無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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33話 「仲間を信じろ、ということだ」

「人類は皆平等である」

 

 誰かがそんなことを言ったらしい。俺は全力を持ってそれを否定させてもらう。

 

「人類はみーんな平等に不平等なんだよ?」

 

 目の前の科学者はそう言った。俺は首を大きく縦に振って頷きたくなる程賛成する。

 

「個々人の長所や短所、容姿、生まれ、体系、体質、環境、持ち物、癖、性癖、ほら、ぱっと思いつくだけでもこんなにある。誰がどの人間から生まれて、誰と近しくて、どのように育つかだけでも全く異なる人生を生きていくんだよ? 千差万別、十人十色、私だからこそ分かるけど皆違って皆良いって言うじゃん。皆が同じ顔で同じ姿で同じ服着て同じことして同じもの食べて同じ環境で育って………とか、気持ち悪いだけじゃないかなぁ」

 

 世界のどこかでとても裕福な暮らしをしている人がいるなら、人並みの収入を得て暮らしている人もいて、貧しくて毎日の暮らしも限界な人もいて、人権何それな生活を強要されている人もいるわけだ。

俺に降りかかった不平等がどんなものかは知らないが、恐らく出来が悪くていい生活を送れなかったんじゃないかと推測する。

 

 友達はコネがあるから就職活動が楽に終わった、私にそんなものは無い。

 友達の姉は有名人だけど、私の親戚にもそんな人はいない。

 隣のクラスは可愛い女の子ばっかりだけど、僕が居るクラスにはお世辞でも可愛い女の子が居るとは言えない。

 生き別れた弟は金持ちの家に拾われて豪勢な飯を食っている。俺は毎日泥だらけになって働いているのに肉も食えない。

 

 価値観の違いがあるのだから、人によって不幸や不平等だと感じる境界線は違う。それでも人間は……生きているもの全ては常に“不平等”という言葉からは逃げられない。

 

 世界は優しくて残酷だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束は嬉しそうにコンソールを弄って最終調整を行っている。

 

 妹の篠ノ之箒は姉以上に嬉しそうな表情を浮かべていた。当然だ、ISについて幼いころから学んできた女子だからこそ、こんな時期にあの人からこんな最新型を与えられることの凄さが理解できる。

 

 簪様で例えるなら、お気に入りのゲームメーカーが新作を出そうとして「テストプレイヤーになってくれないか?」と言われるようなものだ。………発狂するに違いない。

 

 とても嬉しくて誇らしくて名誉なことだ。だが、それと同時に責任も付きまとう。期待が膨らむほど、重要なものであるほど、それは大きくて重たくなる。

 篠ノ之箒はそんなこと頭の片隅にもないだろう。占めているのは専用機が手に入ったこと、他の専用機持ちと差を縮められたこと、織斑と同じ場所に立てること、こんな乙女チックなことでいっぱいいっぱい。『紅椿』が持つ意味を少しも理解していなかった。

 

 そのまま他を置き去りにして実験テストに移った。何時の間に仕込んだのか、海面や砂浜からターゲットを撃ちだす砲台が現れて空中へ打ち上げる。紅椿はぎこちなさを見せながらも素早く上昇して、二振りの刀で切り裂いていく。

 

「右が『雨月』、左が『空裂』。紅椿には銃がないから、その二振りが放つエネルギーが主な遠距離攻撃だね」

 

 篠ノ之がぐっと右手の日本刀型ブレードを構えて、フェンシングのように突きだすと、滞空していたエネルギーの弾丸が打ち出された。連射ではなく、一度に複数の弾丸を飛ばす様だ。

 左手に握るブレード『空裂』の方はエネルギーを纏った状態で振り抜くと、斬撃が跳んで行った。三日月状のそれは刀身よりも大きい。

 

 刀でありながら、銃でもある、か。

 

「そしてそして! 超遠距離攻撃用のスナイパーライフル『穿千』! 貫通力と破壊力を兼ね備えた超射程の遠距離武器さっ!」

 

 刀を収めた篠ノ之が次に試したのは、弓。

 背部の特徴的なユニットの一部が両腕に接続、アンテナのように百八十度に開いた。接続部分が光りはじめ肩の方へと光が伸びて行き、ピンク色の糸がユニット先端から光の端を経由して反対方向の先端部へ。腕一本が一つの弩へと姿を変えた。

 背部のユニットが光を増して、四枚の羽根へと形を変化させ、矢が打ち出された。ターゲットは紅椿が格納されていたコンテナで、砂浜とはいえ高高度から地面へ叩きつけられても無傷だった合成板を障子のようにすんなりと貫通する威力を見せ付ける。

 

 あれ、どう見ても俺の技の真似だろ。“刀拳・穿”の。

 

「おまけの自立支援兵装『大蛇』! 近接攻撃が大好きなんだって!」

 

 背部ユニット下部の一番大きな二枚の菱形が連結を外して対空、おそらくPICを個別に搭載して動いているのだろう。大蛇はエネルギーの刃を薄く灯してターゲットへ斬りかかった。貫通力は穿千に劣るものの、切れ味や継続火力はこちらの方が上の様だ。連続して斬りかかってくるのは怖いものがある。

 

「さらに!」

 

 まだ何かあるのか………

 

「紅椿の装甲は全て“展開装甲”でーっす! あ、展開装甲っていうのは白式の雪片弐型みたいなやつのことね」

「ええええええええええええ!?!?」

 

 雪片弐型といえば………物理刀の状態と、刀身を二つに割った間からエネルギー上のサーベルが出てくるようなものだった気がする。あれが全身にあると言う事は、どこからでもサーベルを伸ばして斬れるってことか?

 

「もっと言うなら展開装甲は攻撃だけじゃなくて、防御シールドにも形を変えられるし、推進力を生むブースターに変えることだってできるよ! 設定次第で無限の組み合わせがある万能兵装さ! この展開装甲こそが、束さんが提唱する“パッケージ換装を必要としないあらゆる状況や環境に対応できる万能機”――第四世代型なんだよ! ぶいぶい!」

 

 ………聞いたことのある口上だな。

 

《そうですね》

 

 周囲が、搭乗者である篠ノ之すら唖然としている中で、俺と夜叉だけが全く別の事に意識を向けていた。

 

 “パッケージ換装を必要としないあらゆる状況と環境に対応できる万能機”。

 

 そのまんま『夜叉』の事じゃないか。展開装甲の有無だけで、コンセプトは全く変わらない。

 

《パクリってやつですか? 私にも妹が出来たんですね!》

(落ち付け。紅椿は本当の意味で万能機じゃない)

《といいますと?》

(同じ“万能”を謳っていても、若干意味が異なる)

 

 夜叉で言う万能とは、武器の豊富さから来ている。

 近接戦に用いるブレードに始まり、援護用のライフルやミサイル、遠距離からの狙撃、魚雷や閃光弾、防御用のシールド、今だけ搭載している修復装置などなど。どんな状況に陥っても、即座に戦略を変更して攻撃できるだけの種類がそろっていることだ。

 

 では紅椿はと言うと、やはり展開装甲の特殊さだろう。

 敵に囲まれていようが、逆に敵を追い詰める状況であっても、集団戦でもタイマンでも、圧倒的不利であろうと、展開装甲の設定変更や扱い方によって切り抜けることができ、逆転して圧倒するだけのパワーも秘めている。武装は限られているものの、展開装甲のバリエーションや工夫により、様々な局面に対応でいるということだ。

 

《結局同じじゃないですか。何が違うのやら……》

(例え話をしてみよう)

 

 最前線で切り結ぶ事に関しては、どちらも同じだ。

夜叉の場合、近接戦に特化した武装があり、俺が得意としている。紅椿だと、主武装が刀であり、大蛇が射撃ではなく斬撃を行うことから、近接戦闘に特化していると言える。

 

 次に射撃による中距離~遠距離の場合。

 近接戦同様に、夜叉には豊富な武装がある。サブマシンガン、アサルトライフル、グレネードランチャー、手榴弾、ミサイル、機関銃、ガトリング、狙撃銃。細かく分類しなければこれだけで八種類、実弾兵器エネルギー兵器どちらも含めれば倍以上の数が領域内に保管されている。夜叉の特徴の一つである、異常なまでの拡張領域があればこそできることだ。

 紅椿の武装とコンセプトからして、メインは近接戦闘の為、篠ノ之束本人が言うように射撃武器はほんの少しだけだった。刀に付属する射撃武装と、超射程の高火力スナイパーライフルのみ。大蛇は射程の問題もあるだろうし、消費エネルギーを考えると長期戦になりがちな当該距離での活躍は見込めない。展開装甲を使っても難しいところだろう。

 

 最後に援護する場合。

 夜叉はもう言うまでも無いだろう。ただし、どれも高火力な為に誤射すると予想以上のダメージがある。加えて弾薬の消費が激しいものが多く、長時間にわたる援護射撃は非常に不向きだ。言ってしまえば、主力級の機体である為に土俵が違う。武装変更という救いの手段が一応残っている。

 結論からすると、紅椿も同様だ。最適な武装も無いし、援護というより決戦に向いている。拡張領域的にこれ以上の機体に見合うだけの武器を積むことは難しいだろうし、そもそもそんなことをしては篠ノ之束が言う万能機ではなくなる。

 

(――と俺は考える。こう考えると、夜叉も紅椿も完全無欠な万能機じゃないな)

《それで良いじゃないですか。欠点は魅力です》

(……そうだな。完全無欠なんて、あっちゃいけない)

 

 人間だろうが何だろうが、欠点が無くて全てをそつなくこなし魅了させる、そんな奴がいてもいい事なんて無い。それはきっと、悲しいことだ。

 

 結局のところ、万能機なんてものは存在しないのだろう。ISとはいえ、意志があっても動かなければただの鉄の塊、ウンともスンとも言わない。それを昇華させるのは、搭乗者の技量と心だろうな。

 

 それにしても………

 

「はははははっ! 凄い! 私でも分かる程に素晴らしい! やれる、この紅椿なら!!」

 

 今の彼女には、紅椿の性能を10%引き出せるかどうか……。何を言っても理解はできないだろう。あれでは紅椿と篠ノ之束が可哀想だ。

 

「兄さん」

「ん?」

「面倒なことになりそうだ」

「まーた何かあるのか?」

「『ホロウ・フェアリー』の性能テストをしていたらさ、面白い通信を拾ったんだ。アメリカの第三世代型が暴走してここの近くを通るらしい。委員会が私達で迎撃しろって」

 

 妹には盗聴癖でもあるのか? 俺は少し心配だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というわけだ。なお、これは今までの授業で行ってきた模擬戦ではない、実戦だ。死亡する可能性もある。参加の強制はしない」

 

 大広間に機材を持ち込んで建設した急造の司令部でミーティングがすぐに行われた。野外授業は中止、生徒は自室で待機となっている。行事ごとに何かしらの緊急事態が起こってきたため、同期の一年生は特に疑問を持たず(呆れと怒りで)素早く部屋へ退散した。現在旅館で自由行動を許されているのは、教員と一部の旅館従業員、そして代表候補生含む専用機所有者だけだ。そこには篠ノ之箒も含まれている。

 

「これを踏まえた上で、作戦に参加する意志のあるものはここに残り、その他はここを出て自室へ戻って待機せよ。なお、概要を聞いてから不参加の意志を表明しても認めないものとする」

 

 沈黙。退出者は居なかった。

 

「居ないようだな。では、作戦を説明する。山田先生」

「はい」

 

 床に設置された3Dスクリーンがこの旅館を含む一帯の地図が映し出された。旅館……司令部の現在地は緑の点で示され、遠く離れた太平洋まで。ハワイ諸島のとある島に赤い点が灯り、そこから伸びる赤い線――恐らくマドカが言うアメリカ第三世代型の進路だろう。ミッドウェー諸島を真っすぐ通ったかと思えば、直角に曲がってフィリピン海へ、硫黄島周辺を通ると今度は日本本島へと進路を向けている。

 

 何処へ向かおうとしているのか、全く予想のできない進路を描いていた。現在位置は赤い点とそれを囲む赤い輪で示され、一応の予想進路は点線で示されている。その先は日本の東京と、日本近海を沿ってアラスカとの二つ。どちらにせよ日本へ近づくことが予想されているため、こうして声がかかったんだろう。学生に解決させようとする学園上層部と委員会はどういう頭をしているのやら。

 

「目標は、アメリカ・イスラエルの共同開発第三世代型実戦仕様IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』だ。目標はハワイ諸島で実験中に制御不能に陥り施設を破壊して行方を眩ました。数時間後にレーダーに引っ掛かった時の目標はミッドウェー諸島付近で反応があり、再びロストした後、レーダーで探知した時はフィリピン海のど真ん中。そこからは随時衛星により位置情報と速度が送られて来ている」

 

 言うとおり、地図の赤い光点は常に移動していた。リアルタイムで銀の福音の位置情報がここへ送られているのか。

 

「高速で移動する目標は、数時間後に日本近海を通過すると予測される。ここを、我々学園のISをもって強襲、撃墜する」

「捕獲ではないのですか? パイロットの安否もありますが……」

「目標は既にパイロットの制御下に無い。実験施設破壊の件も含めて、危険だと判断された。捕獲の余裕は無いだろう。気遣いは要らん。お前達の実験機と違い、目標は非常に頑丈な作りをしているし、装甲も厚い」

「了解です」

 

 ラウラの質問にも用意していたかのような回答で返す。おそらく実際に織斑先生がした質問で、委員会側が返した返答だろう。

 

「先程も言った通り目標は高速で移動している。待ち伏せにより接敵に成功したとしても、同じ高速で動けるISでなければ戦闘の継続は難しい。追いつめたところで逃げられては意味が無いからだ。故に、同じく高速機動を可能とした機体のみで作戦にあたる」

「作戦を実行するメンバーをあらかじめこちらで選ばせてもらいました。何かありましたら、後で言ってくださいね。以下の通りです」

 

 山田先生が手元のコンソールで操作して、座って囲んでいた地図が書き換えられ、別の情報が表示される。機体の速度関連スペックと搭乗者だ。

 

「クラス順にいきますね。まずはオルコットさん。今日送られて来た高速機動仕様のパッケージを使えば、ギリギリではありますが今作戦に参加できます。慣熟飛行はどうですか?」

「問題ありませんわ。パッケージに合わせた武器の慣らしも済んでいます」

 

 オルコットと呼ばれたイギリス代表候補生は、チラチラと見られた高慢さが失せ真剣な表情で答えた。

 

「はい。次にカリーナさん。とてもイタリアらしい機体ですね。速度に関しては学園一、今作戦には適任です。技術も問題ありません。引き受けてくれますか?」

「勿論です」

 

 リーチェがいつになく真剣な表情で頷く。普段中々みられない代表候補生らしい一面だ。

 

「ありがとうございます。そして森宮君。総合的な機体スペックと技術はお姉さんに次ぐ実力は銀の福音と同等に渡り合えると思っているんですけれど……どうでしょう?」

 

 俺か。まあ来るとは思っていたさ。ただ、今の状態では全力を出してもスペック差で敗色が濃い。夜叉も羽根伸ばしがしたいと言っていたことだ、ここはひとつお願いをしてみよう。

 

「一つ条件があります。学園側でかけられたリミッターの解除をお願いします。現状態では非常に困難です」

「織斑先生?」

「許可する。後で解除しよう」

「ありがとうございます」

 

 やったぜ。

 

《ありがとうございます! うっはー! 久しぶりの実戦にも心が躍ります!》

 

 実戦にはしゃぐんじゃない!

 

「最後に織斑君――」

「え! 俺ですか!?」

 

 頭の中で夜叉と会話していると、織斑の大声で作戦の方に引き戻された。どうやら織斑も参加者に選抜されたようだ。理由は……あれだろうな。

 

「白式はそこまでの速度は出せないと思うんですけど……」

「移動はオルコットさん、カリーナさん、森宮君の三人に牽引してもらうか乗せてもらってください。織斑君の仕事は“零落白夜”による一撃必殺ですよ」

「一撃必殺……」

「作戦の肝はお前にある。さくっと決めればすぐに終わるし、誰も怪我をせずに済む。銀の福音のパイロットも問題は無い。やれるか?」

「………やります!」

「よし、では早速―――」

 

 ガタガタガタ!

 

 天井がいきなり音を立てはじめ、板が一枚外れて人が降りてきた。

 

「Hey! お待ちになっておじょ―――」

「喧しい!」

「げふ!」

 

 篠ノ之束だ。相変わらずコスプレくさい服装でアイアンクローをくらって悶絶している。屋根裏を移動してきたにもかかわらず、服は砂浜であった時と同じで全く汚れていない。何とも不思議な奴だ。普通に障子を開けてくればいいのに。楯無様といい、何故こうも奇を狙って玉砕されたがるのか。謎だ。

 

「つまみだせ」

「ストーーーップ!! 今回の作戦にはナイスな機体が居るんだよ!」

「何?」

「紅椿さっ!」

 

 手をウサギの耳のように頭上でパタパタと動かしながら、篠ノ之の腕にある真新しいブレスレット――紅椿の待機形態を見る。

 

「……たしかに、速度とスペック面では問題はクリアしているな。だが、篠ノ之は連れていけない」

「今日乗ったばかりだから――でしょ?」

「分かっているなら言うな」

「だがしかぁーし! まだ誰にも教えていない特殊機能が紅椿にあるのさ! しかも絶対に今回の作戦に役立つ!」

「……言ってみろ」

 

 篠ノ之束はポケットから取り出した小型の端末を操作して、最後に大きくターンとキーを鳴らした。すると床に移された俺達の機体データに新たな項目が追加される。勿論紅椿だ。

 

 読んでいくと、確かに砂浜で見せていない機能がある。篠ノ之本人も驚いていることから、どうやら妹にすら教えていなかったようだ。

 

唯一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)“絢爛舞踏”。効果圏内に入った対象のエネルギーを回復させる能力だよ。紅椿は白式と対になる存在で、この二機は同時運用を前提に設計してるんだ。つまり! 白式がエネルギー切れで“零落白夜”を発動できなくなったとしても――」

「――絢爛舞踏によるエネルギー回復で、再度使用可能になる。紅椿が墜ちない限り、半永久的にこのサイクルを続けられる、か」

「そういうこと。別に白式だけに働く能力じゃないし、他に参加する機体も動きを封じるためだけに動けばいいし、全体のリスクも減るでしょ?」

 

 確かに、彼女の言うとおりだ。

 紅椿を抜いた状態で考えるなら、失敗したケースは“白式による特攻→白式エネルギー切れ→残った機体で白式を守りつつ撃破”、という流れになるが、ここに紅椿の絢爛舞踏という要素が加わると、“白式による特攻→失敗→絢爛舞踏で回復→再特攻”、この循環を維持さえすればいい。俺達の仕事もリスクも減るし、逆に危険になる織斑を守ることにも集中できる。

 

「束の言うとおりだが、やはり篠ノ之の実力に不安が残る」

「わ、私はやって見せます!」

「やる気で何でもできると思うな。それに、まだ決まっていない」

「っ………」

 

 篠ノ之を一喝して、話は続く。

 

「だったら箒ちゃんに一機貼り付けるのはどうかな?」

「直衛か。だが、他の三機はどれも防御には向いていないだろう」

「抱えて飛べばいいんじゃない?」

「………山田先生、シュミレーションを」

「はい。……………オルコットさんの『ストライク・ガンナー』に換装したブルー・ティアーズでは、速度に無理がありますね。速度が落ちて被弾率が上がります。カリーナさんのテンペスタと森宮君の夜叉は逆に速すぎて搭乗者以外は耐えきれません」

「だそうだ」

「むぅ……」

 

 オルコットのストライク・ガンナーは、ビットを全て推進力に回して、更にブースターを追加した物らしい。基本的なスペック比は変わらない為に不向き。遠距離狙撃の機体ということもある。最悪、ただの的になりかねない。

 リーチェのステラカデンテのスピードは直に目にした。タッグマッチの時に乗ったAC付きラファールよりも格段に速くなるのは間違いない。速度中毒者(スピードホリック)が一ヶ月かけて慣れたACの速度を授業でしかISに乗ったことのない人間には無理だ。

 

(リーチェ、ステラカデンテにはACを積んでいるのか?)

(三種類ね。今日はまだ使ってないけど、本体に直接繋がっている翼に一個ずつ。多分私でも最初は酔うかも。一夏は……大丈夫……かな?)

(二基もつけているのか……ありがとう)

 

 俺でも無理だと思う。

 

 そして俺の夜叉だが、絶対に無理だ。稼働率に関係無く。Gを極限まで緩和させる専用のスーツを着て初めて俺でも乗れるようになっているし、色々な部分に置いてもやはり他のISとは骨子から異なる部分が多い。テンペスタシリーズとは別の意味で速すぎて危ないんだ。

 

「だが、絢爛舞踏は非常に有効だな。安全を最優先するなら尚更」

「お、織斑先生? 突っ込む俺の安全は……」

「一緒に出撃するメンバー全員で動き回って的を分散させる。当然、全員攻撃するだろう。その中で、隙を狙ってお前が特攻するんだ。避けられてもフォローが入るから心配するな」

「は、はぁ……」

「仲間を信じろ、と言う事だ」

「な、なるほど。分かった」

「それでいい。とにかくお前は零落白夜を命中させること、被弾しないことだけに集中しろ。あとは全部オルコットと森宮、カリーナに任せてな」

 

 シールドを持っている俺が織斑を守りながら戦うことになりそうだな。オルコットの装備からしてこの役割は無理だし、近づく事自体が愚策だ。ステラカデンテは今回の場合撹乱がベストだろう。慣熟も終わっていない。

 もし、織斑が命中できずにエネルギーが尽きた場合、一発でも当たると死に至る可能性が高い。守りながら戦闘継続、もしくは撤退になるだろう。戦うとすれば俺になるが、オルコットが護衛には向いていないのは承知、リーチェに任せたとしても、誰かが被弾して、守りながら戦う羽目になるのがオチだ。結果、四人とも危険になる。

 

 やはり、安全を最優先とするなら紅椿の絢爛舞踏が必要だな。となると……。

 

「織斑先生、提案があります」

「なんだ森宮、言ってみろ。この際どんな奇策でも聞いてやる」

「そこまで的外れなことではありません。新たにもう一機つければいいだけです。紅椿の直衛に」

「……旅館に待機する専用機持ちの中から、新たに選抜するということか」

「はい」

「お前なら誰を選ぶ?」

「シャルロット・デュノア。もしくは妹のマドカです」

 

 ええっ! と驚いた様子の二人を無視して、話を続ける。

 

「一機だけを護衛するのなら、速度ではなく必要なのは防御力。その面で見るのなら、待機するメンバーの中では唯一シールドを普段から使用しているデュノアと、広い範囲をカバーできるシールドビットを持つマドカが適任でしょう。両名判断力、援護にも長けているため棒立ちもありません。行きと帰りは織斑同様に誰かに乗ればいい」

「なるほどな。確かに、ただ紅椿を出すだけよりは現実的だ」

「ねえねえ、その二人って大丈夫? 束さん心配だなぁ」

「問題は無い。学園全体で見てもトップクラスだ。ここにいる面子で実行するなら、適任者は他にいないな」

「ちーちゃんがそう言うならいっか」

 

 再び考え込む織斑先生。どちらを出すべきか悩んでいるのだろう。

 元々護衛をつけるべきかどうか怪しいところだ。一機だけ銀の福音が探知できないほど離れた場所で待てばいいだけだ。他に敵はいないんだし、もし現れたのなら対処すればいい。そして委員会へ責任を追及するだけだ。学生で、しかも一年生だからここまで神経質になるんだろう。自分の弟が居るからというのもあるんだろうか?

 

「本人達はどうだ?」

「だ、大丈夫です!」

「問題ありません」

 

 緊張しながらもしっかりと答えるデュノアに、どこか不機嫌さを感じさせるマドカ。とりあえず出てはくれるらしい。

 

「ボーデヴィッヒ、お前は二人と交流が深かったな」

「は、はい! シャルロットはルームメイトで、マドカは古くからの親友です!」

「どちらが適していると思う?」

「私に聞くのですか!?」

「参考までにだ。長所でもかまわん。私以外の人間からの評価を聞かせてくれ」

 

 急に指名され汗を流し始めるラウラ。順にデュノアとマドカを見るが、二人は頷いて大丈夫だと示した。

 

「シャルロットは非常に思考力が高いレベルにあります。“高速切替(ラピッドスイッチ)”もあって最適な武装を選び、状況に合った正しい使い方を見せました。ただし、型にはまったような戦い方も多く見られ、正しくあり過ぎて柔軟性に欠けます」

「たはは………」

「マドカは実戦経験もあり、戦闘経験が非常に豊富です。私よりも実力は上でしょう。機体の特性をよく理解し、100%以上の力を引き出しています。ビットコントロールも問題ありません、マドカは“偏向射撃(フレキシブル)”も習得しています。ですが、熱くなりすぎるところもあり、少々感情的かと」

「むぐ………」

 

 デュノアに関しては分からないが、少なくともマドカへの評価は妥当なものだった。恥ずかしいが、俺の事になると周りが見えなくなる事が多い。戦闘でそんな状況は無かったが、俺が被弾してブチギレる可能性が無いわけでもない。

 それに、ラウラは敢えて言わなかったが、マドカはタッグマッチトーナメント前に揉めたらしく篠ノ之を快く思っていない。守れと言われて守るだろうか?

 

「………よし、篠ノ之、お前に一人つける。やれるか?」

「はい!」

「紅椿の護衛となると、機動力も欲しいところだ。実力的にも見て、森宮、お前に頼みたいが……」

「………」

 

 そこで俺を見るな!

 

「マドカ、任せた」

「やります」

「………助かる。束、準備にはどれくらいの時間がかかる?」

「五分も要らないね!」

「では―――」

「その前に、いいですか?」

 

 篠ノ之束が先程乱入してきたように、またしても制止の声が入った。

 

 珍しく、簪様がこういった会議の場で発言をした。挙手までしている。

 

「更識か、どうした?」

「あの、思ったんですけど、その、絢爛舞踏って唯一仕様能力なんですよね?」

「そーだけど」

「篠ノ之さんは、今すぐにでも使えるんですか?」

 

 俺達は絢爛舞踏が使えることを前提にして話を進めた。だが、よく思い返してみれば確かにそれは唯一仕様能力だと製作者本人が口にしており、何より搭乗者が初耳だというリアクションをとっていた。篠ノ之束は使えることが当然だと言う風に話を進めたこともあるが、唯一仕様能力は“誰もが発現するわけではない”という特性を孕んでいることを考えるなら、乗ったばかりで、模擬戦も行っていない現状では使用不可と考えるべきだ。

 

 簪様の指摘は、考えないように(・・・・・・・・)していた部分だ。あの篠ノ之博士が言うから大丈夫だ、と。

 

「どう、なの?」

「………私は、今初めてそれを知った。だから、使えない」

「じゃあ! この作戦は―――」

「使えるよ?」

 

 そこへ篠ノ之束がフォローに入る。

 

「誰もが使えるものじゃない、なんて言うけどね、束さんに言わせるなら大ウソだよ、あんなの。本当はどんな機体でも、量産機だって使えるんだよ? どうやって発現するのかっていう条件も、大体知ってるしね」

 

 そしてとんでも無い爆弾を落とした。紅椿同様に、またしても世界に喧嘩を売るような行為だ。そして何故か怒っている。

 

「箒ちゃんには紅椿の調整中に“絢爛舞踏”を発現させる方法を教えてあげるよ。絶対に上手くいく方法をね。出撃の時間になったら成功するか確認してもいい。どうかな?」

「わ、わかりました……」

 

 まさかの切り返しに言葉を失うしかなかった。落ち込んでいる、というよりやはり心配なようだ。不安が大きすぎて拭えない、そんな風に見える。

 

「今度こそ何も無いな? では、三十分の時間を取る。十一時二十五分に実習を行った海岸沖に集合、三十分から作戦開始だ!」

 

 長い会議を終え、学園生にとっては非常に大規模な作戦が始まろうとしていた。

 




 紅椿ですが、特に変更、魔改造は行っておりません。この機体は既に完成された印象が自分の中にあるからです。

・穿千
 一定の経験値を積むことで使用可能になる武器、と原作ではありましたが、主人公が作品内でぼやいたように、一夏の技を参考に作られたもので最初から使用可能です。

・大蛇
 原作では紅椿の自立支援兵装にこれといった名前が付けられていなかったので、勝手に付けました。アニメ見てもらったらわかります、背中にくっついてるアレです。
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