無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 キリがいいので連投です。

 いよいよ学園祭スタート


44話 「「だって、当然のことだから」」

 

 四組では製作が始まった。

 

 細かな仕組みまではまだだが、大まかな原理等は理解できたし、後はそれを実用化に至るだけのシステムとパーツを組み上げるだけだ。

 

 だけ、とは言ったものの相当難しいのだが。

 

 製作機械に関しては簪に任せるしかない。その代わり、すぐにでも実験ができるように環境を整えるのが私達のやるべきことだ。

 

 備品と手順、材料費に値段設定、スケジュールに使用許可申請など、やることは意外とある。

 

 残り二週間か………全ては簪次第、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ラウラのナイスなアイデアによって、俺が社会ステータスを失わずに済み、事前に組んだスケジュールよりも順調に準備が進んでいることもあって、一組の進度は全体の中でも進んでおり、内容も濃くなりつつある。

 

 やることと言えば、着る衣装の作成と教室改造案に、調理の練習と試食ぐらいだ。意外と少ないが、作業に充てられる時間とそれに割けるだけの人員を考えると余裕はない。作業は常に急ピッチで行われていた。

 

 俺はというと、全体の監督に加えて調理チームの指導にあたっていた。

 

「そうそう、そこでひっくり返す」

「………とうっ!」

「おお、上手いじゃん」

 

 メニューは色々とある。冷食温めたり、市販のお菓子とアイスを組み合わせたりとかなりインスタントな物ばかりだが、手作りが無いわけじゃない。衛生法とか色々とあるから凝った物は作れないけど、簡単に出来そうな物を選んで出す事にした。これもその一つだ。

 

 学園には食堂があるから自炊する生徒は少ない。そもそも学園生の殆どは女子校出ばかりで、勉強や部活等で碌に料理したことが無い生徒は以外に多かった。できる人を中心に班を組んではいるが、できない人も中にはいる。そんな人に教えていた。

 

「なんか意外だなー」

「何が?」

「男子が料理してるのが。織斑君、してなさそうだし」

「上手いわけじゃない、やらなくちゃいけなかったから覚えてるだけだって」

「え? 織斑先生作ってくれないの?」

「あー」

 

 学園に入学する前を思い出す。姉さんは基本的に家を開けることが多く、実質広い家で一人暮らしをしていた。今になって分かったが、学園で寮長もしていればそうそう帰ってこれないわけだ。疲れて帰ってくるし、久しぶりに会うんだから手料理でも出したくなる。というわけで家庭スキルは割とあったりするのだ。

 

 ………というのは建前だったり。嘘は言ってないぞ?

 

「なんか夢を壊すかもしれないけど……」

「おっ、いいねー。身内ネタは面白いと相場が決まってるんだよ」

「しっかり者にしか見えないし、メチャクチャ厳しいだろ? でもさ、家に帰ってきたらすんげーぐぼあぁぁっ!!」

「喋る暇があるなら手を動かさんか」

「お、織斑先生……」

 

 皆が耳を澄ます中で、突如音も無く姉さんが現れていつものごとく出席簿アタックをぶちかましてきた。猛烈に痛い。

 

 毎度毎度思うんだが、なぜ家での姿を話そうとすると決まってテレポートしてきたかのように現れて制裁を下すのだろうか? 仕事はどうした? ていうかどうやって聞いてるんだよ。

 

「良い喫茶店の条件は上手いコーヒーと上手い紅茶だ。勿論料理やサービス精神も不可欠だが、この二つを絶対に忘れるなよ」

「でも、学校の模擬店にそこまで期待する人がいますか?」

「侮るなかれ、ここはIS学園だぞ。世界各国からの支援金のおかげで、生徒からは少ない学費で入学できることでも知られているが、目指そうとする生徒の家庭は潤っているところが割合的に多い。学園祭では生徒が送るチケットでしか招待できないため、自分の家族に送るのが殆どだ。少々味にこだわりのある方が多いのが毎年の傾向だ」

「舌の肥えた人が多いってことか」

「言い方を考えろ。まぁ、そういう事なんだがな」

 

 学校の規模が大きければ大きいほど、設備が良いほど、維持のためにかかるコストは大きい。それは学生が負担する部分も出てくる。そういう意味では、IS学園は世界で最も巨大且つ最新設備が集まったブルジョワジーな学校になる。マンモス校とも言われる某大学もお手上げだ。ISを扱い、学ぶのだから当然だが。

 

 とんでもない学費が掛かるわけだが、それを生徒の家庭に一部負担してもらうとなると、大企業の社長とか、権威のある医者でなければ払えないほど高額になるらしい。一体ゼロが何個つくのやら。

 

 そんなわけで、世界各国……具体的にはIS学園に通う生徒が国籍を持つ国が大部分を負担する。例えば、セシリアならイギリス、鈴なら中国、シャルならフランス、ラウラならドイツといった具合だ。俺と箒は………どうなんだろう? 国籍は日本だけど、専用機を持つ者としての帰属先がない。俺達本人を差し置いてまだ話し合っているらしい。

 

 そんなわけで、とっても安い。たしか、俺が元々行こうとしていた藍越学園と同じぐらいだったはず。それでいて安定した生活があって、美味しい飯も食えて、尚且つISを学べて、将来もある程度は安泰とかなりの良い学校なんじゃないだろうか。

 

 その分、門は狭いし授業は厳しいのだけれど。

 

「何にせよ、客が満足するような店づくりは義務だ。学園祭程度といって力を抜くのは勝手だが、それでランキング優勝を逃しても知らんぞ?」

「むぐ……」

 

 今回の喫茶店の目玉は幾つかあるが、一つは間違いなく俺で、その他に料理だってある。サービスを徹底して、客の胃袋さえつかめば票の獲得なんてほぼ確実なんだ。そういう考えると、料理を指導している俺に色々と責任がある様にも思える。

 

 責任云々を抜いても、力を抜くというのはいただけない。

 

 いいさ、やってやるよ。近所の喫茶店マスター直伝の上手いコーヒー淹れてやろうじゃん。

 

「わかったよ、本腰入れてやる」

「それで良い。ところで織斑」

「?」

「ふん!」

「ぐはっ!!」

「教師にタメ口とはいい度胸だな。いい加減覚えたらどうだ?」

 

 満足そうな顔をして、迷惑な置き土産を置いて行った姉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 昨夜の内に準備は整えておいたので、朝起きてやることと言えば日課の洗顔歯磨き一杯のコーヒーぐらいだった。今日はそれに加えてテレビでニュースを見るというのが追加されている。

 

 時刻は午前九時になろうとしている。HRも終わって授業がもうすぐ始まる時間だ。だが、今日は教室まで行かない。しっかりと先生に休みますと事前に言っておいたし、外出届も出している。あの大雑把な大場先生でなければ通らなかっただろうな……。

 

 そう、今日は……

 

「お待たせ、マドカ」

「いや、そうでもない。行こうか、簪」

 

 望月へ行くのだ。

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 学園は無人島を開拓して作られている。本島との交通手段と言えば、物資運搬用の船とヘリ、そして最も利用されるモノレールだ。昼になると利用客は皆無になるため、一時間に一本という田舎並の本数になる。その前に簪と乗って、本島側の駅で人を待っていた。

 

「お待たせー」

「久しぶりだな、嬢ちゃん」

 

 出迎えてくれたのは四十を過ぎたばかりとは思えないほど若い夫婦だった。現役を退いて尚発言権を持ち、当主を子供扱いするほどの実力者。旦那さんの方が、雨ノ宮光嵐(コウラン)さんで、奥さんの方が雨ノ宮紗希さん。

 

 名前の通り、森宮の家系に連なる。私も養子に取られてからはお世話になった。失礼ではあるが、両親の様で、祖父祖母の様に思っている。気さくな人で、私も快く受け入れてくれた。聞けば、昔から兄さんのことを好いていた数少ない人達らしい。兄さんも、雨ノ宮さん達は好きらしいし、私達の味方だ。

 

「さぁさ、まずは乗んな。望月技研まででいいかい?」

「はい、お願いします」

 

 簪と並んで後部座席に乗り込む。更識御用達の耐弾装甲を用いた特殊な車だ。見た目はあの高級車。私はともかく、簪は更識の次女だ。この待遇は当然だろう。

 

 エンジンが掛かった音と振動がシートから伝わって、程なくゆっくりと動き出した。因みに、運転手の好みらしいこの車はミッション車だったりする。オートマ車の馬力や速度に不満があったので作らせたとかなんとか。

 

 その辺のラジオが流れる中で、光嵐さんが口を開いた。

 

「お嬢、今度はなんだって望月まで? 学園祭の準備はいいのかい?」

「えっと、その学園祭の準備のために、望月まで」

「ってことは、何か作るの? 簪ちゃんが困るぐらいだから、相当な物なのよね?」

「まぁそうなんだが……」

「何を作るの?」

「3Dプリンター、だけど……」

「え?」「ん?」

 

 そこで雨ノ宮夫婦が頭をかしげる。

 

「随分とまた旧式なもんを作りますなァ」

「光嵐さん、簪ちゃんが言っているのはそっちじゃなくて多分……ね? それに、まだ生まれてばかりの頃の話だから」

「ああ、あっちかい」

「二人して何を言っているのかさっぱりだぞ?」

 

 新聞やテレビ、インターネットでは確かに最新技術がどうのこうのと書かれていたはずだが……それが旧式なのか? 生まれたばかりということは少なくとも十六年前には存在していたことになるんじゃ……。

 

「暇つぶしには丁度いい、話してやるか。3Dプリンターってのはな、二十世紀後半には既に考えられていた技術の一つさ。そしてそれから数年後の二十一世紀初頭に第一号が完成。物体を解析して何百層にも及ぶ平面図形の設計図を作成してそれを作るっていうことで一世を風靡した画期的な発明だった」

「それが、おじさんが言う旧式なんだな? じゃあ、最近言われているのは何なんだ?」

「基本的なシステムに変わりはないそうだ。俺も女房も技術者じゃないから分からんが、どうやらより忠実に再現できるように色々な機能を追加しようとしてるんだと。確か………なんだったかな?」

「カラー印刷が代表的ですよ。他にもサイズの拡張だったり、材料の幅を広げたり……これが成功すればかなりの手間が省けると言われているわ」

 

 なるほど、そういうことだったのか。

 

 聞いた話を纏めると、現在既に出回っている物はモノクロ印刷で、限られたサイズの物しか印刷できず、それを形成する素材の種類がごく少数と言ったところか。

 

 普通のプリンターで例えるなら、黒のインクしか使えず、用紙はほぼ単一のサイズにしか適応できない上に、その用紙の素材すら限定的。といったところか。なるほど、不便極まりない。

 

 もしもそれが成功すれば、確かに実際に印刷されるそれはより実物に近くなること間違いなしだ。

 

 ………簪はそんな物を作るのか。

 

「どこの大企業も難航しているところらしいぜ。お嬢、できるんですかい?」

「できるじゃない、やるの」

「おおう。ちょっと見ない間にでっかくなっちまってんな。相変わらずちっこいところもあるみたいだがな!」

「………光嵐?」

「ははははははは!!」

 

 な、何という男だ……! 簪にその話題はタブーであるにもかかわらず、果敢に攻め込むとは! しかもドスの聞いた声にも物怖じしないその度胸はまさに本物! 流石としか言いようがない……。

 

「真面目な話になるけれど、簪ちゃん。もし上手く作れることができたら、あなた特許申請だってできるかもしれないわよ?」

「特許……というと、儲けられるアレか?」

「持つだけで大儲けできるわけじゃないんだけど……。分野においてはそうなるかもしれない、ってところかしら? でも、簪ちゃんが挑もうとしているのは、お金になりそうなことかもね」

「もっとお金持ちになるかもしれないのか……いや、それよりも学生が世界の先を行くということの方がビッグニュースじゃないか?」

「そうねぇ、ある意味で篠ノ之束博士のような事かもね」

 

 ふむ、確かにそうかもしれない。

 

 当時学生だった篠ノ之束はISを個人で開発した。それだけの資金や材料等が何処にあったのかはさっぱりだが、実際に成功させている。環境の違い等はあるが、確かに成功すれば世界に先んじて開発をしたと言えなくもない。ひどく限定的で、まったく別のものを開拓するわけじゃないから衝撃の弱さは否めないが。

 

 ただし、簪はそうしないだろう。目的が違う。

 

「どうなの、簪ちゃん?」

「完成品は、望月の皆さんに差し上げるつもりです」

「あら?」

「お金が欲しくてやるわけじゃありませんし、いつかはどこかが完成させるでしょうから。欲しいのはランキング一位……篠ノ之束博士との接点だけです」

「坊主を探すためにだったか?」

「はい」

「んー、いいねぇ。やっぱデッカクなったもんだなあ。それにいい女にもなってる。坊主の奴は幸せもんだな」

 

 かっかっかと大声で笑い出す光嵐さんはとても嬉しそうだ。隣の紗希さんもくすくすと満面の笑みで笑っている。二人とも兄さんを気に入っているし、楯無や簪の世代の子供たちには自分の子供のように接してきた。娘が頑張るところを喜ぶ親のようだ。

 

「ついたぞ」

 

 それからも色々な学園の話をして一喜一憂する夫婦を見て、私達は喋りっぱなしで喉が渇くほど楽しませてもらった。こんなに長く話をしたのは久しぶりかもしれない。

 

「帰りはどうすんだ?」

「望月の人達に街まで送ってもらって、少し遊んで帰るつもりだ」

「今日は、ありがとうございました」

「気にすんな、こっちも楽しませてもらったしな」

「帰って来る時が分かったら連絡してね」

「はい」

 

 深く頭を下げて、去っていく車を見送った。

 

 今度は兄さんや姉さん達と一緒に会いに行こう。ラウラとリーチェを招くのもいいかもしれない。いや、その方がきっと喜ぶだろうし、盛り上がる。

 

 どちらからともなく歩きだしてエントランスに入る。連絡だけは事前にしておいたから、受付に話を通すだけでスムーズに済んだ。勝手知ったるなんとやら、奥の方まで堂々と歩く。

 

 途中ですれ違う顔見知りに挨拶したり、時に立ち話を挟んで目的の部屋までたどり着いた。

 

『所長室』

 

 ノックを軽く三回して、返事を待つ。

 

「どうぞー」

 

 少し間延びした声がドアの奥から聞こえてきた。ノブを握って回し、奥へと押す。

 

「やー久しぶりだね。以前の倉持技研襲撃以来じゃないかな?」

「……お久しぶりです、芝山さん」

 

 目の前に座る眼鏡をかけた華奢な男性は、芝山というらしい。私は初対面だから知らないが、簪はどこかで会っているらしい。倉持技研襲撃というと、兄さんが夜叉と会ったあの時か。アレが無かったら今も亡国機業として動いていただろう。

 

「所長になられたんですね。おめでとうございます」

「いやぁ、やることが増えた挙句に責任が重くなっただけさ。おまけに機械には触らせてくれないし……辞退すれば良かったかな?」

「あ、あはは………」

 

 なんともまっとうな技術者だな。ここは作られた武器や機体からして変態ばかりだと思っていたんだが……。

 

「おや、そっちが森宮君の妹さんかい?」

「森宮マドカ。今日は簪の付き添いと護衛の様なものだ」

「よろしく。うーん、お兄さんとお姉さんそっくりだね。ああ、蒼乃さんの事だよ?」

「良いことを聞いた」

 

 その辺りの話も詳しそうだ。

 

「さて、今日の用事は何かな?」

「実は―――

 

 

 

 

 

  

 *********

 

 

 

 

 

 

 

 アレから二時間ほど、芝山所長を始めとした多くの技術者達から意見を貰って設計図を引いたり、システムを構築したりと非常に有意義な時間を過ごした。私から見ればちんぷんかんぷんのそれも簪にとっては宝の山のように見えていたらしく、予約したアニメやゲームが届いた時のように目を輝かせていた。得られたものは多かっただろう。

 

 協力してくれた人達に見送られ、芝山さんが直々に車を街まで出してくれた。いや、出してもらったと言うべきか。

 

 私がついてきた理由はここにある。

 

 どうしても聞きたかったのだ。会ったことのないこの人の口から直接。

 

「さて、僕にどんな御用かな?」

 

 運転しながらバックミラー越しに私をみる芝山所長と目が合う。ほんわりとした印象を与える目は優しく見えるが、その芯は鋭さがある。真面目な話、それも誰にも聞かれてはいけないことを察してくれたようだ。

 

「……どうやら、盗聴器の類は無いようだな」

「おや? お客さんにそんな無礼なことをするように思われていたのかな?」

「警戒するに越したことはない」

「口に出すということはそうなんだね。心外だなァ……」

 

 ……やりづらいな。こういう強かな奴は苦手なんだ。

 

「単刀直入に聞く。出来ればでいい、答えてくれ」

「僕に答えられることならね」

「兄さんは生きている、そうだろう?」

「僕の予想ではね」

「ふぇ……?」

 

 ついてこれていない簪は少し間抜けな声を出した。

 

 しかしまぁ、ようやく口から出た言葉をあっさりと返されると私も変な声が出そうだ。

 

「そ、その根拠を聞きたい」

「その前に、どうしてそれを僕に聞いたのかな?」

「……夜叉の製作に深く関わったと聞く。損傷具合からして、どういった予測を立てているのか知りたかった。正直なことを言うと、それぐらいしか手がかりが無い」

「ふむ。確かに」

 

 山の斜面を下って信号を右に曲がる。少しだけ傾き始めた日差しが芝山所長の眼鏡に反射して眩しい。

 

「見つかったのはメットバイザーと腕、そしてシールド。これに間違いはないかな?」

「そうだ」

「あまり詳しいことは企業秘密だから言えない。君はイギリスの機体を使っているのだからね、コア越しに情報を送られちゃ堪ったものじゃないよ。するとかしないの話じゃないのは分かってね?」

「ああ。こちらも深くは聞かない」

「うーんとね、凄く簡単に言うと矛盾してるんだ。機体の損傷具合とか、傷とかがね。これ以上はちょっと言えないかな」

「………所長の中では、それは確信に足りうる根拠なのか?」

「うん。これは所の総意と言っても過言じゃないかな。一目で分かったよ」

「ありがとう」

 

 最も機体に詳しいのはコア自身だと言われている。その次に詳しいのが設計、組み立てに携わった技術者達だ。だから今回この人に聞いた。

 

 そして確信するほどの根拠を持っているとも言った。なら、間違いはないのかもしれない。それでも確定ではないが、信じるに足るものだろう。

 

「宣言しようか?」

「宣言?」

「うん、宣言。“もし一夏君が生きていたのなら、必ず君たちの元に帰ってくるだろう”」

「おい、それは宣言とは言わないぞ。なあ、簪」

「うん」

「おや? どうしてかな?」

 

 にこりとお互いに笑いあって口をそろえた。

 

「「だって、それは当然のことだから」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ドライバーをくるくると手の中で回す。しっかりと締まったことを確認してからゆっくりとネジから引き抜く。

 

「ふぅ……」

「こ、これで完成か?」

「まだ……。ちゃんと動くか試してみないと」

「そうだな……うん、簪がやってみるといい」

「私?」

「お前が作ったのだから、動かすのもお前だ。だろう、妖子?」

「勿論よ。ちゃんと動くのを確認するまでがお仕事だもの」

「そういう事を聞いているのではないぞ」

 

 学園祭を三日後に控えた放課後。私専用の機体整備室のスペースを改造して新型プリンターを連日作り続けていたのがとうとう完成した。あとは、試験運用を重ねるだけ。望月で吸収してきた技術などをフルに活用したこれは素人目でも分かるほどに、これは凄い機械だと思う。作った私も驚愕の一言に尽きた。

 

「じゃあ、最初からやってみるね」

 

 取り出したのは、暇つぶしに組み立てた小型のプラモ。

 

「それは……夜叉か?」

「うん。余った部品を加工して作ってみた」

 

 シールドをアームで固定したりなどの工夫が見られるものの、それは間違いなく夜叉。ご丁寧にジリオスと絶火まで作ってみたり。細かいディティールまでそっくりという自慢の作品。

 

「まずは、データを読みとるためにコレを左側の機械に入れます」

 

 この機械の見た目は、大きな箱を四つ重ねただけに過ぎない。一つ一つが役割を持っていて、相互に作用する仕組みなっている。

 

 向かって左側が解析で、右側が印刷。上段左が解析装置と設計図作製を兼ねていて、右が素材とインクが詰まったタンクになっている。下段左が物体を解析する空間で、右が印刷されるスペースだ。

 

「しっかりとドアにロックをかけて、こっちのPCでスイッチオンします。すると、解析が始まってPCにデータが送られてきて、確認ができるの。ここで細かな修正をしてOKをクリックすれば印刷が始まる。立体の設計ができたらあとは勝手に機械がやってくれる。ここで、素材や色も変えられる」

 

 その言葉通り、マウスがカチカチと音を立てた瞬間にガーッと音が鳴り、右側の印刷部分が動き始める。頑丈な遮光性の半透明フィルターをじっと目を凝らして覗けば、細いペンの様なものから液体が出てきている。ペンの様なものがあちこち動いて、どんどん底から形が出来上がりつつあった。

 

「気をつけるのは、機械系統の物はスキャンしないこと。内部機関までは流石にコピーできないし、どんな影響が起きるか分からないから」

 

 印刷されていく途中でも、簪の解説は続く。注意点や扱い方などは私たちも触るため、よく聞く必要がある。

 

「イエロー、マゼンタ、シアン。加えてホワイトとブラックの計五色。これで大体の色は再現できる。素材はシリコンと鉄の二つだけ。一応カバーはつけてるし、過剰なまでの冷却装置もつけてるけど、タンクの部分に触って火傷すると危ないから気をつけてね」

 

 どう見ても熱そうにしか見えないタンクは熱気も出している。冗談では絶対に済まないだろう。

 

「印刷が終わると、乾燥と冷却が始まる。まだ開けちゃダメ」

 

 そーっと手を伸ばしたクラスメイトの手をぺしっと叩いて静止する。

 

 ピピーッ、ピピーッ。

 

「音が鳴ったらようやく完成。これが鳴るまでは開けちゃダメだし、触るのもダメ」

 

 そっとフィルターを開けて印刷されたプラモを取り出す。今回はシリコンの様だ。元になったお手製プラモと並べてみるが、見るだけでは私でも違いが全くわからない。触って始めて素材の違いに気づくだろう。色の褪せ具合や関節などのギミックも全く同じだ。

 

「こんな風に、稼働する部分も再現してくれる。ちなみに鉄はアクセサリーにしか使えないから。あと、シリコンと鉄を混ぜるのもダメ」

 

 肩に腕に腰に足にと自由自在に動くそれはまさしくプラモデル。単色印刷ではなく、ラインや光沢もくっきりでている。

 

 どこをどう見ても完璧な印刷だ。

 

「どう、かな?」

「いや、これ完成でしょ!」

「更織さんすごい! すごいわ!」

 

 印刷されたそれも手に取りながら、みんなが褒める。それもそうだ、たかが十六歳の少女が僅かとはいえ世界の先に立ったのだから。お姉ちゃんは今頃小躍りしているに違いない。流石の私も結構恥ずかしい。

 

「この一台でいくのか?」

「もしかしたら、もう一台作れるかもしれない。予算は素材になるべく振りたいから、それを考えると厳しいかも」

「しかし、回転率やシフトを考えるならあった方がいいな」

「そう、だね………」

 

 この日は就寝時間になるまでみんなで話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 この教室にいる誰もが………いや、恐らく全ての学園生徒がその瞬間を今か今かと待っている。たかが祭り程度と思っていたし、目的はその先にあるのだから楽しむ余地はないだろうと考えていたが、いつの間にか私も楽しみにしていたようだ。うずうずする気持ちが止まらない。

 

 やるべきことはやった。機材の調整も、教室の飾り付けも、パンフレットの宣伝も、宣伝用の道具も、みんなで協力して作り上げてきた。

 

 全てはこの日のために、兄さんの手懸かりを得るために。

 

 楽しむことも忘れない。兄さんはきっとそう言うに違いないから。

 

 私なりの全力で学園祭を楽しんで、勝ってみせる。

 

 その気持ちは、隣で静かに待つ簪も同じだろう。

 

 プツン。

 

『あー、あー、テステス』

 

 来たか………。

 

『おはよう諸君! 生徒会長の更織楯無よ』

 

 毎年恒例である、生徒会長の挨拶と宣言による開催だ。嵐の前の静けさとはよく言ったもので、全ての教室や部室、職員室までもが静寂に包まれている。足音や衣擦れの音すらなく、この時だけは時が止まったように感じるという。

 

『待ちに待った学園祭ね。一年生と三年生は感慨深いものがあるんじゃないかしら? 今年は景品が豪華な事だし、例年以上の盛り上がりを見せてくれると予想してるわ』

 

 あの天才が来るというのだから、盛り上がらない方がどうかしている。私達からすれば、全く別の意味なんだがな。

 

『お越しになるのはみんなが招待した父兄の方々やお友達が殆どでしょうね。くれぐれも失礼の無いように。因みに私はお父さんじゃなくて、お母さんと外国の友達を呼んだわ。お父さんったら年甲斐もなく女の子に目がないのよねぇ。何回ぶっ叩いても懲りないんだから』

 

 示し合わせたようにワハハと笑う。これも恒例なんだとか。

 

『今年は注目の男の子もいることだし、きっとたくさんの人達が楽しみに待っているわ。期待を裏切らないためにも、精一杯のおもてなしをしましょうね。勿論、生徒一人一人が楽しまなくちゃダメよ? 私も含めたあなたたちが楽しくないのに、誰が楽しんでくれるのかしら?』

 

 実に的を射た表現だろう。

 

 自分が感じた楽しさや面白さを大勢の人達と共有することで、始めて成り立つものは多い。スポーツもそうだし、ゲームや勉強だって同じだ。そして、祭りも。

 

『節度を守って、存分に楽しみなさいな。盛り上げる最高の秘訣はこれ以外にあり得ないわ。思うところはあるでしょうけど、これだけは忘れちゃダメ。楯無おねーさんとの約束よ♪』

 

 スピーカー越しでもはっきりとわかるぐらい弾んだ声だ。きっと何時ものように扇子を広げてにやりと笑っているに違いない。

 

 それはきっと、兄さんの事で沈んでいる私達へ向けた言葉だ。

 

『それと…………え、何? 早くしろって? しょーがないわねぇ。せっかちなお客さんだこと。でも待たせるのも良くないか。じゃあそろそろやりますか! 生徒諸君! 並びに職員の先生方もー! クラッカーよぉぉぉい!!

 

 楯無の合図で全校生徒が一斉に配布されたクラッカーを手にとって窓際へ駆け寄る。

 

 教室棟――もっと言えば、一年から三年までの全ての教室はグラウンドに面しており、その向こうにはモノレールと校門がある。ここからでもわかるほど人が押し寄せているのが見えた。遠目からでも開幕を知らせるためということと、初っ端からギア全開で盛り上がるために楯無が考えた開幕クラッカーだ。

 

 よくあるクラッカーと言えば、私達ぐらいの女子の手のひらに収まる程度に小さいものだが、配られたのは手のひら大の大型だった。中に詰まっている紙吹雪と紙テープや火薬は比じゃない。これを人数分揃えるのだからよくやるよ。

 

『七代目生徒会長更織楯無が、第七回IS学園学園祭の開催を宣言するわ! 思う存分、弾けちゃいなさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!』

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 パァァァァァァァァン!!

 

 どう考えてもクラッカーとは思えない大音量の炸裂音が学園全体に響き渡る。ぎゅうぎゅうに詰め込まれた紙吹雪と紙テープが校舎から一斉に放たれ、学園祭の開幕を世界中に告げた。

 





 すんごーく今更且つ今回の投稿とは特に関係無いんですが、私の中の『サイレント・ゼフィルス』は、アニメ版の様な蝶をモチーフにしたデザインではなく、okiura先生のデザインです。

 亡国機業が昆虫っぽいデザインで統一されているのも好きですし、CHOCO先生のデザインも大好きです。ラウラが表紙の設定集は鼻血が出ました。

 ただし、『サイレント・ゼフィルス』はBT二号機というわけで、『ブルー・ティアーズ』の姉妹機なんだからデザインとかもある程度は似てないと違和感あるよねぇ? ってことです。

 それだけです。

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