無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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55話 「まだ始まったばかりだろう?」

『さぁ!! さぁさぁさぁ!! とうとう始まりますよー! 今年も今日という日がやってまいりました! そう! モンドグロッソに並ぶISバトル! キャノンボール・ファストです!』

「黛のやつ、やたらと張り切っているな」

「去年からずっと実況やりたいって言ってたからね、薫子ちゃん」

「私は学生がアナウンサーをやることに驚いているんだが……」

「それは、これが国際大会ではなく学園の行事に過ぎないから」

「姉さん」

 

 選手控室で偶然あった楯無と話していると、後ろから姉さんが現れた。話題は今実況している楯無の友人の話だ。二年の新聞部、だったような……。

 

「キャノンボール・ファストが元々は国際大会っていうのは、マドカちゃんも知ってるでしょ」

「当たり前だ。何せ、黛が言うとおりモンドグロッソと並ぶIS二大イベントだからな。国家代表達の憧れだろう?」

「そうそう」

 

 織斑千冬が覇者となり、名を広めた大会がモンドグロッソ。これはもはや説明するまでも無く、男だろうと知っている知識だ。

 それと肩を並べるのがこのキャノンボール・ファスト。モンドグロッソ同様に国際大会として認知されている。オリンピックのように各国で代表を決めるための大会が行われることもしばしばあり、やはりこちらも有名だ。

 

 だからこそ、こういった学外の会場を借りて大会を行う程なら、外部から有名且つ優秀なスタッフを雇うものだと思っていたんだが……。

 

 成程、黛の気合いが入るのもうなずける。客は学園生だけじゃないからな。学内トーナメントとはわけが違うだろう。

 

 最も、それは出場者側の私達も同様だ。

 

「姉さんと楯無は、国際大会に出たことがあるのか?」

「ある」

「私もあるわ。確かあの頃は……蒼乃さんが三位で、私が七位だったわね」

「姉さんが……三位? 楯無はともかくとして」

「ちょっと?」

「わざと、負けた」

「どうしてまた?」

「ふふっ、一夏の為ですよねー?」

「そう」

 

 ……よくわからないけれど、姉さんなりの考えがあっての結果なんだろう。それに終わったことを今更言ったところでどうにもならん。

 

「同じ試合じゃないのが残念だな」

「仕方ないでしょ? 本当は一年生が参戦するってだけでも特例なんだから」

「分かっている。ありがとう、楯無」

「ふふん」

 

 扇子を広げて得意げに笑う楯無。この特例を学園に認めさせたのは、この楯無なのだから。私の様な専用機を持っている一年生に限り、出場を認めると。

 

 本当に感謝しているぞ。目の前でこんなに楽しそうな戦いがあるのに黙って座ったままなど、勿体ない。

 

「マドカ」

「うん?」

「怪我しないように。結果はついてくる」

「うん。姉さんもね」

「私の心配なんて、千年早い」

「ははは」

 

 まったくだ。

 

「私は直ぐだし、準備があるからもう行く」

「頑張りなさいな」

「ああ」

 

 楯無の言葉に返し、にこりと笑って手を振ってくれた姉さんに、笑って手を振り返してその場を後にした。

 

 私に割り当てられたロッカーの前で、もう一度自分の作戦と、相手のスペックを確認していく。

 

 織斑秋介。

 間違いなく優勝候補の一つ。元々の速度に加えて進化した機体は出力がもはや違う。ただし、当人の技術と慣熟が済んでいないので、競り合うことにはなるだろうが脅威はそこまで高くない。燃費が劣悪な中での零落白夜使用はまず無いだろう。

 

 篠ノ之箒。

 ここも強いところだ。速度特化に調整を施した唯一の第四世代という化け物の様なスペックに合わせて、絢爛舞踏という反則技がある。ただし、発動するかは別だな。性能に引っ張られているところもあり、問題とは思えん。

 

 セシリア・オルコット。

 同じイギリスのBBC製機体ということで、スペックであれば熟知している。高機動パッケージの『ストライク・ガンナー』も当然であり、対策もバッチリだ。技術とBT適正どちらも私が上回っている為、脅威とは成りえない。が、最近の成長の様は目を見張るものあり。

 

 凰鈴音。

 中国のISコンセプトからして、レースの様な尖った性能が求められる状況では、機体は強くも無く弱くも無い。機転が効きやすく、汎用性の高さからカスタムも容易だ。専用のパッケージを使った上で、何らかの工夫を凝らしてくるだろう。元々は近接タイプで速度と瞬発力も高い上に、本人の性格や気質的にも向いている。

 

 シャルロット・デュノア。

 尖った所が無い、という面では凰と同じであるが、ラファールという名機のカスタムタイプと言うことは土台が違う。調べてもらったが、どうやら既存の高機動パッケージは使わないらしい。新作でも持ち出してくるのか? 当人の技術も高く、危険視すべきだろう。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 問答無用で立ちはだかる良きライバル、か。重ISであるレーゲンを他の高機動と並ぶどころか追い抜くぞ、と本人が語っており相当の自信があると見た。実力者の自信がある様など警戒の塊だ。目は離せないな。

 

 皇桜花。

 身体能力は私や兄さんに匹敵するほど高く、経験も豊富。機体の能力もぶっ飛んではいるが、生憎と基礎的な性能は他の専用機に比べるとイマイチと言ったところ。出来あがった機体にパッケージなどあるはずもなく、調整して挑むと言っていた。何にせよ、時喰みは警戒しなければな。近寄らないのが正解だろう。

 

 更識簪。

 良き友人であり、主。だが、手を抜くつもりは無い。得意のプログラミングでCBF仕様に切り替えたらしい。打鉄弐式の元の速度は中々の物だったが、どう化けるかだな。正直、一対一であれば私の敵ではない。

 

 そして……。

 

「ハァイ、マドカ」

「リーチェか。準備はいいのか?」

「イタリアの候補生はいつでもCBFに出る準備が出来ているのよ」

「それもそうか。私がリーチェにCBFに於いて心配など意味が無い」

「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃない……?」

 

 ベアトリーチェ・カリーナ。

 速度に於いてはまるで他を許さない、イタリアの候補生。今回間違いなく優勝するとの声が高い選手だ。イタリアがレースに参加するだけで賭けが成立しない、と言うレベルで。人殺しの速度を扱い、こなしてみせたリーチェこそが、最大の敵。

 

「ところで、マドカはCBFについてどれだけ知ってる?」

「人並みだな。先のアナウンサーが言ったように、モンドグロッソに並ぶ大会と言うことぐらいか」

「じゃあ教えてあげる。CBFはイタリアISの原点になるものよ」

「原、点?」

「そう」

 

 私の後ろのロッカーを開けたリーチェは上着を脱いで着替え始めた。衣擦れの音を聞いて私も着替えを始める。兄さんに似せて付けるように、織斑千冬との関係を疑われないようにと言われて付けたこのウィッグにも慣れてきたな。

 

「最初はただのテストだったの。テンペスタの速度テスト。最初はこんなに速さを追求するような事は考えて無かったんだって」

「ほう? それは面白いな。とてもイタリア人から聞ける言葉ではない」

「あはは、そうだね。で、そのコースにそって移動しながら戦闘テストも始めたの。より実践的なデータが取れるって事でいっぱいやった。それで、そのテストを繰り返すうちに、戦う上で大きな要素は速度にあるって提唱した科学者がいたの。その人が、実はテンペスタの親になる人」

 

 よっと、とスーツを着替える際にお互い声が漏れる。吸着力が強いから大変なんだよな。

 

「最近スーツがきつくなってきたな」

「あ、私もそうなんだー」

「主に胸のあたりが」

「うん、滅びろ」

 

 物騒な女だ。

 

「それで、テストを繰り返していくうちにそれが広まって独り歩きしてCBFとなった。その影響もあって、イタリアはさらに速度へ固執すると」

「そうそう」

 

 結果的にそれは間違いではなかったと思う。モンドグロッソと並ぶ大会として認知され、テンペスタはISのスピードというジャンルをかっさらい、記録を打ち立て、国を発展させた。

 

 だが、大きすぎるものに呑まれ、人の意識まで変えてしまった。悪い、と言うことは無いだろうが、気持ちを縛るこの様はやはり呪いの様なものだな。

 

「だから私は、これだけは負けられないんだ」

「そうか。良い戦いが出来そうだ」

「そうだね。マドカには気をつけないと」

 

 こつん、と拳を突き合わせてリーチェとはそのまま別れた。

 

 更衣室を出た後は、割り当てられた個別の整備室で最終確認だ。織斑との模擬戦で得たデータをもとに完成したコイツのお披露目というこうじゃないか。

 

「フフフ………」

 

 私が一位をとって見せる。リーチェに勝つ!

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 

『さぁ第一試合、一年専用機組が間もなくスタートしようとしています。申し遅れました、実況を務めますのは私IS学園二年生、黛薫子です。将来は未定、とにかく安定した家庭を持ちたですね。あ、子供は少なくても三人は欲しいところであります!』

 

 わははは、と微妙な笑いが会場に起きる。

 

「まったく、返しにくい事を大声で言うな。恥ずかしいぞ」

「まあまあ」

 

 ラウラの呟きにデュノアが返す。そういうデュノアも引き攣った表情で、周りの皆も大差なかった。

 

 ここ出場前の控室でも、アナウンスはバッチリ聞こえる。

 

『失敬失敬。さて、早速選手入場と言いたいところでありますが、その前に今大会の解説をご紹介致しましょう! お願いします!』

『はろはろー♪ みんなの束さんだよー』

『……織斑千冬だ』

『そう! 世界も黙るスペシャルコンビ! IS生みの親である篠ノ之束博士と、世界王者であり我らが学園教師の織斑千冬先生です!』

 

 一瞬にして会場がざわめく。それ以上に、選手控室の空気がガラリと変わった。

 

「姉さんが、解説役でここに来ているだと!?」

「俺の姉さんはわかるけど、なんで束さんまで……」

 

 そう、そこだ。

 

 織斑千冬は()世界王者であり、現役を退いて今では一介の教師だ。学校の行事がここで行われる以上、引率は当然だ。解説役として、というのは大きな疑問だが、隣に篠ノ之束がいることを考えれば理解できる。篠ノ之と織斑が出場するというのに、あの女を他に誰が止められるものか。

 

 問題は篠ノ之束だ。IS学園にしばらく居座ると宣言し、簪を弟子に取った。それが出来るのは他国が手出しを出来ない学園内の敷地だったからであり、個々の様な市街地のど真ん中で学園の治外法権など通用しない。これを機にと国家政府企業組織、ありとあらゆる人間がここへ押し寄せる。

 

 勿論、何らかの守りの手段は用意しているだろうが……厄介なウサギだ。

 

 ………待てよ?

 

「簪、知っていたな?」

「う」

 

 現状、篠ノ之箒と織斑秋介は篠ノ之束とそこまで接触していない。勉強に放課後訓練と忙しく、文化祭から今日までこの距離にいるにも関わらず会わなかったそうだ。

 それと違って、簪は学ぶ為にほぼ毎日篠ノ之束のもとを訪れた。更識への利益など度外視して、ただ腕を磨くために、知識を満たすためにひたすら通い続けた。

 

 近しいものには話もするし、心も開く。篠ノ之束がそう言う人間なら、わざわざ弟子にとった簪へ何の話も無いのは少々おかしい。

 

 簪本人の気不味そうな表情からして、知っていた様子だ。

 

「黙っているように言われたか」

「バレたら連れて行ってもらえないって、こう、我儘言ってたから?」

「我儘?」

「うん。飛び込みで参加するって」

「………」

 

 ああ、らしいなと思った自分がムカツク。アレはそう言う人間だった。予約オンリーの店にその場で座って注文するような客だ。今回も大差ない。というか、臨海学校の繰り返しだな。

 

 一体何を考えているのやら。

 

『さぁて! 紹介も終わったところで選手入場と行きましょう! 一人ずつ紹介を混ぜて行きますよー!』

『いえーい!』

『まずは、イギリス候補生のお嬢様、セシリア・オルコット!』

『機体は……ああ、このビット。元々機体がこれに向いていない中でどこまでやるのか気になるよねぇ』

「あんまりな紹介ではありませんこと?」

 

 少しがっかりした様子のオルコットは、口とは反して凛々しい態度で控室を出てスタート位置へ歩いた。その場でISを展開する。

 

『おてんば中華候補生、凰鈴音!』

『発想は面白いと私も思うな、この甲龍。使いようだけど』

『次世代の天才科学者、更識簪! これは博士のお弟子様ですね』

『筋は良いし、気にってるよ? 機体が残念だけどね』

『ドイツの冷氷、ラウラ・ボーデヴィッヒ!』

『あー、懐かしい名前だなぁ。そこそこやると思うよ』

『全てが未知数、望月の新型を駆る、皇桜花!』

『うへぇ、私ああいうタイプ苦手』

『フランスの貴公子、シャルロット・デュノア!』

『おや、機体が違うね。これは楽しみだ』

『唯一の第四世代型を持ち博士の妹、篠ノ之箒!』

『きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああほうきちゃああああああああああああああぁぁぁぁげふっ!!』

『やかましい! やるなら公平にやれ!』

『ははは………。続いて、あの二代目日本代表森宮蒼乃の妹、森宮マドカ!』

『ふむ。実力と機体共にもはや国家代表のレベルに到達している森宮は、やはり安定した強さを持っている。選手は誰しも危険視するだろうな』

『すごい、先生に変わっただけで解説がこんなにも違う!』

『こいつと一緒にするな』

『さてさて。えー次はその先生の弟にして二人目の男性操縦者、織斑秋介!』

『燃費こそ劣悪だが、その機動力と攻撃力を見れば総合的にトップの性能を誇る機体は強力だな。そのかわり、まだ織斑は扱いきれないようだが』

『……先生も博士みたいに騒がないんですか?』

『貴様は留年だ、馬鹿者め』

『ええええ!? ま、まぁその話は後にして……。さて、今試合の最有力候補にして圧倒的アドバンテージを誇るスピード狂、ベアトリーチェ・カリーナ!』

『これに関しては言うことは無いな。平均的に高い技術を持ったカリーナにとってはこの大会も庭を走るようなものだろう。言い過ぎなどではなく、優勝して当たり前、のレベルだな。たとえこれだけの優秀な選手が揃っていても、だ』

『さぁ! 選手入場と紹介を済ませたことですし、そろそろスタートです! 選手の皆さま、心の準備はよろしいでしょうかね!?』

 

 そんな物はとっくに済ませている。

 

 最後にスタートラインへ立ったリーチェがステラカデンテを展開したのが合図となり、ラインの端に立つ審判がフラッグを高く掲げた。

 

『それでは会場の皆さんもご一緒にいきますよー!』

 

 5

 

 4

 

 3

 

 2

 

 1

 

『『GO!!!!』』

 

 合図で一斉に全機が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 

 頭一つ……いや四つほど飛び出して早速独走を始めたのはリーチェ。それに追随するように織斑と篠ノ之が続き、あとはドングリの背比べと言ったところか。

 

 たったの一機を除いて。

 

『な、なんということでしょうか!? ラウラ選手、まだスタートラインから動いていません!』

 

 そう、ラウラの姿が無い。実況を聞いて初めて奴の行方を知った私はハイパーセンサーで確かに後ろにいることを確認した。

 

 一体何を……っ!? 熱量が急激に増加……なんだこの洒落にならないエネルギー量は!

 

 最大望遠でシュヴァルツェア・レーゲンを見る。隅々までここから観察し、エネルギーの正体を掴んだ。

 

「こ、この大会でそれを持ち出すのかお前!?」

「守りに重きを置いたこの機体では、ここまでしないと張り合えないのでな!! そら、シャトルが通るぞ!!」

「くそ! やるじゃないか!」

 

 ラウラが使用していたのはロケットエンジン。つまり、宇宙に打ち上げられる人工衛星やシャトルに使われるような、重力を振り切る推力を出すアレである。流石のISでもそれだけの速度を出すのは並大抵のことではないし、それに轢かれたとあればタダでは済まない。

 

 まるで弾丸の様だった。パッケージ『モーメント・ノイズ』によって増設したブースターを大きめに吹かしてとにかくコースの端へと退避。一瞬後に暴風と煙が襲いかかり、体勢を崩しかけた。

 

『これは凄い! ロケットブースターを使ってあっという間に最下位から先頭集団に突入!!』

 

 がこれはチャンスだ。すぐさまシールドビットを射出。エンジンに傷をつけないようにシールドを突き刺してアンカー代わりに使う。モーメント・ノイズ装着時は、最大加速にビットが付いてこれない為にワイヤーが装着された有線式になっているからこその技だ。

 

 過ぎ去っていく景色の中で、ラウラへの運賃代わりと後々の為にライフルビットを展開し、星を砕く者(スターブレイカー)を抜く。障害物を狙いつつ、牽制代わりにバラバラと弾を撒く。

 

「よし、これでしばらくは……」

「安心?」

「っ!」

 

 声のする方を向きながら、ほぼ反射でナイフを抜いて身体の前で防御の構えをとった。ガキンと火花が散り、自分の勘が正しかったことを察した。

 

「デュノア!」

「考えることは同じだよね!」

『これは驚き! あの速度の中でどうやったのか、森宮選手とデュノア選手がラウラ選手のロケットにアンカーを打ち込んで牽引させているぞー!』

『まるで体の良いタクシーだな』

 

 気付いているのか、いないのか。ラウラはひたすら飛び続けており、減速する気配がまるでない。つまり、まだ後続を引き離せるということだ。

 

 お互い、張り付いている敵が居なければ。

 

「よく気付けたな。私は最後尾にいたから異変に気付けたが」

「ラファールに結構似た装備があるから、僕は始まる前から気付いていたんだよ」

「成程な。お前、ラウラに気付かれないように開始直後にワイヤーをかけていたな?」

「そういう森宮さんこそ凄いね。あれの初速を避けて引っかけるんだから」

 

 つまり落とす。

 

 ナイフで斬りかかり、ライフルビットをエンジンを傷つけない角度から撃たせる。が、当然当たってくれるはずも無く避けるか防がれた。

 

 大きなシールドで防いだかと思うと、まるでそれが変形したかのようにライフルに変わってこちらのビットを狙い、私がナイフを持って攻めると今度はライフルがブレードに変形して切り結んだ。

 

「便利な武器だな!」

「でしょ? 僕ってば、技術者向いてるかもね!」

 

 更にぐっと力を込めると、押し返すようにデュノアも力を入れた。加えてブレードの仕掛けが発動して、峰からノズル光が見えるように。刀そのものが加速して力を増しているのか……!

 

 下からビットに撃たせて距離をとらせる。

 

 ……ただの武器じゃないし、あんなもの兄さんでもきっと見たことが無いぞ。盾になったかと思えば銃になり、銃になったかと思えば剣になり、剣になれば峰にノズル。そんな武器があれば企業は発表するだろうし、私も知っているはず。

 

「どんな仕組みなのやら」

「知りたい? 負けてくれるか降参するなら教えてあげなくもないよ?」

「断る。自分で測って見せる…………っ! 揺れが!」

「ら、ラウラが無茶な操縦してる……!」

 

 距離を離したところで急激に揺れが酷くなった。デュノアが言うとおり、アンカーの繋がる先……ラウラがこのロケットを使う間でやってはいけない様な操縦をしているということだ。

 

 すぐさまマップを確認する。ラウラのお陰で先頭集団に食い込めたわけだが、それでも一位では無かった。ラウラより先に飛べると言ったらリーチェしかいない。

 

「向こうもドンパチやってるということか。おっと」

「残念、当たると思ったのに」

「綺麗な顔をしている割には考えることが黒いな。いや、だからこそと言うべきか?」

「酷いなぁ。余所見する方が悪いんじゃない?」

「そう焦るな」

 

 ライフルを構えてデュノアに向ける。

 

「まだ始まったばかりだろう?」

 


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