも避けられる。本命は高火力・大口径のバリアンスだ。

 

 予想通り、リーチェは苦もなく避けた。そして、俺が予想していたよりも接近された。瞬きをする間にヴァイパーの適性距離の内側に入り込まれ、バリアンスの必中距離に入っていた。なるほど、現行の高機動型を大きく引き離す速度だ。

 

 すかさずバリアンスを二度発砲。狙いをつけずにただ銃口を向けただけだが、距離は関係ないところにまで近づかれているので問題はない。三点バーストにセットされているため、三つの模擬弾が微妙に軌道をずらしながらステラカデンテへ向かっていく。が、それすらも避けた。

 

「ほう? アレを避けるか」

「どうよ!」

 

 うっすらと機体各所から小さな火が見えた。恐らく、背中の大きな翼を含めて全身に姿勢制御のバーニアがあるようだ。高速移動中でも、問題なく安定して細かな軌道変更ができる出力か。よくできている。

 

 ヴァイパーを収納して、ジリオスを展開。この模擬戦ではニュード兵器を使わないと決めているので、ニュードによる刀身形成は行わずに、物理刀として使う。左手のバリアンスはそのままで、空になったマガジンを交換する。

 

リーチェもヴァイパーを二丁とも収納。腰からナイフを二振り引き抜いて、ジリオスと刃を交えた。

 

 ガガガガガガ!!

 

「くっ……『高振動ブレード』か!」

「知ってるなら説明なくていいよね!」

 

 ブレードと名が付いているが、刀身の長さや形状はまんまナイフそのもの。ただし、文字通り高振動を起こすので切れ味はナイフと馬鹿に出来ない。むしろブレード以上に斬れる。勿論望月製。このままだとジリオスといえど持たない………!

 

 バリアンスをリーチェへ向けながら引き金を引き続ける。再びマガジンが空になるまで撃ち続けた結果、六発の模擬弾の内三発がステラカデンテに命中。右のわき腹の真新しい装甲がペイントで染まる。

 

 それと同時に、リーチェは自らの肩越しにガトリングを俺に向けて連射してきた。バリアンスを撃ちきった時点でステラカデンテの脇をすり抜けていたので直撃はなかったが、何発か掠ったようだ。夜叉のシールドにペイント弾の飛沫が付いている。

 

 先手は貰った。至近距離からの直撃と、回避+シールド防御の差は明らか。

 

 まだ模擬戦開始から3分も経っていない。現時点で結構なアドバンテージを得た。

 

「やっぱはやいなぁ……」

「夜叉は特別だからな」

「むむ、なんかムカツク」

「そう思うのなら、以前のように偶然で一発掠めるのではなく、実力で俺に一撃入れて見せろ。そうすれば認めてやらんことも無い」

「ふぅん。言うねぇ」

「それだけの実力が俺にはあるだろう?」

「自信満々な所悪いけど、そろそろ本気でいくから。何か言うなら今のうちよ?」

「お構いなく、好きなようにやればいい。なんならエネルギー兵器でも爆弾でも使っていいぞ?」

「やーだね。ルールの中で正々堂々とやった上で勝つのが大切なんですー!」

 

 リーチェは収納したヴァイパーを再び展開、高振動ブレードは腰のホルダーに収めてある。先のガトリングも合わせて、四門の銃が俺目掛けて弾を吐き出した。

 

 流石に弾幕が厚い。避けるのはまだまだ余裕があるが、このままでは近づきづらい。マガジンの残弾が切れるのを待つか。それまでは距離を保って射撃を続けよう。

 ジリオスを収納して、俺もヴァイパーで反撃する。

 

(一番、三番シールドにミサイル装填)

《何になさいます?》

(一番にクラスターミサイル、三番に酸素魚雷)

《了解です》

 

 夜叉のシールドは四枚。そのどれもが装甲の代わって非常に堅く、内側に大型ブースターが取り付けられている、わけだが……実はそれだけではなかったりする。緊急時にすぐマガジン交換が行えるように弾倉が取り付けられていたり、グレネードがあったり、収納したくない状況のための固定器具があったりと用途は様々で、とても便利。

 その機能の一つに、ミサイルがある、というわけだ。一番シールドが右肩に固定され、二番シールドが右後ろ、三番シールドが左後ろ、四番シールドが左肩に固定という具合にシールドは配置されている。この内二番、三番は浮遊しているので夜叉の周囲ならどこでも動かせたりする。以前視界を奪うように動かしたシールドはこの二番シールドだ。全シールドに発射管がある。今回は、発射口が前方を向いている一番にミサイルを、自由に動ける三番に魚雷をセットした。発射管は基本空っぽで、夜叉が直接拡張領域から装填する。

 

 ブースターを思いっきり吹かして急上昇、太陽が背に来るように位置を調整する。

 

「残念だけど、地表近くの太陽の眩しさくらいどうってことないからね!」

「だったらこうだな」

 

(夜叉、閃光弾)

《はい》

 

 二番シールドから撃ちだした閃光弾は山なりに飛んで、推進力を失いリーチェへ真っ逆さま。ヴァイパーで破壊される前に起爆させた。

 

「うげ! 閃光弾!?」

 

 流石にこれは眩しいようで、目を腕で覆っている。ただ、リーチェも無抵抗ではない。片手のヴァイパーでこちらに威嚇射撃を行って来た。

 目を閉じる、視覚が潰れる等の状態に陥った場合、視界に表示されるレーダーや、機体のコンディション、武装欄、エネルギー残量などは見えなくなる。ただし、設定を弄れば目が見えない状態でもそれらの表示を確認することは可能だ。脳に直接情報を送るため、他の情報処理が疎かになりやすくなるのが欠点で、普段は使用されない。

 だが、こういう状況では便利だ。目を開かないのだからその分の処理がされることはない

 

 たったの数秒で設定を書き換えたのか。流石。

 

 ただ闇雲に弾をばら撒いているのではなく、しっかりと俺を狙っていることがよく分かる。

 

 ここでクラスターミサイルを発射。一番シールドから発射されたミサイルはリーチェへ向かって急降下、三分の一程の距離を進んだところで、追尾性の子弾頭を拡散させた。実はこのミサイル、打鉄弐式の『山嵐』を拝借し、改良している。一つ一つの子弾頭が細かな動きを見せ、ヴァイパーの弾幕の隙間を縫っていく。

 

 ここでミサイルを追い越さないように降下を始める。視力が戻り始めたリーチェが計二十四発のミサイルに驚いている隙に、海面ギリギリまで下がって、三番シールドの酸素魚雷三発を射出。ザブンと音を立ててダイブした魚雷は真っすぐリーチェの方へと向かって行った。

 

「ちょ! ミサイル無しなんじゃないの!?」

「ああ、安心しろ、それはミサイルの形をしただけの鉄の塊だ」

「え!?」

 

 というわけで、アレは爆発しない。だが動揺させるには丁度いい代物だ。

 

 匍匐飛行で魚雷を追い越して、急上昇してリーチェの背後をとる。

 

「しまっ――」

「もう遅い」

 

 捕縛の際に使用する特殊合金のロープで腕ごと身体に巻き付けて海へ叩きつけた。

 

「きゃああっ!」

 

 ステラカデンテが起こした水柱は存外大きく、少しだけ虹が現れるほどだった。そして少し経った後、海面に浮かんできたリーチェは「降参」と短く告げた。

 

 言っておくが、魚雷もただの鉄の塊だぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、まだまだ慣れが足りないかな」

「初めての機体であそこまでできれば上出来だ。ちゃんと俺に一撃入っていた(・・・・・・・)じゃないか」

「まぁ、そうなんだけど………」

 

 俺が海面に叩きつける前、さらに言えば、縛る前の事だ、背中のガトリングが動いた。首を動かして射線から外れようとすると、今度は変形して片方はガトリングが腕に変わった。なめらかに動く腕は内側の翼から高振動ブレードを取り出して斬りつけてきた。無理に避けようとしたことと、素早く勝負を決めたかったので無理矢理投げたわけだが、その時にガトリングの斉射を顔面にもらってしまった。

 

 と言うわけだ。正真正銘、リーチェの実力で決めた。

 

 試合には勝ったが、勝負には負けた。ってところか。強くなるなぁ……。

 

「いいじゃないか、それで。俺に傷をつけるっていったら自慢できるだろ?」

「なんか、一夏って戦闘に関しては自信満々だよねぇ」

「取り柄、というか存在意義に触れるからな」

「………ま、深くは聞かないよ。それでさ、一夏って負けたことある?」

「………む」

 

 俺がISに乗り始めたのは、簪様が打鉄弐式の説明を聞きに倉持技研へ行った時からだ。簪様はその頃既にIS学園へ入学することが決定していたから、冬の十一月頃からなので……半年以上は乗っているのか。

 入学してからは負けていないので、それ以前となると、模擬戦をしたのは姉さん、楯無様、簪様、マドカの四人。この中では……。

 

「姉さんと、楯無様と、簪様と、マドカ、かな」

 

 全員に負けている。

 

 夜叉が今のボディになるまではあのオンボロだったし、ISの感覚に慣れない時期がしばらく続いたので、経験や知識でもカバーできずに負けが多かった。今の夜叉になってからも、すぐには勝てず、二月に入ってから勝てるようになったんだ。それでも姉さんだけには勝てないままだけど。

 

「ふぅん……なんだか以外かも」

「もっと言うなら、その時の夜叉は20%のリミッターが掛けられていた」

「……20%?」

「えーとだな。ロールアウトして、調整された普通の状態……今のステラカデンテみたいな状態を100%とする」

「うんうん」

「んで、それから20%稼働率を下げるリミッターが掛けられたんだ。だからその頃の稼働率は80%だな」

「……因みに聞くけど、今の稼働率は?」

「半分以下の45%。入学当初は60%だったかな」

「あわわわわ………」

 

 わざとらしくリーチェはガタガタと震えている。今更こんなことで驚くことはないだろうに。

 

 そうか、今の夜叉は半分も性能が出せないのか。もうしばらくはこの状態だから、これに慣れてきたな。100%の頃が懐かしい………。

 

《たまには思いっきり羽根を伸ばしたいですね……》

 

 んーーー! と背伸びをするような声が頭に響く。俺もどこか物足りない感じはしていたし、夜叉に至っては無理矢理重りをつけられているようなものだ。身体に不調が来てもおかしくはない。それが機体に出ないから、稼働率を上げてほしいって言えないし。勝手にリミッター解除してもバレて怒られるし。

 

 不謹慎ではあるけど、100%とまでは言わないが夜叉のリミッターを外せる機会が来ないものかな……。

 

「あ」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 

 全開で試さないとちゃんとしたテストにならないから、とか言って解除してもらえばよかったんだ。

 戻ったらお願いしてみよう。

 

「戻るか」

「そうだね。向こうについたらその《リペアフィールド》っての見せてよ」

「いいぞ、こいつは範囲内の味方識別機を修復する装備だからな。俺ばかりに効いても意味が無い」

 

 俺達がいるのは実習が行われている浜辺から沖へちょっと行ったところ。流れ弾が来ないようにとの配慮と、模擬戦に注意が割かれると困るからという大人の事情もある。

 

 だから驚いた。

 

《レーダーに感あり! 太平洋から高速で何かが接近してきます!》

 

 夜叉の警告を受けて反応がある方向を見る。

 

 そこには……。

 

「待っててね! ちーちゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 箒ちゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 生身で海を走る女が、俺達をスルーして民宿の方向へ走り去って行った。

 




 ベアトリーチェに専用機が!

 ステラカデンテは『流星』という意味らしいです。

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