無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 今回は私的にとても大事な回なんじゃないかなーって思います。
 随分と前から「なんでやねん」と思われたであろうアレのアンサーです。

 ないわー。


46話 「クズはやっぱクズのままか」

 

「ぎゃあああああ!!」

「待ちなさーい!!」

「大人しく!!」

「その王冠を!!」

「置いて行ってー!!」

 

 俺は思う、シンデレラってこんな話じゃなかったよなーって。

 

 意地の悪い姉にこき使われて、魔女のおかげでドレスを着たシンデレラは舞踏会に参加して見事王子のハートをゲット、パン屑もといガラスの靴を撒いて玉の輿に乗るというハッピーなお話だったはず。………違う? そうかいそうかい。

 

 灰かぶり姫であって、決して舞踏姫ではないはずだ。

 

 刀を持って、ナイフを振り回し、ライフルで狙撃したり、ドレスを着てやることじゃ無ければ劇でやることでもない。

 

 チュイン!!

 

 掠った! 今掠ったって!!

 

 ナレーションが始まったと思えば、いきなりドレスを着た箒達が入ってきて俺の王冠を求めて追いかけてくる。器用に互いに潰しあったりしながら俺を追いかけてくるんだ、メチャクチャ怖い。途中で助けてくれたシャルも追いかけるし……なんでこんなことに……。

 

「はぁ……! くっそ……! いつまで走りまわればいいんだよ!」

 

 いい加減疲れたんだが、終わりが見えない。大人しく捕まれば終わるんだろうけどな……劇も俺の人生も。まだ死にたくはないので、やっぱり逃げる。時間になれば俺の勝ちだ!

 

『時間切れを狙ってる所悪いんだけど……ないからね?』

「は!? え、えぇ!?」

『いやー、あるにはあるんだけど、途中で絶対逃げきれないように工夫してるから』

「なあああああああ!?」

 

 な、なんというタイミングでカミングアウトするんだよ……! 俺の唯一の希望が……!

 

『さぁ! ここからは遅れて舞踏会に到着したシンデレラ候補達の登場です!』

「そういうことかぁあああああああぁぁ!!」

 

 間髪入れずに更識先輩からアナウンスが入る。じっくりと聞いてみたがふざけている。ただでさえ乱暴なこいつらがいるってのに、まだ増えるのかよ!

 

 現在位置は少し開けたテラス。下を見れば箒と鈴が火花を散らしながら戦っているし、セシリアを見つけたシャルロットが追いかけっこをしている。視線を上げれば観客がびっしりとアリーナを覆い尽くしており、アリーナ上部に備え付けられた大型モニターを見上げれば、四方のピットから揃いのドレスを着た見覚えのある顔が大勢押し寄せてきた。

 

 そう、まるでそれは白の軍団。退路を断つように、じわじわと城へとせめてきている。

 

 これは……うん、無理だわ。

 

 しかし諦めるわけにはいかない。見世物だからとかいうわけじゃなくて、単にそうしたくないから。

 

 何か方法は……。

 

《主》

「なんだよ、今必死に考えごとをだな……」

《要は頭の王冠を取られなければいいんだろう?》

「だから、なんとか逃げられる方法をだな」

《なぜ逃げなければならんのだ?》

「は?」

《取られないように倒してしまえばいい》

「……あ」

 

 ………そうだ、王冠を奪われなければいいんだ。なら、シンデレラ達を全部倒してしまえばいい!!

 

 ナイスだ雨音!

 

 よし、そうと決まれば……。

 

「はあああああああ!!」

「やあああああああ!!」

「この、いい加減諦めたらどうだ!」

「アンタがね!」

 

 意を新たにして、近くに置いてあったセットのトレーを手にとって下へ降りようとしたところに聞こえる剣戟の音と、模擬戦さながらの雄叫び。

 

 ………。やっぱりやめよう、うん。あれはもうシンデレラじゃない、アマゾネスだ。あいつらの祖先は南米に違いない。

 

「うおっ!!」

「アンタ、今めちゃくちゃ失礼なことを考えたでしょ!!」

 

 なんて勘の良い奴らなんだ……。やはり逃走しか選択肢はない。こうしている間にも乱入してきたシンデレラが這いあがってくる。なんとか逃げきって隠れながらやり過ごすか。

 

 テラスから離れて、人一人がようやく通れそうな通路を走る。ここは少し見えづらい場所にあるし、群れで襲ってくる彼女達相手なら時間も稼げるだろう。

 

 しかし……

 

「まぁてぇぇっぇえ!!」

「どこだぁぁ! 秋介ぇええ!!」

 

 近接型専用機を駆るあの二人には通用しないようだ。この狭い通路でも難なく武器を振り回して追いかけてくる。くそ、なんて連中だよ……!

 

 T字路にブチ当たった。が、迷っている暇はない。

 

「ええい、ままよ!」

 

 聞き手の右を選んで走る。迷路は右伝いに行けば出られるって言うし、ババ抜きも右から引けば大抵は何とかなるもんだ。俺は信じる。

 

 そう、信じる者は―――

 

「い、行き止まり……!」

 

 ―――救われませんでした、はい。

 

 丁度セットとセットに挟まれており、左右は壁で挟まれている。梯子が掛けられているわけもなく、手や足を引っ掛けれそうなところも無いので昇れない。正面は仕掛けによって崩れた城の上部が落ちてきており、ぴったりと塞がれていた。こちらは今にも崩れそうなので昇ると逆に危険だ。

 

 引き返すしかない。が、さっきから聞こえてくる声や音が大きくなってきている。多分、角を曲がることには鉢合わせするだろう。運動が得意な二人が相手では、抵抗したところで王冠は取られる。

 

 八方塞がりってのはこう言うことか。道は四方だけど。

 

 ……ど、どうすれば……!

 

「こっちです!」

「え?」

「はやく!」

「は、はい!」

 

 頭をガシガシ掻いていると、足元から声が聞こえてきた。見覚えのあるマゼンタのスーツを着た女性が、何故かセットのあった場所から顔を出して手を伸ばしてきていた。剣幕と逃げられるかもしれないという可能性から、俺はその人がいる空間に飛び込んだ。

 スーツの女性は急いでセットを元に戻して、唇に人差し指を立てている。静かに、というジェスチャーだ。懐中電灯に照らされたその仕草に黙って従う。

 

「あれ? こっち曲がったと思ったのに……」

「貴様のせいで見失ったではないか! 鈴!」

「何よ! アンタが邪魔するからでしょ! 箒!」

 

 ガミガミと言いあいを始めたかと思えば、またしても武器をぶつけ合う音が響き始め、そして遠ざかって行った。

 

「ふぅ、助かりました」

「とりあえず移動しましょう、こっちです」

「はい」

 

 腰を屈めながら、先を行く女性について行く。タイトスカートにヒールを履いているにもかかわらず、この人はスルスルと先へ行っている。何か武道や格闘技でも修めているのかもしれない。身のこなしが違う。

 

「あの……」

「詳しいことは、一先ずの安全が確保してからお話します。ここはまだセットの中なので」

「わ、わかりました」

 

 振って湧いた疑問が今更になって浮かぶ。が、この人が言うことも正しく、何か起きて対処が遅れてしまえば逃げられなくなる。こらえることにした。

 

 それから十数分程歩いて、狭い道から大きな場所に出た。見覚えがあると思ったら、ここは更衣室か。ロッカーやベンチが規則正しく並んでおり、俺達が進んできたのは小さな換気口らしい。

 

「いやぁ、助かりました」

「いえいえ」

「えーっと、どこかでお会いしましたよね。確か……」

「巻紙です。劇が始まる前に、一声おかけしたんですけれども」

「ああ、そうでした。巻紙さん、ありがとうございました」

 

 休憩時間中に、他のクラスを回っている所でたくさん声をかけられた。俺を目当てに来ている人はたくさんいるし、彼女もその一人だ。企業のカタログを手に話しかけられた。結構魅力的な内容だったが、白式・天音は進化してから更に我儘になった。おかげで今ある以上の装備を受け付けない。

 

 雨音曰く《肌に合わん》とのこと。無理してつけるわけにもいかないし、それで性能が落ちれば本末転倒。申し訳なかったが、丁重に断り続けた。

 

もしかして助けたお礼に使えとか言われるのかなぁ……。

 

「でも、どうやってセットに?」

「実は織斑さんにお伝えしなければならないことがございまして」

「俺に?」

「ええ。非常に残念なことではありますが―――」

 

 ゾワッ。

 

 体中を毛虫がはいずりまわるようなおぞましい感覚が支配する。気持ちの悪い、汚い、触れたくない、そんな負だ。逆らうことなく勘に従って全力で後ろに飛んだ。

 

「―――テメェの白式は、この『オータム』様が頂くぜ」

 

 そこにいたのはマゼンタのスーツを着た女性ではなく、不気味な女郎蜘蛛。通常のISらしからぬ装甲や設計には気味の悪さを覚える。見た目だけでなく、本質そのものがあの無人機よりも不気味だ。

 

 機体の背後には、スラスターではなく八本の足の様なアーム。マシンガンだったり曲刀――カタールだったりが装備されており、安定した武装を持っていると窺える。逆に、見える範囲内ではスラスターが無いため、空中や機動戦には向いていないことも。ここが密室でさえなければ大分俺の方が有利だったんだが……それも含めて、俺はおびき出されたってことか。

 

「やるぞ、白式!」

 

 声と共に、身体を光が包む。ただでさえ全体が大型化した上に、スラスターと新装備である『雪風』は更にデカイ。室内戦闘はどう見ても不向きなんだが……仕方ない。やらなきゃやられる。白式を奪われるわけにはいかないんだ。

 

「ほぉ、やろうってのか?」

「あったりまえだろ」

「いいねぇ、そういう無駄な足掻きは好きだぜ? イイ声で苦しんでくれよ!」

「誰が!」

 

 スラスターを吹かして滑るようにロッカーの陰に隠れる。棒立ちしていたらマシンガンの掃射によってハチの巣だっただろう。四つもある上に、自由に動くアームがあるんじゃ、不意を突くのも、隙間を縫って近づくことも難しい。BT兵器のように直線じゃあ無いし、衝撃砲とも違って見える上に連射も小回りも利くアレには小細工は通用しない。得意の近接戦でも、アレだけの数を捌くのは結構キツイ。

 

 結局、いつも通りか。零落白夜の一撃必殺。

 

《主、とにかく動け。止まっていては雪風の効果が発揮されない。まだこの翼を使いこなせない上に、狭い場所では我々が不利だぞ》

「分かった」

 

 雪風の効果。コイツは繊細な飛行と、今までの倍以上の速度を叩きだす事の他に、もう一つとあるシステムが積まれている。

 装甲の隙間から常に漏れ出ている銀の粒子には、白式が敵だと判断した機体に限定して反応する妨害能力がある。電子レーダーを欺き、耐性が低ければ更に中枢の電子系統を狂わせるのだ。

 

 時間がかかればかかるほど、敵は動きを制限されていく。継戦能力の低い白式には嬉しいアシスト装備だ。高速で動きまわりながら散布し、じわじわと追い詰めていく。ISにとって電子的な不備を起こさせるコイツは間違いなく毒そのもの。

 

 乱射しているようで、的確に俺を狙っている射撃から逃れるために、ロッカーを盾にしながらとにかく動きまわる。時折雪羅の荷電粒子砲で反撃を加えて牽制。バカスカ撃ち放題ではないが、どうせ近づけば斬り合いになるんだ。その時の為にも、一発でもいいから当てておきたい。

 

「ちょこまかと動きやがって……!」

「アンタが遅いだけだ!」

「言うじゃねえか小僧!」

「年喰ったババァとは違って若いんでね!」

「アタシはまだ23だ! 乳臭いガキはどいつもこいつも喧しい!」

 

 いい感じに挑発してみるものの、無闇に暴れる気配はない。血が上ったら見境が無くなるタイプなのは分かるんだが……意外と沸点が高いな。それとも理性で暴力を振るえるタイプだったのかな?

 

「くそ、さっきから調子がおかしいな……」

 

 かかったか!

 

 いつもの間隔だったけど、よくよく考えればここは室内だ。換気を上回る速度で粒子を放出し続ければ、空気が充満するのも早い。誘い込んだ密室がテメェの首を絞めたってことだ。

 

「仕掛けるぞ、雨音」

《よし。翼の制動はこちらでやる。お前は好きに動け》

「おう!」

 

 右手の雪片弐型を握りしめ、雪羅をクローモードで待機させる。

 

 手近なロッカーに近づいて、両手を押し当ててスラスターを一気に開放、重たすぎて動かないそれを盾にしてオータムへ近づく。

 

「ちっ、小賢しい真似しやがって」

 

 こちらからは見えないが、レーダーで探るとアイツもどっかのロッカーを押してきているようだ。ISならやってやれないことはないだろうから不思議じゃない。が、生憎とこっちのパワーが上だ。

 

 甲高い音を響かせて二つのロッカーが激突する。一瞬だけ拮抗したかと思ったが、バランスは一気に崩れ、オータムは押し負けてあっという間にロッカーごと壁にぶつけた。サンドイッチ状態の今がチャンスだ。

 

「はあああああああああ!!!」

 

 雪片弐型を開いて零落白夜を発動。躊躇わずにロッカーと壁ごと切り裂いた。

 

 が、手ごたえが無い。

 

《上だ!》

「くっ……!」

「カンがいいじゃねえか! いくぞオラァ!」

 

 八本あったアームは二つが途中から切れて六本に減っていた。さっきので一撃を避け損ねたか。残ったアームを器用に壁へ差し込んで、それこそ蜘蛛のように逃げたわけだ。アレにはああいう使い方もあったのか。

 

 降りてきたオータムと正面切って切り結ぶ。どちらもエネルギー系統なので、長く鍔迫り合いをすればカタールは溶けてしまう。威力は圧倒的に勝っているが、手数は逆に不利だ。粒子を撒いているとはいえ、そこに変わりはない。勝つには速攻勝負だ。

 

「中々やるじゃねえか!」

「お前に褒められても嬉しくねぇよ!」

 

 地味に削れていくシールドエネルギーを横目に正面の女と向き合う。既に零落白夜を解除しているので、必殺の威力はないが、何時でも発動できるように雪片弐型は開いている。クローも合わせて、何とか耐えしのいでいた。

 

 ……どうする? こんなところじゃ瞬間加速は使えないし、ロッカーで押しつぶそうにも避けられちまう。

 

《いや、瞬間加速を使え》

(雨音?)

《何も距離を詰めたり、奇襲を仕掛ける為だけではない。もっと頭を柔らかくして戦場と戦況を見ろ。使える物は使え》

(でもどうやって……)

《ゼロ距離だ》

(ゼロ距離? ………!? そういうことか!)

 

 ISの戦闘は銃器をメインにして行われることが多い。格闘型であっても、最低限の射撃武器は搭載されているものだ。今でこそ荷電粒子砲があるが、以前の白式は雪片弐型だけだったので、かなり苦労した。

 高速で切り結ぶ事が無いわけではない。どちらかと言えば、動きまわって撃ちあう方が戦いやすいのだ。ISはそもそも格闘戦ができるほど頑丈ではない。

 だからこそ、瞬間加速は格闘型に欠かせない技術で、最大の懸念を失くす間合いの掌握こそが格闘型に求められる技術なのだ。

 

 既に密着している現状で使えないなんてことはない。距離を詰めるものと考えればそれまでだが、高速で移動するものだと思えば使い方は幾らでもある。

 

「うおおおっ!」

「なっ!?」

 

 足元に滑りこむように、雪片弐型で縦に斬りこみながら身体を屈める。当然、迎撃の為にアームがマシンガンを撃ってくる。それを更に避けるために、足を地から離してPIC制御と雪風に身体を任せて翼を背に向けるように一回転。オータムの驚きは、この行動と発生した姿勢制御の為の風圧から来ている。

 

 ここで瞬間加速。アッパーの要領で左手を腹に打ち込んで荷電粒子砲をゼロ距離発射するオマケつきだ。

 

 天井にオータムを叩き付け、そのまま零落白夜を再度発動、今度こそだ……!

 

「決める!」

「まだまだァ!」

「げふっ!」

 

 振りかぶったところで腹に重たい衝撃。今度は俺が何かを接射されて床に叩きつけられた。

 

「この………な、何だ、動かない!?」

「ふぅ……ヒヤヒヤさせやがって」

 

 すぐに距離を取ろうとスラスターを動かすが全く動かない。雪風も同様で、それどころか身体が一切動かなかった。センサーをフル稼働させて原因を探る。

 

(雨音!)

《くそ、何かが私に張り付いている……!》

 

 張り付いて……?

 

「糸だよ糸。蜘蛛の糸さ」

「……この白い奴か」

「そうそう。まぁ実際はトリモチを細く強度を上げた奴なんだけど、そんなことは関係ないよな。要は相手の動きを止められりゃいいんだからよ」

「くそ……!」

 

 密着した状態じゃあエネルギーで焼き切ろうとしても装甲がダメージをくらう。身じろぎしても一切千切れる気配はないし、むしろ余計絡みつく感じだ。

 

「あー、そうだなー、昔話をしてやろうか」

「……急に何言ってんだ?」

「いつだったかなぁ、アレは……八年ぐらい前だったか?」

 

 俺の言葉を無視していきなりオータムが語り始めた。

 

「仕事で下っ端に指示出しててな。内容は…………ああ、思い出した。“織斑秋介”の誘拐だったな」

「っ!?」

「失敗したんだけどよ」

 

 な、何を言ってるんだ? 俺を誘拐……? 八年前にそんなことあったか? モンド・グロッソの時よりも更に前に……?

 

「代わりに別のガキを攫って来ててよ……名前はなんて言ったかねぇ……」

「ま、まさか……!」

「ああ、思い出した。“織斑一夏”ってったけな」

 

思考がフリーズした。

 

「て、めぇええええええぇぇ!!」

「おお、こわいこわい」

 

 糸で全く見動きを取れない俺を見下しながら、オータムはわざとらしく怯えて見せる。その顔をぶん殴ってやりたいが、俺に出来るのは叫ぶだけだった。

 

「しっかし何をそんなに怒っているのやら?」

「何を……だと!?」

「そりゃあそうだろうよ、何せお前は無能で恥をかいてばかりのダメダメ兄貴が大っ嫌いなんだろ? むしろ居なくなってスッキリしたんじゃねえの?」

「そ、それは……」

 

 否定できなかった。俺はこいつが言った通り一夏の事が大嫌いだったさ。何をやってもヘタクソだし、俺はおろか姉さんにまで迷惑をかける始末。居なくなればいいと本気で思ったことも少なくない。

 

「もしかして心変わりでもしたんかねぇ? アレだけ暴言吐いて虐めて、手のひら返しか? ご都合主義だな」

「っ………」

「可哀想なこったな、あのガキも。天才なんてちやほやされていただけの弟のせいで人生お釈迦にされて、当の本人はふざけたことに良い子ぶってやがる。こんな顔だけのゴミ如きになぁ………」

「んだと!」

「おいおい、まさか自覚もねえのかよ。救いようがないぜ。なら聞いてみるけどよ、お前織斑一夏が生きていたとして、会って何を話すんだ?」

「……謝る。俺が悪かったのは事実だ」

「それで? 謝っておしまいか? ん? 頭割れるまで土下座すんだろ? そっから先は何をするんだって聞いてんだよ。奴隷みたいにハイハイいいなりになるのか、それとも家族としてやり直すのか………まぁ、私にはわかんねえけどな。そこんとこを聞かせてくれよ、天才よぉ」

「…………それは」

 

 森宮にも言われたことのある問いに、俺は答えられなかった。

 

 ふいに思い出して考えるが、いつも答えが出せなかった。これはどうだろうかと考えてみてもしっくりこないと言うべきか、違うという感覚しかない。

 

 何故なのかは俺が知りたいくらいだ。

 

「…………くっくっくくくっ」

「あ?」

「くひゃははははははははははははっひゃはやひゃひゃはははっはっはああああはははっははははははははは!! きひっ、きひひひひひひひひっひひひひ!!」

「な……」

 

 何も答えられない俺をじっと見ていたオータムは急に笑い始めた。唾を飛ばし、腹を抱えて、身体を曲げ、足踏みをし、時には跳びはね、過呼吸になるんじゃないかというぐらいに苦しそうに息継ぎをしている。

 

「うはひゃはひゃひゃひゃひゃはははははははははははっはははははは!! ぎゃははっ!! ぎゃああぁぁぁああははははははははっはははははははっ!! ま、マジかよオイ! ISで勝てないからって私を笑い殺すつもりじゃねえだろうなァ! 傑作だぜ! 今年一番で面白いジョークにゃ違いねぇ! お前芸人にでもなれよ!」

「何が面白いんだよ!」

 

 ゲラゲラと下品に笑う目の前の女が酷く目障りだ。ムカツクし、イライラするし、消えてしまえばいいのに。動けばぶった切ってやるのに……残念でしかない。

 

「自分でも分かってねぇみたいだから教えてやろうか、自称天才(笑)様よぉ! テメェはガキの頃からなぁんにも変わっちゃいねぇんだよ! 自分勝手で我儘で、自分が特別だって信じて疑わない手の施しようが無いクズ男だ! 変わったとか思っているだけのお目出度い人間ってこったな! お前が織斑一夏を探していることも! 双子の妹の織斑マドカを探しているのも! 二人に対して申し訳ない気持ちがあるからでもねぇ、腐った根性が根っこからぶち抜かれて新しくなったからでもねぇ!」

 

 オーバーなジェスチャーを交えながら、まるで世界中に演説でもするかのように声を大にして嬉々として語り始める。その口から出た言葉はとても信じられないものばかりで、耳をふさぎたくなるようなことだった。

 

「お前はただ単に、生き別れた兄妹見つけて、好きで好きで大好きでたまらない愛しの千冬おねーちゃんに褒めてほしいだけなんだよ! 面倒ばっかな兄貴と可愛げがなくて織斑千冬そっくりの妹が気に入らないままでな!」

 

 な………あ………。

 

「う、嘘だ!」

「嘘じゃねえさ。現にお前は二人を見つけてどうしたいのかが欠けてるじゃねえか。お前の立場なら、“見つけてから行動を起こすこと”が目的のはずなのに、お前の場合は“見つけること”が目的になってんだよ。謝るなんてのも所詮は周囲にいい顔見せるだけの演技に過ぎない」

「っ!? え、演技なんかじゃない! 俺は本当に―――」

「謝るってのはなぁ!! 自分が悪いと思っていて尚且つ自分がへりくだる事を言うんだよ!! 偉そうに上向いてハナクソほじりながら相手の頭踏みつける態度を“謝る”なんて言うわけねえだろうが!! 自分が悪いって思ってるなら謝るだけなんてこと絶対にしねえ!」

「……………お、おれは……」

「はん。こんなクズを抱えて可哀想なこった。アイツもエムの野郎も。これだけの時間があっても変わろうとしない。今まで色んな連中を見てきたが、お前みたいなやつは初めてだぜ。どいつもこいつも、家族だけはと泣いて命乞いしてきたってのになぁ。クズはやっぱクズのまんまか」

 

 突きつけられた言葉に、俺は反応することも理解することもできない。オータムが零した、二人の行方を知っているような含みのある言葉にも気付くことができなかった。

 

 そしてもう一つ、残酷な現実を突きつけられる。

 

「丁度いいからもう一個教えてやるよ。織斑一夏が誘拐犯達に連れ去られて、売り手の連中に引き渡される時なんて言ったと思う?」

「………」

「だんまりか。まあいい、聞かせてやる」

 

 カチリと何かのスイッチを押す音が聞こえた。

 

『で、俺を幾らで売るの?』

『おう、気分がいいから教えてやる。4000万だ。山分けして1人1000万だな。ありがとよ、お前のおかげでこれからしばらく働かなくて済むぜ』

『そう………良かった』

『……はぁ?』

『俺を売って、あんたらの暮らしが楽になる。そう思ったんだよ』

『お前………馬鹿か?』

『当たり前の事言うんだな。俺は“無能”だぜ』

『………』

『約束の金だ、織斑一夏をよこせ』

『………おう。そら、いけよガキ』

『はいはい。じゃあねおじさん達、よい暮らしを』

 

 数年ぶりに聞いた幼い一夏の声と、誘拐犯と思しき男の会話がそのまま再生されているらしい。ボイスレコーダーをわざわざ持ってきていたのか。

 

 内容は聞くに堪えないもの。自分が売られるにも拘らず、それを喜び、フレンドリーに接している。ありえない、攫われた子供のとる態度なんかじゃない……。

 

「よくもまぁここまで狂うまで追い詰めたもんだな。実の兄弟にこんなことができるとは……流石は天才様だなァ。お前もそう思うんだろう?」

 

 まるで誰かに同意を求めるようにオータムは壁の方を見る。が、そこには勿論誰もいないし、ここに誰かが入ってくる気配もない。そもそも密室という状況を演出している時点で誰か入って来れるようになっているわけがないのだ。

 

 ……と思ったが、どうやらハズレらしい。

 

「そうだな」

 

 オータムの仲間らしきISが、壁をブチ抜いてそこに立っていた。

 





 はい、というわけでやっぱり秋介君はクズでした。やっぱり一夏の兄or弟はこうでなくちゃね。コイツは色々と悩んで破裂してしまえばいいんだよw

 並行して新作投稿しようかなーとか思ってるんですけど、どうですかね? 興味あったりします? 
 救いようのない鬱展開だけど最後はちょっぴりハッピーになりそうなんですが。

 ていうかしますね♪

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