無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 近々解説を含めたおさらいを挟もうかなーと考えています。BBとは? とか、BB武器がどう変化しているのか、とか。知らない方の為にも区切りのいい所で整理したいです。


38話 《Shift ”Limit-Lv1”》

 両腕で抱える重たい銀色の塊は物を言わず、ぐったりと全ての体重を俺に掛けてくる。気絶しているのだから当然だし、そのままでいてくれると非常に都合がいいから起こす事もしない。

 

 森宮が福音ごと俺を投げ飛ばした後、それに逆らうことなく加速を続けて、一秒でもはやく旅館に戻るために全速力でスラスターを吹かしている。重りがある為、いつものような速度は出ないし、これだけの長距離飛行も初めてだから不安もあるが、後に残って大量の敵を引きとめている森宮を考えると弱音は言えなかった。

 

「ずっと同じ景色ばっかりだ。まるでド田舎のマラソンだな」

 

 地元にそういう場所は無いが、一度だけ学校で合宿のような行事が行われた時に田舎へ行ったことがある。自由時間にはしゃいで周辺を走り回ったまではいいものの、何処を見ても畑や田んぼばかりで位置を掴めず迷った。

 

 何処を見ても海が広がるばかりで、変化といえば稀に見かける無人島や常に動き続ける雲だけ。緊張感を保ってはいるが、景色に飽きがくる。

 

 ISのレーダーがあるし、衛星とのリンクもまだ切れてはいない。縮小した地図に映されたルート通りに進めば旅館には戻れる。迷う心配はなかった。

 

 いつ動き出すかも分からない福音を目覚めさせないように気を配りつつ、俺は最短距離を飛び続けていた。

 

「あいつ……大丈夫なのか?」

 

 後ろを振り返るが、当然海が広がるばかりで黒いISと大量に湧いた無人機の群れは見えない。既に戦いが始まっていると思うが、戦闘音や銃の光も、暗い太平洋には聞こえも見えもしなかった。それだけ距離が離れているということの証だ。

 

 ちらりと見えたのはおよそ二十機。恐らくまだまだ増えるだろうから、倍以上の無人機を一人で相手にすることになる。

個々の実力も重要ではあるが、戦いでは数と連携も重視しなければならない。スポーツがいい例だ。確かに森宮の実力は抜きん出ているし、夜叉の性能や武器の壊れっぷりも類を見ない。ただし、一人だ。そこらのゴロツキ相手に喧嘩を吹っ掛けて勝つことはできても、国中に根をはる警察全てを叩き潰すことは不可能に近い。

 

 いくら森宮といえども、あれだけの数を相手に勝つなんて無理だ。無事に帰って来たとしても無傷とは言えないだろう。

 

 助けに行くべきだ。その為にも、最速で福音を旅館まで届け、速攻であの場まで戻る必要がある。

 

「……急がないとな」

 

 が、深刻な問題が一つ。帰りつく前にエネルギーが尽きそうだ。

 

 経験値を蓄えた白式は節約を覚え、慣れ始めた俺は上手な機動を学び、エネルギー効率の良い配分を模索し始めた。それでも劣悪な燃費であることに変わりはない。精々“1”が“1.1”になった程度だ。

 

 白式は燃費が悪い。しかし、前提としてそもそも第三世代型(白式は、雪片弐型こそ第四世代兵装だが、機体そのものは第三世代相当)は実験機が殆どで、搭載されている兵装の多くはその名の通り実験中の発展途上が見込める兵装ばかり。言ってしまえば“他国よりもアドバンテージを得ているだけ”に過ぎない。当然のように、それらは最適解を得ておらず、エネルギーの稼働効率が悪い―――つまり燃費が悪い。

 

 例を上げるとしよう。

 

ブルー・ティアーズの稼働データがあったからこそ、サイレント・ゼフィルスにはシールド・ビットという画期的な新種の武装が開発された。ただし、消費するエネルギーはブルー・ティアーズと比較すると若干だが多い。

 

 白式に試験的に搭載された雪片弐型の“展開装甲”稼働データが上手くとれたため、最新型の第四世代兵装として確立し、紅椿を第四世代型へと至らしめた。しかし、絢爛舞踏が無ければ紅椿は白式以上に燃費の悪い機体でしかない。

 

 世代を重ねるごとに効率が悪くなる。唯一仕様能力でそれをクリアした束さんは流石というべきだ。

 

 今まではやりづらい程度にしか思っていなかった白式の欠点だったが、今までになくそれが歯がゆかった。

 

 ピピッ!

 

「うおっ!?」

 

 白式から送られる突然の警告。頭で考える前に身体が動いたおかげでそれが俺に命中することはなかった。

 

 今のは……ラウラのリニアレールカノンとよく似ていた。電力を使って加速させるタイプか?

 

 いやいや、森宮が足止めしているにも関わらずここに敵がいること自体がおかしい。

 

「くっ………」

 

 森宮がやられたわけじゃない。一機残すような奴じゃないし、あれだけ勝つのは不可能だとか思ってはいても負けるとは考えられないからだ。

 

 多分、目の前に現れたコイツは他の無人機とは違って特殊なんだろう。

 

 左腕で福音を脇に抱え、右腕だけで雪片弐型を握る。刀としての威力を発揮できないが、ISの武器に刀もクソも無い。切れればいいし、零落白夜を一撃入れるだけでいいのだから、型通りに振る必要も無い。

 

 ただでさえ片道分もないってのに……!

 

「白式か……織斑秋介だな?」

「しゃ、喋った! 無人機が!?」

「あいにくだが、目の前にいる私は無人機じゃない」

 

 いきなり口を開いた目の前のマシンは無人機とまったく変わらない外見をしている。装甲も同じだし、色も変わりない。詳しくは見えてないが、持っているライフルも多分他の無人機と同じだろう。

 

 ISはコアとともに、人がいてこそ動くし、IS足り得た。身に纏うように装着する有人ISは、無人機よりも構造は複雑にはならないし、同じ外見で人が乗っていてもおかしくはないと思う。見たことはないが、目の前にいる以上認めるしかない。

 

「お前……誰だ?」

「それは名前を聞いているのか? 機体か? 我々のことか?」

「“我々”ってことは、少なくとも個人じゃなくて組織だな。機体に名前があること、複数種あることも推測できる。なによりアンタに名前がある。まずはアンタの名前から聞こうかな」

「……ふむ、ハズレかと思ったが頭は回るらしい。そうだな………薔薇と呼んでくれ」

「ハズレ……?」

「ハズレだよ。私はてっきりもう一人の方が来るかと思っていたんだが……。いやはや、ままならん」

「悪かったな」

「謝ることはない。ウォームアップの時間が取れただけに過ぎない」

「あ?」

 

 コイツ……なんて言った?

 

 ウォームアップ?

 

 馬鹿にしやがって……!

 

「テメェ……!」

 

 雪片弐型を握る力が意図せず大きくなる。

 ああそうだよ、確かに負けてるさ。技術も実力も、同じ男で同じ学年なのにあいつにはかすりもしない。白式という最高の相棒が居ても、勝てる気が全くしない。比べて劣っているのは認めよう。

 

 でも俺は踏み台じゃあ無い。あいつに負けてるからって弱いつもりもないし、弱くない。

 

「精々気張るといい。そんなお荷物を抱えていようと加減はしないぞ」

「片腕で十分だ!」

 

 福音があろうと速度は第三世代トップクラス。イタリアのテンペスタシリーズ……六組のベアトリーチェが得た化け物のような機体を除けば最高水準に位置する。有人機にチューニングされているとはいえ、ベースは量産された機体だ。まだまだこっちの方が分がある。もっといえば一撃必殺の武器がある俺は、ちょっと掠らせるだけでも十分効くし、一撃入れればそれでお終い。

 

 エネルギーの問題はこの際忘れよう。最悪、森宮には悪いが誰かに迎えに来てもらえばそれで済む。

 

 今は……!

 

「行くぞ!」

 

 コイツを倒す!

 

「威勢のいいことだ」

 

 手に抱えている俺を撃ったライフルを背中の右マウンターに固定し、左のマウンターから一般的なIS用のブレードを抜いた。折角の射撃武器を持っているのに近接戦闘を挑んでくるのか。俺達のことを知ってる連中だ、零落白夜のことを分かっているにもかかわらず……。

 

 舐めやがって。後悔させてやる。

 

 物理刀のままで切り結ぶ。両腕で柄を握って押し込む薔薇に、片腕で雪片弐型を握る俺は当然押し込まれる。接近戦に特化した白式はパワーだってトップクラスだが、流石に片腕では分が悪い。

 

 力を受け流して捌く。するりと脇を抜けて後ろに回り込むが、まるで分かっていたかのようにブレードを押しぬいて加速し、背後から切りつけた雪片弐型の刃が届かない位置まで飛び去っていた。

 こちらを振り向いた時にはブレードは左マウンターに、空いた両手で右マウンターに固定されていたライフルを向けていた。それは今まで見たことのないような形をしており、不気味であると同時に危険な香りを漂わせている。

 

 二本の四角くとがった棒の様なものが空間を開けて銃本体から水平についていて、その空間には離れたこの距離からでも見えるほど埋め尽くされた青白い電流が迸っている。銃口はその電流が発生している空間の奥にあり、恐らく撃ちだされた速度を電流で何倍にも上げているに違いない。

 

 そう……確か……電磁加速砲(レールガン)だったっけ? とにかく速い。そして、電流にさらされても溶けずに撃ちだされる弾丸は強固かつ電気を帯びている。強力だ。

 

 撃ちだされる。

 

「くっ……!」

 

 今まで見てきた銃の中で一番速いかもしれない。相手が顔も見えず、謎が多いこともあって恐怖も中々。瞬間加速を使ってしまうと福音に以上が起きてしまいそうで、急激な加速も躊躇わざるを得ない。

 

 弾道が読めたものを弾き、切り裂く。それ以外を避ける。

 

「ほう? 意外と避けるな。情報とは違うではないか。ままならんな」

「そいつはどうも」

 

 救いはアイツが使ってくる銃が連射できない事だ。決して遠くはない距離、この状態でもかなりの無茶をすれば一気に詰められる程度にしか離れていない。両手で抱えている銃を元のマウンターに戻して剣を抜く間に斬れる自信はある。上げた通りそれはできないが、相手にとっては安心してもいい距離ではない事に変わりない。恐らく、撃ちたくてもあれ以上撃てないのだろう。

 

 その分、ここぞというところを狙ってくるし、避ける時も常にギリギリだ。

 

 強い。

 

 ただし、圧倒的というほどでもない。森宮程のプレッシャーもない。その程度だ。

 

「しかし、それ以外に武器がないのでは、何時まで経っても私を倒せないのでは?」

「………」

 

 悔しいが、薔薇の言うとおり。そんなことは俺が一番分かりきっているし、姉さんも、クラスメイトも、俺自身も知っている。白式には最高の攻撃力が備えられているのだから、搭乗者に求められるのは“最高の回避力”と“見わたす目と見極める目”。

 

 避ければ戦える。視野が広ければ隙や状況が見渡せる。進むべきか否か、誘いか否か、零落白夜の使いどころは今か、見極められる。

 

 俺にはどれも足りない物ばかりだ。その上今は守らなければならないものもある。現状では無理。だが、これさえなければ或いは……。

 

 無ければ……?

 

 そうだ、攻撃する一瞬だけ手放せばいい。

 周囲に無人島は無いから、どこかに隠れるのも隠すのもダメだ。海に落とすわけにもいかない。

 

 ならば。

 

「なっ!?」

 

 俺がとった行動―――脇に抱えた福音を力いっぱい上空へ放り投げたことに薔薇は驚愕した。おまけに動揺まで取れたのなら一石二鳥、ここが攻め時だ。

 

「貰った!」

「くっ……!」

 

 急に苦しくなる薔薇。予想通り迎えようと銃を戻して剣を握ろうと動く様を見つつ、一瞬だけ音の壁を乗り越える。

 

 瞬間加速。何の制約も無い今のメリットを精一杯引き出すため、渾身の力を込めていつもより大量のエネルギーを使った。そして零落白夜のコンビネーション。

 

 ブリュンヒルデの称号を持つ姉さん直伝の必勝を掴みとり続けた必殺。

 

「しま―――」

「遅ぇ!!」

 

 薔薇が撃ってきた銃よりも速く、白い弾丸となった俺が振り抜いたブレードは無骨なボディを捉え、両断した。

 

 しまった……!

 

 急いで零落白夜を解除して、落ちてくる福音をキャッチした時に気付くがもう遅い。有人機を両断……つまり、人を真っ二つに斬り裂いた。

 

 人を……殺してしまった。

 

 その事実を認識し、罪が俺を襲う……前にもう一つ重大なことに気付く。

 

「な……あれは!!」

 

 今にも爆発しそうな両断した機体が視界のど真ん中に映る。焦点はさらにその断面図に合わせられた。合ってしまった。

 

 生身の身体じゃない?

 

 零落白夜発動状態は物理刀ではなくエネルギー刀の状態だ。刀のように引き裂いて斬るわけでもなく、剣のように叩き斬るわけでもない。熱量で焼き切る。

 ならば、すっぱりと斬り裂いた断面には焦げた人体の断面が見えなければならない。溶けて機体とくっついた場所もあるだろうし、血液が吹きだすところもあるかもしれない。

 

 無い。

 

 何処にも無い。

 

 見えるのはショートしている電線や複雑な構造を見せている配線。吹きだしているのは血液ではなくオイル。生の肉などどこにもなく、機会同士が溶けてくっついている。

 

 無人機だった。

 

 敵が無人機じゃないというから疑わずに呑み込んでしまった。考えれば簡単じゃないか。無人機にスピーカーでも取りつけて遠く離れた場所から話せばいい。中身が見えない相手には判断のしようが無いのだから確認の取りようも無いだろう。

 

 やられた!

 

「後ろ!」

 

 憤慨している所へ誰かからの警告が聞こえた。聞き返す事も疑うこともせずに素直に従う。

 

 視界には目いっぱいに広がる茶色と白。放電し続けているあの銃だ。そう理解した時には、頭に強い衝撃を感じていた。

 

「惜しい惜しい。まぁまぁ実力があることは認めようじゃないか。だが、やはりハズレ。ウォームアップにすらならなかった」

 

 憎たらしい声を聞きながら次々と衝撃が身体を襲う。その度に装甲が響き、へこみ、罅が入り、砕け、剥がれていくのを肌で感じる。大した連射速度じゃないのに、抜けだす事も避ける事も出来ずに喰らい続け、果てには気を飛ばした。

 

 かすむ視界に映ったのはさっきと違うカラーリング、左肩に派手な薔薇のマークをペイントした機体だった。

 

「…………! ………!」

 

 誰かの声を耳にするも、口を開くことはできずに意識が沈むのを感じ、引き込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前にはまだ見えないが、水平線の向こうには大量の無人機達が俺の元へと向かって来ている。空を見上げれば大気圏外からわざわざやってこようとしている無人機の群れ。数える気が失せるほどの数には頭が痛い。レーダーは真っ赤に染まり、さらに密度を上げようとしていた。

 

 正確には俺ではなく織斑に任せた福音だろうが、ここまで仕組まれると俺達も狙われていたと見るべき。そしてこの先には福音を含めた大量の専用機と、学園が所有する訓練機がある。二桁を越えるISが極一ヶ所にあつまり、尚且つ世界的に見ても最新の技術ばかりだ。手に入れれば世界最強の軍隊として機能するだろう。

 

 なんとしても通すわけにはいかない。世界情勢がどうなろうと俺の知ったことではないが、あの場所には主と妹と友人がいる。ついでに依頼主も加えていい。護らなければならない。それだけで十分だった。

 

《先に大気圏外からの三十機が速く来るでしょう》

「なら、そっちの数を減らすとしよう」

 

 宇宙から地球へ下りる為には必ず通らなければならない場所がある。それが俗に言う“大気圏”だ。一口に大気圏と言うが、厳密には複数の層がありそれを総合して指す。そしてここを突破するのは容易ではない。

 

 宇宙空間は“真空”で空気が存在しない。だが地球には空気が存在する。つまり、空気の壁の様なものが宇宙と地球の間に存在し、地球を包んでいる(なぜ地球が空気に満たされ宇宙に漏れないのかは関係なので省略)。この壁……大気圏が障害だ。

 

 空気との摩擦。障害とはこの一言に尽きる。手をこすり続けるとその部分が熱く感じることと似ており、重力に引かれて超高速で大気に突っ込み、空気との摩擦が発生して燃えるのだ。そうならないようにスペースシャトル等には降下の角度計算や装甲板等に工夫がされたりしてある。ISの場合はシールドエネルギーがあるだろうから問題は無さそうだが、あの機体はどうなっているのやら。

 

 因みに、軌道を外れた人工衛星や重力に引かれた小さな隕石は燃え尽きて消える。これが流れ星だそうだ。夢がない。

 

 現状の科学では大気圏突入時にアクションを起こす事は自殺行為だ。逆噴射はともかく、銃口を出そうものならそこから溶けるだろう。

 

つまり無防備。反撃の来ない今が攻め時だ。

 

 全てのシールドにクラスターミサイルを装填し、さらに両腕とシールド合わせて六つの『多連装型MLRS』を展開。背中には射程を重視して『アトラント榴弾砲』。

 

 シールド搭載のクラスターミサイルは一発につき八発、シールドには発射管が三つあり、それが四つ。これだけで合計九十六発。多連装MLRSは一つにつき八発、これを六つ装備しているので合計四十八発。つまり、合計百四十四発のミサイルを発射でき、再装填再発射を繰り返せば飛んでも無い数のミサイルを個人で撃てる。

 加えて背中のアトラントだ。長射程でありながら爆発半径と威力が高い水準でまとまっている為扱いやすい。

 

 遠距離からの面制圧、ACやブースターを増設した高速機動時の絨毯爆撃など使いどころはある。今回の様な迎撃戦でも活躍するだろう。ただし、かなり重くなり固定砲台と化すため夜叉の特性を失う。動く必要のない限定的な状況のみでしか使えない。

 

《照準良し》

「撃つ!」

 

 まずは全てのミサイルを撃ちだす。肩と腕から放たれた火薬を満載した鉄の雨は空を遡って雲を突き破りさらにその上へ。それを絶えず撃ち続ける。続けてアトラントを全弾撃ちあげた。最初の方は高度が届かずに推進剤が切れるだろうがそれでいい。いずれ命中する弾が現れ、爆発すれば………

 

《命中》

 

 耳が痛くなるほどの、花火真っ青の爆発音を響かせてくれる。

 

 空になったMLRSとアトラントを収納し、迎撃用の装備をとる。シールドにはヴルカンと『強化型(グレネード)ランチャー』を二丁ずつ展開し、左手にはジリオス、右手にはティアダウナーを握った。

 

 撃ちあいになればこっちが負ける。さっきのような方法はもう使えない以上、乱戦に持ち込んで速攻で数を減らすしかない。被弾は……この際諦めよう。

 

「 突っ込むぞ」

《了解》

 

 四枚のシールドを自分の周囲に集めて四方を固める。身動きが取れない状態で頭だけ動かして敵を見据え、ブースター全てを使って加速。白式など比にならない速度を叩きだし、黒の弾丸へと姿を変える。

 

そして、音速に到達した世界の中で信じられない物を見た。

 

 ここにきて初めて気付いたことだが、無人機には単独で突破する機能はやはり無いようで、突入用のコンテナの中に押し込められて降りてきていた。遠目からでは判別が難しい外見をしていることから夜叉も間違えたのだろう。

 

 問題は、この突入用コンテナ一つに付き複数の機体が格納されていることだ。コンテナから現れた無人機の数がコンテナの数を越えた時に気付いた。

 

 大気圏を離脱することも突破することも並大抵のことではない。人間数人と機材を運ぶ為のスペースシャトルが良い例だ。だから無人機のサイズに対して過剰ともいえる装甲とブースターを見ても一機だけだろうと想像したが………まさか、ここまでやれるとは。

 

 夜叉が観測した無人機……ではなく、突入してきたコンテナの数は約三十。ミサイルと榴弾砲をくぐりぬけてきたのは二十。配置がばらけていたこともあって思ったよりも数を減らせなかった。つまり、宇宙からやってくる無人機の数は“コンテナ一つあたりに格納された数×二十”となる。大誤算だ。

 

「夜叉、見えるか?」

《………見えました。およそですが、一つに付き五機でしょう》

「……百機か」

《恐らく》

 

 まさかさっきまで想定した数の倍になるとは………。流石にやってられないぞ。

 

 しかし引くわけにもいかない。織斑が旅館までたどり着いたとすれば、そこにある全てのISコアを狙って攻め込むだろう。学園の生徒や旅館の従業員などお構いなしに略奪をするに違いない。

 

 絶対阻止。

 

 群れ、と言うよりももはや壁に近い。一斉に放たれた銃弾の壁をくぐりぬけるように、旋回しつつ突撃する。減速はしない、前進あるのみ。

 

 無人機と無人機の間をすり抜け、更に高度を上げる。

 

背には満月。

 

「殲滅するぞ」

《あと十分で後続の五十機が来ます。それまでにどれだけ数を減らせるかが勝負どころでしょう》

「夜叉、そんなことはどうでもいいんだよ」

《ほうほう?》

「皆殺しにすれば結局は同じだ。ただ殺してしまえばいい」

《流石はマスターです。いや、らしいと言うべきでしょうか》

「なんだっていいさ」

 

 四方を囲んでいたシールドを開放し、通常通りの配置へと戻す。四枚の翼を広げた堕天使のようなシルエットに、無骨な大剣と洗練された刀。全身の至る所から飛び出す大小様々なブレード。

 

 まさしく“夜叉”だ。

 

《Shift “Limit-Lv1”》

 

 夜叉に課せられたリミッターを一つ解除する。

 

 Limit-Lv1は製作当初からある枷を外し、100%の稼働率を開放すること。ソフト面ではなく、物理的に重りとなっていた一部のパーツをパージする。

現在学園側からのリミッターと姉さん経由で手に入れた物も残っているが、全てを強制解除。これでカタログどおりの性能をようやく発揮できるわけだ。

 

 間近にある死の感覚に震えながら、顔を歪ませ、圧倒的速度で斬りこんだ。

 




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