無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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ギリギリセーフ! 元旦に何とか間に合いました!
ハッピーニューイヤー! 明けましておめでとうございます! 正月にこんなサイトを覗いてる人がいるのか気になりますが、寝正月という言葉もありますし、読んでいただけるのは嬉しいので気にしません

本当は31日に区切り良く50話で締めたかったんですけどね………ええ、ガキ使の魔力には敵いませんでした。まぁ、キリの良いスタートを切れたと思って今年も頑張ってまいります!

今後ともよろしくお願いしますね♪


50話 「私の弟と妹を傷つけるのは許さない」

 篠ノ之束は短くてもキャノンボール・ファストが開催されるまでは学園内に滞在すると約束した。開催まで残り一ヶ月と考えると極僅かな期間であるが、逆に篠ノ之束が一定ヶ所に一ヶ月もとどまり続け尚且ついつでも会えると考えればどれだけ異常なことかは誰にでもわかる。加えて面会可能な人物は極僅か。余計な人物に邪魔されることなく、これからの一ヶ月を有意義に過ごせることだろう。個人的なパスは得られたので、一先ずはキャノンボール・ファストに集中することにした。

 

 この競技は高度なテクニックが要求されるため、本来ならば二年生から参加可能とされていたが、今年は異常な数の専用機が一年にあつまっていることから、特例として一年専用機持ち生徒だけの特別レースが設けられることになった。残念ながら、一般生徒は来年までお預けである。なればこそ、より一層気を引き締めなければならない。

 

 ここを狙って連中が仕掛けてくる可能性は十分にあるのだから。

 

「篠ノ之博士とのお話はどうでしたか?」

「協力を得られるようにはなった。最低限の信頼を確保したというところか」

「まぁ。素晴らしい成果ではありませんか」

「本音を言えばもう二、三歩ふみ込みたかったんだが、あの天災相手にそれは贅沢かな」

「仰る通りで」

 

 山中のラボから学園内に戻って来た後、篠ノ之束に割り当てられた研究室へと簪はついて行った。いつでも行けるように場所の確認と、簡単にレクチャーを受けてくるそうだ。ついて行こうとしたが、流石に授業に出ないと拙いと諭されて戻ってきた次第である。随分と長話をしていたらしく、教室棟に戻ってきた頃には昼休みに入っていた。

 このまま四組に戻っても質問攻めに合うだけで少し面倒だったので、教室には寄らず学食に来たところで桜花とばったり鉢合わせて今に至る。

 

 先に注文を済ませて昼食を預かり、二人掛けのテーブルに座ったところだ。

 

「私個人が直接お会いできないのが残念でなりません」

「私や簪と一緒に行ってみたらどうだ?」

「博士が簪さん個人を指名したのは手駒を得るためであって、私達の様な親近者と面会する為ではありませんよ?」

「向こうはとっくにこちらの思惑に気付いている」

「分かっていても不快なものは不快です。好印象を抱いたままでいてもらうためには、博士の場合不用意に他人を近づけるのは得策ではありませんよ? 私も、ラウラさんも、ベアトリーチェさんもです。ああ、楯無様は御挨拶に伺うべきでしょうけど」

「とっくに済ませているだろうさ」

「それもそうですね」

 

 パキっと割り箸を縦に割って「頂きます」とお辞儀。私はそこまですることは無いが、桜花にとってはこれが素だ。廊下ですれ違うときでもきっちり腰を曲げてお辞儀を返すし、微笑みかけてくるときはことんと首を傾ける。こいつと二人でいるとそうしなければならないような錯覚に悩まされるんだよな………。

 かき揚げに少しだけ汁を吸わせてさくっと頂く。うん、美味い。やはりかき揚げはサクサクが一番だな。

 

「簪様に見つからないようにお気をつけを」

「簪なら今頃篠ノ之束と一緒にお勉強中さ」

 

 かき揚げ蕎麦とうどんを食べる時に毎回口論になるんだよな……サクサクかべちょづけ――もどい全身浴か。蕎麦かうどんかでも対立する。

 

「今後の御予定は? やはりキャノンボール・ファストでしょうか?」

「ああ。新作パッケージがBBCから届く頃だし、スピードホリックのリーチェと勝負できるいい機会じゃないか」

「今の所、ベアトリーチェさんのステラカデンテに対抗できそうなのは織斑さんの白式・天音と篠ノ之さんの紅椿だけですね」

 

 二次移行を果たした白式は武装が豊富になり速度系統が更に強化。特に見た目を引くのが強化された大型スラスターと銀の福音そっくりの翼『雪風』。ACクラスの速度と繊細な飛行をたったひとつで可能にした高性能スラスターと言える。これがばら撒く粒子がクラッキング効果を持っている為に継戦能力もある程度向上した。

 篠ノ之束が自ら手掛けた現行の機体全てを凌駕する最強の第四世代型が紅椿。展開装甲は攻防走全てを実現させる、設定次第で幾らでも姿を変え進化する機体だ。本人が近接戦闘を得意としている為に近接寄りの武装だが、遠距離武器も充実しているので隙はない。機体には、だが。生憎と篠ノ之はまだ初心者の域を出ておらず、機体の性能に振り回されている場面が多々見受けられた。アレを真のエースが使用できないことが悔やまれるが、アレを乗りこなした時、大きく化ける事になりそうだ。

 

「新パッケージ、どうです?」

「悪くないぞ。今回は如月の技術も混ぜたハイブリッドパッケージだからな。秘策も用意してある」

「ふふっ、楽しみにしています」

 

 ちゅるちゅると左手で髪を抑えながらうどんを啜る姿はとても似合っている。……言い方を変えるならば、桜花には何をさせてもエロい。

 

「そういえば聞いたぞ。お前、如月の新型に乗るそうじゃないか」

「あら? どなたが漏らしたんですか? 随分と口の軽い方が居られたものですね」

「否定しないのか」

「マドカさんに隠し事など通用しませんもの」

「私はそんなに鋭いか?」

「正直に言うと、無自覚で鋭敏な感覚も持つ人は私が苦手とするタイプの人です。常に核心をついてこない辺りがやりづらいんですよね……マドカさんが苦手と言っているのではありませんよ? むしろ大好きです。ライクではありません、ラブですよラブ」

「二回も言うな。恥ずかしい」

「受け入れてくださるのですね。嬉しいです」

「馬鹿を言うな。お前は女だろうが」

「近親相姦に萌えるマドカさんなら百合なんて朝飯前でしょう?」

「どういう理屈なんだそれは………」

「一夏様を狙っていることは否定しない、と」

「別に隠すほどのことでもない……じゃなくて、話を逸らすな」

「あらあら」

 

 バレてしまいました? と言いたげなにやけ方がムカツクな。付き合いもそれなりにあれば分かるし慣れる。

 

「入学したころ、クラス代表トーナメントで乱入してきた無人機を覚えていますか?」

「ゴーレムの事だな」

「あれはゴーレムという名前なのですね。篠ノ之博士から聞きましたか?」

「ああ。亡国機業がISコアを用いて作成した無人機のことらしい」

「覚えておきましょう。で、その無人機のISコアは破壊されたことになってるんですけど、実は蒼乃姉様がこっそり懐に隠したんですよ」

「そんな話を聞いたような聞いていない様な……とにかく、如月に横流ししたわけだな?」

「研究用にということで提供を受けたんですけれど、どうも組んでみたい機体があるとかなんとか。偶然私と相性が良かったそうで、テストパイロットを務めることになりましたの」

「……そう言う事にしておいていやる」

「ふふ、賢明な判断です」

 

 それは私の確信を裏付ける物言いだぞ? こいつ、如月を脅して専用機を組ませたな。当然桔梗と忍冬をメインにした……三癖もありそうな奴が出来そうだ。どんな仕上がりになるのか楽しみだが……正直桜花は生身でも私とほぼ対等に戦えるレベルで強いので戦いたくない。私の中の敵に回してはいけない人間の内一人に数える。

 

「キャノンボール・ファストには間に合うのか?」

「勿論ですとも。というより、マドカさんは既に見えていますよ」

「何? もう完成していたのか!」

「先月ロールアウトしたばかりです。福音戦に間に合わなかったことが悔やまれますわ」

「ああ、夏休み中だったか。しかし……どれが待機形態なのかさっぱりなんだが?」

「分かりませんか? あぁ、一夏様なら一目で見抜いてくださる筈ですのに……」

「それは次に兄さんと会った時にでも聞け。私には分からん」

「あらあら。それでは特別に見せて差し上げましょう、ちょっとだけですよ?」

 

 桜花は両の掌を胸の前で合わせてにこりと笑う。

 

「なっ……!」

「御存じありませんの? それでは気付きませんか」

 

 にこりと笑った時に閉じた目がゆっくりと開くと、左目が人のものではなくなっていた。

 桜花の目はとろけるような赤だったが、左目だけが瞬きをした一瞬のうちに金色へと色が変わっていた。怪しく輝き、頭の中をかき乱すような錯覚を覚える。舌が痺れる。手が震える。まるで何かを吸い取られているみたいだ………あぁ、寒い。寒い、寒い寒い寒い寒いさむ―――

 

「ここまでです」

「……………っはあっ! あ、か、ぁっ……っく!」

「深呼吸して落ち着きましょうか。ひっひっふぅー」

「……それは出産時の呼吸法だ……」

「冗談に答えられるなら大丈夫ですね」

 

 もう一度桜花が瞬きをすると、目の色は元通りの赤に染まっていた。同時に身体に起きた異常もすうっと引いていく。

 

「さっきのは何だ? 私に何をした? そもそもその目は何だ?」

「んー、目のことからお答えしましょう。これが私の専用機、『刻帝』の待機形態なんですよ。数年前のとある事件で失明しまして、今まで義眼を移植していました」

「……初耳だぞ?」

「私も驚きです。てっきり一夏様から聞いているものとばかり」

「兄さんが絡んでいるのか?」

「お慕いするようになったきっかけですよ」

「ほう? 是非とも気になるな。また後で聞こうか」

「目の話でしたね。私に似てお茶目な子でして……からかったりおちょくるのが大好物みたいなんですよ。刻帝特有の限定待機形態とでも言いましょうか。五感から直接相手の脳や神経を刺激して催眠をかけます。今回のことで分かりましたが、流石のマドカさんでもこれは堪えるようですね。これなら安心です」

「………実験台扱いされるのは癪だが……まあいいか」

 

 とにかく、失明した左目に義眼を移植していたが、今回の専用機作製にあたって左目に待機状態のISを埋め込んだと。

 

 ……ということは、ISコアが左目の中にあるのか。桜花には悪いが少しグロテスクに聞こえる。

 

「何故わざわざ目に? 義眼のままでも構わないだろう?」

「それは…………また後日にしましょうか。昔話でも語った時にお話しますよ」

「む、忘れないぞ?」

「私が覚えておきます」

 

 聞くなと言うことか、珍しい。わりと本気で嫌がっているようだし見逃してやろう。桜花は遠慮が無いが、私は寛大だからな。

 

 それからは他愛も無い話をしながら麺を啜って時間を潰した。年頃の女子らしくあのブランドの服は可愛いとか、あの店のアクセや髪飾りが欲しいとか、ようやくそんな話について行けるようになったので桜花とは昔以上に距離が縮まった気がする。服に気を使うようになったのも元をたどれば桜花にお洒落させられた事が始まりだし。

 特に盛り上がったのは先週の休みにレゾナンスまで買い物に行った時の話だった。別のアイスを食べる計画を今のうちに立てたり、季節が変わる前に気に入った下着を次の休みに買いに行こうと既に約束したり。こんな話も今では楽しくなれる。……下着と服の話は簪が居ないか気にしなければならないが。

 

「因みに今日の下着は黒のレースですわ」

「聞いていない!」

「そういうマドカさんもでしょう?」

「何故それを……」

「あら? あてずっぽうだったんですけど」

「…………」

「うふふ」

 

 今からでも追及してやろうか……!

 

 そんな昼休みだった。

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 

 運よくレース仕様の第八アリーナの使用許可を得られたので今日はレースの特訓をすることにした。まだ新しいパッケージは届いていないので、今日は出せる限界の速度で感覚を掴むとしよう。レースなんて生まれて初めてだ。

 

 一年とは違って上級生は全員が参加する為、この時期はどこもかしこも訓練機だらけだ。ほぼ毎日訓練機は全て貸し出されているが、一つのアリーナにこれだけの数が揃うのはキャノンボール・ファストがこれまでのトーナメントとは違って特殊だからと言える。右を見ればラファールがスタートダッシュの練習を繰り返しており、右を見れば高度なターンテクニックを磨き続け、真横をブースターを増設した本番仕様の打鉄が通り過ぎていく。広いはずのアリーナだが、かなり狭っ苦しい。

 

 その中でとある一点が目立って見えた。

 

「あれは………!」

 

 IS同士がぶつかるとわりと面倒な事になるので慎重に機体同士の間を縫いながら近づく。

 

 視線の先では……楯無と姉さんがスタートラインにつま先を揃えて飛ぼうとしていた。

 

「姉さん、楯無!」

「あら? 今日から特訓?」

「そのつもりだったが気が変わった。姉さん、今まで心配していたんだよ? 大丈夫?」

「………ええ」

 

 楯無は最近会うし、今朝会ったばかりだからどうでもいい。

 だが、姉さんはあの事件以来一度も顔を見せてくれなかった。クラスを訪ねれば見透かされたように席を外しており、ならばと寮の部屋を訪れてもルームメイトに門前払いされ、放課後や授業外の時間にこっそり後をつけて見ようとしても足取りや残り香さえ掴めないまま二ヶ月が過ぎようとしていたのだ。

 傷が深いことは誰が見ても分かるし、立ち直るまで放っておくしかなかった。やつれていないか、いきなり発狂しないか、かなり心配だったんだが……平気そうで何より。

 

「今から軽くならすところなんだけど、一緒にやる?」

「それは嬉しい申し出だが、生憎とパッケージが届いて無くてな」

「大丈夫大丈夫、パッケージ使わないから」

「ならお邪魔しようかな」

 

 願ってもいない話だ。現国家代表二人と競える場面なんてそうそうない。ちょっと様子を見てから退散するつもりだったんだが……思わぬ収穫だ。

 楯無は兎も角、姉さんと訓練できることが珍しかったりする。人前で自分の技を見せるような真似はしないし、そもそも訓練に付き合ってくれること自体が少ないし……。

 

「マドカ」

「?」

「……強くなった?」

「ああ、以前の私じゃない」

「期待してる」

 

 ふふ、俄然やる気が出てきたぞ。

 

「ここは初めて?」

「一度だけ使ったことがある。コースは頭に入っているから心配するな」

 

 入学したての頃、一通り使用できる施設やアリーナは兄さんと回っている。専用機所持者に与えられる整備室は勿論、第一から第八までの全てのアリーナ、企業から譲り受けた試作品や新品の試作パーツ置き場に従来のIS歴史を閲覧できるデータベース。一番驚いたのはデータベースに収められている情報量の多さと購買の商品の豊富さだったが、アリーナの中ではこの第八が特殊な構造をしていたので印象に残っている。

 

 まだ生まれて十年ほどしか経過していないISだが、衝撃的なデビューとパワー、搭乗者のカリスマ性により世界に浸透している。だからこそキャノンボール・ファストとバトルと並んで非常に人気の高いものとして知られているのだろう。試験場として設置されたアリーナだが、この第八アリーナだけはまるでレースコースの様に作られており、どれだけキャノンボール・ファストが受け入れられ、ISにとって求められているのかが窺えた。

 

「なら大丈夫ね。蒼乃さん、今回だけは妨害無しの普通のレースにしません?」

「構わない」

「何? 本番では何でもアリの乱闘レースなのだろう?」

「ええ。でもね、練習の時から本番同様にしているとパーツの劣化も早いし機体にダメージとストレスが蓄積されるのよ。模擬戦とはまた違った激しい消耗がレースだけでも起きるわ。キャノンボール・ファストに限らず、超高速機動の訓練を行う際はなるべく戦闘を行わないのが定石なの。どうしてもやりたいときは最後の一回に持ってくるものよ」

「それに、本格的且つ純粋な競争は初めてでしょう? 変な癖をつけてほしくない」

「む、そうなのか。分かった」

 

 なるほどな、私はてっきり舐められているのかと思った。……いや、実際に舐められているのだろう。くすくすと笑う楯無の笑顔はどう見てもからかっているようにしか見えないからな。

 

 まだまだ知らないことばかりだ。兄さんならきっと知っていたのだろうに。恥ずかしい、実力を上げるばかりでは強くなれないということか。勉強を怠っているとは思わないが、無知を晒してしまっては意味が無い。これでは兄さんと姉さんに追いつこうなどと夢のまた夢。折角期待されているというのにな………。

 

「楯無、あまりからかってはダメ」

「はいはい」

「マドカ、本でしか得られないこともあれば経験しなければわからないことはたくさんある。私にも知らないことだってある、気負ってはダメ」

「………ありがとう」

「今日はよく喋りますね。御機嫌ですか?」

「二度と失うのは御免だもの。あなたもそうでしょう?」

「当然」

 

 本当に、敵わないな。遠すぎる。

 

「ねぇ、姉さん」

「何」

「今の兄さんは、敵だよ。自分の意志なのか、操られているのかは分からないけど」

「聞いている」

「斬れる?」

「斬る」

 

 姉さんは即答した。今まではタワーのシンボルをぼうっと眺めているだけだったのに、わざわざ私の方へ身体ごと向けて目を合わせて。

 

「一夏の目を覚ますために斬る。一夏を縛りつける物を斬る。一夏を操る糸を斬る。惑わせる愚か者を、敵を、組織を、物を、人を、国を、世界ですら私が斬る。一夏への傷は私の傷、一夏への侮辱は私への侮辱、一夏への嘲笑は私への嘲笑、一夏の苦しみは私の苦しみ。一夏が負うありとあらゆる苦しみや悲しみは、何よりも私の心を抉り、傷つける。私は私が傷つくことを恐れない。でも一夏が傷つくことだけは我慢ならない」

 

 その瞳が紅から金へと染まっていく。虹彩が開き、取りこんだ光が反射してキラキラと輝き始めた。

 桜花のことは知らなかったが、姉さんの事は知っている。感情が昂り、とある一定のラインを越えると瞳の色が変わり、暗闇の中の猫の様に光りはじめるのだ。兄さんから一度だけ聞いていたし、以前も一度だけ目にした。

 

 つまり、今の蒼乃さんは非常に珍しく抑えられないほどの感情が渦巻いている。それは………“怒り”に違いない。

 

「織斑千冬も篠ノ之束も委員会も関係無い。たとえ相手が誰であろうと、私の弟と妹を傷つける物は許さない」

 

 白紙を通して溢れ出る威圧感……プレッシャーは三人の間だけでなく周囲にいた生徒にまで伝わり、漏らすほどの恐怖を覚えたという。ISのコアすら震えあがらせ、多くの訓練機は原因不明のエラーを起こして大幅な機能低下に陥った。後日噂で聞けば、ソレは人から人へ伝播し学園全体が謎の重苦しさと息苦しさに包まれたという。

 

 その隣で平然とあくびをしていた楯無も十分化け物だが、何よりそんなものを抱え広げる姉さんはもう言葉では形容できない。これこそが世界最強の一角。

 

 ああ……なんて、なんて強く美しいんだろう。それでこそ姉さんだ。私が描く理想の人物だ。

 

 コアが熱い。言うな、見なくても分かる。お前も昂っているのだろう? なぁ、ゼフィルス。このままレースだけなんてヌルイまんまで終われるものか。

 

『二人と戦いたい』

 

 いきなり視界に文字が大きく表れる。決められたプログラム通りの表記じゃない、字と呼ぶにはお粗末な擦れた記号の集合体だが、私には……私だけには分かる。

 それがお前の本心か。いいぞ、付き合ってやろう。だからお前も付き合え。

 

「姉さん、楯無。やっぱり本番通りにやろう」

「いいのかしら? 自分からそんなことを言うなら手加減ちょっとだけしかしてあげないわよ?」

「構うものか。カッ飛ばして終わるだけなんて……楽しくないだろう?」

「うんうん、やっぱりあなたも蒼乃さんと一夏の妹ね。火が入ったら燃え上がる所とか、楽しくないとか言い出すところがそっくり」

 

 くつくつと楽しそうに楯無は笑うと愛用のガトリング内蔵ランス『蒼流旋』を展開して肩に担いだ。姉さんもいつの間にかナノマシンを周囲に散布しており、直ぐに生成できるよう臨戦態勢に入っていた。

 

「折角だから賭けをしましょう。負けたら今日の食堂のご飯驕りプラス好きなデザートを一品追加ってことで」

「デザート三つ」

「あ、蒼乃さん。食堂のデザートはわりとカロリー高めだけど……」

「その分今から動けば問題ない」

「さようですか……」

「楯無、私はケーキとアイスだ」

「マドカちゃん、まだ始まってないんだけど?」

「私はパフェとアイス」

「蒼乃さんまで止めてくれません!? ていうかパフェって結構可愛い趣味してまああああああああすいませんでした!!」

「よろしい」

 

 こんなに二人と騒ぐのは……福音事件の前以来か。入学してからはあの時期が一番楽しかったな。それもこれも、やはり兄さんがいればこそ。

 

 絶対に取り戻して見せる。

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 

「あれ? マドカどうしたの? 大丈夫?」

「ああ……賭けごとに負けてしまってな」

「どんな?」

「姉さんと楯無にキャノンボール・ファストの訓練をお願いしたんだが……叩きのめされてしまった」

「それで?」

「食堂で一番高いデザート二つと一番人気のあるデザートを驕ってきた」

「うわぁ………」

 

 壁を超えるのは、どうやらまだまだ先になりそうだ。

 




最近DAL熱が再燃してきたので、予想以上に狂三ちゃげふんげふんもとい桜花ちゃんは某原作寄りになってしまいました。ここまでやってしまうとね、もうね、どうやってオリジナル要素叩き込むのか……。

ああ、可愛いよオリキャラ達。

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